巨神聖戦記外伝   作:芹沢亀吉

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前編

2019年11月14日、天皇は大賞祭に臨んだ。この大賞祭は天皇が皇位継承した年に 行われる祭祀で、 早い話が皇位継承という天皇個人の都合をご大層に盛り上げるため の無駄遣いである。 税金の無駄遣いでしかない祭祀のためだけに大手ゼネコンが大賞を造営、そしてすぐ解体するのだから官民癒着も甚だしい。

 

「この大嘗祭では占いとやらでアオウミガメの甲羅が使われている。絶滅危惧種なのに。」

 

生物学者の一ノ瀬由衣はTVを観ながら両肩を震わせている。 親友で考古学者のアイリーン・チェンも表情が暗い。 現在大阪市内のアパートで同居しているこの2人は先月22日に御堂筋で行われた即位反対デモに参加したばかりだ。

 

十数日後、2人は淡路島を訪れた。県立淡路島公園は亡き母の桐子の実家近くで 顔が幼い頃よく遊んた場所だが、大手派遣会社ANOSAPに数年前買収され、 今では『イジゲンノクニ』なる騒がしい営利施設に変わり果てている。

思い出の地を改悪した大手資本、その改悪を許した行政への怒りで一ノ瀬は言葉が出ない。

 

「酷いよね、由衣ちゃん。行政が県立公園という公共財を派遣会社に売り飛ばすとか官民癒着が過ぎるし、公園を憩いの場にしていた市民達のことを全く考えてない。」

 

アイリーンは目の前の営利施設を睨み、 一ノ瀬の左手を優しく握っている。 2人がアトラクションの大音量に困惑しながら歩いていると、一緒に連れてきたパグ犬のペロが突然立ち止まった。

全身ベージュ色、耳と顔面だけ真っ黒なこの小型犬が鼻を鳴らしながら眺 めているのは醜悪な巨像で、傍らの横断幕に「皆さんの力が必要だ! ゴジラ迎撃のため尽 力せよ!」と書かれている。

 

「あれ何? ゴジラにしては醜悪過ぎるし、口を開けたまま首から下が地面に埋められてい るみたいな形状で完全に晒し者だよ。」

 

「アトラクション用の装置みたいだけど、 由衣ちゃんが細胞調べて論文書いたゴジラと全然違うし、間抜けさと醜悪さばかり前面に出ていて神秘性がまるで無いよ。」

 

 

この醜悪な巨像はアトラクション用のハリボテで、 ゴジラの実物を模したとパンフレットに書いてあるが、形状は例の巨大不明生物、 即ち相模トラフ付近で本物のゴジラに瞬殺されたあの愚物そのものだ。

無論こんな醜悪な愚物をゴジラと言い張るのは本物のゴジラの地球最強の巨神 (Titan) への愚弄に他ならない。

 

体験型アトラクション 「ゴジラ迎撃大作戦」には自衛隊に地雷原まで誘導され文字通り墓穴を掘り、薬剤投与で活動停止した設定の愚物が登場し、 参加者はその愚物の皮膚片 射撃し点数を競う。

 

淡路島への初襲来が1870年代初頭、即ち人類が核に手を出す前に弱点の解析に成功した日本政府が薬剤を新開発した、という設定も悪質で、人類が核に手を出したこと により1954年に覚醒、各国政府が半世紀以上研究し続けても弱点解析は不可能など、ゴジラ本来の性質を完全に無視したゴジラ詐欺に他ならない。

 

「最早、ゴジラとは呼べないくらい間抜けな存在に貶め、不特定多数の人に撃たせて娯楽にするとか最低過ぎるよ。 異質な存在を狙い撃ちにして楽しむために高い料金払うとか凄 く怖い。 私はこの国では外国人、日本国民からすれば私も異質な存在。」

 

一ノ瀬は黙って頷いた。 日本人である自分と中国人であるアイリーンがこの日本で置か れている状況の違いは一ノ瀬自身よく知っている。

 

なおペロに引っ張られる形で2人がテーマパークを去った直後に、隣接する淡路ハイウェイオアシスと淡路SAが陸陸自に占拠されている。

 

奈良で空自隊員に難癖をつけられ射殺されそうになった一ノ瀬とアイリーンにとってはまさしく間一髪で、 危険な気配を察知し突然走り出したペロの所謂「パグ走り」に救われた格好だ。

 

「淡路SA上り下り及びハイウェイオアシス閉鎖!紫龍(しりゅう)、出動!」

 

陸自隊員が無線で合図すると、どこからともなく現れた巨大ロボットが淡路SA下りに 駆け込んだ。

 

全高約65mの淡路SA大観覧車が小さく見えるこの巨大ロボットは無駄に長い尾、 毒々しい緑色の背びれ、そして全身の装甲の大半がゴジラの表皮を真似た意匠と、とにかく禍々しい。

 

この悪趣味過ぎる巨大ロボット、即ち紫龍初号機は対ゴジラ用決戦兵 で、製造開発は防衛省、協賛は防衛省と結託し兵器利権を貪り続けてきた複数の大企業と、典型的な官民癒着の産物である。

 

「走りも完璧だ。俺やっぱり天才だな、グヒヒヒヒ。」

 

刈屋慎吾(かりやしんご)は目の前の大画面を今にも舐めそうな様子だ。

 

この男は一ノ瀬の中学時代の同級生で、 マサチューセッツ工科大学在学中にアメリカ空軍にスカウトされ、1947年にニューメキシコ州に墜落したUFO の残骸を研究し人型巨大ロボット即ち紫龍の原型を秘密裏に製造していた。

 

その後、自衛隊が金星人の支援下でアメリカ侵攻を開始 すると今度はその自衛隊にスカウトされ、現在は NIGOD (National Awaji-Island Institute of Godzilla Disaster=国立ゴジラ淡路島研究センター) 主任研究員兼所長だ。

NIGOD本部は旧日本陸軍の地下施設を拡張したもので、管制室は勿論紫龍の格納庫もある。

最近入手した音波発生装置オルカで50km先のイルカに命令出来ることを確認した 刈屋は、この音波でゴジラを淡路島に誘導し紫龍による抹殺を企てている。

 

「Mr. Aさん、天才である俺を他の連中が援護するのは当然とはいえ、貴方のオルカ寄贈は本当に嬉しいよ。 お陰で今晩、俺の紫龍がゴジラを殺れる。グヒヒヒヒ。」

 

独り言に夢中の刈屋は右手の古い歯形を眺めた。 なお紫龍はアメリカ空軍時代に製造した原型を刈屋自ら改良した機体で、基礎骨格に使われているのは数億年前に死亡しアメリカ軍がフィリピンの地下洞窟で回収したゴジラの同族ダゴンの骨だ。

 

元々、ゴジラ細胞から生成した骨を原型の基礎骨格に使う計画だったが、 培養液を瞬時に変質させるゴジラ細胞は培養不可能で、骨の生成断念を余儀なくされた刈屋はゴジラを逆恨みした。

 

「由衣、ゴジラを殺ったらお前は俺のものだ。グヒヒヒヒ、住所も下着も把握済みだぜ。」

 

刈屋は極めて優秀な科学者だが人間性に関してはゴミ以下で、中学時代の修学旅行で女湯を覗き、入浴中の一ノ瀬に欲情した上、就寝中を狙い襲おうとして逆に右手を噛まれた。

刈屋は自身の婦女暴行未遂は棚に上げ、右手を噛んだ一ノ瀬を今でも逆恨みし、一ノ瀬が暮らすアパートのゴミ置き場から使用済み下着を盗むなどストーカー行為を働く危険人物なのである。

 

「こちら 『イジゲンノクニ』 館内放送室。今からオルカの音波を館内放送で流します!」

無線で報告を受けた刈屋は不気味な笑みを浮かべる。

 

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