転校生たちの会談が始まる少し前、2人が放送室に入る前に学園生たちは様々な反応を見せていた。
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廊下では、冬樹姉妹が会話していた。
「お兄さん、どうしちゃったんだろう...」
「大丈夫よノエル。これからすぐに分かるわ。」
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薔薇園では自由に刀子、そして野薔薇の3人が互いの心境を口にしていた。
「はぁ、クリスマスに見せたあの笑顔は空元気だったって事っすかねぇ。」
「何故だ!何故この時期なのだ!?何か兆候があったのか!?」
「結局、あの二人に任せるしかないのですか、我ながら何て情けない。」
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食堂では始祖十家が二組に分かれて雑談していた。こっちには浅利に梅、ジェイソンや万姫、そしてコッコがいた。
「先輩・・どうして急に変わっちゃったんだろう。」
「それを今から知るんでしょ、しっかりしなさい浅利。でも本当に突然だったよねぇ・・ねぇジェイソン、もしかしてあれが彼の素だったりする?」
「その可能性は俺も考えたが、もしそうだとしたら彼はずっと演技をしていた事になるぞ。」
「じゃあそうなんじゃないカ?転校生ハ多分何でも抱え込むタイプネ。私達ノ期待二答えるために我慢していたトコロもあったと思うヨ。」
「転校生さん、ずっと頑張ってました。ずっとずっと・・」
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一方こちらでは、ジャンヌとソニヤジリヤの姉妹がマーヤーを気にかけていた。
「マーヤー、もう少し落ち着いたらどうだ。」
「以前の彼は私みたいな自分を殺そうとした相手にも優しくできる素晴らしい精神の持ち主だった。その彼が誰にも心を開かなくなってしまったのよ。そしてその現状を打破するために私達の同席が必要だと、裏世界の転校生君たちが言った。なら私はその言葉を信じて待つわ。それが裏世界の彼らに対する贖罪にも繋がると信じて・・でも、ああ!もし私があの時彼の心を壊してしまったのだとしたら!ああ・・・」
「・・・そんなに怖い顔をしてたら誤解されると思うよ。ねぇソニア?」
「もっと笑ったらいいのに。ねぇジリヤ?」
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一通り学園内を偵察していた梓が風紀委員室に戻る。報告を聞いて風子と氷川が口を開く。
「ただいま戻りましたっす。みんな放送が気になって不安がっていて、誰も先輩の変化の理由を知りませんでした。」
「はぁ、一人くらい転校生さんから相談を受けていると思ってましたが、あてが外れましたね。」
「・・リゼットさんがいたら、こんな大事にならずに済んだのでしょうか。」
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そして今、2人は放送室に入ろうとしていた。
・・俺達は勢いよく扉を開けて入室した。その一連の動きによって生じた風に、木と鉄とワックスの入り混じった匂いが俺達の鼻腔を擽り・・俺は高揚した。
そうだ、地下に監禁される前は学校の特別室の香りが好きだった。特別室は放課後や休み時間になると誰も居なくなる。その大きな空間を俺一人が占領する。部屋の中央で両手を広げて見渡せば、世界に自分一人しか居ないような気がしてきて・・凄く'安心'する。
・・・転校生、お前もそうじゃないのか?誰にも命令されない、本物の自由を求めていたんじゃないのか?もしそうだとしたら・・今のお前は最高に道化だぞ。
転校生は放送室の一番奥の窓際に腰掛けてうなだれていた。まるで地面の蟻を観察する様に、風飛の街並みを横目で睨むように眺めていた。
「...転校生。」
俺の言葉を聞いてゆっくりと顔を向ける転校生。その顔は青白く元気が無い。他の生徒の話では素っ気なくなっただけだと聞いていたが、これは明らかに無気力症候群だ。まさかずっと隠していたのか?いつから?
「...(ニコッ)、初めまして。他の世界の僕、僕はみんなから転校生と呼ばれている者だよ。」
そう言う転校生は終始ゆっくりとした動きで立ち上がりながら、こっちを見て丁寧に答えた。
今の短い挨拶を聞いて、俺は色んな想いを感じとった。転校生が一人称を僕へと”変えざるを得なかった”悲しみ、皆が転校生を型に当てはめて押し込めた苦しみ、例の愛想笑いを転校生も覚えなければいけなかった過去、そして目の前の者を転校生へと、魔法使いへと、人類を守る為の兵器へと変えた全ての者達への怒り。そのような過去と想いが今の挨拶から読み取れた。同じ存在である俺達だけに伝わる想い・・やはり目の前の”彼”は苦しんでいる。
「・・なぁ、とりあえず3人でトランプでもしねぇか?遊びながらならゆっくり話せるだろ?」
ナナが開口一番に切り込む。このトランプの提案は俺とナナが考えておいた策の一つ。この会談をスムーズに進める為の仕掛けの一つである。当然俺達以外は知らない。さぁ、この提案に転校生は乗るか?グリモアはどうでる?グリモアの中には俺達の事を信用していない奴らもいる。この程度の案を生徒会の連中が却下するなら、これからの会談の内容をかなり変更しなければならない。
「作戦室、どうします?」
右耳のインカムに話しかける。作戦室には服部梓、野薔薇姫、武田虎千代、水無月風子、遊佐鳴子がいたはずである。そしてこの会話は俺達のインカムを通して全体放送されているため、俺とナナは隠し事ができない仕組みでもある。
「うん、いいと思うよ。1時間くらい楽しくやってくれると助かるな。」
まさかの遊佐さんからの即OKに内心驚きつつ、俺は提案した。
「じゃあまずは7並べでもしようか。」
ウンと首を振って彼も了承した。そこから俺達はくだらない会話を喋りまくった。過去にあったことやそれぞれの歴史の違いについて話し合ったりしたり、しょうもない下世な話も・・したりした。
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「そうだ転校生、君って呼んでもいいかな?」
「ふふ、もっと普段通りの砕けた話し方でいいよ。僕も普段通りにするからさ。」
「・・普段通り、ねぇ。お前と俺達の普段通りが違うとは思わねぇのか?」
「思わないよ。なんかそんな気がするんだ。」
「まぁ、その辺は追々話すとしよう。」
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「転校生、俺達の歴史と君達の歴史、どこが一番違うと思う?」
「うーん、やっぱりデクの技術革新が一番じゃないかな?」
「俺は学園の雰囲気だと思うけどな。こっちはなんか、すげぇほんわかしてるし。」
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「ところで転校生、この学園には美しい女性が多いようですが、君の好きな女性のタイプは?」
自分で言っててニヤニヤしてしまうが、これも今の転校生を知る為に致し方なし。
「ええ!?いや、みんな違ってみんな良いと思うよ。」
「ふーん、なら俺とハチのタイプを言うか。俺らのタイプが同じならお前も一緒って事になるからな。」
「ちょ、分かった!言うからやめて、恥ずかしい。」
「ふふふ、分かった。そこまで言うなら君の口からどうぞ。」
(やっと笑ったな転校生・・一歩前進だぜ。)
「僕の好きなタイプは・・”別にないよ”」
「なんだ、結局俺らと一緒じゃねぇか。」
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それを聞いていたアイドル組とゆえ子が反応する。
「え?”別にいない”?そうだったかな?」
「へぇ、転校生って誰でもいいんだ。」
「まぁまぁ二人共、とりあえず今は転校生さんが笑った事を喜びましょう。」
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「あ、そうだ。君の好きな食べ物を聞くのを忘れてた。よければ教えてくれるかな?」
「いやそれが、色んな環境での戦闘に慣れたせいか好き嫌いはしなくなったよ。食べられるなら何でもいい。」
「へぇ、お前は好きな物嫌いな物の区別が無いんだな?」
二言は無いな?と確認を取るようなネットリした視線を転校生に送るナナ。俺も動く。
「それは、本当に戦闘に慣れたせいなのかな?君は、もっと前からそうだったんじゃないのかい?」
「いや?そんな事は・・」
そう言いかけた刹那、ナナが俺たちにしか分からないレシピを口にした。
「・・・米とみそ汁を混ぜた【猫の飯】」
「あ!?・・・あ。」
転校生は動揺を宿した瞳を俺たちに見せ続けた。その動揺の意味を理解した俺たちは、
「・・・お前、マジで腑抜けたんだな。」
「うん、分かった。その反応だけでよく理解ったよ。」
今の転校生が大事な思い出を忘れている事を・・確認した。
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3人が過去話に花を咲かせている中、同じく3人の梓が彼らを近くで見張っていた。
「ん?先輩のようすが・・(小声)」
梓は現在、風子の指令で放送室の窓の近くに張り付いて、いつでも踏み込める態勢をとっている。
「転校生さん、一体どうしてしまったのですか・・」
第8次侵攻の裏の梓も、窓の近くで踏み込める態勢をとっていた。
「・・・」
そしてゲネシスタワー時代の裏世界から来た大人梓は、大人風子の指示で今回の顛末を近くで見届けるように言われたので、窓際に張り付いて傍観していた。
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そして1時間が経った頃、事態は急転した。
「さて、互いの認識の差異の確認は済んだかな?」
「ああ、問題ねぇよ。」
「うん。まあ、だいたい分かったよ。」
確認をとったハチがいよいよ動く。
「転校生、君が何故みんなに不機嫌な態度をとるのか、俺はよく分かったよ。」
その言葉にグリモア中の生徒がどよめく。どうして分かったのか、理由を早く言え、などの声が飛び交う。
「それを言う前にまず、俺達の共通の過去について話そう。」
それを聞いた生徒たちがさらにどよめく。
「やっぱりそうなるか、でもいいのか?転校生の居場所が無くなるかもしれないぞ。」
「大丈夫だよ。実際問題、今の僕が不機嫌なのは自分の過去が大きく影響しているっていう点は合ってるし。・・闘いが終わった今、僕の居場所が無くなっても大丈夫だよ。」
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今の転校生のネガティブな発言にグリモア全体が大きく揺れた。中でも元生徒会の面々は大きなショックを受けた。
「はぁ、私達は一体どこで間違った?卒業した者達でさえ、こうしてお前の為に集まってくれたというのに。」
聖奈が大きなため息を吐きながら呟く。
「転校生さん、一体どうしてしまったのでしょう。随分とナーバスなようですが・・」
薫子も転校生を心配する。
「大丈夫だぞ転校生、何があろうと私達はお前の味方だ。」
虎千代だけが、真っすぐに転校生を想っていた。
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「分かった。じゃあまず俺達の親について話そうか。」
そうして俺は語り始める。その語り方は身振り手振りが付いていて、他人が見る分にはひどく滑稽に映るだろう。それでも俺は自分なりに頑張って表現する。いつか見た地獄をできるだけ鮮明に再現するために。
つづく