保健室のきゅうり 作:へびのあし
学級委員長を決めたり。学食を満喫してクックヒーロー『ランチラッシュ』と仲良くなったり。
はたまた、祖母のリカバリーガールへ菓子折り片手に挨拶に行ったら、窒息必須の物凄い勢いで抱きつかれたり。
毎日出される課題に悲鳴をあげながらも、なんだかんだ雄英生活にも慣れてきた。
—————雄英高校史に残る襲撃事件が起こったのは、そんな春のことだった。
♦︎
だんだん授業の複雑さも増してきたあたりで、今日はバスで遠出だ。災害救助訓練のため特別な演習施設を使用するとかなんとか。
とは言っても学校の敷地内。校内をバスで移動する、というあたり雄英の広さには毎度驚かされる。
僕たちは今、スペースヒーローの13号先生を目の前にしていた。今日の授業の担当教授だ。災害救助のまさに第一人者、紳士的な大人気ヒーロー。テレビでもお馴染み、宇宙ロボットのコスチュームにみんなのテンションが上がった。
「皆さん待ってましたよ。」
「わ〜! 私好きなの13号!」
「すっげぇ! USJかよ!」
広大な演習場に招き入れられる。その名も、『
水難事故、土砂災害、火災、暴風などなど。あらゆる事故を想定して作られたドーム型の演習場で、人命救助の方法を学ぶ。
個性とは、とても強力な力にほかならない。使い方を一歩間違えば人を殺してしまう。力をもつからこそ、僕らは注意せねばならない。
なんのためにその力を使うのか。何が出来るのか。
13号先生は、演習前の説明の締めに、手を広げて宣言した。
「君達の力は傷付ける為にあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰って下さいな」
13号先生の言葉に、みんながブラボー!と拍手喝采した。
拍手が鳴り止む頃合いを見計らって、相澤先生がこちらへ歩いてきた。
「そんじゃあまずは…」
…と。
広場の照明が不自然に瞬いた。突然、はるか遠くの噴水に黒い霧のようなものが現れ、蠢きながらどんどん広がってゆく。あれ?とみんなが戸惑うなか、その霧の中から大量の人が現れだした。
瞬間、相澤先生の目つきが変わる。
…状況が全くわからない。ざわざわ騒ぎ始める生徒たちに向かい、相澤先生が即座に指示を出し始めた。
「ひとかたまりになって動くな!13号、生徒を守れ!…それと花冠、根津校長の言ったこと覚えてるか」
「…おーけーです!」
相澤先生の素早い指示に、ただ一人ついていけてる生徒は彩ちゃんだった。普段抜けている彩ちゃんが警戒体制に入っているのを見て、みんなはさらに戸惑う。
「なんじゃアリャ、…もしや、入試んときみたいなもう始まってんぞーの仮想敵パターン?!」
「違う!これは訓練じゃない!正真正銘本物のヴィランだ!!」
相澤先生の言葉に、みんながはっと顔色を変えた。
あらためて噴水の方角を見ると、黒霧から続々とヴィランが姿を表している。すでに広場中へと増えている敵がこちらへ歩みを進める、異様な空気。
声を失っていると、トットッと彩ちゃんがそばに寄ってきた。
「修くん、これもっててね」
「…?」
差し出されたのは、彩ちゃんの髪の毛を編んだ紐。
彩ちゃんが握っている持ち手の部分から、少し離れた部分を促されるままに掴んだ。
「なにかあったら、わたしの個性で隠すことになってるんだ。」
彩ちゃんが言う。
僕も動いた。
緊急事態にやることは、まず安全の確保。羽織の裏から、十二支元気薬のストックを掴めるだけ抜き取った。
頭から千切ったきゅうり葉と一緒に、クラスメイトへ配る。
「これ、怪我したら食べて。…そう、葉隠さんにも誰かわたしてくれる?あと先生にも」
「おう」
「ありがとう雨森くん」
僕からきゅうり葉を受け取った相澤先生が、僕たちへ手短に避難の号令をかける。
「13号、避難誘導開始だ。とりあえず学校へ電話試せ。…だがセンサー対策も頭にあるヴィランだ。電波系の個性で妨害されてる可能性がある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」
「うっす」
全ての指示を終えると、相澤先生は首へ巻いてある捕縛布を掴み、ゴーグルを取り出してはめる。
明らかな戦闘準備。
緊張が走る。そんな中で、緑谷くんが慌てたように叫んだ。
「先生は!まさか一人で応戦するつもりですか!…イレイザーヘッドの戦闘スタイルはあくまで一対一の奇襲で、個性を抹消してからの捕縛…!大勢が相手では……」
「…緑谷」
相澤先生が、落ち着き払った声で緑谷くんを遮った。その表情は、まったくいつもの相澤先生。気だるくて、だらしなくて、それなのに威厳があって。何故だか頼りにしてしまう、抹消ヒーロー・イレイザーヘッド。
「よく見ておけ。一芸だけじゃヒーローは務まらん」
任せた13号、そう言い残し、先生はその場を風のように飛び出していった。階段を上段から飛び降り、ヴィランの真っ只中へと突っ込んでいく。あっという間に、雑魚ヴィランが纏めて吹っ飛んでいた。
圧倒的な力の差。まさに先生の独壇場。
次々に個性を消しながら、捕縛布を駆使した体術で敵を次々と行動不能にし、異形型も関係なく投げ飛ばしていく相澤先生。加えてゴーグルで目元を隠しているため、いつ誰が個性を消されているか分からず、敵の連携が遅れをとる。
「凄い…多対一こそが先生の得意分野だったんだ…」
「緑谷!分析している場合じゃない!早く避難を!」
飯田くんが緑谷くんの避難を促す声が聞こえる。
13号先生の後に続いて、皆で演習場の出口へと向かった———
———が。
「させませんよ」
黒い霧が行手を塞ぐ。目だけが金色に光る、得体のしれない霧型のヴィランがゆらりとその中から現れた。
「初めまして、我々はヴィラン連合。僭越ながら…この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして」
ゆらゆら黒い霧を揺らめかせながら丁寧に話すヴィランが、ふと、金色の目を細めた。
「……おや?そこに雨森の御坊ちゃまがいらっしゃいますね?」
ぎくりと、僕の肩が跳ねる。
名前を知られている生徒がいると分かって、クラスメイトの緊張感が増した。
しかし黒霧のヴィランは少し肩をすくめただけで言葉を続ける。
「まぁ…
慇懃な態度が逆に不気味なヴィランだ。
危険だと、誰もが本能で理解する。コイツに攻撃をさせてはならない。
13号先生が応戦しようとしたその時、不意に爆豪と切島が前へ飛び出した。先制攻撃だ。爆豪の個性によってドカーン!と爆発音が響き、もうもうと煙が立ち込める。
「その役目とやら果たす前に、俺達にやられる事は考えなかったか!?」
雄英高校ヒーロー科へ攻め込むとは初手から馬鹿なヴィランだと、切島が得意げに腕を構える。その時。
「危ない危ない………そう…生徒と言えど優秀な金の卵」
砕け散ったはずの黒い霧はゆうゆうと一箇所へ集まり、再び人型をとった。
「ダメだ!退きなさい二人とも!」
13号先生が叫ぶも、もう遅い。
「つまり。わたしの役目は…貴方たちを散らし、なぶり殺す!」
瞬間、みんなの視界が一気に広がった黒霧に覆われた。
♦︎
浮遊感。
果ての見えない宙をもがいていると、突然目の前の黒い霧が晴れた。
「おっと!」
僕の目と鼻の先に地面が迫っていて、危うく受け身をとる。
瞬間、ヒュオッと風を切るような音を耳が拾う。すぐに跳ね起きると、ちょうど僕の頭があった場所へ槍が撃ち込まれた。驚いて振り向くと、武装したヴィランたちが僕の方を見てニヤニヤ笑っていた。
「…うわあ…殺す気満々」
思わず呟くと、ライオンみたいな輩やら身体中鋼鉄の輩やら、悪そうな派手メイクで飾ったヴィランたちがワッハッハーと下卑た笑い声をたてた。
「ったりめえよ!怖気付いたか!」
(悪いけど…あんまり怖くない。)
———けど、彩ちゃんの守りが断たれたのがなぁ…
僕は、10cmくらい残して完全に切り離されてしまった彩ちゃんの紐を一瞥する。
それを羽織の中へしまうと、代わりに手近な武器として、手術用のはさみを取り出した。…大勢が相手だと照準を合わせる時間がないから、残念ながら今現在、きゅうり銃は使えない。
ナイフやら振り下ろされた剣やら。早速とばかり次から次へ振ってくる攻撃を、カツーンカツーンと手術用のはさみでどんどん弾いていく。相手は喧嘩慣れはしてそうだけど、あんまり強くないし、覇気もそこそこ。ちょっと気をつければ別にどうってことない、ただのチンピラだ。
むしろ、なんで『なぶり殺す』とか言えたんだ。あの黒霧のヴィラン…逆に不気味だ。隠し玉とか…ないよね?
「文房具で戦えるって知らなかった…もしかして僕の個性、使うまでもないかな」
僕はチラチラとはさみを振って、照明に煌めかせる。
一人ずつかかってくるヴィランの相手をしながら、ニコニコと笑って煽った。
そもそも単独で相手をしてるところから、頭が悪い。というよりも、おそらく信頼関係がゼロで、互いに連携が出来ないのだろう。
煽って激昂させる作戦は大成功で、ヴィランたちは手に手に武器を振りかざしながら一斉に吠えた。…視線は僕に釘付け。
よし、と心の中で頷く僕。
ヴィランたちが僕に向かって見事な団結力でかかってくる。…その結束を、最初から見せてくれれば僕は苦労したかもしれないのになぁ、と少し残念に思う。
「餓鬼が!その憎面真っ二つにぶった斬ってやる!!」
「大人を舐めると痛い目見るってこと、分からせてやろうじゃねえか!!」
「…もっと視野を広くして戦った方がいいですよー」
「なんだと餓鬼!さっきから一々舐め腐りやがって!……ウゴオッ!?」
「ギャア!痛え!!」
「なっコイツは?!」
「…ここは馬鹿と阿呆の集合パーティーか? 感情的になることしか知らないとは、全く呆れる」
一瞬で、ヴィランたちが青白い氷に覆われた。
部屋全体が、クリスタルの輝きに照らされる。美しい光景……だが、同時に阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される。
皮膚に張り付いて痛いし零度以下の寒さで震えが止まらないしで、ヴィランたちが悲鳴をあげた。
”無双“ ってこういう時に使うんだなぁ、と僕は感心しながら、氷漬けになったヴィランたちの背後に佇んでいるクラスメイト、轟くんに向かって手を振った。氷のイメージを基調としたコスチューム。クラス最強の名を名実ともにものにする、『半冷半燃』の二重個性持ちだ。
「ありがとう、轟くん。あいかわらず本当すごいね」
轟くんは、僕の姿を見て、多少表情を和らげた。
(色々な意味で)震えているヴィランたちを横目で見上げながら口を開く。
「コイツらが弱すぎだ。…大人を舐めるなとかなんとか、大口叩いておきながら。子供相手に情けねえ」
「たしかにそれは言えるねー」
会話している間にも、どこかへ潜んで隙を窺っていたらしい一匹のヴィランによる、背後からの空気砲ドカーン!の派手な攻撃に、振り返りもせずに放った氷の障壁で対応。あっという間に制圧して…これでもう轟くんが全滅させてしまった。
「こんなチンピラで、よく俺たちを殺せると思ったもんだ。」
敵の武器を破壊し、ドシャッとその辺にヴィランを打ち捨てながら轟くんが冷たく言い放つ。
その通り…だと僕も思う。
僕は十二支元気薬を1パック服用して自分の耳に個性を発動させ、一時的に聴力をアップしている。それによると…本当にそうか疑ってしまいたくなるけど…敵は全滅だ。
「もう隠れてる敵はいないと思うよ。心音のパターンの合計が、この場にいる人数と一致してる」
「そうか」
轟くんがうなずく。
そして何か考えついたらしい彼が、最も彼の近くにいたヴィランの方へ顔を向けた。恐怖でヒィッと喉を詰まらせる不運なヴィランへとゆっくり歩み寄る。手を伸ばせば触れられるくらいの至近距離で立ち止まって右手に冷気を纏い始める彼を見て、僕はなんとなく彼の意図を察した。
「…轟くん。僕がいるからってあんまりやりすぎないでね?」
「ああ、わかってる」
落ち着き払った轟くんが、ヴィランの顔に向かってまっすぐ右手を向けた。シュウウゥと雪の煙がまつ毛にかかって凍りつく。ヴィランの視界は滲み、肺の中まで流れ込む冷たい空気に震える身体は、まさに氷漬けのお菓子。霜と氷で真っ白だ。
恐怖と痛みでとうとう涙を溢れさせるヴィランに、轟くんが低い声で語りかける。
「なあ…このままじゃあんたら身体がじわじわ壊死していくわけなんだが。俺もヒーロー志望。そんな酷え事はなるべく避けたい」
(…うわあ、容赦ない)
僕は若干遠い目をしながら、その場を離れた。向こうのほうで、落ちている武器採集に励むことにする。
「あのオールマイトを殺れるっつう根拠…策ってなんだ?」
落ち着いてきけば本気ではないとわかるものの、まるでヒーローらしからぬ凶悪な言葉で脅しをかける轟くん。
そしてそんな轟くんを止める素振りを一切見せず、それどころか完全無視して、その辺に落ちていたヴィランたちの武器を拾い上げては「これ使えるかも…」などと検分を始める、僕。
あまりにもあまりにもな精神攻撃。
ターゲットとなった可哀想なヴィランは、泣きながら知っていることの全てを白状した。
♦︎
「おやま…??」
「ああ、山だな」
「バカ!二人とも呑気すぎ…ヴィランに囲まれてるよ!」
山岳ゾーンにて。
ほのぼのと首を傾げる花冠彩、適当に相槌を打つ上鳴電気。
耳郎響香は、頭痛がしてきそうな気分で二人に呼びかけた。
いったいどうやってこの二人を監督しながらヴィランに対抗しろというのか? なぜよりによってこの二人と共にワープさせられたのか?
そもそも自分ひとりだってどうしたらいいか分からないというのに、この上さらに不安材料をぶつけてくるとは。あの黒い靄のヴィラン許すまじ、いつか絶対ボコボコにしてやりたい。胸の内で固く決意した。
とりあえずヴィランの囲みを突破しなければ話にならない。攻撃の準備として、耳のイヤホンを伸ばしてコスチュームに接続する…と、その前に早速ヴィランたちが襲いかかってきた。
「攻撃!?ちょっ待っ…ぎょええ?!!」
「上鳴?!っこの馬鹿!」
上鳴が頭を抱えて逃げ回る。
もともと反射神経はいいのだが、授業で習った体さばきをすっかり忘れているようなのは腹が立つ。
しかも急に飛び出すとかありえない。
Uターンして戻ってきてくれただけまだいいけれど。まったく、意気地がなさすぎる。
「うわっは!ひほ!!……怖え!おい耳郎!マジ見えた!三途の川見えた!今!」
「さっきからうっさい!つうかアンタって電気男でしょ?バリバリっとやっちゃってよ!」
「駄目なんだよ!ほら、俺って電気纏うだけだろ?仲間巻き込んじまうんだよ!いいかよく聞け!俺は頼りになんねえ!」
ああもう使えない奴!何か打開策は…と考え出そうとしたところ。
……そういえば花冠さんは…?といつの間にかいなくなっているのに気づいて焦る。
すると。
「うわ!目が!」
「おい落ち着け…何がどうしたんだ!」
「げっ…おい、こいつ黒目が完全に消えてる!」
いつの間にか飛び出していたらしい花冠さんが、ヴィランたちの群れの中で、目を潰して駆け回っていた。
…強い。
上鳴とは比べものにならないくらい頼りになってる。
私はポカンと口を開けた。
花冠さんを警戒したヴィランどもが、サアッと引いた。
「ベレー帽の奴と目を合わせるな!」
「近距離はまずい!距離をとれ!!…射撃だ!遠距離から射撃させろ!」
花冠さんを囲むような隊形をとるヴィランたち。危なく花冠さんが蜂の巣になる…!私は隙を見つけて個性を発動した。
「くらえイヤホンジャック!『ドクン!!ドクン!!!』」
「うぎゃあっ!!」
イヤホンから、心臓の鼓動を最大ボリュームで流して、花冠さんを射撃しようとしていた敵へ攻撃する。指向性補助つきのコスチュームのお陰で、ピンポイントで音の衝撃波が飛んでいく。岩をも割る音の暴力でヴィランが吹っ飛ばされる。いそいで上鳴と共に、花冠さんのもとへと合流した。
「ありがとう響香ちゃん。死ぬかとおもった…」
「びっくりするから!なんかするときは声かけて!」
「おーけーですっ」
上鳴も合わせ、三人で背中合わせに立つ。
ここからどうすれば…と思っていたら、妙案が思いついた。
「なあ上鳴、お前人間スタンガンになれ!」
「はあぁ?!」
上鳴が素っ頓狂な声を上げる。そこで花冠さんが、嬉しそうにハイハイッと手をあげた。
「じゃあわたしも手伝うよ!」
花冠さんが、ドレス型のコスチュームから何やら引っ張り出した。
薄いビニールの布を折り畳んだような…ような…え、なんだこりゃ??
「じゃじゃーん!防火・防水・ちなみに絶縁体、なんでもござれの簡易テント布!」
「「いやなんでそんなもん持ってんだよ!!」」
「そのう…逃亡しなくちゃならなくなった時の用心でつい…」
「おぉ〜なるほどなぁ!賢い!」
「………アンタ馬鹿?」
格好にとどまらず思考もお姫様だったとは…。唇の端を引き攣らせながらも、私は気を取り直して花冠さんに向き直る。
「——まあいいんだけどさ。絶縁体って、それ本当に効果あるの?」
私はテント布を指差す。
薄いペラペラのソレ。さすがに肌身離さず持ってられるだけあって、薄い。とにかく薄い。金具や骨組みはもちろんないけれど、布事態も超薄型テーブルクロスみたい。絶縁体っていっても、防御力には限度があるはず。
疑念をもつ私に、花冠さんはグッと握りこぶしをつくって頷いた。
「雷の直撃はまずいけど、上鳴くんの個性はだいじょうぶ!」
「安心したけど!…安心したんだけど!……なんか嬉しくねえ!」
「今そういうのどうでもいいから!とにかくいくよ!」
レディ、ゴー!
心の中でカウントをとり、牽制に私の個性を発動させる。イヤホンの衝撃波を避けて敵の包囲が崩れたところで、花冠さんのテント布を二人でかぶる。
「いけ!今だ電気男!」
「イエッサー!!これなら俺は、超強い!!」
ビリビリビリー!!と電気が空中を這う。私たちは花冠さんの布の中で安全。少しピリピリッとしたけれども、火傷などは一切せず無事に乗り切れた。外から漏れるヴィランたちの呻き声を鑑みるに、上鳴の個性は敵を全滅させたようだ。
「やるじゃん電気男———って、上鳴?」
「…うぇーい…」
「か、上鳴くんがアホウになってる」
そうだった…個性の電圧がキャパオーバーすると阿呆になる奴だった…。頭を抱えながらも、ともかく立ち上がる。クラスメイトと合流しなければならないし、ヴィランはここにいた奴らでおしまいじゃなかったはず。
「ありがとう花冠さん。私があのバカを回収するから、そのへんで呻いてる敵の目を潰してきてくれる?」
「はあい、おーけー」
緊張の後の虚脱に襲われながらも、私はヨッコラショと立ち上がる。
私は疲れていた。
警戒心を完全に捨てるという、戦場において最もしてはならないことを、最悪のタイミングでしてしまった。
『油断大敵』この四文字を身をもって痛感する出来事が起こったのは、その直後のことだった。
「——おい、動くなよ?」
地中から伏兵が姿を現し、あっと思うまもなく上鳴が人質にとられた。
✳︎空気砲ヴィラン✳︎
一応オリジナルキャラクター。土砂ゾーン(雨森修と轟焦凍がとばされたところ)で登場したヴィラン。
雨森修は、相手に触れれば勝利な個性なので、その対策で遠距離型が派遣されました。
最後まで身を潜めて時期を窺うなど、賢いヴィラン…かと思いきや、あっけなく轟くんにやられました。あんまり実力もなかったようです。
相手が雨森修だけなら、かなりいい勝負が出来たかも…?