ここまで長かった・・・
あの戦いから五年。
私は今日も呪霊を狩っていた。今回は一級呪霊。
青森県の端っこの小さな村。
夜に爪を切ると夢の中で脳を食われるらしい。
そして三日後に外傷もなく息絶える。
こわ!どんな呪霊だよそれ!
どこのエイリアンだよ!
だが弱い。気持ち悪い見た目の四足歩行なモンスターだが、正直見掛け倒しだ。
軽く接近して頭を捻り切り、再生する暇も与えず吸収術式で吸い殺した。
戦いとも呼べないようなつまらないものだが、安全に越した事はない。
明希とのんびり過ごす日々。
ここに至るまで様々な苦労があった。
まず五条先生との戦いの後始末についてだ。
最後の一撃のぶつかり合いはお互いがお互いの天敵だった故に大きな被害を出すことなく相殺した。
一生無くなることがない無限を吸収して書き換え続ける私の「画竜点睛」と圧倒的な物量で押しつぶす「永永無窮」
結局術式に込められた呪力が尽き、引き分けとなった。
その後はすごく大変だったらしい。
余りにも荒れすぎたかつて街だった場所で起きたことの事情説明と事実の隠蔽。
この大穴はニュースでも謎の事件として放送された。
それから住処を奪われた人たちへの補填。それらを全て終えたのが三年経った時のこと。
結果的に呪術界は結構なダメージを負ったようだ。
なんでこんなに詳しく知ってるのかって?
そりゃあ教えてくれる存在がいるからですよ。
「やあ、元気そうだね」
「ええ、この生活も悪くないですよ」
そう。我らが五条悟である。
この5年間、私は明希と共に日本を観光しながら呪霊を祓う旅をしていた。
その中で数々の呪術師を助け、一般人を救ったが、その度に私の出現報告が飛び交う訳だ。そこで来るのが五条悟。
何度も何度も戦い、そして満足したら帰っていく。
被害状況から鑑みて大きな技は使わず、出来るだけ人気のない場所の上空での勝負が多かったが、それでも熱い勝負が出来た。
その中で育まれる信頼や友情。
気がついた時、私達は既に敵同士では無くなっていた。
もちろん全てではないが、私が明希の寂しさから生み出されたこと、身に宿す明希のこと、人を襲ったことなど一度もないことも説明済みである。
その上で私は存在を認められた。
呪術界上層部に話が通された訳ではないが、学長となった夜蛾さんとも話し合い、私は既に除霊対象から外されている。
「次は秋田県に三体、岩手に五体だってさ」
「なんか最近呪霊増えました?」
「今は呪霊が旬の季節さ」
「夏だからって事ですね」
軽く話しながら数枚の紙を受け取る。
パラパラと流し見してみると全て二級以上の案件。その内二体は一級だ。
「じゃあ行きますね」
「今度はお土産買ってきてあげるよ」
「お菓子が欲しいですね」
そんな風に話して別れた。
そう。私は現在フリーの呪術師のような仕事をしているのだ。
特級相当の力を持ち、人間に協力的な呪霊。
お給料も貰えるし、簡単だし、明希と旅も出来るからいい仕事である。
ある時を境に五条先生が口調を変えた。
親友である夏油傑の離反が原因である。
正直驚いた。
天内理子は死なず、灰原は黒縄によって耐え忍んだところを私が助けに入ったことで無事帰還。その上で双子を見つけてすぐに保護。
高専に連絡して連れ帰って貰った。
ここまで対策したのにも関わらず夏油さん闇落ちは回避出来なかった。
まあ考えてみれば当然である。
原作で書かれているのは夏油さんが関わった事件のほんの一部。その内の3つを解決した程度で回避できるならそもそも闇落ちなんてしない。
彼が抱えていた闇は想像の遥か上をいく大きさだったのだ。
五条先生はその時から口調を丁寧な物へと改め、腐った呪術界を変えるために先生になった。
すると夏油さんが抜けた分と五条先生が教育をする分の時間が他の呪術師の重荷になる。
二人は数少ない特級術師であり、特級術師でしか対応できない任務も多い。
そこで私に白羽の矢が立った。夜蛾さんと五条先生に頼まれて呪霊討伐を仕事にしたという経緯だ。
現在私が呪霊討伐をしていることを知っているのは五条先生と夜蛾さん、歌姫先生の3人だけだ。
これからもこんな緩い感じの生活が続いて行くといいなぁ
でもな~んか忘れてる気がするんだよねえ・・・
◆
夜蛾は職員室に入ってきた五条を見て、資料を整理する手を止めた。
「亜鬼か?」
「うん、また頼んできちゃった」
そう言って笑う五条。
亜鬼というのはずっと夜蛾の頭を悩ませる特級呪霊のことだ。
初対面の印象は頗る悪かったが、今となっては五条より勤勉に働く頼れる呪術師である。
彼女は特異な存在だ。人間を助け、呪霊を祓う呪霊。
人間と同じレベルの知能を有し、五条以上の実力を持つ。
考えたくもないことだが、彼女が敵だったら人類は滅んでいたかもしれない。
「それで・・・様子はどうだった」
「予想通り彼女、また強くなってるよ」
頭を悩ませるのはこれだ。
彼女は自身の持つ術式によって今も急激に成長を続けている。
五条以外の呪術師では戦う事すらままならない。
これを放置し続けて良いのか?
五年間毎日悩み続け、一年が経った頃には今更考えても遅いか・・・と行き着くようになった。
祓うという結論を出すのなら五年前、できる限りのサポートを尽くして五条に祓わせるべきだった。今となってはもう祓うことは不可能だろう。
「まあいいか」
この件に関してはもう諦めている。亜鬼が心変わりしないことを祈るばかりだ。
そう考えながら発見されている呪霊が纏めてある一冊の本を取り出した。これには今まで発見された呪霊の見た目、その術式、発生の理由などが事細かに記されている。
情報は武器だ。
既知が命を救うことも多い。
その中でも夜蛾が取り出したのは特定の人間しか閲覧することが許されない特別な書物。
特級呪霊に関する情報が載っている本だ。
全部で16体だった特級呪霊達の本に追加された最後のページ。
特級呪霊「死風」。本名は亜鬼。
規格外な実力と底が知れない莫大な呪力量。また、他の呪霊は持たない人間らしい感情を有している。非常に温厚な呪霊の為、祓除対象から除外。
全てにおいて他の呪霊とは違い過ぎる為、この呪霊を特級"番外"として扱うこととする。
亜鬼は知らず知らずの内に特級に登録され、更にその中でも特殊な"番外"として扱われることになった。
特級ぼっちである。
◆
五条は考えていた。
今の腐った呪術界を変革する方法を。
今、上層部の腐ったみかんを皆殺しにして首をすげ替えるのは簡単だ。
五条が本気でそれを成そうとして止められるのは亜鬼ぐらいなものだろう。
だがそれでは根本的な解決にならない。また同じ腐ったみかんが上に立つだけだ。
そうして思考は仲間が必要だという結論に辿り着いた。呪術界の根底から変えるしかないのだ。
その為に教師になり、信頼出来る生徒を育てている。
しかし足りない・・・この程度では足りない。
人手も力も何もかも。
せめてもう一人くらい志を同じくする教師がいれば・・・
居た。
そう思った時、既に体は動き出していた。
数年が経った。
沢山の呪霊を吸収し、その呪力を全てモノにした。最早自分ですら底が分からない程の呪力量だ。
また、放出術式によって使える術式も増えた。
基本戦法は変わらないが、手札の数は呪霊操術並かもしれない。
戦闘経験も培った。
何度も五条先生と闘ったし、敢えて能力を制限した状態で呪霊とも闘った。
その戦闘回数は馬鹿に出来ない数だろう。
何なら正規の呪術師より呪霊を祓った数が多い。
そうして毎日を緩く過ごす。
そんな中、突然真剣な顔をした五条先生が会いに来た。
「どうしたんですか?そんな顔して」
そう問いかけると彼は一瞬思考し、そして言った。
「亜鬼、教師をやってみないかい?」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
いや忘れてたぁぁぁぁぁぁ!
これにて今編完結!
いやぁ書くの楽しいなぁ。
次回に人物紹介を挟んでから次の編がスタートです!
掲示板は望む人と望まない人がそれぞれ一定数居たので、完結後に別で読者目線の物語を書いてから掲示板を作ろうと思います。
次編!
亜鬼、教師になるってよ