呪霊廻戦 〜呪霊で教師になります〜   作:れもんぷりん

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 遂にこの時が・・・



覚醒

 

 意識が覚醒する。

 混ざり合って一つになっていた体が二つに戻っていく感覚と共に、目が覚めた。

 

 今、本当に全てを理解した。

 明希の思いも、悩みも、一緒に体験してきた。

 

 確かにダメなことをしたのかもしれない。

 

 脅して縛りを結ばせる。悪役がすることかもしれない。

 

 私は母として叱らなければならないのかもしれない。

 

 それら全てを飲み込んで、私は明希を強く抱きしめた。

 強く、強く、痛いほどに。

 

 もう離さない。

 

 

──ママ、ごめんなさい

 

 明希は泣きながら私に縋り付く。

 あぁ、あの時の私もこんな気持ちだったのかもしれない。

 

──大丈夫、大丈夫だから。いなくなったりなんてしない。

 

 そう言って明希の頭を撫でる。

 

 私が明希を愛したいと思ったのは創られた感情じゃない。

 それで充分じゃないか。

 

 悪いことをした娘を愛で包み込むことも、母親の特権だ。

 

──ほら一緒に帰ろう。また一緒に寝て、食べて、修行をして・・・

 

 

 

 

 

 

友達を作りにいこう

 

 

 

 

 

 

 寂れたマンションの一室へと帰ってきた。

 もはや私たちに障害など何もない。

 

 明希の何年間もの記憶を走馬灯として追体験したことで、私も“理”という物が少しだけ理解できた気がする。

 

 

 理とは自然。

 

 川が流れるように。

 

 りんごが落ちるように。

 

 

 呪力が廻るのだってそれと同じこと。

 この手に掴んだ神才の感覚。

 

 自然なことだ。

 呪力が赴く方向を読み、それを上手く流す。

 

 流れを掌握しろ。全ては私の掌の上にある!

 

 呪力がほどけ、糸のように細くなっていく。

 明希のようにとはいかないけど、それでも充分。

 

 それぞれを操作し、絡ませ合う。

 各々が少しずつ捻れ合い、一本の縄へと変化していった。

 

 一時間ほど作業して5メートルの黒縄が出来た。

 それを左手に持ち、今もそこに置かれたままの天逆鉾へと近づけていく。

 

 

 大事なことを忘れていたんだ。

 

 

 私の成り立ちだってそう。

 明希の思いだってそう。

 

 でももっともっと大事なこと。

 

 私たちは二人で一人。

 お互いに寄り添って進んでいくんだ。

 

 

 右手は胸の前。軽く構えるだけ。

 

 ほら、おずおずと差し出されるその手を掴め。

 領域展開は私一人で使う物じゃない。

 というか、私という呪霊は一人で戦えるように創られていなかったんだ。

 

 明希の差し出した左手。

 精神世界で差し出されたその手を、私は確かに掴んだ。

 

 

 黒縄が天逆鉾へと接触し、焼き切れていく。

 

 

 

──領域展開

 

 

 

 

 

 

 

 

“奏死双哀”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪術高専では、ある二人の男が任務を受けていた。

 

「事故物件・・・ですか」

 

 一人は金髪で七三分けが目立つ男。呪術高専二年、七海建人である。

 

「ええ。二級相当の依頼ですので、灰原さんと一緒に祓いに行ってもらいます」

「建人!依頼か?」

 

 声を掛けてきたのは明るい笑顔がよく似合うチャーミングな男。

 呪術高専二年、灰原雄。

 

 二人は同じ年に入学し、ずっと二人で組んできた相棒同士である。

 

 生真面目でクールな七海と元気で明るい灰原はお互いに信頼し合い、そしてお互いに高め合う理想の関係を築いていた。

 

「なんでも、入居した人が次々と謎の死因で亡くなっていくらしいんです。なにやら、ポルターガイストのような現象も確認されたとか」

 

 神妙な顔でそう伝える窓の話を聞きながら準備を進める。

 

「最近はそこに住み着く人も居なくなったのですが、確認したところ呪力の残穢が確認されました」

「分かりました。場所は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このマンションだよね」

「ええ、確かに呪力を感じます」

 

 七海と灰原は指定されたマンションの前まで来ていた。

 事故物件の噂はここら一帯から人気を奪ってしまったようで、どこか活気がない。寂れた雰囲気のあるマンションの扉を開ける。

 

「一般人の避難はもう終わってるらしいよ」

「それはやりやすいですね」

 

 マンションの管理人含め、今このマンションには人がいない。

 事情を説明し、危険があること、除霊することを伝えてある。

 

 もちろん事情はぼかしているが、住民の避難まで行うとなると骨が折れた。

 それでも二級は充分凶悪な呪霊。戦いになった際、床が抜けたり壁が崩れたりする可能性はある。

 

 呪霊の討伐において一般人は邪魔になる。

 これはどんな呪霊でも変わらない。それが人間が好きで、できるだけ傷つけたくないと考えている甘い呪霊でなければの話だが。

 

 

 そしてそんな呪霊がここに一人。

 

 

 マンションの5階あたりから圧倒的な呪力の流れを感じ、七海は背筋が凍るような感覚を覚えた。

 

 

「灰原!今のは・・・」

「間違いない。明らかに二級呪霊が放つ呪力じゃなかったよ」

 

 緊急事態だ。窓が呪霊の脅威を測り間違うことはあれど、ここまではそうそう無い。

 

 

「早く連絡を」

「今伝えたよ」

 

 これは一級、下手したら特級呪霊だという可能性もある。

 七海と灰原は二級術師。準一級の呪霊ですら厳しいところである。

 これでは偵察すら危ない。

 

「離れましょうここは危険です」

 

 

 

 

 

 

「どうして?」

 

 

 

 

 

 

 誰だ?

 

 七海が灰原に話しかけたその時、愛らしい少女の声が聞こえてきた。

 咄嗟に振り向き、鉈を振るう。

 

 

 呪霊は動かなかった。

 全力で放った刃はその柔肌に傷ひとつ刻むことはない。

 

 白い肌、白銀の髪。可愛らしい顔立ちには一対のツノ。

 兎のような紅い瞳がこちらを見つめている。

 

 冷や汗が流れる。

 

 

 

 絶望の具現化。

 

 

 

 特級呪霊だ。

 

 

 

 固まっていた灰原が動き出す。七海の方を注視している白い鬼に対して呪力を込めた蹴りを放った。

 

 容赦無く首筋に放たれたそれに見向きもせず、また避けることもない。

 

 脅威になっていないのだ。七海と灰原ではほんの少しのダメージを入れることも叶わない。

 

 生存への道は逃亡だけ

 その唯一の可能性を掴むために、相手の情報整理が必要だ。

 

 会話できるということはそれだけ知能が高いということである。

 まず間違いなく特級。

 

 人型なので予測できないような動きはできないはず。

 だが全く接近に気づけなかった程の速度は脅威だ。

 

 それに立っているだけで全く隙がない。

 

 

 

 唯一の希望は灰原の連絡によって寄越されるであろう特級術師である。

 二人の先輩、五条か夏油が来るまで耐えれば勝ち。

 

 攻撃しても意味がないのでひたすら防御と回避に徹するしかない。

 

 そこまで思考して、灰原と目配せし合った。それだけで意思疎通を終わらせる。

 今も動かず、どこか気まずい顔をしている白い鬼を観察しながら灰原の前に立った。

 

 鉈を構え、何を考えているのかも読み取れない呪霊の初動を見逃さないようにする。

 

 その内に灰原が連絡を送る。呪霊の等級やその見た目。特徴。

 一瞬で連絡を終え、灰原も臨戦体制へと移行する。

 

 背中を見せれば殺される。

 

 そんな予感を噛みしめ、鉈を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 灰原から連絡を受けた窓が動く。

 特級術師に応援を要請しようと考えたのだ。

 

 そうして再び因果は廻る。

 

 

 

「そいつ・・・俺が殺る」

 

 

 

 最強が動き出した。

 





ナナミン「隙を見せれば死ぬ・・・」

亜鬼ミン「友達候補だ・・・」

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