ここから大きく事態が動いていきます。
「それで・・・何が目的なのかな?“死風”。いや、亜鬼と呼んだ方が良いか。」
目の前で羂索が必死に言葉を紡いでいるのが分かる。
どんなに取り繕っても私の目は誤魔化せない。
「一つ、聞きたいことがありまして」
そう。私が態々、別段介入する必要の無いこの段階で介入したのには訳がある。
「それは?」
問い返す羂索に対して何処までも自然体で答える。
「与幸吉の居場所を教えて欲しい」
私の言葉に驚愕しているのが分かる。
この段階では彼らと与幸吉は縛りを結んだだけで、まだ碌に情報流通すら出来ていない筈だ。
つまり、バレる要素が無い。
だが私には原作知識がある。
原作では利用するだけ利用された後に殺された与幸吉。
彼は幸せになるべき人だ。
だが与幸吉の居場所というのは原作で明らかになっていない。
ダムらしき場所だということだけが分かっている。
その情報だけで探し当てることも出来なくは無い。
だがそれをするには時間が足りない。
与幸吉がいつ自分の住処からダムへと移動したのかすら分からないのだ。
もし与幸吉の居場所を見つけるのが少しでも遅れてしまえば手遅れになる。絶対に失敗出来ない。
だから私は考えた。
どうすれば確実に与幸吉を助けられるのか?
二つの手段があると思う。
一番簡単なのは真人、羂索が与幸吉を殺してしまう前に私が二人を始末してしまうことだ。
あの二人を始末するのはさして難しいことでは無い。
場所を特定し、相対さえしてしまえば五秒あればお釣りが来る。
次案で与幸吉の居場所を羂索、または真人から聞き出し、先に保護してしまうこと。
流石に高専の地下で護られるであろう与幸吉を態々殺しに来るとは思えない。
この二つを同時に採れる機会が一度だけある。
それが呪霊達のティータイムだ。
しかも場所の特定が容易である。
何故なら原作に書いてあるから。
恐らく東京。驚安の殿堂ボン・キホーテの近くの交差点を渡り、少し進んだところにあるレストランカフェ、ゴスト。
これが呪霊と羂索がティータイムをする場所だ。
それだけ分かっていれば場所の特定は簡単だ。マップを見ながら東京を歩き回って探し、該当する場所を発見した。後は“窓”の人に交代で見張りを頼み、怪しげな集団を発見したら連絡してもらう様に頼んだ。
本当は虎杖君が目覚めて安心出来るまで近くに居たかったが、途中で見張りをしてくれていた“窓”から連絡が来た。怪しい集団がゴストに向かっているという。
急いで飛び出し、ダッシュで駆けつけたという訳だった。
「与幸吉の居場所か・・・すまないが知らない情報は教えられないな」
「嘘を吐いても分かる、ということだけは伝えておきますね」
その言葉を聞いて羂索はまた黙り込んだ。
きっとどう打開するか考えているに違いない。
羂索が今使用しているのは夏油傑の死体だ。
私が考える最高のハッピーエンドを迎える為には出来れば残しておきたい大事な物だが、ここで始末するならそれは不可能だろう。
この場にいるのは真人以外の呪霊陣営の主力全員。
つまりは皆特級。
真正面からやりあえば全員片付けるのに一分は掛かるだろうか?
それぞれが逃げに徹し、別々の方向へ逃げられたら何人かは逃がしてしまうだろう。
一気に片付けるには領域展開しか無い。
私の領域展開は五条先生のものとは違い、発動した瞬間に範囲内の物はすべて吸収し尽くされる。
私の領域展開は発動と同時に終了する。
誰も防げない不可避の死。
その代わりに手加減が不可能という唯一の弱点がある。
それでも全力で展開範囲を狭めれば、ぎりぎり周りの人間を巻き込むことなく領域展開出来る。
ここで羂索を消しても真人が与幸吉を殺してしまう可能性も高いので出来れば居場所は聞き出したいところだ。
聞き出して次の瞬間には全員消し飛ばしてやる。
「交換条件でどうだろう?」
「縛りという訳ですか」
やはり縛りを持ちかけて来るか。
与幸吉の居場所を教える代わりにこの場では手出ししない。
それだけでこの危機を逃れられるなら安いものだろう。
「そうだね、内容は言わずとも分かるだろう?」
そりゃそうだ。この状況なら誰でも分かる。
それしか呪霊側が生き残る手段が無いと言い換えても過言では無い位だ。
でもコイツは立場を分かって発言しているのだろうか?
「はぁ〜」
思わず大きな溜め息が出てしまった。
羂索は宿儺に次いで私が嫌いな人間だ。対応もそれに準ずる。因みに呪霊陣営は真人以外皆んな大好きだけどね。
「弁えろ。別に私は絶対に情報が欲しい訳じゃない」
──さっさと吐け。消し飛ばされん内にな
嘘。めっちゃ欲しい。
だがこのセリフは明希の受け売りだ。出来るだけ高圧的に、どちらが上なのかをハッキリさせた方が良いらしい。
「分かった。交渉に応じよう」
羂索はそう言うと懐からスマホを取り出した。
へえ〜やっぱり羂索でもスマホは使うんだ。
羂索がスマホを操作する。
ダムの名前でも調べているのだろうか?
怪しい動きをしないか一挙一動を注視する。
やがて目的の画面に出来た様で、スマホを私へと放り投げた。
それと同時に呪霊と羂索が散開しようとする気配を感じた。
全員が別々の方向へと逃走を図る。
スマホへと注意を向けた瞬間に漏瑚も私の手から抜け出した。
だがそれは想定内だ。
──明希!
──うん!
「逃がしません!」
──領域展開・・・
その時、ただ一人原作内において何の意味も持たせられず死んだ男が動いた。
それが大きく事態を変える。
「お客様、ご注文はお決まりですか?」
なん、だと・・・!
最悪すぎるタイミングだ・・・
どうする?どうすればいいのだ?
駄目だ、今更領域展開を止めることは出来ない。
私は罪を背負って生きていく。
吸収した後人格を夜蛾先生の人形に移して至れり尽くせりするから!
この一瞬に日本中の人間の未来が懸かっているのだ!
“奏死双哀”
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
発動、しない・・・?
馬鹿な。呪力操作は完璧で、呪力の巡りも良好。
失敗する要素など欠片も無い筈だ・・・
いや、発動しないのなら仕方がない。
せめて羂索だけでも仕留める!
「かぁあああああああ!」
何故か行われない追撃、そしてほんの少し出来た隙。
全員が無事に逃げるなら此処しかない!
漏瑚は全力で呪力を練り上げ、廻し、瞬時に術式を完成させる。
──極ノ番“隕”
その名の通り隕石と見紛うような紅い流星が瞬く。
亜鬼は羂索を追撃する手を止めるしかない。
亜鬼本人だけならば無視しても問題無い一撃だ。
だが周りには人が大勢いる。
先程とは違い、止められない状況ではない。
見捨てるわけにはいかない。
亜鬼は呪力の壁を何十にも展開して“隕”を受け止める。
それと同時に倒壊を始める建物の構造を呪力の波を飛ばすことで把握。呪力で補強し、倒壊を防ぐ。
そして周囲の人間全員を薄い呪力の膜で保護、熱を遮断する。
そこまでしてやっと壁と鬩ぎ合う“隕”へと手を伸ばして吸収術式を発動。全て吸収した。
「逃がしましたか」
その手にはマップアプリが開かれたスマホだけが握りしめられていた。
◆
「どうしたの?その表情」
真人は陀艮が作り出した領域内へと帰ってきた羂索の顔を見て思わず問いかけた。
「いや、何でも無い」
「何でも無い訳ないだろう」
だって君・・・
すっごく愉しそうだ