ロクでなし魔術講師とスタンド使いの暗殺者 作:nightマンサー
非常勤講師、グレン=レーダス先生の授業はお世辞にも良いとは言い難いものだった。
何せ黒板に毎回『自習』と書いて寝ているだけなのだから推して知るべしだ。
そんな授業でシスティが黙っているはずもなく、
幾度となく注意、果てには魔術師の決闘までしたのだけれど結果はご覧の通り変化なしである。
今日は『自習』と書くことすら煩わしく思ったのか、トンカチを使い釘で教科書を黒板に打ち付けていた。
「え〜、今日の授業もこんな感じで」
そう言って頬杖をついて、いつも通り何もしないでいるグレン先生。
「あ、あの、先生…」
そんな彼に近付き質問しようとするリンと呼ばれるリン=ティティスさん。
彼女はグレン先生の最初の授業…システィに鉄拳制裁され渋々教科書を板書したものの際にも質問したのだが、
その質問にグレン先生はあっけらかんに分からんから自分で調べてくれと言い放っていた。
それでもまだ質問しようとするその姿勢は敬意を評するものだと思う。
ただし、目の前のグレン先生はその敬意を受け取ってくれそうにないのが悲しい。
「無駄よリン。その男に聞くことなんか何もないわ。
そいつは魔術の偉大さも崇高さも、何一つ理解してないんだから。私が教えてあげるから一緒に勉強しましょう?」
システィがそう告げてリンを連れて席に戻ろうとするーーー
「魔術ってのは、そんなに偉大で崇高なものかねぇ…」
と、今まで殆ど何も反応しなかったグレン先生が口を開いた。
「何を言うかと思えば…そんな事も分からないの?魔術はね、この世界の真理を追求する学問よ」
グレン先生の言葉を切っ掛けにシスティは水を得た魚の如く、魔術の偉大さと崇高さを熱弁する。
そしてシスティの熱弁が終わった所でーーー
「なんの役に立つんだ?」
そう、一言告げた。
「…え?」
「世界の真理を追求したところで、なんの役に立つんだ?
より高次元の存在に近付く?神にでもなるのか?」
「そ、それは…」
思わぬ質問にシスティは言葉に詰まっていた。
「そもそも魔術は俺達人にどんな恩恵を与えてるんだ?
医術は人を病から救うのに役立ってる。農耕技術や建築術もそうだ。だが魔術は?恩恵が感じられないのは俺だけか?」
その言葉にシスティや私を含め、クラスメイト全員が口を閉ざす。
確かにグレン先生の言う通り、魔術が人へ与える恩恵と言われるとすぐさま答えるのは難しい。
例えばグレン先生とシスティが決闘に用いた魔術『ショック・ボルト』を例に考える。
『ショック・ボルト』は電流を放出し相手を痺れさせる護身用の魔術とされている魔術学院で最初に学ぶ魔術である。
相手を痺れさせ行動を制限すると聞けば、確かに護身用として有能だ。
しかし、そもそも魔術は発動させるために呪文を詠唱しなければならない。
無論それなりの魔術の使い手であれば詠唱をある程度省略したり出来るが、詠唱自体が無くなる訳では無いのだ。
『ショック・ボルト』を発動させようと詠唱している間に何かされれば終わりである。
それに魔術に頼らないのなら、それこそ銃等の道具の方が圧倒的に使い勝手が良いことは明白だった。
「ま、魔術は…人の役に立つとか、そんな次元の低い話じゃないわ…!人と世界の、本当の意味を探し求めるーーー」
「わるかったよ、冗談だ。魔術はすげー役に立ってるさ」
再びシスティが魔術について話そうとした所で、グレン先生の謝罪が割り込む。
だがそれはーーー
「人殺しにな」
「…っ!?」
システィを絶望へ落とす言葉だった。
「いいか?剣術が1人殺す間に、魔術は何十人と殺せる。これ程人殺しに優れた術はないぜ」
「ふ、ふざけないで」
「今も昔も、魔術と人殺しは切っても切れない腐れ縁だ」
「ち、違う…」
「魔術は人を殺すことで発展してきたロクでもない技術だからなぁ」
「魔術は、そんなんじゃ…」
「全くお前らの気が知れねぇよ!こんな人殺し以外何の役にも立たん術を勉強するなんてな!」
「…っ」
「お前もこんなくだらんことに人生費やすならもっとマシなーーー」
瞬間、グレン先生の頬をシスティが平手打ちをし、教室内に乾いた音が響いた。
グレン先生はシスティに何か言おうとしたが、その顔が涙で溢れているのを見て押し黙った。
「大っ嫌いっ!!」
「システィ!」
涙声でグレン先生に言い放ち、私も声をかけたけれど、システィは教室から出ていってしまった。
そうして静寂が教室内を包んだ所で
「…哀れだな」
リゾット君が一言、そう告げた。
◆
「何だと?」
今までの一連の流れを静観していて思った事を告げた所、グレン講師が此方を睨みつけてきた。
「なぁ、それは何に対してだ?何に対して哀れだと思ったんだ?おい!」
「それはお前自身がよくわかってるんじゃあないのか?」
俺に言われてグレン講師は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「そもそも、だ。魔術は手段の1つであり、それ自身に意思は無い。
人殺しも、世界の真理の追求も魔術を使う個々人の捉え方の1つでしかない。
…だというのに、別の捉え方を言われただけで騒ぎ立て過ぎだ。お前も、システィーナもな」
俺がそう言ってやると教室内が更に黙り込んだ。
(…まだ学生の此奴らには理解し難い内容か)
「……くそっ。今日はマジで自習だ」
グレン講師は居ずらくなった為か、教室から出ていった。
それを見てルミアが席を立つ。
「…何処へ行く」
「システィを探しに。リゾット君にも付いてきて欲しいけど、いいかな?」
ルミアがそう提案してくるが、元より俺の任務はルミアの護衛だから離れるつもりは無い。
「…あぁ」
そうして俺とルミアもシスティーナを探しに教室から出た。
◆
ーーー放課後。
グレン講師とシスティーナの衝突後は講師不在の自習で全ての授業が過ぎた。
放課後はフィーベル家まで護衛するだけだが、ルミアが授業の復習するとの事で2人で実験室にきている。
「う〜ん、発動しない…」
魔法陣を作成し終え詠唱をしているが、魔力円環陣が発動する気配がない。
理由は既に分かっているが、ルミアがアドバイス無しと言われたので、黙って見ている。
(足音…教師の見回りにしては早い。ということは…)
結論づけた所で扉が開かれるとそこにはグレン講師が立っていた。
「実験室の個人使用は禁止だぞ」
「あ、先生…すみません、すぐ片付けます」
そうして片付けようとするルミアを、グレン講師は手で制した。
「良いよ、ここまでしてんだ。最後までやっちまえ」
「でも上手くいかなくて…」
「ばぁか、水銀が足りてねぇだけだ。つか、そこに立ってるって事はお前は気付いてただろ」
そう言ってグレン講師は俺が立っている近くの棚から水銀を取り出す。
「助言しないよう言われたからな」
「…まぁいい。っと、良し。もう一度詠唱してみな。教科書通り5節でな?省略すんなよ?」
グレン講師に言われ、ルミアが再び詠唱する。
すると魔力円環陣が淡く光だし、虹色の光が実験室を満たしていく。
「綺麗…」
そこから帰り道でグレン講師とルミアが色々と話をしていたが、
特に興味が湧かなかったため聞き流していたのだが、ルミアの過去の話になった所だ。
「私、3年前にシスティと間違われて悪い魔術師に誘拐されたんです。でもそこで助けてくれた魔術師が居たんです。
私はその人に恩返しがしたくて魔術の勉強をしてるんです。ただ、その人の顔も分からないんですけどね」
そう言うルミアは何故か俺に視線を向けている。
(まさか…いや、今ルミア自身が顔も知らないと言っていた。……気のせいか)
ただ1年一緒にいて分かったことだが、ルミアは目の付け所が鋭い部分がある。
(念には念を入れろ、だ。気をつけるとしよう)
「グレン先生、明日システィに謝ってあげてください。
リゾット君の言う通り捉え方は人それぞれで、グレン先生にも思うことがあったのは分かります。
ただ、システィにとって魔術は亡くなられたお爺様との絆を感じていられる…大切な物なんです」
その言葉を最後にグレン講師と別れた。
◆
ーーー次の日の朝。
教室ではグレン先生がシスティに向けて頭を下げていた。
昨日の今日だから、流石のシスティも驚いてるみたい。
「あ〜、その、昨日はすまんかった。俺は魔術が大っ嫌いだが、流石に言い過ぎたっつうか…まぁ、すまんかった」
そう言ってグレン先生は教壇に戻りながら、それじゃあ授業を始めると告げる。
「あ〜、ただ本格的に授業を始める前にお前らに言っておきたい事がある」
そうして始まったグレン先生の授業はーーー
「お前らって本当バカだよな」
私達への罵倒から始まりました。
「「「「「「はぁ!?!?」」」」」」
これにはリゾット君を除いたクラスメイト全員が抗議の声を上げる。
「授業態度見ててよくわかったよ。お前ら魔術のこと何にも分かってねぇんだなって」
「お前が言うな!」
「『ショック・ボルト』程度の1節詠唱も出来ない奴に言われたくないね」
グレン先生の言葉にクラスメイトから次々と非難の声があがる。
「正直それを言われると耳が痛い。俺には魔力操作の感覚と略式詠唱のセンスが皆無でね。
…だがな、今『ショック・ボルト』程度って言ったか?ならやっぱりお前らバカだわ。
丁度いいし、今日は『ショック・ボルト』について授業してやる」
そう言ってグレン先生は黒板に『ショック・ボルト』の詠唱を書き出した。
「これが『ショック・ボルト』の基本詠唱《雷精よ・紫電の衝撃以って・打ち倒せ》だ。
魔力を操るセンスに長けた奴なら、《雷精の紫電よ》の1節で発動可能だ」
「ふん、『ショック・ボルト』なんてとっくに極めましたわ」
得意気に言ったウェンディに続いて他のクラスメイトも同意する。
「ほほう、なら問題だ」
そう言ってグレン先生は『ショック・ボルト』の3節詠唱の真ん中に線を書き足した。
「《雷精よ・紫電の・衝撃以って・打ち倒せ》。こうして4節にすると何が起こる?」
グレン先生が聞くけど、私を含め皆黙ってしまった。
「そんなものまともに発動しませんよ。何らかの形で失敗します」
「んな事はわかってんだよ。完成された詠唱をわざと崩してるんだから当たり前だろ?
俺はその失敗がどういう形で現れるかを聞いてるんだよ」
「そんなもの、ランダムに決まってますわ!」
「ランダムぅ?お前極めたんじゃなかったのか?」
グレン先生の言葉に打ち負かされ、誰も答えることが出来ない。
「なんだ?全滅か?……仕方ないな、答えはーーー」
「右に曲がる」
グレン先生が答えを言う直前、リゾット君が一言、そう答えた。
その事に皆が唖然としているとグレン先生はニヤリと、したり顔を浮かべた。
「なんだ、やっぱりお前はわかってたんじゃあねぇか」
そうして再び黒板に書いてある詠唱に手を加える。
「じゃあ、こうやって更に区切って5節にするとどうなる?」
「射程距離の減少」
「詠唱の一部を消すと?」
「大幅なパワーダウン」
「全問正解だ」
リゾット君とグレン先生のやり取りの意味が分からず置いていかれる私達。
まるで2人には何か目には見えない
「ま、極めたって言うならコイツ位には出来ないとな」
そう言ってグレン先生は改めて私達と向かい合う。
「魔術ってのはつまりは超高度な自己暗示だ。言葉にそんな力があるのかって顔してるが、例えば…」
そう言ってグレン先生はシスティの前まで来ると大胆な告白を言葉にした。
それを聞いてシスティは顔を真っ赤にする。
「はい皆さん注目っ!白猫の顔が真っ赤になりましたね?見事言葉如きが意識に影響を与えた証拠です」
グレン先生はそう言うと何事も無かったかのように教壇に戻る。
これにはシスティも怒ったようで教科書を投擲、見事グレン先生の後頭部にヒットした。
「あいたた…ま、まぁつまりはこういう事だ。言葉で世界に影響を与える。要は連想ゲームだな。
これを理解すればある程度の呪文改変も出来るようになる。例えば…《まぁ・とにかく・痺れろ》」
グレン先生の言葉で『ショック・ボルト』が発動したのを見て、皆更に驚愕する。
「とまぁ、今からこのド基礎を教えてやる。興味無い奴は寝てな」
その言葉を皮切りに始まったグレン先生の授業は、
リゾット君が本を読まずに授業を聞いている事からも、如何に実りあるものかを物語っていた。