伏黒戦、決着。
誤字報告死ぬほど助かります。
伏黒はあり得ないものを見た。
遊雲を掴み取られたこともそうだが。
なぜ見える?
なぜ呪霊が見えるんだ?
彼は呪力を持たないフィジカルギフテッドであり、呪霊が見えたことはない。戦闘の際はその神懸かった直感を持ってして居場所を察知していた。
それがどうだ。
くっきりと目に映っているじゃないか。
その額に生えるツノは薄紅色。
肌は新雪のように白く、体に透けるように青い筋が走っている。
服は黒一色のワンピース。
瞳は紅く、その中に昏い怒りを灯す。
口角は緩く上げられており、欠けた月を思わせた。
彼は初めて死を感じた。
五条悟など遠く及ばないような死の予感だ。
冷や汗が頬をつたい、涙のように地面を濡らす。
くしゃり。
そう音がしたかと思うと。
遊雲は紙切れのように握りつぶされていた。
白い鬼が口を開く。
「死ね」
悍ましいほどの寒気が身体中を走り抜け、伏黒はなりふり構わず逃走の構えをとった。
勝てるわけが無い。こんな化け物に。
なんだこれは...
本当に特級呪霊なのか?
逃げる隙がない。戦闘の天才、伏黒甚爾が逃げることすらままならない。
ただ今は生き残ることだけを考えていた。
◆
伏黒甚爾は強かった。
それはもうあり得ないくらいに強かった。何度も何度も叩きつけられ、正直死を覚悟した。
硬化術式も貫通するほどの膂力。
動きは先読みされ、反撃は悉くねじ伏せられた。
だからあまり好きじゃない切り札を切るしか無かったのだ。
その切り札とは明希の完全解放である。
明希は吸収術式としての体と、人間の性質を持った体の二つで構成されている。これは明希が転生してきたことで獲得した性質だと思われる。
このうち、普段は表に出ていない明希の人間としての才能を秘めた後者の体を自由にさせることで、私も才能を開花させることができるという訳だ。
嫌いな理由は主に3つ
1つ目は明希の才能を全て解放してしまうと、彼女が嫌な過去を思い出すのでは無いかということだ。
彼女は昔、その力を使わずに大事なものを守りきれなかったことがある。力を使うことで過去の自分を憎んでしまうのでは無いかと危惧したのだ。
2つ目は私の問題で、明希の持つ巨大すぎる才能は私の身には持て余した。端的にいうと、呪力消費量が爆発的に増える。動かずともその才能を維持するだけでだ。
3つ目は私の矜持だ。親として、ママとして、娘には戦って欲しくないと思っている。
我儘かもしれないが、それが親というものだ。
ただ、私が死にそうになるくらいボコられている時、明希が私を出せとずっと叫んでいたのだ。
親としてここで死ぬわけにはいかないし、本当に情けない限りだが明希の力を借りることにした。
伏黒の追撃から逃れ、意識が朦朧とする中、私は彼女に呼びかける。
────起きて...明希
あぁ情けない。涙が出そうなくらいに悔しくてたまらない。
私は母親失格だろうか?
それに応えるかのように、ぼろぼろの私の体を誰かが抱きしめた。
──んーん、そんなことない!
暖かい。張り詰めた心が解れていくようだった。
そして私は意識を手放した。
───後は任せて
◆
明希は才能の怪物だ。
人類の到達点。
宮本武蔵か?諸葛亮か?歴史に天才と書かれる傑物は数多い。
だが彼らには並び立つ敵がいた。
天才の前には同じ天才が立ち塞がることだろう。
明希に敵はいない。
人間という枠内にいる内は明希の敵たり得ない。
彼女は生まれを、愛情を、環境を、天運を・・・
幼い少女に与えられる筈だった全てを世界に奪われた。
そうして身に宿った比類無き才能、理外の怪物。
世界よ見ているか・・・
お前が生み出した、たった一人の小娘を。
目の前で構えをとる伏黒に対し、明希が行ったのは観察だった。
瞬間、伏黒は自らが無数の瞳に全方位から監視されているかのような、薄寒い感覚を覚えた。
自分の表面だけでは無い。
まるで体の裏側、血液の流れに至るまで見られている。聴かれている。
心臓が目の前の白い鬼に握られているような濃密な死の気配。
もはやこれは戦闘にあらず。
調理人が食材を調理するように。
伏黒は気付けばまな板の上だった。
◆
焦る。
焦る。
伏黒は生存への抜け道を探し、逃亡が不可能ということを悟ってからは思考を戦闘へと切り替えた。
先ほど握り潰された遊雲はもう使えないだろう。そう判断した彼は一縷の望みに懸け、切り札である天逆鉾を握り込む。
ほんの少しでも隙を見せたらなぶり殺しだ。
そう言わんばかりの紅い瞳に見つめられながら、彼は駆け出した。
先ほどよりもその速度は更に速く、残像を残しながら特殊な歩法で遠近感を錯覚させる。
明希へと肉薄した伏黒は、勢いのまま左拳を繰り出す。これだけでも並みの呪霊なら祓われるだろう洗練された一撃だったが、先ほどの意趣返しのように軽く手を当てるだけで逸らされた。
しかしそれはフェイント。
隠れ蓑にしたジャブを下げながら、本命の右脚を使った蹴り上げ。
これも軽く左腕で防がれる。
だがこれだけでは終わらない。
止められた右脚を起点に飛び上がって自分の体を浮かし、右手に握り込んだ天の逆鉾を空中に投げる。
それと同時に明希に掴みかかり、左足を明希の首に絡みつかせ、体の自由を奪った。
ここで決めなければ死ぬ。
自分に与えられた最後のチャンス。
伏黒はそう考えながら天から落ちてきた天逆鉾を両手で握り込み、明希の脳天へと放った。
「聴こえなかったか?」
私は死ねと言ったんだ。
絡みついていたはずだ。体の自由を奪ったはずなのに。
左脚が無い。
いとも容易く拘束から逃れた明希は振り下ろされる死の刃を親指と人差し指で摘んで止めた。
驚愕する伏黒の胸に手を当てて呟く。
「さようなら」
戦いの最後を印象付ける一撃がここに放たれる。
黒閃とは、打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際、現れる空間の歪みによって打撃の威力が2.5乗まで跳ね上がる現象である。
狙って出せる者はいない絶技。
いやまさか。
明希にとっては驚きだ。
“こんなに簡単なことができないのか”
明希が考えた一撃は全てにおいて完璧だ。
これこそ放つことのできる呪術師は誰一人として存在しない神業だろう。
ただ一人、明希を除いては。
打撃と呪力の誤差0秒。
当然のように為される神の如き御業。
明希の掌に闇を凝縮したかのような光が集まる。
黒い光が、閃光のように瞬いた。
“終閃”
戦いはここに決着した。
伏黒甚爾は正しく天才だった。
明希は神才。
この世にて、比肩しうる者無し。
生まれながらの絶対勝者。
彼女が戦うと決めた時、既に勝敗は決まっていた。
さて、何故この星漿体編から原作介入したのか?
心の中で予想してみてね
呪霊廻戦の読者の世界線の掲示板回欲しいですか?
-
欲しい!書いて!
-
どっちでもいいっすわ
-
要らねえ!それより次話早く!
-
早く掲示板も書いて次話も書くんだよおお!
-
あったら嬉しいな。