強くなるにあたって確認したいことは三つある。
一つ目は呪力の総量だ。呪霊というのは皆呪力を持っているが、それぞれ持っている量は違う。
多ければ多いほど強いという単純な話ではないようだが、多い方が良いのは間違いない。
二つ目は身体能力の確認である。頭に二つのツノがついているということは私は鬼の姿をモチーフとした呪霊である可能性が非常に高い。鬼といえば高い身体能力が有名なので私も高い身体能力を有しているかもしれない。
最後が本命。三つ目は術式の確認だ。術式というのは呪術師や呪霊が持っている特殊能力のようなものである。持っている術式は生まれた頃から決まっていて、基本的に一人に一つ。
先ほどからずっと体が強い渇きを訴えてきている。自分の中に意識を強く傾けると大体の概要が理解できた。
“吸収術式”
このような名前がしっくりくるだろう。凄く簡単に説明すると呪力を吸収するというだけの能力である。これは強いのか?一度適当な呪霊を探して試してみないと分からない。
ということでとりあえず歩き回ってみることにした。呪霊を見つけるためだ。
今はまだ昼頃のようで、森には生命の気配が多く感じられる。どうやら五感は結構鋭いようだ。
木々のざわめきに紛れて聴こえる流れる水の音。そこかしこから獣の痕跡が見分けられる。とりあえず顔を確認したいので水辺に向かうことにした。
水辺に向かいながら考える。強くなるにはどうすればいいのか。これはもう決まっている。
術式反転の会得と領域展開の習得だ。
術式反転とは文字通り、自らの術式の逆の力を使えるようにする技術である。
例えば、相手を押すという術式を持っているのなら、術式反転は相手を引っ張る術式になるだろう。
此処から予想するならば、私の術式反転は吸収の逆である発散であるのだろう。
どう役立てられるかは分からないが、術式反転を使えるようになるのならば、自らの体を治す反転術式も使えるようになる。
反転術式とは負のエネルギーと負のエネルギーを掛け合わせることによって正のエネルギーを生み出し、人体を治療する技術のことだ。
正直この技術は呪力によって身体が構成されている私にとっては不要なものではあるのだが、他人に使うことが出来るようになれば人を助けることも出来るようになる。これは友好の大きな助けとなるはずだ。
そして領域展開。これは呪術の奥義と呼ばれる一つの終着点である。周囲に自らの呪力を広げ、生得領域を得ることで完成される。その領域内では自らの身体能力に大きなバフがかかり、攻撃が“必ず”当たる。当てられたら終わりの術式を持つ相手が領域展開を使ってきた場合、こちらも領域展開をする以外の勝ち目はなくなるだろう。
双方ともコミックス内でも特に難しいとされている技術だ。
どのように練習をすれば習得できるのかは分からないができなければ死ぬ。それだけだ。
そう考えている内に水辺に着いた。澄んだ水が美しく、森の動物たちの水飲み場になっているようだった。鹿や鳥がそれぞれの群れで寄り添っているのをみるとまた寂しさが湧き出でてくる。
休んでいる動物たちはこちらに見向きもしていない。やはり見えていないのだろう。それと同時に残念な事実が発覚してしまった。
原作内で特級呪霊(呪霊の中でもトップクラスの呪力を持つ強力な呪霊のこと)達がカフェテリアに行った時に、店員は呪霊達のことが見えてはいないが、漠然とした不安感を覚えたという描写があった。
つまり強力な呪霊というのはたとえ見えていなかったとしても何かを感じさせるということ。
人間よりも動物の方が危機察知に優れているというのは有名な話である。つまりその動物にさえ気づかれない私の格の低さがよくわかるという訳だ。
呪霊というのは上から特級、一級、準一級、二級、三級、四級となっている。
そこから考えるに私の呪力量は多く見積もったとしても二級。ただ主人公である虎杖悠仁と二級術師の伏黒恵が初めに遭遇した呪霊が二級呪霊だというので私にそこまでの力はないだろう。せいぜいが三級、最悪の場合四級相当の呪力しか持っていない可能性も十分にある。
まあ一旦置いておこう。まずは見た目の確認である。呪術廻戦に出てくる呪霊というのは基本的には醜悪な見た目をしているものだ。もし私がそれらの呪霊と同じような醜悪な見た目をしているとするのならば、人間たちに受け入れられないかもしれない。なんだかんだ言っても人間が第一に他人を判断するのは見た目であることが多い。
内心ドキドキしながら水面を眺める。そこで私は衝撃を受けた。
さらさらと流れる絹のような銀髪。宝石のように輝いているくりっとした大きな紅い瞳。顔立ちは人形のように整っていて幼さを感じさせるが、妙な色気を醸し出している。おでこには薄紅色の鍾乳石のような材質をした長さ10センチほどの先が丸まっているツノが一対。
もっと簡単に表そう。銀髪赤眼の超絶美幼女(ツノ付き)である。これだけ聞くとナルシストのように感じられるかもしれないが、断じて違う。これは客観的に見た純然たる事実である。ここに断言しよう。
私は美しい。これは人間と友好的な関係を気づくことへの大きな支えとなるだろう。
そんなふうにニヤニヤしながら自分の顔を眺めていると、急に体を悪寒が走り抜けた。
「っがああああああああ!」
そんな悍ましい声が前方から聞こえ、私は驚いて肩をびくりと跳ね上げさせ、勢いよく後ずさった。
心を落ち着かせながら前を見ると、猿のような形をした呪霊がすごい形相でこちらを睨みつけていた。
「きゃああああああああ!」
そんな情けない声をあげて後ろに振り向いて全力で走る。先ほどまでは強くなるだとか呪霊を探して戦ってみるだとかそんなことを考えていたが、いざその時になって自分がどれほど甘い考えをしていたのかを思い知った。
今まで感じたこともないような恐怖と悪寒がこの体を動かしている。
「ぐらぁぁっっぁぁ!」
そんな声が聞こえた。
「え?」
次の瞬間、私は木に叩きつけられていた。その叩きつけられた木をへし折り、その後方にあった別の木にぶつかってやっと停止した。
「かはっ!」
そんな声が漏れたかと思うと全身に鋭い痛みが走った。左腕はおかしな方向に曲がっていて使い物になりそうもない。体は重くて動けない。
だが動かねば死ぬのみだ。強い危機感を覚えて無理やり後方の木を蹴ってその場から離脱する。すると先ほどまで私がいた場所に呪霊の拳が突き刺さった。
避けられたことに憤慨したのか、呪霊はこちらを向いて荒く息を吐いている。睨まれているだけだというのに強い殺気を感じ、身体が竦む。
これが呪霊か。
これが悪意か。
こんなものに呪術師達は挑んでいたというのか。
只人の身でありながらこんな恐ろしい怪物を相手取っていたというのか。
正直私は舐めていた。そのことに今更気がついた。
呪術廻戦の世界に転生して、原作知識があるからと。まるで自分はゲームをプレイするかのような感覚でいたのだ。
そんな自分が恥ずかしくて、悔しくて、このままでは終われないと。そう強く思った。
右手で地面を握り締め、ふらふらと揺れる思考の中で立ち上がった。
左腕が動かないなら右腕がある。身体が重くても立ち上がれ。私にはその力がある。
自分の人生の主人公は自分であるという言葉があるが。
主人公は逆境を超えてこそ主人公足り得るのだから。
術式はオリジナルです