面倒臭がりな提督   作:にんじん元帥

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プロローグ

――1942年10月11日

 

私、特型駆逐艦一番艦の『吹雪』は、サボ島沖海戦にて敵の猛攻を受け船体は粉々に…。わずか5分程度という余りにも短い時の中、轟沈した。

 

それから約80年…。

 

島国であるこの日本の海を護るという強い意志の元、暗い海の底から目を覚まし、大分県にある佐伯湾泊地。その工廠の中で、私は再び着任を果たした。

 

「よろしく頼むよ、吹雪」

 

目を覚まし、重い瞼を持ち上げると、そこには敬礼をする一人の男性。

白の軍服を綺麗に着こなし 、真っ直ぐな瞳で此方を見つめるその姿。

少し若い印象を受けるが、間違いなくこの方が提督であろう。

一歩前へと踏み出して、私は海軍式の敬礼を返した。

 

「は、はじめまして!特型駆逐艦一番艦の吹雪です!!よ、よろしくお願い致しますっ!!」

 

目を覚ましてからの第一声で緊張もしているせいか、声が震えてしまった。そんな私を見てうっすらとはにかんだ笑顔をする提督は、自身が身に付けていた白い手袋を外すと、此方に手を差し伸べて握手を求めてきた。

 

「これから一緒に頑張ろうな、吹雪!」

 

「は、はいっ!!」

 

これが佐伯湾泊地『神永隼人(かみながはやと)』提督との邂逅である。

 

••••••

 

あれから佐伯湾泊地で過ごし、色々な艦娘と出会い提督ともよく話す仲になった。

 

提督はとにかく優しい人だった。

私達の事を『大切な家族だ』と言ってくれた。

 

 深海棲艦との戦闘において、中破をした時点で入渠を許可し、戦闘後は温かくて美味しいご飯を沢山食べさせてくれた。

 

 私は嬉しかった……。

 ただただ嬉しかった。

 この人に一生ついて行こう……そう思っていた。

 

だがある日から提督の態度は急変し、艦娘に対しての行動がおかしくなってしまった。

 

大破しても入渠させて貰えず、提督に入渠の許可を得ようとしても暴言を吐かれ、殴られ、連帯責任として全員中破や大破した状態で戦場に駆り出された。

 

そして提督は更におかしくなっていき、行動もエスカレートしていった。

 

何が原因であそこまでおかしくなってしまったのだろうか。

私達には何も分からなかった。……あの時の優しい提督は何処へ行ってしまったのだろう。早く戻って欲しい。

 

そんな想いが、毎日私の中を駆け巡る。

 

そしてある出来事が起きた。

今でも忘れられない最悪な出来事が……。

 

<ーザザッ、こちら第一艦隊旗艦長門! ーザッ、ー大淀! 提督に伝えてくれ! さらに深海棲艦を多数確認!この数に…この強さ…姫がおるかもしれん!此方の損害は大破2、中破1、小破3だ! これ以上の進撃は危険だ! 今すぐに撤退命令を!>

 

<ーザー……>

 

<大淀? ー聞こえているのか!? 今すぐに提督に撤退命令を!>

 

<ガンッ! ブツッーザザー、……駄目だ。そのまま進撃しろ。……撤退は許さん>

 

<提督!? 大淀は? ……何故……いや、提督よ! 大破進撃の危険性は知っているだろう!? このままでは全滅だぞ!?>

 

<安心しろ、お前らの替えは幾らだっている。お前らが全滅したとしても、また替えを建造すればいいだけの事だ>

 

<だが──!>

 

<撤退は許さん! もし、撤退をしてみろ、……長門? お前なら分かっているよなぁ?>

 

<っく!! ──ザザッ……りょう、かいした。このまま進撃する>

 

<そうだ。それでいい、お前らの任務は敵の主力艦隊に突貫し、少しでも相手の数を消耗させる事だ>

 

 そう提督の命令は絶対だ。

 艦娘である以上、提督の命令には背けない。

 

「っく……このままでは本当に全滅しかねないぞ。……っ!どうすれば…」

 

 長門さんは既に中破状態。

 その他、大破が戦艦の榛名さんと駆逐艦の潮ちゃん。

 小破が私を含めて3人、軽巡洋艦の球磨さんに駆逐艦の荒潮ちゃん、そして私。

 

 度重なる出撃によって、全員の疲労状態は既に限界を超えている。

 長門さんの言う通り、このまま進撃すると全滅は免れないだろう。

 

「……っ、な、長門さん……私が敵を引き付けます。……だから、皆さんを連れて、この海域から離脱して、下さい……」

 

 ……!? 

 榛名さんは何を言って……

 いくら戦艦だとしても、この数の深海棲艦相手には敵わない! 

 喩え高速戦艦であれ大破していては、すぐに追いつかれてしまう!

 

「何を言っている!大破状態のお前を犠牲にすることなど…!」

 

「だ、大丈夫です!この榛名に任せてください!金剛お姉様の妹として最後まで戦い抜いてみせます!……だから、早く!…ここから離脱を……っう!!」

 

榛名さんの艤装は動かせない程に損傷が激しく、無理に動かすとさらに悪化してしまう。

 

「な、なら球磨が!球磨が囮になるクマ!榛名さんはもう動けないクマ!球磨はまだ小破だクマ!…時間稼ぎくらいはできるクマ!」

 

 球磨さんまで……

 

「みなさん!話してる場合じゃ!」

 

 ……もう目の前に敵が迫って……

 

「──だ! わた……」

「もう、──急いでにげ……!」

「どうすれ……」

「……いやぁぁぁぁ」

 

 ……あぁ、私もここで沈むのか。……嫌だなぁ。……また暗く、冷たい所へ行くのか。

 

「ーき! ……ふぶー! ー避け!」

 

 次の瞬間、激しい衝撃と爆音と共に私の視界が暗転した。

 

何も見えない。

痛みも感じない…

私は沈んでしまったのだろうか——。

 

しかし、それは違った。

 

 

「な、がと…さん?」

 

『…ふ、ぶ…き』

 

私を庇った長門さんが、敵の集中砲火を受けて轟沈した。

 

…私のせいだ。

私が余計な事を考えてしまったせいで、回避行動が遅れてしまった。

だから、長門さんが沈んでしまった。

 

全て…

 

——私のせいだ。

 

/???

 

 海沿いのベンチに男が一人。

 男は目を閉じると俯き、自身の指と指を合わせながら深く深呼吸をする。

 何度も何度も深呼吸をする——。

 

 ……様々な音が聞こえてくる。

 

蝉の声、穏やかな波の音、飛行機の騒音。

それらは男の心を溶かし、嫌なことを忘れさせてくれる。

 

(…はぁ、もうずっとこのままで居たいなぁ)

 

そして男は目を見開き、空を見上げる——。

 

 

(あ〜飛行機雲っぽい! ていうか、飛行機ってどうやって飛んでるっぽい?)

 

……駄目だ。久しぶりの休日で海沿いまで来てみたが、思考が完全に夕立になってる。

 

「…はぁ」

 

こんな事になった原因としては……

俺が勤務している会社が原因だろうな。

 

毎日残業ばかり、給料もろくなもんじゃない。

休日出勤は当たり前。

そんな会社に俺は勤務している。

毎日上司にはコキ使われ、一つでもミスをすれば怒鳴られる。

 

それがもう『一年半』

 

まぁ、所謂ブラック企業と言うやつだ。

元々面倒臭がりの性格をしていた俺だったが、ブラック企業に勤めている間にやる気というものが完全になくなってしまった。

年に数回あるかないかの休日も寝て一日が終わる。

寝床から起き上がるのも面倒臭くなり、一日中そのまま。という生活が続いていた。

…もう既に俺の体、心は疲弊しきっていた。

 

そんな俺だが、一つだけ熱中しているものがある。

 

…まぁ、ゲームの事なんだが。

そのゲームの名前は『艦隊これくしょん』。略称は『艦これ』。

ゲームの説明として、艦隊これくしょんは艦隊育成シュミレーションとして旧日本海軍の軍艦を少女に擬人化して育成していくゲームである。

 

軍艦には様々な種類があり、詳しく知らない人でも人生で1度は聞いたことがあるだろう戦艦を始め、航空母艦、重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦、潜水艦などをゲーム内では艦娘として呼び、その艦娘を編成して未知の存在である深海棲艦を倒していくゲーム。

 

そんなゲームに俺は熱中している。

初めこそ慣れないゲーム設定で戸惑っていたが、プレイしていく内に段々とそのゲームの面白さや史実に沿った設定にハマっていき、今では階級が中将になった。

 

俺も早く元帥になってウハウハしたいなぁ…。

まぁ、始めた瞬間からずっとウハウハだけどね! 

 

っやべ!…こんな事を言ったら曙に「このクソ提督!気持ち悪いわ!私に近づかないでくれる!?」とか言われてしまうぜ。

 

ふぅ…危ない危ない。

 

……あ、待って。これ本気でやばいかも。脳が完全にやられてるわ。

 

「はぁ…」

 

男はベンチの背もたれに寄りかかり、気だるそうに空を見上げる。

 

あれだけ鳴いていた蝉の声も、穏やかな波の音も…

今、この瞬間だけは全てがこの世から消えていた。

 

既に去って行ったであろう飛行機からは、雲のみを残して青色の空をじんわりと白く染め上げていく。

 

「お家に帰ろ」

 

そうして男はベンチから立ち上がって海を数秒眺めた後、家に向かって重い足取りのまま進んでいく。

 

この時まだ、自身が艦これの世界へ行き今よりも更にブラックな生活を送ることになるなど、考えもしなかったであろう——。

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