呪霊廻戦 〜呪霊で教師になります〜   作:れもんぷりん

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 順平編開始


考殺

 

 五条は深夜、亜鬼の部屋の扉をノックした。

 中で靴底が擦れる音がして、ゆっくりと扉が開かれる。

 

「こんばんは、五条さん」

「やあ亜鬼。お邪魔するよ」

 

 五条が机に着き、亜鬼が砂糖をたっぷりと入れたコーヒーを差し出す。

 まずは他愛もない話をし、一息吐いたところで本題を切り出す。

 

「それで五条さん、報告があるのですが」

「奇遇だね、僕もだよ」

 

 そしてお互いに情報交換を行う。

 五条からは特級呪霊に襲撃されたこと、未登録の特級呪霊が二体確認されたこと。

 亜鬼からは特級相当の呪霊が徒党を組んでいたこと、特徴からして五条が遭遇した二体はその徒党に含まれていること。

 

 そして夏油傑の遺体が何者かに利用されているであろうことだ。

 

「見間違えは・・・ないか」

「はい。あれは間違いなく夏油傑の肉体でした」

 

 そう伝えると五条は難しそうな顔をして思考に耽る。

 

「取り敢えず、注意しなきゃいけないね。腐ったミカンだけでなく特級呪霊の徒党に傑の亡霊か・・・」

 

 

 

 面白くなりそうだ

 

 

 

 そう呟く五条の顔には隠しきれない怒りが浮かび上がっていた。

 

 

 

 

◆

 

 

 

「東堂、何でここにいるんだ」

「パンダか。久しぶりだな」

 

 東京、呪術高専のグラウンド。

 パンダと東堂が相対していた。その隣では真希とその妹である真衣も火花を散らしている。

 

「話によると乙骨の代わりに一年が三人入るそうだな」

「だからどうした」

「確かめに来ただけだ。つまらん男だと拍子抜けだからな」

 

 東堂は三年生。彼からすれば今回の姉妹校交流会が最後の交流回となる。

 だからこそ代打が本当に乙骨の代わり足るのかを確かめねばならぬと考えたのだ。

 

「俺達だけじゃ駄目だって?」

「そういう問題では無い。俺とお前達の血肉沸き踊る闘争、それに見合わぬ合いの手は要らん。」

「邪魔だから潰すのか」

「邪魔でなければ潰さんぞ」

 

 お互いの視線が交わり合い、決して譲る事は無い。

 だが東堂には大事な用があるのだ。

 彼が何よりも大切にするイベント、“高田ちゃんの個別握手会”。

 

「乙骨に伝えとけ。“オマエも出ろ”と」 

 

 東堂はパンダ達に背を向け、高専の出口へと歩いて行く。

 真衣は最後に一度だけ真希と目を合わせ、挑発的な視線を送ってから場を後にした。

 

「アイツらにも困ったもんだな」

「まあ良い。交流会でボコボコにすんぞ」

 

 そうして二人もまた、鍛錬へと戻っていった。

 

 

 

◆

 

 

 

「凄惨な現場です。覚悟は良いですか?虎杖君」

 

 やっぱナナミンカッコいい!

 等という全く場の雰囲気にそぐわない感想を一つ。

 

 私はこっそりと吉野順平編開始の場面を鑑賞していた。

 やっぱりナナミンは良い。こんなに渋い男が他にいるか!?

 

 おっとっと。思わずキャラ崩壊をしてしまうところだった。

 冗談はさておき、今回の主な目的を説明しようと思う。

 

 目的は大きく分けて三つ。

 一つ目は吉野順平の母親、吉野凪の保護。

 二つ目は吉野順平自身の保護。

 

 そして最後に特級呪霊、真人の吸収だ。

 

 一つ目は凄く簡単だ。順平君の家に置かれた宿儺の指を回収し、吉野凪に嗾けられるであろう呪霊を祓えば良い。

 

 恐らく宿儺の指を私が回収した事は遠目でも分かるだろう。

 きっと真人か羂索が改造人間か呪霊のどちらかを順平君の家に放ち、彼女を殺そうとする筈だ。

 それだけカバーしてしまえば問題無い。

 

 その時本人達が来てくれるなら万々歳だが、それは無いだろう。

 もしかしたら私がいるかもしれないという不安は常に彼らの頭の片隅に付き纏う。だからこそ不必要な場面には出張ってこない。

 

 二つ目もびっくりするくらい簡単だ。何故なら一つ目をクリアすれば解決される問題だから。彼は母親の死体を発見し、偽の犯人を真人に連想させられた結果、闇堕ちしたのだから。

 

 だが本当にそうか?

 

 夏油傑と同じ様にそれを防いだだけでは闇堕ちを回避出来ない可能性は無いか?

 原作の彼がもう殆ど闇堕ち寸前の危険思考だった事は疑いようの無い事実であり、そこを真人に突かれただけの話だったのだ。

 

 例えばこうだ。

 

 いつも順平を虐めている奴らは金も暇も持て余している。もしかするとあいつらは順平の母親にまで嫌がらせをして来るかもしれない。いや絶対にして来る筈さ、虐めはエスカレートするものだからね・・・

 

 これだけでも彼が動くのには充分な理由になり得る。というかなる。彼にとって吉野凪とは唯一の家族であり、尊敬する人物であり、宝物であり、何よりも大事な存在なのだ。

 

 私にとっての明希。

 

 少しでも害される可能性があるなら、それを唆されてしまったなら。

 もう止まれない。

 

 本当は私が順平君を見張り、真人に接触した瞬間に彼を仕留めるのが一番好ましい。

 だが彼は既に真人に心酔している。

 初めて自分を全肯定してくれた存在である真人は彼の中で母親の次くらいには大事な存在なんだろう。

 

 それを目の前で奪われた時、彼の心はどうなる?

 真人は悪者だったんだ!と幾ら説得したところで意味がない。それだけ手遅れの状態だったから。

 

 だから私は敢えて順平君には学校で暴れてもらおうと思う。

 彼の学校にいる生徒達には申し訳ないが、死ぬ訳でも無いし、後で全員こっそり反転術式で治すから許してくれ。

 

 私は私のエゴで守る人間を選ぶ。

 私の手の中、私の守りたい人間を守る為なら何だって使う。

 順平君は私の守りたい人間に入っているのだ。悪いが彼の学校の生徒達は入っていない。

 

 ただそれだけだ。

 

 順平君が原作通りに暴れ、虎杖君が助けに入って彼を抱き止める。

 その後の惨劇を回避する方法は思いついているし、彼だって真人が悪だと気づくだろう。

 

 

 そして三つ目。

 

 真人の吸収。これが一番難しい。

 彼の術式は原作に登場する全ての術式の中でもトップクラスの汎用性を持つ。

 本当に何でも出来る術式、彼の想像が膨らむ限りやれる事は幾らでもある。しかも魂の形を捉えられている人間しか彼にダメージを与えられないとかいう鬼畜仕様。

 

 最強に近い術式だ。

 これは間違いない。

 

 だが私が一番脅威に感じているのは彼の術式の戦闘方面じゃない。

 逃亡方面の厄介さだ。

 

 あの術式は幾らでも囮を生み出せるし、呪力でブラフを張ったり体を限界まで広げて視界を制限することも出来る。逃げようと思えば本当に誰からでも逃げ出せるだろう。

 逃げている途中に通行人に触れて改造人間にしてしまえば追えなくなるし、本当に厄介な術式だ。

 

 私ですら逃げられる可能性が高い。

 だから真人が絶対に逃げられないタイミングを突く。

 

 それこそ虎杖君とナナミンから逃亡した直後である。

 どこに逃げ込むのかすら分かっているのだから、そこを狙うのは簡単だ。

 

 後は信じるだけだ。

 虎杖君の優しさと順平君の心。

 

 そして真人の醜悪さを。

 

 

 

◆

 

 

 虎杖悠仁は今回起こった事件の関係者と見られる吉野順平に接触。

 そうしてお互いに語り合い、虎杖は順平が善良な一般市民であり、今回の事件とは関係が無いと判断した。

 

 修行する中で飽きるほど映画を視聴した虎杖は映画好きの順平と意気投合し、その母親の手によって家に招かれることとなる。

 

「母ちゃんいい人だな」

「・・・うん」

 

 虎杖は酒を飲んで眠ってしまった吉野凪を見てそう呟いた。

 彼女は人格者であり、父親と離婚してからも不満一つ漏らす事なく女手一つで順平を育て上げた。順平はそんな母を誰より尊敬していたし、きっといつか親孝行をすると心に決めていた。

 

「虎杖君のお母さんはどんな人?」

「あー俺会った事ねーんだわ。父ちゃんはうーっすら記憶あんだけど・・・俺には爺ちゃんがいたから」

 

 虎杖悠仁には両親の記憶が殆ど無い。

 彼の面倒をみていたのは彼の祖父であった。今でも虎杖が呪術師を続けているのは祖父の遺言故だ。

 

 その時、虎杖の電話が鳴る。

 

「あ、悪ィ電話」

 

 電話越しに誰かと話す虎杖を見て、順平は本題を切り出す覚悟を決めた。

 電話を終え、空いた虎杖に対して話しかける。

 

「虎杖君は呪術師なんだよね?」

「おう」

「人を・・・殺した事ある?」

「ない・・・」

「でもいつか悪い呪術師と戦ったりするよね。その時はどうするの?」

 

 虎杖の勘が良ければこの時点で順平の事を疑っただろう。

 何故なら虎杖は“悪い呪術師”の話など一度もしていなかったからだ。

 呪術師は呪霊を祓う仕事。呪術師と戦う仕事とは説明していない。

 

 これが初めて順平がこぼしたボロだった。

 話を聞いていたのが七海だったならきっと彼を拘束しただろう。だが七海だったなら順平は話を切り出すことは無かった。

 誰が見ても一目で善良だと分かる虎杖だから、陽だまりの様な暖かさを感じさせてくれる彼だからこそ順平は問うたのだ。

 

「・・・それでも殺したくはないな」

「なんで?悪い奴だよ?」

 

 順平からすれば理解出来ない答えだった。順平の考え方は伏黒に似ている。

 悪い人間だからじゃない。自分にとって害になる人間ならば、自分の大切な人にとって害になる存在ならば・・・きっと殺す。

 守るもの、守りたいものがしっかりと決まっているのだ。

 

「なんつーか。一度人を殺したら、“殺す”って選択肢が俺の生活に入り込むと思うんだ」

 

 だからこそ彼らは同じ男に惹かれるのかもしれない。

 

「命の価値が曖昧になって、大切な人の価値まで分からなくなるのが俺は怖い」

 

 その言葉は楔となって、順平の胸へと突き刺さった。

 真人に与えて貰った力があれば人の命など自分の思い通りだ。殺すことなど訳はない。

 

 それでも殺せない。

 

 彼が一番尊敬する母親の価値まで見失ってしまうなら・・・

 

 彼に人は殺せない。

 

 

 

◆

 

 

「そう。それで良いんです」

 

 虎杖君が帰り、順平君が眠ったのを見計らって窓から部屋の中に忍び込んだ。

 順平君の頭を優しく撫で、その内に流れる呪力量を確認した。

 

 間違いない。やはり彼は既に呪術師だ。

 

 そのまま彼の部屋を抜け、リビングへと足を運ぶ。眠る吉野凪に適当な毛布を掛け、体に反転術式を施す。きっと日々の疲れも蓄積している筈だ。これくらいは良いだろう。

 

「あった」

 

 机の上に無造作に置かれた宿儺の指。間違いない、これが吉野凪の死因。

 回収し、懐へと仕舞い込んだ。

 

「それで、あなた達が誘き寄せられた呪霊ですか」

 

 既に呪霊はこの家を取り囲んでいた。

 全部で十数体だろうか?

 

 

 原作において吉野凪はどんな苦しみの中で死んでいったのだろう。

 

 吉野順平の母親だ、きっと呪術師の才能はそれなりにあった筈だ。

 死の間際、呪霊の存在を視認出来ていたに違いない。

 

 下半身を食いちぎられ、激痛の中で考えたのは己の事では無かったのだろう。順平がどうなるのか、例え自分が死んでも順平だけは・・・

 

 そう思うとやり切れない。

 

 どんなに怖かっただろう。

 

 どんなに苦しかっただろう。

 

 どんなに心配だっただろう。

 

 

 そんな彼女を私は尊敬する。

 きっとその精神こそ、どんな宝石より価値のあるものだから。

 

「だから貴方に未来を贈ります」

 

 亜鬼の右腕が瞬き、周囲の呪霊が全て消し飛ぶ。

 呪力操作の延長が、今では一つの異能と化している。

 

 彼女にも、順平君にも幸せになって欲しい。

 それが亜鬼が考える唯一の事だった。

 

 

 

 

 そして夜が明けた。

 





 今夜もう一話出せたら良いなあ
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