保健室のきゅうり   作:へびのあし

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✳︎物語のまえの後日譚:はんにゃーはーらーみったー

午後の保健室。

机に向かう、水色の羽織を着た涼しげな人影があった。

突然ガラガラッとドアが開いた音が鳴って、彼は目を上げた。

 

「きゅうり先生ー!急患です!」

「ぼくはリカバリー爺だよ…まあいいや。どうした上鳴雷香さん?腕の中で誰か血だらけで気絶してるけど…いったい全体どんな授業したらそうなるのかなぁ」

 

雪のような白髪に、絡みつくように生えている緑色のつる植物。

その葉っぱを流れるような手つきで一枚ちぎり取りながら、さっと立ち上がって、その人物…雨森修はため息をついた。

 

二十代にして、最高峰のヒーロー育成エリート高校の看護教諭を任されるという、新進気鋭の若手実力派ヒーロー。

礼儀正しく、ミステリアスでもあり、そしてちょっぴり抜けているようでもある雨森修。彼はメディアでも人気のヒーローだった。

 

最も、雨森修の世代は特別だったとも言える。

ヴィランたちに何度も襲撃されるなどという、波乱に満ちた高校時代。おまけに同じ年代に優秀な若者が集約していた上に、それを目立たせる機会もたくさん…と、ありとあらゆる偶然の一致が重なった。彼のクラスメイトの多くが、名の知られたヒーローとして活躍している。

年月は進み、今はその子供たちが、雄英高校へ入学してきている。

 

 

——と、ここで。

保健室にいた、もうひとりの少女が奥の方から顔を出した。

 

「———先生お手伝いしましょうか?…あれ!雷香ちゃんがいる?!どうしたの怪我したの?」

 

「違うよ!私は轟を運んできただけだから!」

慌ててわちゃわちゃ首を振る上鳴雷香。その腕の中でぐったりしている男子生徒を見て、その少女——緑谷豆子は、さらにびっくりして目を見開いた。

 

「…え、轟くんが怪我? 珍しいね!」

 

大変血まみれ!と慌てたようにパタパタ走っていって、引き出しから布を出してきたり、たらいに水を汲んだりし始める。ちいさな若い看護師さんかと勘違いしてしまいそうだが、豆子はれっきとした生徒だ。

ただし、彼女は授業に出ることができない。わかりやすく言えば不登校、もっと正確には、保健室登校を毎日くりかえす生徒。しかしその事実を、明るい春の麗のような、彼女のあたたかい表情から見抜ける人はなかなかいない。

 

誰かが保健室を訪ねれば、ごく普通におしゃべりするし、当たり前のように世話も焼いていく。

またカーテンの向こうでのんびりしてるかと思いきや、自主トレや宿題で結構忙しくしている。

今回もいつもの例に漏れず、格闘していたはずの勉強を放っぽりだして働き出した。

 

「ありがとう」

 

雨森修はそんな豆子に一声掛けてから、怪我人に向き直る。

 

「うわあ。吐血してるってことは、内臓にダメージいってるかな」

「あばらと右側の脚・腕・肩が全部砕けたっぽいですよ。演習場の倒壊ゾーンで爆豪友輝のバカが個性ぶっ放して、ビルが丸々ドッシャーン!ってなわけで」

「…ありがとう。逆に被害者が轟くんだけで済んでよかったよ、うん」

「そりゃまあ、轟が氷のグライダーみたいなのつくってみんな逃してくれたので」

「あ…なるほどね」

 

うんうんと話を聞きながら、雨森修は怪我の様子を確認していく。

大体把握しきったところで、雨森修はどこからか粉末の入ったパックを取り出した。さっき髪の毛の間からちぎった緑色の葉っぱでそれをくるみ、こじ開けた怪我人の口の中へつっこむ。

そうしておいて、両手を組み合わせて集中するように目を閉じる。ふうっと息を吹きかけると、だんだんと彼の個性が発動し始めた。

 

 

「……すごい」

「そりゃあ、雷香ちゃん。きゅうり先生だもん」

 

個性『治癒』。

体内にもともとあった、または直前に体外から取り入れた栄養素を操り、傷を修復してしまう。

できることも多いが、制約も多い。

恐ろしく膨大な人体構造の知識が必要なのだ。誰にでも扱える個性とは言い難く、現状彼でなければこの個性は扱えないと言える。

 

 

「あ……きゅうり先生?」

「リカバリー爺だよ轟くん。」

 

目を明けた(とどろき)創次(そうじ)に向けてお決まりのセリフを口にしてから、雨森修は安心したように立ち上がる。

水色の羽織の下で、帯で結ばれた白衣のコスチュームが、窓からさしこむ太陽の光に反射して輝いた。優しい白髪が揺れて、木漏れ日のような影を作った。

 

「うん、問題はなさそうだね。治療は終わったけど、今日は治癒が馴染むまで安静にしておこうか。」

「…はい。」

 

ベッドで大人しく頷く轟創次に、豆子と雷香が代わる代わる声をかける。

 

「よかったねえ治って」

「本当だよ、爆豪には後で目にもの見せてやる!」

 

えい!と天井に拳を突き上げた上鳴雷香。創次の顔にこびりついていた血などを拭い取りながら、雨森修が苦笑しながら言う。

 

「…その必要はないと思うよ上鳴さん。多分爆豪くん、今晩お父さんにコッテリ搾られると思うから。」

 

「ああー確かに」

「そうだわ、爆豪先生にバレりゃあ一発で終わるね…よし、今のうちにアイツの為にお経あげとこう。」

「私知ってるよ!はんにゃーはーらーみったー、ってやつ。」

「ああ般若心経ね。それ有名だから私も知ってる、観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時———」

 

一気にお経が響きわたる異様な空間となってしまった部屋の中で、雨森修は静かに笑みを浮かべる。

 

そうだ。

僕たちの学生時代も、こんなふうに賑やかだった。

 

みんなそれぞれに過去(オリジン)を背負って。

全力で輝きながら生きていた。

 

 

みんなそれぞれ支えあって、助けられて。

 

 

 

「…上鳴さん? そろそろ次の授業が始まるんじゃないかな?」

「ああ、本当だ!それじゃあ失礼しまーす。豆子ちゃんもまたね!」

「またねー」

 

 

ガラガラッとドアが開け放たれて、風のように去っていく。

のんびりと雨森修が管轄する、午後の保健室。

ふわりと暖かな初夏の匂いが香った。

 

 




主人公:雨森修、雄英高校の養護教諭。細かい設定はまた後ほど載せる予定です。

原作の設定は緩ーく守っていきます。
あくまで二次創作なので、少し変わっていても「それが二次の醍醐味だな〜」くらいの軽い気持ちで読んで下さい。
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