面倒臭がりな提督   作:にんじん元帥

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第一章 『着任』
邂逅の時


海沿いからほんの少し離れた場所に、少し古びたアパートが建っていた。

全体を見渡すと海の潮風に晒されたせいか、塩害が起きて所々に錆が出来ている。

 

このアパートこそ、俺の住処!鎮守府!…である。

築45年経つこのアパートには俺以外に数人、人が住んでいる。

お隣さんとは今現在、とても友好的な関係にある。

しかし、その仲良くなったお隣さんに少し不思議な話を聞かされた。

 

——俺の事についてだ。

 

率直に言う。…俺は『一年半前』から先の記憶が全くない。

 

所謂、記憶喪失。

お隣さんによると、一年半前の俺は世間一般で言うトラブルメイカーだったそう。

詳しく事情を伺うと、俺はお隣さんの玄関のドアを叩いたり発狂したり、アパートの前で怒鳴り散らしていたそう。

 

それが毎日。

 

ところが、ある日を境に俺は突然大人しくなり、今現在のような状態になった…という。

今ではお隣さんとは仲良くさせてもらってはいるが、当時は相当不気味がられていた。

そりゃそうだ。毎日のように怒鳴り散らし、周りに迷惑をかけていた奴が、いきなり人が変わったかのように大人しくなるなんて。それに加えて、その張本人は記憶が無いと来た。

 

当たり前だが誰だって不気味がる。俺だってそんな奴が隣に住んでいたら怖くて怖くて、常時チビってしまいそうなくらいだ。

 

だが、そんなことを言ったって俺には本当に記憶が無い。

だから一度、病院の方で検査をしてもらったのだが、医師によるとここまで重症化していてはもう元には戻らないのかもしれない。と言われた。

 

自分の名前やブラック企業に勤務しており、このアパートに住んでいる事以外、自分の素性は何も分からない。だから、生活する上で記憶が無いというのはとても大変だった。

 

…自分が記憶喪失…かぁ。

 

ま、まぁ?べ、別に俺はそういうの気にしてないし?…こ、怖くないし?

ほ、ホントだからね?

 

アタシウソツカナイモンッッ!!

 

…いかんいかん、俺の中の阿武隈が暴走してしまう所だった。

 

まぁ実際、仕事疲れでそんな事もどうでも良くなり、全然気にしていなかったこともあるが…

 

そんな事はさておき…

俺は今から艦これをやらなくてはいけない。今日のデイリー任務を消化して、早く寝なくては…また明日も仕事だ。

 

う〜ん仕事かぁ〜…いやぁ、怠いなぁ。

こんな時、隣に艦娘が居てくれたらなぁ。やる気が起きない俺でも、少しは頑張れるんだけど。

 

もし隣に艦娘が居たら…?

 

「提督?お仕事も大事ですが、自分のお身体が一番大切なんですよ?しっかり休んでください」

 

大淀がいたらきっとこう言って心配してくれるだろう。

 

「hey!テートク!疲れが見えるネ!ほら、紅茶を淹れたから一緒に飲んでrefreshするネー!」

 

金剛がいたら本場の美味しい紅茶を淹れてくれるだろう。

 

「このクソ提督!…仕事もいいけど私達のこともちゃんと考えてよねっ」

 

曙がいたらこう言って、崩壊寸前の俺の体をフミフミしてくれるだろう。

それはそれで…あり。

 

…よし。

デイリー任務完了っと。これで今日もしっかり提督業に励む事が出来たぞ。

仕事に対してやる気というものは出てこないが、可愛い艦娘とやれるならこの俺でも頑張れる。これも艦これという素晴らしいゲームのお陰である。

 

そういえば最近、建造やってなかったなぁ。

前回した時は戦艦レシピで確か鈴谷が来たんだっけ。

 

であれば今回は駆逐艦を狙ってみようかな。陽炎型はまだ少ないし、狙ってみるのもありだろう。

 

あと…特型駆逐艦一番艦の吹雪…かって、あれ?吹雪ってまだ来てなかったのか。

 

じゃあ今回は吹雪狙いかなぁ。

吹雪型はあと一人だけだし。ここで来たら吹雪型コンプリートできるしね。

 

取り敢えず建造レシピは一番来やすい 30 /30 /30 /30 でいいかな。

 

…よし。あとは建造開始ボタンをポチッとなするだけ。

さぁ、来てくれ!お願いします神様!

 

 

男がPCの前で手を合わせて神頼みをしていると次の瞬間、急に目の前が明るくなったかと思えば、段々と部屋の中が光に包まれていく。

男は何が起きたのかすら分からず混乱していると、密かに声が聞こえてくる。

 

「たす…て…、た…けて」

 

…?今のはなんだ?…なにか聞こえてくる。

小さくて分からないが少女の声だ。…たすなんとか?と言っていたが、なんなんだ?

 

男がさらに混乱して動こうとするが、体が硬直して上手く動かせないようだった。そして徐々に頭の中が真っ白になると、意識が遠のいていくのを感じる。

 

 

…体の感覚が消えていく。

まるで海の中に沈んでいくような。そんな感覚だ。

 

何だこれは。俺は一体どうなって…急に眠気がーー。

 

 

それから数秒後、光に包まれていた部屋は徐々に元の暗さへと戻っていき、普段と変わらない部屋が見えてきた。

 

しかし、その中で唯一変わったことがある。

それは男が気絶した状態で倒れ込んでいたことだ。ピクリとも動かない男は机に突っ伏して起きてくる気配は全く無かった。

そして男の目の前に置いてあるpcの画面には、1隻の艦艇が建造され始め、完成までの残り時間が刻一刻と終わりに近づいていた。

 

 

/???

 

…う、ん…。

こ、こは…俺はどうなったんだ?

 

取り敢えず、目をあけ…

というか、何で目が開かないんだ。オラッ!開けよ俺の目ェ!やる気がないからって目は開けろよ。そこまで重症化してねぇよ!

 

「て…と、てい…」

 

次はなんだ。ていと…提督?何だこの声は。どこから聞こえて―。

と、兎に角…今は視界を確保しなくては。見えない状態じゃ、何が起こっているのかも分からない。

 

男が視界を確保する為、試行錯誤していると…

徐々に目の中に光が差し込んでいき、ぼやけてはいるが多少は見えるようになった。

 

そして、まず自分の状態を確かめてみる。

両腕両足共に感覚はないがちゃんとついている。

 

ふぅ、感覚がなくなった時は不安に駆られていたが、幾分か安心できた。

 

次に周りの景色を眺めてみる。

この時には既に、視界は良好。

そのため、男は自分の周りを隅々まで観察してみることにした。

 

まず、初めに見えたのは乱雑に置かれた書類の山。

 

俺のアパートってこんなに書類あったっけ?

まぁ、確かに少し散らかってはいたがここまで酷くはないぞ。

多分。…ていうか、少し暑いなぁ服脱ぐか…

 

そうして俺は自分の肌に触った。のだが…

 

「はぇ…?」

 

硬い。

俺の肌ってこんなに硬かったっけ。

…あっ、ちょっと意味深な感じになっちゃう…///…じゃなくて!違う違う!今はそれどころじゃない!俺よ、一旦落ち着けー?

 

ふぅー…すぅーはぁ〜…

 

こういう時は深呼吸だ。

目を瞑り、頭を下げて、指と指を合わせる。

この深呼吸の仕方が1番落ち着くんだ。

仕事でよく危篤状態に陥ったときはこうして深呼吸をしていた。

 

あっ、なんか目から汗がで、出てきますよ。

 

すぅーはぁ〜…すぅーはぁ…

 

…さて大分落ち着いてきたぞ。

そんなこんなで改めて自分の体に目を向けてみた。

まず目に映りこんだのは、純白なスーツ?…すーつ?…肩には金色と黒の装飾が飾ってある。…少し下に視線を移すと、純白な絝に自分の手元を見るとこれまた真っ白な手袋をしていた。…あとは黒い鍔が付いた帽子付き。

 

「…こ、これって…まさかっ!軍服というや、つ?」

 

「あの〜…て、ていと…く。だ、だいじょうぶ…です、か?」

あ〜大丈夫大丈夫!

この程度の事は仕事じゃ、いつも経験してるから。

そう、余裕余裕、うん。余裕だよねー!

 

「あの〜…」

 

いやぁ、困ったなぁ。

幻覚を見るほど、俺はおかしくなってしまったのか。

これはまた病院で検査して貰わないとなぁ…。いや、もう治らないと思うけども。

 

いや〜。

ありえないよねぇー…。

 

そう、ありえないのだ。

それは何故かーー。

 

「お前…吹雪な、の…か?」

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