呪霊廻戦 〜呪霊で教師になります〜   作:れもんぷりん

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 私が考えるミゲル。

 こいつの情報は少なすぎるので全部妄想です。


交渉

 

 ミゲルの後ろを着いていく途中、集落の様子が目に入った。呪力を持った人間は皆こちらを恐れたような目で見つめ、じっと動かない。

 

『やはり恐れられるんですね』

 

 そう呟くとミゲルは振り向くこともなく言った。

 

『当然だ。ここでは二級呪霊すら珍しい。ましてや特級など御伽噺の存在だ』

 

 なるほど、とそう納得している内に目的の場所へ着いたようだ。簡単な作りの家だが、他の家と比べると多少大きく、豪華な造りをしていることが見て取れる。

 族長か何かの家だろうか?

 

『入れ』

 

 促されて入ると中は見た目以上に広く、こんな大自然の中でも生活の豊かさが感じられた。族長の家ではなく、どうやらここはミゲルの家のようだ。

 

『長への挨拶も無しでいいんですか?』

 

 そう問うとミゲルは少し笑った。

 

『呪霊もそんなことを気にするのか?心配するな、俺がここの長だ。』

 

 なんと、驚きだ。

 長が夏油の誘いにホイホイと乗って着いていく訳が無いのでミゲルは長ではないと思っていたのだが、よくよく考えるとミゲルが武器にしている黒縄は”母国の術師が数十年という時間をかけて編み上げる代物”と言われていた。

 

 そんな代物をそう安易と持ち出せる訳もないので、彼が長というのは納得だ。

 

『それは失礼しました。亜鬼と申します。』

『ミゲルという。前置きは無しだ、何をしに来た?』

『黒縄を一部頂きたい』

 

 そう言った途端、彼の雰囲気が変化したのが分かった。

 

『どこでその話を聞いたかは問わんが、黒縄がどれほどの年月を掛けて作られる物なのか知っての発言か?』

『知っています』

 

 という割には百鬼夜行編でバンバン使ってたけどね?

 

『ならその話を聞くのが難しいというのも分かるだろう?』

『はい。ですが、どうしてもそれが必要なのです』

 

 今、彼は板挟みになっている。

 黒縄は貴重な物なので渡す訳にはいかない。

 だが、私が力づくでそれを奪えることもまた、分かっているのだろう。

 交渉という名の脅迫のようなものだが、将来どうせ悪事に使われてなくなってしまう物だ。

 

 どちらも選べないが、どちらかを選ばなければならない。

 そこで私は打って出た。

 

『では黒縄を編んでいるところを見せてもらうことはできないでしょうか?』

 

 そう言うと彼の顔は苦渋に染まる。黒縄は何かあった時のために必要だ。そしてそれを作る技術は秘伝。簡単に教えて良いものではない。

 

 だが教えたところでこの集落になにかデメリットがあるかと聞かれるとそれも無い。

 また、作るところを見せたところで作り方が分かる訳でもないし、よしんば分かったとしてもそれが作れるかは別問題。

 

 他の二つに比べると遥かにマシな案だ。

 この村が被る被害はなく、私も満足する。

 

 だがそれは私が素直に帰るならの話だ。

 

『お前がそれで帰る保証が欲しい』

『では縛りを設けましょう』

 

 そこで役に立つのが縛りだ。

 この世界ではどうしても約束を破られたくない時、縛りというものを設ける。その縛りを破るととんでもないデメリットがあるので、皆基本的に破らない。

 

 指切りせんまん嘘ついたらほんまに針千本飲ますからなワレェ!ということである。

 

『どう縛る?』

『あなたは私に一度だけ、黒縄を編む手順を最初から最後まで一通り見せる。そうすれば私はこの集落に手を出すことをせず、この集落を出て二度とここに来ない。』

『いいだろう』

 

 そうして私たちの間に縛りが設けられた。

 

 

 

 ミゲルの家を出て、先程までと同じように着いていく。入ったのはなんの変哲もない民家。中は生活感がなく、カモフラージュのために置かれた家具達が並ぶ。

 ミゲルが敷かれたカーペットをどかすと地下への道が。

 

『この中だ』

 

 そういって階段を降りていくミゲルを急いで追いかける。

 その間に明希に呼びかけ、彼女にも手順を見てもらうことにする。というかそれが目的だ。

 

 中には7人の呪術師が。いずれも呪力量はそこまででも無いが、本当に呪力操作に長けているのが分かる。

 

 ミゲルが事情を説明し、7人の術師がそれを了承した。

 

『始めるぞ』

『はい』

 

 さあ集中だ。

 

 二人の呪術師が核となる部分を少しずつ作り出していく。30分程経ってやっとほんの数ミリだが呪力が物体化していき、周りの三人の呪術師が動き始める。

 核となる純粋な呪力だけで作られた細い線の周りを、さらに細い線を少しずつ作り出してぐるぐると巻いていく。

 あまりにも細かすぎる作業だ。

 

 そこから3時間ほど経って、五人の呪術師の疲れが目に見えて感じ取れる。

 そして作り出された長さ3センチほどの細い呪力の線だが、濃密すぎる呪力が込められている。

 そこで最後の二人がその細い線をうまく呪力だけで捩って少しずつ太くし、その周りを薄い呪力の膜で覆っていく。そこでやっと濃密すぎる呪力が一纏めに凝縮され、黒く輝き出した。

 

 その結果完成したのは長さ1センチに届くか届かないかという長さの黒縄だ。

 それでも七人の呪術師は疲労困憊。

 今にも倒れ伏しそうだ。

 

『これで全部だ。満足か?』

『ええ、大満足です』

 

 そう、満足だ。

 この工程を全て見て、結論を言おう。

 

 私一人で黒縄を作ることは可能だ。その工程も全て明希が覚えた。

 そこで私が覚えたと言えないのが恥ずかしいところだが、大まかな作業以外にも沢山することがあって、全て覚えるのは不可能だったのだ。

 

 さて日本に帰るとしよう。

 

『じゃあ、お別れだ』

『ええ、本当にありがとうございました』

 

 ミゲルに催促されたのでさっさと帰ることにする。

 

『変な呪霊だな』

 

 そう彼が呟くのが聞こえた。

 

『あなたに言われたくないですけどね』

 

 それだけ言って、私は集落を後にした。

 

 

 

 

 ミゲルは無意識に入っていた肩の力を抜き、大きく息を吐いた。

 

『やっと帰ったか』

 

 それが正直な感想だ。

 近くにいるだけで死を思わせる程の濃密な呪力。

 その美しい顔立ちからはとても想像できない力の波動を確かに感じ取った。

 

『もう二度と会いたくないな』

 

 もし彼女と戦うことになったとしたら・・・

 

『考えたくもないね』

 

 アフリカ最強の呪術師と言っても過言ではないミゲルは相対した呪霊の力を正確に測ることができる。

 

 間違いなく、昔会った特級呪霊など比べ物にならない強さだった。彼女が温厚な性格でなければ今頃、ここら一帯の生物は皆居なくなっていたことだろう。

 

 そう思考に耽りつつ、また彼も普段の生活に戻っていくことになる。

 

 自分がこの世界において、どれだけ大きな選択をしたのかも知らずに・・・

 

 

 黒縄、その呪具が持つ特性は・・・

 

 

 

”あらゆる術式効果を乱し相殺する”

 

 





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