面倒臭がりな提督   作:にんじん元帥

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それぞれの念い

…ここは、どこだ?暗くて何も見えない。

体が…、冷たい。…何か、不穏な空気がする。

俺は…、死んでしまったのだろうか。

 

まぁ、自業自得だよな。…はぁ…。

俺は、一体何がしたかったんだ?

あいつらに、「必ず一緒に深海棲艦を倒そうな」とか言っといて、自分が裏切ってどうする?…で?、行き着く先が、その誓い合った艦娘に殴られて、蹴られて、それで死んで。…これで終わり?…へっ!クソすぎて笑えもしねぇよ。

 

…。…あぁ、悔いしかねぇなぁ…。

まだ、あいつらと楽しい思い出作りをしたかったなぁ。

…ケッコンカッコカリ、もしてないし…。

あぁ!マジで俺は何をやってんだよぉぉもぉぉぉ!!

まず記憶が無いってどういう事だよ…!記憶喪失ってか?何だよそ…

 

「…シズメ」

 

すると、突然謎の声が頭に響いてくる。

…!な、何だ!いきなり!…どこから聞こえて…。

 

「…ゼンブ、オマエ、ノ…セイ、ダ…」

 

暗くて見えんが…、あの声からして、深海棲艦か…?

…ここはどこだ?…俺は何処にいる?

 

すると突然、潮風と共に硝煙の匂いが俺の鼻を突く。

…硝煙の、匂い?どこからこの匂いが…。あの声と何か、関係があるのか?

 

辺りを見渡すも、声の主は視認できない。

それでもその声は、さらに憎悪を込めて言ってくる。

 

「…ユルサナイ、ユルサナイ!…ワタシヲ…ワタシタチヲ…アナドルナヨ…」

 

すると、周りの全方位から泣き声…呻き声…怒り声…が聞こえてくる。

その声全てに、憎悪の念が込められていた。

俺はその声を聞くことしか出来なかった。…何も出来なかった。

そして次の瞬間、俺は目を覚ましたーー。

 

閉じた瞼の中に、光が差し込んでくる。

ここ、は…。俺は、死んだのでは…。先程の声は…

一体…。

 

そんなことを考えていると…。

自分の指に暖かい感触があるのに気付き、その方向を見ると誰かが吐息を立てて眠っていた。あれ、は…。

 

「…て、いとく」

 

加賀…。

見ると、彼女は目から涙を流していた。その表情は、とても悲しそうで、とても寂しがっていた。

 

ごめんな、加賀。俺は…お前達に、どのくらいの苦痛を与えていたのだろう。

…それは、多分。俺には想像出来ないくらいの…。

 

はぁ…。

 

自分が情けない。記憶が無いとは言え、俺はお前達に悪辣な行為をしてきたのだろう?それは、お前達を見ていれば直ぐに分かった。

…顔にできた痣、汚れた制服、そしてお前達の表情や雰囲気。

それだけで、これは俺の仕業なのだと…理解することが出来た。

 

俺は指先を動かす。

彼女の、ベッドから今にも落ちそうになっている手を握ると、俺はその手を優しく包み込む。

あの時、微かに聞こえていた。

加賀の悲痛な叫びが…。あの泣き声が…。

 

だから今度は、絶対に離さない。彼女から握られたその手を、絶対に離すものか。

俺はそう心に誓うと、もう一度眠りについたーー。

 

それから数時間後、俺は再び目を覚ました。

その時には加賀はおらず、代わりに天龍と吹雪、そして潮が居た。

彼女らは、俺が意識を失っている間、交代交代で身の回りの世話をしていたそう。

…本当に情けない。

 

そうして俺は、まず自分の容態を聞いてみることにした。

…まあ、それは酷いものだった。

あと少し治療が遅ければ、俺は確実に死んでいたと言う。

…俺は、彼女らに助けられた。何故、俺は…死ななかったんだ。

彼女達にとって…俺は、裏切り者。断じて許されない行為をしてしまった。

 

すると、吹雪がこう言った。

 

「し、司令官!そんなこと言わないでください!…死ななかったなんて、悲しいこと言わないでくださいよ!」

 

俺はいつの間にか、自分の心の声が漏れ出ていたようだ。

だが、しかし…。俺は…。

 

「て、提督!…わ、私は提督が戻ってきてくれて、嬉しいですよ?…だ、だから!…その、…笑ってください!…私は、笑っている提督が、す、す、すすすききききぃぃぃ…!」

 

「おっ、落ち着いて!潮ちゃん!」

 

笑って…か。

…ふふっ。

俺はもう笑っているよ、潮。お前達を見ているだけで、俺は自然と笑顔になれるんだ。

吹雪と潮は俺の方を見ると、彼女らも俺の表情を見てか、可笑しくなったのだろう。二人で笑い合った。

 

「おい…提督…。記憶がないって言うのは、本当か?」

 

すると、天龍が部屋の窓を開けながら、そう聞いてくる。

天龍を見ると彼女もまた、所々に傷が出来ていた。

 

「…あぁ、本当だ。…本当に、何もかも…。…思い出せない。」

 

記憶…。俺にはお前達の元気な姿しか思い出せないんだ…。

…だが、現状はこの通り。俺は彼女らに手を出してしまった。それは変わらない。…記憶が無かった。だから、許される。なんて事にはならないだろう。

俺は果たして、どうなるのだろうか。退役は…免れない。…軍法会議で処されるか…。

そんな事を考えていると…。

 

「…そうか」

 

天龍はそれだけ言うと、部屋の扉に向かって歩いていく。

彼女を見ると、とても暗い顔をしていた。

…天龍も、か。…あいつも俺のせいで変わってしまった…。

俺は彼女を引き留めようとしたが、口が開く前に彼女は、部屋の扉を閉めて去っていった。…俺は何も言えなかった。謝罪の言葉さえ言えないのかよ…。

 

そして、少しの沈黙の後、俺は吹雪達に改めて事の顛末を話してもらった。

俺がどのようにして変わったのか、そして俺が彼女達にした事を…。

…俺は全てを聞いた。

 

その後、俺は二人を見届け、この部屋には一人。

…俺は、あれからずっと放心状態になっていた。

俺の頭の中で、艦娘の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。それが永遠かと思う程に…。

記憶が無いはずなのに、体はあの感覚を覚えている。

殴った時、蹴った時。その感覚が艦娘の悲鳴と共に甦る…俺はこの感覚に嫌気がさし、思いっきり叫んでしまう。

 

「ううぅ…ぁ“ぁぁ”ぁぁ“ぁ!!!」

 

俺は…!おれはぁ”…!なんて事をぉぉぉ…!

無意識のまま拳に力が入り、掌から血が滲み出てくる。しかし、痛みは無かった。その代わりに感じるのは怒り。頭に血が上るのが分かる。俺は自分に腹が立っていた。

腸が煮えくり返る程、自分が憎い!

 

すると、コンコンコンっと扉がノックされる。

その瞬間、ふと我に返った。

っ…俺としたことが…これじゃあまた、吹雪達に怒られるじゃないか。

落ち着け、深呼吸だ…。すぅー、はぁ〜。すぅー、はぁ〜。

次に俺は扉の方向に視線を移す。

そして、少しの間を空けて入ってきたのは…。

 

「…て、提督」

 

加賀だった。

彼女は下を向いたまま、少し震えた声で俺を呼ぶ。

吹雪達から聞いた。俺は特に加賀に対しての暴言、暴力が激しかったと。

彼女の顔を見ると、吹雪や潮、天龍よりも痣の数が多いことに今更気付く。

 

「…加賀。その、…すまん。…俺は、どうかしてた」

 

加賀が狙われていた理由は、俺から他の艦娘達を…

特に駆逐艦や潜水艦の子を守るために。その為に、必死に抵抗していたと聞く。

それ以外にも俺は彼女に…俺は、…っ!

収まったはずの怒りが、また湧いてきた。冷静になろうとしても、それ以上に怒りが抑えられない。

俺は下を向いてシーツを掴み、歯を食いしばる。握られたシーツは純白な白色から、徐々に赤く染まっていく。

 

すると突然、俺の視界が暗くなる。何事かと頭を動かそうとしても、動かせない。…俺は、加賀に抱きつかれていた。少しの驚きの後、微かに香る懐かしい匂いと安心感で俺の怒りは収まる。

加賀は、シーツを掴んだ俺の手の上から自身の掌を重ねる。

彼女の体は小刻みに震えていた。それでも俺から離れようとしない。

そして、加賀はこう言った。

 

「て、提督…、その。…あまり自分ばかりを責めないで」

 

震えた声のまま、加賀はもう片方の手で俺の頭を優しく撫でる。

シーツを掴んでいた手の力がすぅっーと、抜けていく。

 

…だが、加賀。…これは全て、俺の責任であって…。

記憶が無いというのは言い訳にもならない。彼女らにした行為は全て俺の責任。俺は加害者で、艦娘は被害者だ。

…俺は、自分を責める事しか出来ない。

他の艦娘達も、きっとそう思っているだろう。

俺は裏切った。艦娘達からの信頼を自分で切り捨てた。

だから…っ!

 

「ごめんなさい…。貴方が苦しい時に気付いてあげられなくて…」

 

か、が…。

違うんだ…。加賀。俺、は…お前達に…。

 

「提督…。私は、…貴方の事を信頼していたの。あの時の…挨拶の事…、覚えているかしら。私はあの時からずっと、貴方の事を上司として、信頼していたの。…私、…いや、私達は…貴方が好きだったの」

 

俺は、どうする事も出来なかった。加賀の、…彼女の念いを聞くことしか出来なかった。

…挨拶の時、か…。俺はあの時から、この佐伯湾泊地の提督となった。

初めはどうなる事やらとは思った。こんな面倒くさがりの性格をしていて、艦娘達に迷惑を掛けてしまうのではないか。と、心配していた。

しかし、彼女らはそんな俺に対して、文句も言わず接してくれた。

 

俺が、書類を片付けていなかった時に大淀が叱ってくれて、「一緒にやりますから、提督も頑張って下さい」と言って、徹夜してまで手伝ってくれた。

 

俺が、起きるのが面倒臭いと言って寝室に篭っていると「…提督、加賀です。もうマルハチマルマルですよ。起きて下さい。…提督、…頭にきました。」と言って、加賀が扉をぶち破った時。

別の日にも、「提督!?早く起きなさい!いつまで寝ているつもり?爆撃するわよ!!」と言って、瑞鶴が扉を破壊した時。

 

あれも、全て俺のためにやってくれていたと思うと…。

…本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。今更、何を言うかとは思うが…、俺は、本当に彼女らに助けられて来た。

その艦娘達に、俺は…。

 

「…だから、提督。…貴方が良いのなら…その、もう一度、やり直しません…か」

 

やり直し…。果たして今の俺にそんな資格があるのだろうか。

俺は艦娘を裏切った。そんな俺にもう一度、やり直す。

なんて事が果たして許されるのだろうか。

上からの報告はまだ来てない。俺がこれからどうなるのかなんて…まだ分からないのに。

 

「加賀…、俺は、…もう…」

 

この泊地には、…居られない。

ここにいれば、きっと…。またお前達に、…。

 

「やく、そく…。覚えていますか。私に向かって「絶対に離さない」…と、貴方は言ってくれました。あの時、私は…とても嬉しかったのですよ?」

 

約束…?あぁ、加賀が眠っていた時の事か…。…そうだ。…あぁ、そうだよ。俺は絶対に離さないと、あの時お前に誓った。

 

「…私は、貴方が怖かった。毎日、毎日…貴方に怒鳴られて、殴られて、蹴られて…。抵抗はしてみたものの、意味はなかった。…そして私は全てを諦めていました。赤城さんを守れなかった時から…、ずっと。一航戦としての誇りは何処かに消え去っていました。そして私は…あわよくば、このまま海の底へと沈みたい。なんて思っていました。…そうすれば、この地獄から逃げられる、と…」

 

…。俺は…そこまで、彼女達に。

不甲斐ない自分を恨みたい。そこまで追い詰めた自分を…。

 

「…でも、貴方は戻ってきてくれた。それがどんなに嬉しい事か。…提督、…約束は絶対です。貴方がこれから…どうなるのかは分かりません。そして、それは私も同じ。…私は貴方を殺しかけた。…艦娘は提督に対して、危害を加えないようにリミッター制御装置が備わっています。私が貴方を殴った時…そのリミッターが外れたんです。それが何故なのかは、分かりません。…が、私は結果的に貴方を殺そうとしました。そうすれば、この泊地の艦娘を助けることが出来る。赤城さんにもう二度とあんな辛い思いをさせることない…と。」

 

加賀は悪くない…。絶対に悪くない。

そこまでした俺が原因だ。俺は別にどうなってもいい、だがしかし!

…お前は!

 

「加賀…。俺がこれから先、どうなるのかは分からない。だが、約束は約束だ。それは絶対に守る。結果がどうであれ、お前達にはもう辛い思いはさせたくない。だから、全て!俺に罪を…」

 

次の瞬間、俺の頬が叩かれた。

少しの痛みはあった…。が、ただそれだけ。あの時のように、気絶するような程ではなかった。

俺が呆気に取られていると、加賀は泣きじゃくってこう言った。

 

「それじゃあ、意味ないじゃないですか…!…貴方が私の罪を被ったら、私は今度こそ、一航戦としての誇りが無くなってしまう。赤城さんを、この泊地にいる艦娘全員の事を裏切ってしまう…。」

 

加賀…。

俺にはもう、どうすればいいのか分からないんだ。

自分が果たして約束を守れるのかさえ分からない。加賀が居なくなれば、俺はどうしたらいい?…それこそ意味がなくなるじゃないか。

 

「すまん…加賀。少し、頭を冷やしたい。今の俺では、お前の期待に沿った回答は出せない。…もう少し、考えさせてくれ…」

 

俺がそう言うと、加賀は「…はい」とだけ言って、部屋を退室する。

そして、また一人の空間が出来る。

 

…汗が吹き出る。

着用している服から、包帯から汗が染み出て、そのままシーツへと染み込んでいく。

俺の頭は混濁していた。色々な事が起きた。…起きすぎた。そして、これから先、色々な事が起きる。…どうすればいい?上からの報告次第で、俺はこの泊地からは居られなくなる。そうすれば、加賀との約束は無駄になってしまう。

そもそも、加賀はどうなるんだ。…解体か?それとも、別の鎮守府か泊地に…。

どちらにせよ、最悪な結末は避けられない…。

 

俺は頭を抱える。

自分にはどうする事も出来ないと分かっているくせに、解決策を導き出そうとしている。

 

すると、コンコンコンと扉がノックされる。

入室してきたのは、吹雪だった。

彼女は、なにか焦っていた。何かあったのだろうか…。

 

「し、ししし司令官!…あ、ああの、その…!えっ〜…と!」

 

俺は一旦、吹雪を落ち着かせる為に、深呼吸をさせた。

俺が唯一、独自の深呼吸を教えた相手である彼女は、俺の言う通りに深呼吸をすると、段々と落ち着きを取り戻した。

そして、俺が「何かあったのか」と彼女に問うと…。

 

「先程、大本営から通達がありまして、その内容によると…」

 

俺は彼女から受けとった通達書。その内容を見て、驚愕した。

…有り得ないだろう。…何をどうしたらそういう結果になるんだ。

内容はこうだった…。

 

「佐伯湾泊地現提督、神永隼人。大本営より通達。貴殿の処遇、又は航空母艦、加賀の処遇について。貴殿のこれ迄の件において、記憶の喪失、心神喪失状態であった為、被告人としての重要な利害を弁別し、それに従って相当な防御をすることのできる能力を欠く状態をさすものとすれば、記憶喪失で今回の件のことを全く認識できないと見なし、今回の公判は停止、確立されない。よって、貴殿にはこれまでと同じ、佐伯湾泊地での任務遂行を通達す。次に、航空母艦、加賀の処遇について。加賀においては、リミッター制御装置が解除された際、自身の防衛システムが働いたと見なし、今回の公判は停止、確立されない。よって、航空母艦、加賀にはこれまでと同じ、佐伯湾泊地での任務遂行を通達す。以上。」

 

…との事だった。

果たしてこんな事があっていいのだろうか。

いくら記憶が無いとは言っても、免責は免れないだろうとは思ったが…。

大本営は一体、何を考えているのだろうか…。

 

…まぁ、考えられるのは、提督不足か?

提督になりうる人材が少ないが故に、多少の問題を起こしても許されるのだろうか。いや、しかし…俺は、多少とは言えない程の問題を起こしたはずだが…。

 

そこまで海軍は、…我が日本は追い詰められているのか…。

だからこそ、加賀の件においても解体はせずに任務遂行を続行させた…?

 

「あ、あの…、それで…司令官は、どうしますか?」

 

吹雪が一言問う。

…どうするか、ねぇ。まぁ…

 

「やるしか、ない…よな…」

 

それ以外にどうしろと言うのだ…。

大本営からの命令は断りきれない。というか、断れない。強制である。

ならば、やるしかない。加賀の言う通り、もう一度、やり直す。

喩え今回の件が無かった事として水に流されたとしても、艦娘達が受けたこの傷は治っていない。だから、俺自身がその傷を癒さなくてはいけない。

どんなに、酷い目にあっても真摯に受け止めろ。… 自分の尻拭いも出来ないような無責任野郎にはなるな!

 

拳に力が入り、今度はやる気に満ちた力が湧いてくる。

 

「よし…!…次は絶対に離さないからな、吹雪!」

 

そう言うと、俺は腕を空に掲げる。

確か、挨拶の時もこうしてたっけ…。懐かしいなぁ。

 

「し、司令官!…うぐっ…はい!!絶対ですからね!」

 

吹雪は泣きながらも、目をキラキラさせる。

そして、敬礼をして最後にこう言った。

 

「おかえりなさい!司令官!…んんっ、ふぅ〜」

 

 

 

 

「…司令官が佐伯湾泊地に着任しました!これより艦隊の指揮に入ります!!」

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