今世紀で最悪の闇の魔法使いになってしまった ー1 作:シューズ
手洗い場の蛇口の1つに小さい蛇の彫り物。ここか。超感覚呪文のお陰で捜すのが思ったよりも楽だったな。
トイレに居た女子が居なくなるのを待ってから超感覚呪文を自分にかけ直した。近くにこちらに向かう人は居ないな。
人除け呪文を使うか?先生方の注意を逆に引くかもしれないが…秘密の部屋から戻ってくる時を夜中にすればここで鉢合わせしないか気にしなくてもいいか。入った後に入口を閉じられればだが。とりあえず本当に秘密の部屋への道が現れるか試すか。
ああ、その前に、範囲を狭く限定して──
「
魔法は正確に発動したが手応えはない。もう誰も居ないな。
蛇の小さな彫り物に歩み寄り、覗き込んで蛇語で囁きかける。
「開け」
動いた──後退った。手洗い場の台全体が分割され、花開くように内側から展開し、床に消えていく。
瞼を閉じて杖を自分の顔に向ける。
「…
バジリスクがこんな近くに直ぐ居るとは思わないけど、用心はしておこう。
手洗い台があった場所に大きな丸いパイプが開いている。パイプには触りたくないな。着ている
「
身体が上から吊るされるような感覚がする。杖を動かして全身を少し浮かせたままパイプへと入り、緩やかに落ちていく。蛇行してるな。終端が感じ取れないし長くもある。
使うと五重になるが盾の呪文をいつでも使えるように心構えしておく──目くらまし呪文と複合させた変身術へは、魔力の流れを切る。身体の感覚が変わる、いや戻ったんだ。…目隠し呪文は布で代用できたな。ま、いいか。呪文ならずれないし。
…
魔法史の教科書でも図書館の蔵書でも『秘密の部屋』については信憑性がない伝説…たしかホグワーツ創始者でスリザリン寮を作ったサラザール・スリザリンがグリフィンドール寮を作ったゴドリック・グリフィンドールとの決闘に敗れてホグワーツを去る際に、彼のマグル生まれなどホグワーツに受け容れないという他の創始者達に認められなかった思想を受け継ぐ者のために、秘密の部屋を作り中に怪物を放した…
怪物がバジリスク以外でも盾の呪文で足止めして逃げる位可能のはずだ…
箒を持って来た方が良かったかな、飛行性能の良い奴…
高価なんだよな…
安かろうとそもそも金が無いんだが…
…
通れない細いパイプも繋がっているな。こういう分岐は通れないんだから順路じゃないよな?
…
あっ入口閉じてなかった!戻らないと…うわぁしまったな。杖を上に向け上昇を始める。
誰も来てませんようにー…
…
…
誰も居ない…まあ冬の夜は寮内か近くのトイレを使うよな。クディッチチームや部活動をしてる連中は知らないが。誰にも見られてないよな?
上昇をやめる。
「閉じろ……閉まれ……うーん、覆え……蓋をしろ…」
だめか。蛇の彫刻は…感じ取れない。目も使うか。杖を両目の覆いに当てる。
「
覆いが消える。…やっぱり無いな。一応──
「
眩しっ…わかってはいたけど超感覚呪文の弊害だな、これ。無い。うーん…
「戻れ……隠せ……再度隠せ、おっ」
引っ込んでいた部品が床から持ち上がり組み合わさっていく。
穴は塞がれた。灯りを消し、目隠し呪文を再度使ってから下へと向かいなおす。
…
…
この魔法の組み合わせでも速度があんまり上げられない。やっぱり箒が欲しいな。自作は無謀だろう。学校の備品は性能が低いみたいだし、他の生徒から盗むのは問題になる。寮代表のクィディッチ選手の箒は気持ち良く飛べるんだろうな…必要の部屋なら持ち出せる箒を出してくれるか?今から戻るのは…面倒だな。明日行ってみるか。
…
…
…
…
! 開けた空間が先にある。湿った匂い、水が滴る音は相変わらずだが、岩盤の中の洞窟といった感じにもはや完全になってるな。
今更だけど空気が淀んでいそうなものだが、息苦しくはないな。安全な空気が欲しければ泡頭呪文を使えばいいが、空気の泡で頭部を覆えば嗅覚が効かなくなるし、露出した肌が減るから超感覚呪文の恩恵があっても周辺知覚が怪しくなるか。ただでさえ目をつぶっているのだし。
浮遊呪文と人体移動呪文を解いて着地する。吊り下げられていたような感覚がなくなり、肩の周りなどが解放された。両腕をぐるぐる回す。
この洞窟の先に秘密の部屋がある、のかな。ここも秘密の部屋に含まれるのだろうか?ただのうすら寒い湿った通路に思えるけど。…女子トイレまで戻ったら靴をはじめ全身を清めよう。いま掃除呪文を使っても魔力の無駄遣いになる。
曲がりくねった洞窟を歩いていく。
なんか脆い感じがするな。
…
そこを曲がった先が行き止まりになってる。
行き止まりの頑丈そうな壁には中央に2匹の蛇が縦になって絡み合っている彫刻があった。すごい彫刻だな、肉眼で見てみたいけど…目隠し呪文を解くのは無駄か。またここに来ればいいし。この壁の向こうに行けても戻ってくる時すぐに見れるな。壁の蛇に蛇語で『開け』と一言言えばいいんだったな。
?! あ、これ、なにが…しまった…っ…
「く、そ、フぃ二、
呪文にかなり強く抵抗される感覚──頑張って左腕を上げ杖を振りながら魔力を振り絞って流し込む……目の覆いが消えた、下を向いたまま目を開けたがほとんど見えない、真っ暗だ、当然か杖灯りの呪文使ってないし……辺りがまったくわからなくなった、超感覚呪文が切れた、いや、自分で中断したのか…?
「
光る膜がうずくまった私の身体を覆うように展開した。頭がガンガンする…でもこれで、大丈夫、だよな。頭を持ち上げる。
あの壁──あの彫刻の蛇の生き生きした目玉、深い緑色の硬質な輝きがある。綺麗だ。エメラルドじゃないか?抉り出して持って帰って売れれば金に余裕ができるかな、いや、無理か。そんなことしてる場合じゃないしな──怪しいな。呪いのもとは、でも、このトンネル自体も怪しいか。進んでいくうちに呪いが、みたいな。脆そうだし崩れる仕掛けもありそう…呪いの痕跡を調べて、いや、自分の深い所まで治しておくか。
「
歌うように唱えつつ周囲を見回す。…手と膝を地面についたしローブも引きずってしまったな。掃除呪文は女子トイレまで戻ってからか。今使いたい~。
失敗したな、侵入者対策に呪いが仕掛けてあっても不思議じゃなかったのに。呪いで死んでもおかしくなかった、か?古ぼけていて弱った呪いだったから死んでないのだろうか…。
護りの呪文を維持しつつ立ち上がり動き回るのに合わせて形状を変える。蛇の彫刻のある壁や周りを調べてみる。超感覚呪文を唱える。
…。
うーん…。
…。
「開け」
行き止まりの壁の中央の蛇が動き出し左右にわかれ壁自体も左右に開いていく──両目を瞑った。もうバジリスクが居てもおかしくない──
左右に柱が聳えて高い天井を支え中央に道を形作っている。床は滑らかで、瞼越しに弱い明かりを感じる。ちらっと薄目を開けると怪しく緑がかった光る床に柱が影を落として──目を閉じた。床は何製だろ、魔法かな。超感覚呪文だけを維持しながら前に踏み出した。
背後で音もなく固そうな壁が左右から滑り出し再び道を閉ざした。こちら側にも絡み合う蛇の彫刻があるから帰りも蛇語で開けと言えばいいのだろう。
周りを確認しながら前へ歩く。左右の何対もの柱には柱に巻き付くように絡み合う蛇達が彫られている。
私が歩く音以外、水滴の音もしない。風はないようだが涼しい。地下だから夏に来ても涼しそうだ。夏は学年間でホグワーツに居られないけど。
正面奥に、巨大な像が細長い部屋の終わりに立っている。天井につきそうなほど高い。壁を背にして、ローブを纏って直立した姿。
両目を開けたいな、超感覚呪文の効果もあって静かで凍えるような緑がかった幽明に彫刻が映えて素晴らしいだろう…。まあ正面のサラザール・スリザリンだろう像は美しい造形じゃないけど、巨大で迫力があり、部屋の構成も威厳を感じさせてくる。
「偉大なるスリザリンに跪いて敬意を示さないのか」
! なんだ、正面の像から聞こえた──口は動いたように感じなかった──くぐもってたが蛇語か──なんて応える──
「お前はサラザール・スリザリンじゃないだろ」
言っちゃった…もういいか、取り繕わなくて。
「彼は死んでるしゴーストも居ない筈だ。お前はバジリスクか?」
「そうだ。名乗れ」
やっぱり巨大な像から聞こえるが口は動いてない。
正直に答えていいのかな、これ。
「…トム・マールヴォロ・リドル、一応、ゴーントだ」
「スリザリン様の末裔か。手続きは知っているか」
知らない。っていうか、ゴーント家を知ってるの?
「知らない」
「スリザリン様のロケットをこの像の首にかけよ」
持ってない。なんか蛇語とはいえ無機質過ぎるなこいつ。【私の母が愚かにも売っぱらった】疑惑が強まったな。本当に生き物なのか?孤児院に私を預けて死んだ母の形見なんかなかったし、シスターがこっそり売り飛ばしたりもしてない。ダンブルドアが訪ねてくるもっと前に記憶を確認したが、魔女じゃないから記憶の偽装や修正なんかしてなかっただろ。
私がスリザリンの末裔なのか、母がゴーント家の娘なのか、ゴーント家が本当にスリザリンの末裔なのか、分からない。はっきり信じられる情報は、母については赤ん坊の私を孤児院に預けて死んだ様子ぐらいだし、父親についてはトム・リドルという母が告げた名前だけ。ゴーント家の所在とその近隣にはまだ訪ねて行けてない。
「鎖を調整する魔法さえ使えないのなら去れ、と言付かっている」
使えるよ!スリザリンのペンダントを持ってないというだけで。
「スリザリンのロケットを持っていない。両親には育てられていないんだ」
手続き、って、するとどうなる?秘密の部屋から怪物を、バジリスク(仮)を放ってホグワーツやすぐ近くのホグズミード村にいるマグル生まれをはじめとした純血じゃない魔法使い達を襲わせるのか?サラザール・スリザリンがこの立派な部屋を作って怪物(バジリスク?)を置いた理由が950年ほども正しく伝わっているか知らないが、必要ないだろ。
「手続きがバジリスクを純血以外に嗾ける為とかならば、必要ない」
私も純血じゃないだろうしな。マグルの孤児院で育っていて、父親はきっとマグルだ。
「手続きとは、汝がこの秘密の部屋と我へと命を下すためのもの」
魅力的だな。
「…我は自由に狩りがしたいだけだ。汝の命に従うと誓おう」
真剣さが伝わる声だな。代替わりしてるにせよ950年もこの部屋の中に閉じ込められて生きてるんだから餌がいるのか疑問ではあるが、狩りは禁じられた森でさせればいい。それなら、いいか。
バジリスクだかなんだかの強力な魔法生物は魔法への耐性が高いそうだから、私でも目くらまし呪文をかけられるか怪しい、だけど捕食者なら隠れて行動するのは得意なはず。
一応とはいえスリザリンのロケットの在り処は知ってるしな。
聞いてみたいことは手続きをした後に聞く方がいいな。
「スリザリンのロケットの所在に心当たりがある、数年待ってくれ。見付かるまで餌が欲しいなら持ってこようか?」
「必要ない。ロケットが無くば、スリザリン様の像の心臓に汝の血を注げ、そして唱えるのだ──」
げぇ、やだな…血を媒介に強力な呪いを仕掛けてくるんじゃないだろうな? そんなのがロケットを使う方法の代替かよ。ああでも、主従関係を結ぶ儀式魔法の一種なら害が無くとも強力な呪いにあたるか。
「──スリザリンよ。ホグワーツ四強で最強の者よ。われに話したまえ」
それでどうなる?巨大石像の口が開いてバジリスクが這い出してくるのか、石像に命が吹き込まれて動き出すのか。まぁ、魔法の痕跡を確認して罠とかも調べてみるか。怪物(多分バジリスク)が出て来て襲ってきたら逃げれば、いや出入口が塞がってるな。壁を破壊できるか?怪物に死の呪文を試してみるか?使ったことないが。
「少し待っててくれ」
歩き回って辺りを調べる。
整然と立ち並ぶ柱の蛇の彫刻には魔法の痕跡があるが、杖で探ってもスリザリンの巨大像の足元には見付けられない。強度を増したり保護する魔法は掛かってると思うが…薄目を開けて確認すると、床の緑がかった光でいまいち判然としないが灰色で、色は付いてないようだから掛かってないのかもしれない。像が背にする壁には魔法の痕跡があるな。
像の上の方(私は背が高い方だと思うが石像の腰にも届いてない)も調べるか。自分に杖先を向けて振りつつ唱える。
「
全身が吊り上げられ、ローブが体から離れる感覚──杖を軽く動かしゆっくりと像に沿って上昇していく。
頭まで調べてから、ローブの胸の辺りまで下降する。身体を浮かす魔法と連動しないようにしながら杖を石に押し当てる。ローブの皺が表現された石が本物のように動き、そして円形の穴が空いた。奥に木製らしき心臓を模したものが感じ取れるようになった。
はぁいやだな…
右掌に杖先を当てる。魔力を制御しつつ──
「
いつっ…右手を前の穴に突っ込み傷口を心臓の模型にあてて掴む。うわっ脈打った!
手を引き抜き像から離れながら床に降り、杖を構える。
私が話しかけなければ動かない、か。
杖で掌の傷口をなぞるように動かす。
「
うん、治ったな。よし、やるか。一応杖を構える。
「──スリザリンよ。ホグワーツ四強で最強の者よ。われに話したまえ」
石像の口が開きだした。
巨大な蛇の頭部が吐き出されてきた──バジリスクだな。嬉しそうにしゅーしゅー言ってる。
…長いな。床へと落ちていってとぐろを巻き、舌を出し入れしながら頭部を振りながら持ち上げているが、身体が長い。太くもある。ああ、両目は閉じてるな。バジリスクの魔眼と眼を合わせたら死んじゃうらしいが、どんな目なのか確かめられるな、視覚は使えないけど。
「挨拶しよう、トム・マールヴォロ・リドル殿。貴殿は秘密の部屋の利用者として認められた。我は貴殿の命に従うと誓う」
「よかった。そうだ、名前は?」
「バジリスクと呼べばいい。我の同種などおらぬであろうゆえ」
たしかにな。
愉快そうだ。自慢そう?出て来られて嬉しいから?バジリスクと呼ばれるの好きなのかも。
「分かった、バジリスクと呼ぶよ」
私が名付けるとしたら…まず性別はなんだろう?
「バジリスク、君の狩りは、こっそり城のそばの禁じられた森でしてもらおうと思ってる。禁じられた森、で伝わるか?」
バジリスは目を瞑ってるし私は目を開けようかな?この部屋とバジリスクをよく見てみたい。
バジリスクといるかぎり、頓死の可能性は常に高めでしょう…