呪霊廻戦 〜呪霊で教師になります〜   作:れもんぷりん

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 この世界の教師の皆さんに尊敬を込めて。



方針

 

 体術の授業の後は基礎科目。

 

 呪術師と言っても基礎知識は絶対に必要なので、普通の高校生が勉強する範囲くらいは教えようと思ったのだ。

 それでも語学、数学、簡単な社会常識、あとは緊急時の手当の方法程度だ。

 本当は化学や歴史なども教えたいのだが、そこまでの時間はない。

 

 皆勉強が苦手らしく、体術の時よりもヘトヘトになっていた。

 それを終えると今日の授業は終了。自分の部屋へと戻った。

 

 

 さて、今からが忙しい。いそいそと一冊のノートを取り出した。

 表面に“先生ノート”と書かれたそれは私が五条先生にお願いして買ってきてもらった白紙のノート。これからどんどん埋まっていく予定だ。

 

 今日の授業を思い返す。

 正直皆想像以上に基礎ができていて驚いた。

 

 体術に関してはやはり真希ちゃんが抜きん出ていた。

 

 真希ちゃんは数年前に戦った伏黒甚爾と同じく、天与呪縛のフィジカルギフテッドだ。

 呪術界では落ちこぼれとされるフィジカルギフテッドだが、実際はかなり強力な武器となる。

 

 だが彼女の場合は少し事情が違う。

 禪院真依という妹と共に双子として生まれた彼女は呪術的に見ると半人前。

 どちらかが死ななければ完全なフィジカルギフテッドにはなり得ない。

 

 要するに中途半端。

 本来与えられるはずの身体能力は大幅に下がり、代わりに与えられたのは全く使えないくらいの微量な呪力。

 

 身体能力はそれなりにあるが、呪力は使えず、術式も持たない。

 

 これで強くなれると誰が思う?

 

 誰が彼女に期待する?

 

 

 

 

 

私だ。

 

 

 

 

 

 いくら強くなれない理由を並べられようと関係ない。

 

 私は確信した。

 

 

 あの子は強くなる。

 

 

 私が強くする。

 

 

 彼女が強さを望んでいる。

 なら邪魔になるものは全部私が粉々にしてやる。

 

 私と明希の前では障害など関係ないのだよ。

 

 真希ちゃんが目指す一級術師など生温い。

 

 

 特級だ。

 

 

 真希ちゃんには正しく特級の才能がある。

 

 

 彼女の本当の強みは身体能力より戦いのセンスだと感じた。

 あの3人の中で「理」を習得できるのは真希ちゃんだけだろう。

 

 「理」を修めるにはあるライン以上の才能が必要だ。

 天賦と呼べる才能が無ければ何があっても習得は不可能。

 

 それと同時に真希ちゃんの奥底から感じるほんの微量の微かな呪力。

 やはり原作の知識通り、残り滓ほどの呪力を持っているのだろう。

 

 これは逆に嬉しい誤算である。これなら“羅刹流”を教えることができる。

 

 先に言っておくと、羅刹流を無闇矢鱈と広めるつもりはない。

 これは呪力量が4級程度にすら満たない者でも特級呪霊と戦えるようになる程の技術。

 言うなればこれ以上ない暴力の塊なのだ。

 

 基本として血管に呪力を流し、身体強化を施す技術を必要とする。

 これには緻密な呪力操作が必要となるが、総呪力量が少ないほど呪力操作はしやすくなるのでこれは問題ないだろう。

 

 そして全身の筋肉、関節、内臓の鼓動まで全て把握することが必要だ。自分の体のことをなにより完璧に知ることが「理」に繋がる。

 

 そこまでしてやっと「理」を習得する地盤が出来る。

 

 その後はそれらを利用した動きや技を学び、最後の奥義を習得した時をもって“羅刹流”の修了。

 

 明日から早速教えていこうと思う。

 

 

 また、狗巻君が持つ術式の観察を明希にお願いしておいた。

 明希の識覚は相手の何もかもを裸にする。

 

 五条先生の六眼の完全上位互換といっても過言ではない。とはいえ識覚を完璧に扱えるのは今でも明希だけなので、私にそこまですることは不可能だが。

 

 狗巻君が持つ術式は「呪言」

 

 言葉に呪いが宿るという特殊な術式。先に言っておくと、びっくりするほどのチートだ。

 

 格上の相手には呪力消費が激しく、効きづらいという弱点こそあるが術式としての強さだけ見るとそれこそ“無下限呪術”に匹敵する。

 

 例えば彼が敵に「爆ぜろ」と言ったとする。

 すると敵の体は内部から爆発するのだ。

 

 いや何それ?

 ぶっ壊れじゃん!と思うがものすごく使い勝手が悪い術式なのだ。

 

 まず第一に、強い言葉を使うと喉がひどく消費されるという点だ。これにより喉が枯れ、声が出なくなると術式が使えなくなる。

 

 第二に呪力消費だ。

 一つ一つの言葉に結構な呪力を消費するため、そう何発も発動できない。

 

 第三に格上と戦うときの厳しさがある。

 格上には喉の消費も呪力消費も半端なく激しくなり、呪言も効きづらい。また、頭を呪力で覆うと対策できるというのも弱い点だ。

 

 そして最後。

 

 普通に話せなくなる。

 友達との軽いじゃれあいでこんなセリフを言ったとする。

 

「お前だるいってまじで。死ね!」

 

 昨今では珍しくないような罵倒だが、彼がこれをすると本当に死ぬ。だから狗巻君は語彙をおにぎりの具で縛っているのだ。

 

 

 最後の問題以外は一挙に解決する方法がある。

 

 それこそ反転術式の習得。

 

 枯れる喉は反転術式で治せるようになり、呪言が効かない相手にも使える手札が一枚できる。また、その過程で効率的な呪力操作を学ばせて呪力消費を抑えようと思う。

 

 実は狗巻君が普通に話せる方法も思いついている。

 だがこれはまだ判断しかねる。

 

 私が手を握っておくこと。「呪言」が発動しようとした側から術式の強制解除を行えばいいのだ。

 または黒縄で作ったチョーカーでも付けておけば良い。

 

 でもそれはその場限りの対策でしかない。

 話している途中で黒縄が全て焼き切れたらどうする。

 話しているだけで呪力切れで倒れるかもしれない。

 

 折角慣れてきたであろう語彙を縛るという行為を一度でも辞めてしまえば気が抜けてまた人を傷つけてしまうかもしれない。

 

 彼が一言も話せなくなるかもしれない。

 

 狗巻君は優しくて良い子なのだ。友達を傷つけるくらいなら話さないことを選ぶだろう。

 

 教師は生徒に責任を持つべきだ。他の誰より彼らのことを考え、悩み、導く。

 軽はずみな真似はできない。

 

 それでも術式反転の習得は全然悪い考えではない。

 

 これも明日から育てていこう。

 

 

 一番悩むのがパンダ君だ。

 

 私は原作の二年生組が戦ったとき、勝利するのはパンダ君だろうと思っている。

 どんな相手と戦っても一定以上の勝負はできるだろうという対応力や頭の柔らかさが彼の武器。

 

 彼は夜蛾学長が創り出した突然変異呪骸である。自立して動く感情を持ったパンダの呪骸。

 

 今までこのような呪骸は作られたことがなく、この世界にたった一種類の特別な存在だ。

 その正体は体に埋め込まれた三つの核にある。

 パンダ自身の核、ゴリラの力を持つお兄ちゃんの核、そして照れ屋なお姉ちゃんの核がそれぞれ監視しあい、絶妙なバランスの上で成り立っているのだ。

 

 その精神性は人間よりパンダに近いが、人間としての倫理性も持ち合わせている。

 私は彼もまた天才だと思っている。

 

 彼は呪骸故に生まれながら持つ術式を持たない。

 また、尖った武器も持っていない。

 

 いうなればオールマイティ。

 

 ならそれを伸ばせば良いと思った。

 高い身体能力にキレる頭脳があればそれだけで十分に強力だ。

 

 それに核が三つあるというのが素晴らしい。それはつまり他より三倍ほど呪力の許容量が多いということだ。

 

 それに加えて一つ、パンダ君だけが使えそうな必殺技も思いついている。

 

 

 よし、全員の方針が決まった。

 ノートに書いて記録しておき、それに合ったカリキュラムをそれぞれ組み立てていく。

 

 まずは全員呪力を増やすところから始めよう。

 

 いきなり何言ってるのって?

 ふふふ、私を誰だと思っているのかね?

 

 天才鬼才神才の亜鬼ちゃんはもちろん教師に役立つ術式も手に入れている。

 

 敵対者から色々なものを奪う術式を持つ一級呪霊を吸収したときのことだ。

 その術式の名は「簒奪法」誰かと接触した際、呪力や体力を奪うという能力。

 

 だがこれだけなら正直吸収術式の下位互換と言わざるを得ない。

 

 しかしここで思いついたのだ。

 私が放出術式で扱う術式って・・・

 

 

 

 

“反転”できないのだろうか?

 

 

 

 そう考えて苦節一年。

 遂に習得した技術。

 

 名付けて放出反転。放出術式によって扱う術式を反転する絶技。

 これで「簒奪法」を反転させた。

 

 結果手に入れたのが「贈与法」

 相手に接触する際、呪力や体力を分けることができる。それだけでなく、私に付けられた傷や溜まった疲れを相手に与えることも出来る。

 

 だが一番の使い道は教育だと考えた。

 

 これで三人に呪力を与える。それで本当に呪力量が増えるのか不安に思う人も多いだろう。

 

 結論から言おう、増える。

 

 そこらへんの呪霊で実験は既に済ませてある。個人差はあれど、毎日呪力を流し込み続けると呪力量は増える。

 

 だがここで注意しなければいけないのは呪力の与えすぎだ。下手をすると呪いに意識を奪われるし、体が耐えきれなくなることもある。

 

 だがそれは呪力操作の技量によって解決する問題。私なら問題ない。

 

 一ヶ月ほどで目に見えて効果が表れ始めるだろう。

 そこからは一週間合宿の予定だ。

 

 名付けて、“黒閃打つまで帰れません”だ。

 

 真希ちゃん含め全員に黒閃を体験してもらう。

 そこでやっとスタートラインだ。

 

 

 真希ちゃんは身体強化の訓練の後、羅刹流を学ぶ。

 

 狗巻君は術式反転の習得。

 

 パンダ君は私に体術を教わりつつ切り札の開発を目指す。

 

 

 勿論並行して呪力は増やし続ける予定だ。

 

 それに加えて真希ちゃんには呪具の扱いも覚えてもらうし、狗巻君は体術というより身のこなしを鍛える。

 彼は別に打撃でダメージを与えられるようになる必要はない。

 近づかれても対応できる程度で充分だ。

 

 さて、今日は寝よう。

 

 明日から楽しくなりそうだ。

 

 





 乙骨が来た時に里香ちゃんが祓われないかが心配になってきた。


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