保健室のきゅうり   作:へびのあし

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投稿ミスで、こちらの話が抜けていました。大変申し訳ありません。
4/30に差し込みました。


5、戦闘訓練

 

翌日の午後。

ヒーロー基礎学の授業を楽しみに待っていると、突然バターンとドアが開放された。

 

「わーたーしーがー!普通にドアから来た!!」

 

「すげぇや、オールマイトだ!」

「銀時代のコスチュームだ…!画風違いすぎて鳥肌が…」

「いえーい、待ってましたー!」

 

みんなが一斉に拍手する。

高らかに笑うオールマイトへ拍手を送りながら、僕は彼とのはじめての出会いを思い出していた。

 

 

実は僕は公安で暮らし始めてすぐの頃、彼の治療に呼ばれたことがあるのだ。

 

警察の塚内さんが、会わせてくれると約束したオールマイト。

彼が救急搬送されてきた時は、ものすごくびっくりした。

思い描いていたのとは全然違う出会いだったけれど、一応実現したわけだ。

 

僕は医者の卵としてそれはもう張り切った。

まだ傷が乾いていないならば、失った臓器をも完全に元通りに復元できるのが僕の個性。

 

…けれども、その頃の僕はまだまだ未熟で。重傷者を治療するには、あまりにも勉強や経験が足りていなかった。肺胞に、胃袋。その他諸々。本来なら治る可能性があったいくつかの器官を、オールマイトは永遠に失ってしまった。もう、今から治すことは出来ない。

今から新しい内臓をつくってあげてもいいけれど、僕がつきっきりで十分ごとに個性を上書きする必要がある。もちろん現実的に不可能だ。

 

ごめんなさい、と。

泣きながら謝った十歳の僕に、彼は病院のベッドの上で優しく笑った。

『大丈夫さ!なーぜーなーらー、わたしはオールマイトだからだ!』

世界のNo. 1 ヒーローであり、平和の象徴。

 

彼の眩しさは、頭に焼き付いていつまでも鮮やかに蘇る。

病人服で痩せこけていたヒーローは、それを隠してその後もテレビに出続けた。衰え知らずの筋肉パワー、威容と笑顔でヴィランを圧倒するNo.1として。

 

 

しかしその舞台裏を僕は知っている。

知っているからこそ、眩しく見える。

 

教師として新たな一歩を踏み出す彼の姿が、圧倒的な憧れを生む。

 

 

「「早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!」

 

"BATTLE"と書かれたプレートを掲げながら、オールマイトが力強く宣言した。

 

「そしてそいつに伴って…こちら!」

 

オールマイトがロッカーを指し示す。中にはみんなが入学前に提出した"個性届け"と要望に従って作られたコスチュームが入っていた。

 

「うおおおお! コスチューム!」

 

「着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!」というオールマイトの掛け声に、みんなが一勢にこぶしを突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨森くん、それって羽織?」

「そうだよ緑谷くん。いざって時に十二支元気薬なんかがすぐ出てこないと困るから」

 

チラリと水色の羽織を捲って見せると、裏地のポケットにぎっしり並んだ薬のパックや包帯、さらには外科用のメスや針、糸などの医療道具。ギョッと緑谷くんが引いていた。

いいアイディアだと思ったんだけどな。羽織って昔風なお医者さんっぽくて、かっこいいし。

ちなみに羽織の下は白衣をイメージしたゆったりコスチューム。羽織との調和を考えて、真ん中を帯で留めるワンピースみたいな仕様だ。

 

「あっ!デクくん?」

「わー修くんもいるー」

 

麗日さんや彩ちゃんが寄ってきて、僕たちの周囲が一気に明るく華やいだ。二人ともなかなかかわいい。彩ちゃんは当然のようにベレー帽をかぶっていて、絵の具箱のパレットみたいな柄のワンピース。麗日さんもピンクのスーツがよく似合っている。

 

「よし!これからヒーロー組とヴィラン組に分かれて、二対二の実戦訓練を行なってもらう!」

 

オールマイトが訓練の要項を説明していく。

まずは想定状況の確認。それはこうだ。

 

五階建てのビルに、ヴィランが核を持って立てこもった。五分間の準備時間の後、ヒーローが侵入。ヴィランチームは、彼らを捕縛するか、十五分間核を守りきれば勝利。

同じく二人組のヒーローは、十五分以内にヴィランを捕縛するか、核に触れれば勝利。

両チームともに捕縛用の確保テープが配られて、それを巻きつければ行動不能にできる。

 

 

「よーし!チームはくじ引きで決める!」

 

ジャジャーン!!とくじの箱を掲げるオールマイト。

 

僕は、葡萄みたいな頭が個性的な峰田くんと当たった。彩ちゃんは…?と見ると、ピンクのムードメーカーっぽい女の子とにこやかにヨロシクの挨拶をしてる。緑谷くんは麗日さんとコンビになれたようで、嬉しそうだ。

 

 

あっという間に訓練がスタート。

緑谷くんと麗日さん、爆豪くんと飯田くんの対戦は、かなり激しい展開となった。屋内でバンバン爆発を繰り出す爆轟くん。それを迎え撃つように緑谷くんが個性を全力でぶっ放したタイミングで、思わず「あーぁ」とため息が漏れた。

腕全部治すとなると、かなり大変なのだ。一瞬で治癒できるリカバリーガールに頼るしかないだろう。何せ僕だって授業を受けてる最中なのだ。

 

 

「第二回戦は…Bコンビ対Iコンビ!」

 

そう。

次が出番、なんてことに…今まさになった。

緑谷くん、ごめん。治してる暇はない。

 

「じゃあ峰田くん、よろしく」

「うぅ〜!(なんでオイラが男と組まなきゃなんねえんだヨォ〜!)」

 

葡萄みたいでかわいい峰田くん。なぜか唇を噛み締めて涙目になっている彼と一緒にビルへ入った。僕たちがヴィランで、ヒーロー役は轟くんと障子くんだ。

頭を切り替えて集中モードに入る。さて、どうやってヒーローチームに勝てばいいのだろう。

 

「峰田くん?反復横跳びのときなんだけど。頭の葡萄、確かグラウンドにくっついてたよね…でも粘着系にしては、ぶつかった時ブヨブヨ跳ねてた。理由とか、もし秘密じゃなかったら教えてくれる?」

 

峰田くんは「ああ、それすっげえ単純」と説明してくれた。

 

「オイラの個性は『もぎもぎ』。何にでも超くっつくけど、オイラ自身が触れるとブヨブヨ跳ねる」

「なるほど…。どのくらいで新しいのが生えてくるとかある?」

「もぎったそばから出てくるけど、あんまりもぎりすぎると血が出るんだ」

 

うーん。思わず唸った。

かなりすごい個性だ。

 

”ヴィランを殺す“ ではなく“捕らえる” を目的とするヒーローにとって、ものすごく理想的な才能。

これは羨ましがられるだろうなぁ…と思いながら、僕は峰田くんの目をまっすぐ見つめた。

 

「…峰田くん、ちょっと力を貸してくれる?」

 

ちょっと、罠をはってみようか。

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

「それでは!屋内対人戦闘訓練第2戦、スタァート!!」

 

オールマイトの掛け声で訓練が始まる。

モニタールームでは、微妙な空気が漂っていた。

 

「なんか…準備してる…けど」

「真面目にヴィランやってるって感じだ。けど……」

 

「「「あれどうやって片付けるつもりなんだ…!?」」」

 

五階建てのビル内。

そこには、修の真っ白な髪の毛の束が張り巡らされていた。

“もぎもぎ”を使って壁や天井にぴんと張った毛に、さらにカーテンのように被せて垂らしている。

 

あちらこちらに紛らわせるようにもぎもぎがあって、髪の毛を掻き分けるうちに誤って触れれば、くっついて取れなくなる凶悪な仕掛けつきだ。

 

「———いや、さっきのグループは建物破壊してるし」

「そうね。それに比べれば全然ましだわ、ケロ」

 

耳がイヤホンの耳郎響香が冷静なツッコミを入れる。蛙吹梅雨がそれに頷いた。

その他のクラスメイトも、それぞれ勝手に胸の内を喋る。

 

「それにしても、雨森の個性って髪の毛だったか?」

「身体能力の向上だと思ってたけど…」

「よくわかんないわね。…相手の轟さんは氷の広範囲威力攻撃だから、あんまり相性はよくないかも」

 

修は個性把握テストで全然目立っていない。

緑谷出久の指を治したときも、みんなに気づかれないようさっと終わらせていたので、いまだ修の正確な個性を掴んでいる者はいなかった。

モニター越しに白髪がどんどん伸びていくのを見ながら、みな開いた口が塞がっていなかった。

 

 

 

ところで、侵入に成功したヒーローチーム。

 

「…五階の北側の広間に1人、核のそばにいる。三階にもう一人…こっちは小柄だな。」

「わかった。危ねえからお前は外へ出てろ」

 

”複製腕“ の個性で耳をつくり、並外れた聴覚でビル全体の構造を把握したのは、障子目蔵。

 

雨森チームが張り巡らした髪の毛のすだれは、彼の前であっさり目くらましの効用を失った。

そしてダメ押しとばかりの轟焦凍。

 

「近接戦を嫌っての妨害工作…。時間稼ぎのつもりだろうが、俺には関係ない」

 

焦凍がつぶやきながら踏み出した右足から、凄まじいスピードで青白く氷が張ってゆく。みるみる五階建てのビルが凍りついた。と同時に彼が虚空へかざした右手から、一息に大量の氷が放出。風圧で煽りめくれた修の髪の毛の群れが、通り道をあけた格好で氷漬けになった。

 

 

 

 

 

 

 

「いたっ…」

「ブルブルブルブル!!寒い〜うぅっ」

 

雨森&峰田、僕らヴィランチームは、足が氷漬けにされて動けなくなっていた。

もぎもぎで奇襲を仕掛けようと隠れていた峰田くんも、あべこべに自分が髪の毛へくっついてしまったようだ。僕の無線からはすすり泣く声しか聞こえてこず、多分応援は期待できない。

 

そうこうしているうちに、ドアの向こうへ影がさす。

核を守る僕のもとへ、轟くんが現れた。

 

正直言って、ここまで不利な状況に陥るのは想定外だ。もう少し時間を稼げると思ってた。

胸の内で焦る僕と、轟くんの目が合った。

 

じっとりと冷や汗が伝う…ちなみにそんな僕の髪の毛は、肩のあたりでざっくり一直線に揺れている。さっき切ったばかりだから仕方ない。

もはや威厳なんて気にしている場合じゃないけれど、轟くんの微妙に前髪に隠れている眼なんか見ると、格好から負けているような気がした。僕のは薄い白髪と緑色のきゅうり葉の蔓。…轟くんは左右で紅白に分かれた髪の毛で、絶妙に爽やかなショート。…だめだ、比較しちゃいけない。こんなんでは気持ちで押し負ける。

 

すうっと深呼吸して目の前の状況に集中する。

 

轟くんが何の気負いもなく近づいてくる。

まっすぐに歩みを進める余裕。俯き気味の不敵な笑みがこちらに重いプレッシャーをかける。

 

なんて慣れてるんだ、と僕は内心舌を巻いた。

こういう凄み方——相手をオーラで圧倒する方法が、まるで技術として確立されている。

実戦慣れどころの話じゃない。一体どういう訓練をしたらこうなるんだ。

 

 

「…核は渡さないよ」

 

僕はまっすぐに轟くんの目を見つめて言う。

羽織の袖に隠し持っていた確保テープを取り出して、ぎゅっと握った拳を前へだした。僕のこれは、悪あがきにしか見えないかもしれない。

 

「別に動いてもいいが」

 

轟くんは、フゥッと白い息を吐きながら静かに言う。

その目に一片の力みも緊張もない。

 

 

「足の皮剥がれちゃ満足に戦えねえぞ?」

 

「…そうだね」

 

素直にうなずく。

——刹那、いきなり地面を蹴って跳び上がった。履いていた靴は置き去り。ビッと皮膚の裂ける感触とともに、紅い血が飛び散った。およそ人には不可能な速さのジャンプ。一瞬の間、轟くんの視界から僕が外れる。

 

「なっ…!!」

 

水色の羽織を翻し、中から銀色のメスを掴み出す。

刃がこちらを向くように注意しながら、流れるようなモーションでそれを放つ。当たっても怪我はしない。あくまでこれは牽制。

 

当然のように轟くんが避ける。けれども、わざわざそれを確認したりしない。

本命攻撃は次だから。

 

僕はきゅうり型の小型ピストル(ヒーローの武器のデザインは、できるだけコミカルに作るべしという暗黙のルールがあるようで、制作会社の担当者に無理やり押し切られた)を抜いて、轟くんに向けた。

 

轟くんの、驚愕と冷静さが入り混じった表情と目が合う。

一秒の十分の一の時間で、勝負が決まる戦い。

 

轟くんが氷の盾をつくればそこで終わり。

僕が間に合えば、しかし僕の勝ち。

きゅうり葉の粉末がこめられた弾丸は、当たった時点で僕の個性の発動条件を満たす。

もちろん本物の銃だから怪我させちゃうけれど、当たった瞬間に治療すれば痛みは一瞬。

 

パシュッ

 

「…な?!」

引き金を引いた——けれど、およそ銃器の音とは思えない奇妙な音が僕のきゅうり銃から鳴り響いた。

が、何が起こったか考える間もない。一瞬で、僕の視界が、青白い雪の色に塗りかわる。

避ける場所なんてどこにもありはしない。大質量の氷の塊が押し寄せてきた。

 

「…うぐっ」

 

一息つく暇もなくガンッ、と背中を殴られたような衝撃。

壁に叩きつけられた、と僕が理解した時には、もう全身どこも動かせなくなっていた。

手首と足首、しっかり氷漬けで壁に宙吊りみたいにはりつけられている。きゅうり銃は…と慌てて右手を見ると、なんと弾が出かかった状態で凍っていた。あり得ない状態だ。

……もしや部屋の気温の変動が激しすぎて銃器の調子が狂った?

信じたくないけど。…そうとしか考えられない。

 

僕が唇を噛み締めている間に、轟くんが核兵器へタッチする。ヒーローチームの勝利条件クリアだ。

 

「ヒーローチーム!WIN!!」

 

放送でオールマイトのアナウンスが響き渡った。

完敗だ。

悔しいけど、多分きゅうり銃が不具合起こさなくても、氷の防御は間に合っていたと思う。僕らの負け。やっぱりヒーローの世界って、甘くない。

 

はあぁとため息をつきたい気持ちで天井を眺めていると、轟くんがかけよってきた。

 

「…今すぐ溶かす。大丈夫か?」

 

走りながら、左手をこっちの壁へ向けてかざしている。

僕は冷凍されたてるてる坊主みたいな格好のまま、顔だけ轟くんへ向けて返事した。

 

「うん。ちょっと寒いけど結構元気だよー」

 

ジュウゥゥ、とお湯が沸くような音がして、壁が急にやけどしそうに熱くなった。僕の体を繋ぎ止めていた氷が一瞬で溶けて、僕はストンと地面へ落下する。轟くんが受け止めて衝撃を和らげてくれた。

 

「すまん、やりすぎた。凍傷起こしてたら言ってくれ。俺が保健室へ連れて行く」

 

少し焦ったような表情の轟くん。

こんなに心配されると、当然のようにクラスメイトへ発砲しようとしていた僕の立つ瀬がなくなってしまう。

若干冷や汗をかきながら、僕は慌てて手を振った。

 

「大丈夫。僕は自分で治せるから…ほら」

 

無理に氷を剥がしたせいで、真っ紅に血で染まって肉が見えていた足の裏が、あっという間にもとに戻る。

轟くんが唖然と口を開いた。

 

 

「やけに思い切りがいい奴だと思ったら……」

「そうそう、びっくりさせたくて」

 

言いながら、僕は悪戯っぽく笑った。

 

 

 

 

心配ない。まずは一歩。

お医者様になるため、ヒーローになる。

 

ただの夢物語だったそれは、今雄英高校で現実に向かって進んでいこうとしている。

どんなにいばらの道を歩むことになったとしても。全部投げ出して蹲りたくなったとしても。

 

僕の目標は決まってる。

一歩ずつでいい。

夢に向かって、今できる努力をしていこう。

 

 




彩ちゃんは芦戸三奈(個性『酸』のピンクな女の子)とヒーローチームになりました。対するヴィランチームは八百万ももと青山優雅。
百ちゃんが張った結界を三奈ちゃんが溶かして、青山くんを彩ちゃんの描いた超精密なお花畑の絵で舞い上がらせ隙をつくりと、核こそ奪えなかったもののけっこう善戦しました。

〜以上、本文に入らなかったおまけです。
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