呪霊廻戦 〜呪霊で教師になります〜   作:れもんぷりん

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 遂に推しを書ける嬉しさ。
 一番長い編になる予感がする。



入学

 

 美しい桜は新入生への贈り物か。

 晴れ渡る青空の下、三人(二人と一匹)が並んで歩く。

 

 先導するのは黒づくめの天才、五条悟だ。

 

「まだ着かねーのかよ」

 

 想像を遥かに超える広さの敷地を歩きながら禪院真希が愚痴をこぼす。

 すらっとした体つきに美しい顔つき。かけられたメガネがよく似合う。身の丈を越す長さの薙刀を斜め掛けに背負っていた。

 

 既に校門から10分以上歩いているのだから愚痴が出てしまうのも仕方がないことだろう。

 

「あとちょっとだな」

 

 その言葉に返すのはパンダ。紛うことなきパンダである。

 生まれた頃から呪術高専に住んでいた彼からすればここは庭のようなもの。

 

「こんぶ」

 

 おにぎりの具で会話する彼は狗巻棘。

 自身が持つ術式の影響で普通に会話をすると危険なため、話す言葉をおにぎりの具に制限しているのだ。

 

 それぞれが癖の強い個性的な学年。

 それが新一年生だった。

 

 彼ら三人は入学前に一度顔合わせを済ませており、それなりにお互いを見知った状態で入学することになった。

 

 

「よし着いた。この教室さ」

 

 五条に促されて入るとそこは至って普通の教室。おかしなところといえば机が三つしか置いていないところか。違和感が凄い。

 それぞれ席に着き、五条の話に耳を傾ける。

 

「さて、まずは入学おめでとう」

 

 おどけた様子でそう声を掛ける五条。反応が薄い面々を見て早速本題を切り出すことにした。

 

「実は僕、君たちの担任じゃないんだ〜、やっぱりこういうのは担任がやるべきだよね」

 

 そう言うとやっと三人が驚きを見せ、目を見開く。

 

「聞いてた話とちげーじゃねえか」

「おかか」

「それほんとか?悟」

 

 事前に聞いていた話では五条が担任を務める予定だったのだ。

 それが変わるとなると話は違う。

 

 彼は最強。その教えを受けられるのとそうでないのとでは雲泥の差がある。

 

「本当だよ。それでは早速紹介しようと思います!」

 

 そうして彼は扉の方向を手で指し示した。

 

「僕の古くからの親友!」

 

 敢えて少し溜め、そして言った。

 

「特級呪霊の亜鬼ちゃんでーす!」

 

 

 

 その台詞に驚愕する三人を他所に扉が開かれる。

 

 教室に入ってくるのは身長130センチ程の子供のような呪霊。銀髪は美しく煌めき、美しい顔立ちに紅い瞳が映える。

 

 それと同時に三人が動き始めた。

 これを何らかの試験だと考えたのだ。

 

 初めは人間かと思ったが、立ち上る呪いの気配と額に生えた一対のツノが彼女が呪霊だという証拠だ。

 

 呪霊が高専内に存在するというのはそれだけの異常事態。しかも明らかに教師とは思えない子供のような見た目。祓うべきだと判断し、黒板の前に立った白い鬼に肉薄した。

 

 呪術師としての条件反射のようなものだ。

 

 真希は薙刀を、パンダはナックルガードを、狗巻は口元まで上がったマフラーを下ろして術式の発動準備をした。

 

 

──潰れろ

 

 薙刀とナックルガードが黒板に突き刺さり、呪言が飛ぶ。

 

 気づけば白い鬼がいない。

 

 

 

「もー、先生に向かってそんなことしちゃダメですよ?」

 

 真希の肩がぽんぽんと叩かれ、背後から声が掛けられる。

 

 

・・・見えなかった

 

 

 三人の気持ちを表すならこの一言で事足りるだろう。

 咄嗟に振り向きつつ反撃を加えようとする三人。

 

 

 トンっ

 

 

 軽く床を蹴るような音がした次の瞬間。

 

 三人はそれぞれの席へと座らされていた。

 もはや何が起こったのかすら分からない。

 

 だが一つだけ分かることがある。

 

 

 自分達の担任になるのはどうやら本当にこの得体の知れない呪霊らしいということだ。

 

「うんうん、元気でよろしい!」

 

 そう言って満足気に笑う亜鬼を前にして、三人は呆気に取られるしかなかった。

 

 

 

 

 教室に入った瞬間から攻撃を仕掛けられたのは驚いたが、動きがお粗末過ぎたので恐らくあれは本気ではなかったのだろう。

 

 きっと新しく担任となる私を試したのだ。

 

 となると目に見える形で実力を分かってもらう必要がある。

 軽い身体強化を掛けて後ろに回り込み、その後の反撃を躱しつつ一人一人丁寧に椅子に座らせた。

 

 急激な速度で動いたことによって三人の体にかかるであろう反動を吸収術式で吸収した。

 

 この衝撃の吸収というのは私が身につけた新たな技術。吸収術式を応用して作った拡張術式である。

 

 さて、存分に気を引けたところで自己紹介といこう。

 

「入学おめでとう!君たちの担任になる亜鬼です!」

 

 黒板に「亜鬼」と書く。

 

「そして・・・」

 

 私の頬が裂け、口が出てくる。

 

「明希という。よろしく」

 

 次は黒板に「明希」と書いた。

 

 みんなびっくりした?

 原作で宿儺もやっていたから明希もできるのではないかと思って提案したところ、簡単にできた。

 私とは心の中で話せるので使わなかったのだが、遂に明希も他人と話せるようになったのだ。これで明希と一緒に友達を作ることができる!

 

 やっぱり皆驚いたようで、私の頬を凝視してくる。そんなに見つめられるとなんだか恥ずかしい。

 

 それ以上に私は呪霊。どういう対応をすればいいのか分からないのだろう。

 気にせず仲良くして欲しいが・・・

 

「じゃあ初めは自己紹介からいこっか?」

 

 やっぱりクラスの始まりといえば自己紹介だろう。

 これによってお互いの名前や趣味を知ることができるのだ。

 

 王道は外せない。

 

「じゃあ真希ちゃんから!」

 

 そう言って真希ちゃんを見つめる。彼女はガリガリと頭を掻き、吹っ切れたようにため息をついた。

 ガタッと椅子を鳴らして立つ。

 

「禪院真希。真希と呼べ」

 

 それだけいうと椅子に座った。

 

 ええ!?名前だけ?なんかもっと無いの?

 

「じゃ、じゃあ次は狗巻くん!」

「しゃけ」

 

 そう言って立ち上がる彼を見て嫌な予感がした。

 

「こんぶ」

 

 そして座った。

 

 いや分かんねーよ!

 こんぶだけ言って座るってどう読み取ればいいんだよ!

 

「え、えーっとじゃあパンダくん!」

「おう」

 

 そう答えて立つパンダ。

 実際に見るとすごい迫力である。

 

「俺はパンダ。等級は三級。ここで育ったから分かんないことがあったら聞いてくれ。」

 

 いやすごいしっかりした自己紹介だね。

 パンダが一番ちゃんとしてるってどういうことなの?

 

 これってもしかしてツッコミ待ち?

 

「いや、なんでやねーん!」

 

 冷えわたる空気。どうやら私は読み間違えたようだ。

 この地獄のような空気から誰か私を救い出してくれ。

 

「亜鬼ももう少し自分のことを話したら?」

 

 教室の隅でずっと笑っていた五条先生が助け舟を出してくれた。

 ほんと助かります。

 

「そうですよね!」

 

 どうせなら教壇の前で話そう。

 そう思って教壇に回り込んだ。

 

 見えない。

 どうやら背が少し足りないようだ。

 

 なんだこれ、欠陥品じゃないか!

 

 仕方ないからよいしょよいしょとよじのぼり、その上に腰を下ろした。

 まあ高いところから見下ろした方が威厳が出るかもしれないし、悪く無いアイデアだ。

 天才かもしれないな・・・

 

 よし気合い入れて自己紹介するか!

 

「さっき言った通り名前は亜鬼。特級呪霊だけど友達が欲しくて人間の味方をしています!

 教師は初めての経験だから上手くできるか心配だけど、強さだけは誰にも負けないと思ってます!」

 

 狗巻君とパンダ君がパチパチと拍手してくれた。良い子達だなぁ。

 

 真希ちゃんは家の事情で結構闇が深いので時間を掛けて心を開いてくれたらいいなと思う。なんだか三人から生暖かい目で見られている気がするが、気のせいだと思う。

 

 今日は初日なので授業は無く、親睦を深める為に使う一日だ。

 そこで秘策、用意してます!

 

「みんな!焼肉食べたくない?」

 

 ピクリと反応する三人。

 

「実は五人で予約取ってるんだよね」

 

 しれっと五条先生の分も予約してある。みんなで仲良くなるには一緒にご飯を食べるのが一番だ。

 

「ま、まあタダなら行っても良いけどな」

「しゃけ」

「図々しいなお前ら・・・」

 

 そこは抜かりなし!

 

「もちろん奢りだよ!」

「じゃあ行こうか」

 

 そう言って真っ先に出ていく五条先生に一つ言いたいことがある。

 

「五条先生は自腹で払ってくださいね?」

 

 私の醜態を笑った罪は重いのだ。

 

 

 まだまだ皆呪霊である私を信用しきれていないと思う。

 こうして私の教師生活は前途多難で始まった。

 

 





 亜鬼は推しに会えた嬉しさと教師になれた喜びで頭ゆるゆるになってます。


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