遂に原作に深く切り込んでいきますが、これからは少し展開が遅くなっていくと思います。丁寧に丁寧に描写し、亜鬼だけでなく他の登場人物の美しさ、魅力を描いていきたいです。
現在今までの話の添削中ですので少し投稿が遅れます。
呪術高専の地下には様々な部屋がある。
そこには多くの呪術師が待機しているうえ、五条や亜鬼を代表に上層部や呪詛師連中に恐れられる者もおり、何かを守るという面では世界でもトップクラスに信用できる場所だと言えた。
そんな場所に作られた保健室。“他人に反転術式を施せる”という特異性を持つ家入が管理している場所であり、呪術師が活動していく上で欠かせない場所である。
当然警備は厳重。家入自身は自衛程度の戦闘能力しか持たない為、必ず準一級以上の呪術師が二人警護し、保健室に繋がる道には窓が二人一組で見回りを行っている。
これは亜鬼が提案したことである。
当初、全くと言って良い程保健室への襲撃が警戒されておらず、何時でも誰でも入り放題だった。
ただの学校の保健室ならそれでも良いが、ここには人間国宝と言っても差し支えないほど重要な存在である家入硝子が常駐しているのだ。
もし亜鬼が呪術高専を落とすなら、まずは保健室を狙うだろう。そこさえ抑えれば後脅威となるのは五条くらいのものであり、その他の術師のほとんどは反転術式による治癒が行えないのだから。
そんな考えから保健室の場所を地下に移し、警備も配置した。
それと同時に外出の際には亜鬼が共に付く。
過剰だと思われるかもしれないが、これでも足りないくらいの人材なのだ。
原作よりも呪術師側の戦力が増し、呪霊側が厳しくなっている今、相手がどのような手段を取ってくるかは分からない。そんな中で家入を無防備に晒しておくなど、殺してくださいと言っているようなものだ。
やれる事は全部やる。
守る為なら全てを尽くす。
亜鬼が心に決めたことだった。
「それで、この子が宿儺の器?」
「はい。私が救助し、反転術式による治癒を行いました。今は精神的な疲れからか眠りを欲しているようです」
家入が亜鬼に事情を聞き、虎杖の体の無事を確認し終わった後、虎杖が目を覚ますまで待機することになった。
後々五条も保健室に来るという連絡も聞いている。
家入は虎杖を心配そうに見つめる少女を横目に彼女との出会いを思い出していた。
◆
二人が出会ったのは本当に偶然だった。
まずまず、亜鬼は任務で怪我をしない。
よしんば怪我をしたとしても自分で治す。
基本的に亜鬼が受け持つ任務は特級から準一級の案件であり、その中でも上層部が選りすぐった悪辣で嫌がらせとしか思えないような物ばかり。
だが、亜鬼からすれば朝飯前も良いところ。特級案件ですら歯牙にもかけない。上層部からの嫌がらせということすら気がついておらず、特級術師はこれくらいの任務なんだなぁとぼんやりと考えているだけ。
精神が頑強で強靭な亜鬼に精神的な疲れはほとんど無く、呪霊故に睡眠も必要ない。
他の呪術師の何倍も凶悪で危険な任務を何倍もの量、何倍もの速さで片付けていく亜鬼はどんどん有名になっていき、その評価は天井知らず。
家入の耳にもその噂は入ってきていたし、五条からよく話を聞かされていた。
やれ良い子だとか、頼りになるだとか、結構可愛らしいだとか・・・
五条より強い、だとか。
そんな馬鹿なと一笑に付していた。
性格も見た目も良く、それでいて五条より強いだなんて・・・
どんな妄想だというのだ。
全く怪我をしない亜鬼は何時まで経っても保健室を訪れることはなく、家入の頭の中には噂だけが横行する。
そして想像の末に出来上がったのが長身で筋骨隆々の戦闘狂。五条と気の合うライオンのような女性だ。恐らく結構な美人なのだろう。まずまず呪霊という時点で整った外見というのは考えにくいが・・・
そうして頭に亜鬼のイメージが固定されてから二ヶ月が経った。
家入は気分転換に高専の敷地内を歩き回りながら煙草を一本取り出して口に咥えようとし、溜息をついてそれを仕舞った。
連日運ばれてくる重症者に被呪者。終わらない労働、絶え間ない治療時間。保健室勤めになってから続く毎日の疲れで目の下には深い隈が出来上がり、体の調子は優れない。
別段楽しみがある訳でもなく、死にたくないから生きているというような日々を過ごしていた。
「はあ・・・」
口元から漏れる溜息は止まらない。
理由は無いが、何だか気分が優れなかった。
「大丈夫ですか?」
後ろから聞こえた幼い声に振り向く。
白く輝く絹のような髪は腰まで流れ、余りにも整いすぎた顔立ちはどこか人形を思わせた。身長は低く、高く見積もっても百三十程度だろう。
黒いワンピースを身に纏わせ、紅い瞳が宝石の様に輝いている。
綺麗だ・・・
家入は心の底からそう思った。
世界の愛を一身に受けとめて生まれてきたかのような美貌。
ひどく驚いた表情も愛らしい。
「あのー?」
「あ、あぁ大丈夫だ。」
どうやら固まっていたらしい。心配そうな少女の視線に申し訳なくなる。
「それよりお嬢さん。こんなとこまで何しに来たんだい?」
一般人ということはないだろう。ただの子供が呪術高専に迷い込むとは思えないし、まずまずツノが生えて・・・
ん?
ツノが生えてる?
「私は自販機に用があって・・・お姉さんは?」
律儀に質問に答えてくれるのは嬉しいのだが、今はそれどころじゃない。
人間にツノって生えてたっけ?いや、生えていない筈だ。
となるとこの子は呪霊?
でも呪霊の侵入アラートは鳴っていないし・・・
「私は散歩さ」
「なるほど」
当然の様に会話を続けてしまっているが、これって少々不味いのでは?
そんなに簡単に忍び込めるほど呪術高専の警備はザルなのだろうか?
これって私はどうすべきなのだろうか?
駄目だ、疲れで考えが纏まらない。
「お姉さん!」
思わずフラつき、倒れ込みそうになったところを少女が支えてくれる。
うーん良い子だ。とても呪霊とは思えないけど・・・
「大丈夫ですか!?」
「あぁ平気さ。ちょっと寝不足なだけなんだ」
毎日毎日ブラック会社もかくやという密度で労働させられ、休みも僅か。
そりゃ寝不足にもなるだろう。
そう考えていると頭を撫でられる感覚。
最後に撫でられたのは何時だっただろうか?小さな頃のことはもう覚えていない。
「頑張り屋さんなんですね」
そう言いながら自分の頭を優しく撫でる彼女の暖かさを肌で感じる。
何故だろう?涙が溢れて止まらないんだ。
頭の方から体の隅々まで温まっていく。
この感覚は・・・反転術式!?
「ちょ、ちょっと!」
そのままでいたい欲求を何とか振り払い、慌てて彼女へと抗議する。
だが彼女は撫でる手を止めなかった。
「人にはね、どうしてもどうしても涙が止められない時があるらしいんです。辛くて、苦しくて、でもそれが何故なのか分からない。いや、本当は理由なんて分かってる、ただそれを見つめ直すのが怖くて・・・」
彼女は諭す様にゆっくりと語った。
少女どころか幼女といって差し支えない身長でありながら彼女の瞳は優しい光を灯し、心の強張りを解きほぐしていく。
「孤独の中、暗闇が貴方を縛り付けても。それでも私達は一歩前へと進んでいかなければならないから。それが死者への手向けとなって、罪無き生者が唯一してあげられる透明な贖いだから」
いまいち調子の悪かった体の隅々まで治されていく感覚。
自分とは次元の違う反転術式。
「だから泣いてもいいんです。泣いて泣いて、流す涙も無くなった時。きっと貴方は再び前を向く」
眠気はすっかり吹き飛び、気分は良好。
もうすっかり動ける筈なのに、今は動く気になんてなれなかった。
「話してみませんか?」
「え?」
「何でもいいですから」
そう言われても困ってしまう。
「本当に何でもいいんです。例えば今日の朝ごはんの話でも良いですし・・・」
「そんなことを話しても面白くないだろう」
そう答えると彼女は首を横に振った。
「心って、繊細なんです。偶に涙で濡らして下らない話で拭ってあげないと、きっと輝けないんです」
まあ今は本当に偶にしか無い休憩時間。
少し過去の話を語ってみるのも悪くないだろう。
そうして私達は日が落ちるまで話し込み、後々夜蛾学長に二人で怒られた。
彼女が噂の亜鬼だと知り、自分のイメージとの余りの差に驚いたのはまた別の話。
◆
「わざわざ貴重な指一本使ってまで確かめる必要があったかね?宿儺の実力」
東京の新宿、騒がしい人混みの中を歩く袈裟を纏った男。
その後ろに続く頭が山のような形をした呪霊、漏瑚が男にそう問いかけた。
「勘違いしているようだね」
「何?」
袈裟の男はニヤリと笑い、漏瑚へと振り向いた。
「本当に確認したかったのは宿儺の実力ではない」
「何だと?聞いていた話と違うでは無いか」
漏瑚は袈裟の男を睨みつけ、話の続きを促した。
「あぁ言っていなかったか。この世界に突如現れた“特異点”について」
「特異点だと?」
「そうだ。彼女は他と明らかに違う。正しく特異点と呼ぶのに相応しい存在だ」
袈裟の男は説明を続ける。
「基本的に呪霊というのは人々の負の感情から生み出された呪いの集合体だ。それ故強力な呪霊というのは伝承に残っていたり、多くの人間が根源的に恐れているものから生まれる事が多い。前者は玉藻前や土蜘蛛、後者は君達のような呪霊だ」
そう、明らかにおかしいのだ。
袈裟の男は自分の術式を上手く駆使して千年以上前から生きてきているが、亜鬼の特徴にぴったり当てはまる伝承など見たことも聞いたこともない。
鬼への恐れから生まれた呪霊かと考えたが、だとするとあの気性の穏やかさは何だ?
「その点特級呪霊“死風”はルーツが全くと言っていい程分からない。乙骨憂太に取り憑いた里香に似た事例だとも考えたが、問題は誰があそこまで強力な呪霊を生み出せるのかという話だ」
“分からない”
その生まれも、真の実力も、彼女の目的も・・・
全く見当も付かず、突如現れた最強の呪霊。
見たところ人間の味方をしており、彼の計画において絶対に障害となる存在。
それこそ五条以上に邪魔になる。あの五条悟ですら祓えない呪霊を一体どこの誰が祓えると言うのだ。
加えて彼女自身が気づいているのかは分からないが、亜鬼の呪力は変質している。
あまりにも膨大にすぎる呪力量に加え、神をも超越するであろう極まった呪力操作により廻り続け、練り上げられた呪力は彼女の体内で濃度を増し、今では血液の代わりに黒く染まった呪力が流れていても可笑しくない。
本来一体の呪霊では到底溜め込むことが不可能な程の量の呪力を濃縮することによって保有し、亜鬼が術式に使用する呪力量を自然回復量が上回った。
つまりは無尽蔵の呪力の保有者と言える。
五条の六眼による呪力消費の効率化や乙骨が持つ底無しの呪力の塊とはモノが違う。
文字通り無限の呪力を持ち、際限なく術式の威力を高めることが出来る。
それこそ地球を飲み込める程にまで。
彼女が味方になれば何もかもが思い通りに進む。
彼女が敵対するなら敵対者には避けられない滅びが待っている。
後五年。いや、あと一年でも充分だ。
それだけの時間があれば彼女に敵対することすら不可能になるだろう。
敵対の意思を持ち、彼女の前に立つだけで死が確定するようになる。
彼女を手に入れるには今しかない。
もはや一刻の猶予も無いのだ。
突如現れたイレギュラーが一つの概念と化す前に・・・
「だからね、私はどうしても確かめたかったのだよ」
「何をだ?」
「彼女の唯一の弱点さ」
その言葉を聞いて眉を顰める漏瑚。
話を聞いている限りでは排除は不可能だと思うのだが。
「彼女が呪霊で本当に良かった・・・」
男は感極まったかのように小さく呟いた。
「心を持つ全能を全能とは呼ばない」
男は悪辣に嗤う。
計画は最終局面を迎えている。
彼女を手に入れられなければどんな策を弄しても終わり。
手に入れられれば何もかもが思い通りに進む。もはや六眼も天元も関係ない。
「私は違う。心など過去に置いてきた」
男はそれだけ言うとまた口を閉じ、通りかかったカフェへと入店する。
漏瑚は深いため息を吐きながら男の後を追った。
亜鬼は自分の呪力の変質に気がついておらず、自分が実質無限の呪力を持つことにも気がついていません。