遅くなってすみません!
少し忙しかったです。
禪院真依は姉を尊敬している。
口で何を言おうと、その胸の中にどんな思いを秘めていたとしても。
きっと、この世界で誰よりも姉を尊敬している。
自分には無い呪術師としての才能。
男勝りで頼りになる快活さ。
不思議と自分を安心させてくれる笑顔。
それら全て、真依が持っていないモノ。
真依が姉を尊敬する理由。
そんな姉が大嫌いだ。
そう思ってしまう自分も大嫌いだ。
姉を見ていると自分が酷く小さく見えてしまう。
こんな自分だから、姉は私を置いて行ったのだろうかと勘繰ってしまう。
そうじゃないのは分かってる。
そんな事、置いて行かれたあの日からずっと分かってる。
自分の手を引く姉の姿は今でも脳裏に刻み込まれていた。
あの温かさに安心して、その手に引かれないと歩けない。
もう、この手にあの温かさが籠ることは無い。
「あの啖呵はどうしたのかしら」
「うっせえよ」
真依は釘崎が近寄れない様に銃弾をばら撒いていた。
今までの動き方と手に持っているトンカチを見る限り、彼女は近づかないとまともな攻撃手段は無いと推測したのだ。
それなら近づかせなければ良い。
決定的な隙が出来るまで、取り敢えずの威嚇射撃を続けている。
呪術師を目指すと言って家を出た真希を追うようにして呪術師になった真依だが、彼女の術式は全く戦闘に向いていなかった。
その術式は構築術式。
様々な物を作り出せる汎用性の高い術式の様に感じられるが、実際はそうでもない。
大きな物は作れないし、呪力消費も半端じゃなく多い。
更に言うと、何か魔法の様な効果がある武器を作り出せる訳でも無い。
体への負荷も大きい。
全く戦闘向きじゃない。
真依が欲しかったのは、真希の隣に並び立てる位には役に立つ術式だった。
この術式でどう戦えというのだ?
さして呪力量が多い訳でもない。
身体能力も低い。
体術の才能も無い。
術式も戦闘向きでは無い。
何も持っていない。
姉とは違い、真依は何一つ“特別”を持っていない。
だから必死に考えた。
何か無いかと模索した。
その結果、真依の手に残されたのは一丁の拳銃。
これっぽっちか。
そう思って。
姉と自分の才能の違いをその手に握りしめた。
「何だ? さっきから当てる気あんのかよ!」
釘崎の声が耳に届く。
正直、殆ど頭に入ってこない。
先程、真希と真正面から目を合わせたからなのか。
それとも、こうやって交流会で戦っているからなのか。
ずっと頭から姉のことが離れず、脳裏に浮かび上がってくる。
呪術界において、女に産まれてくる事は障害でしか無い。
その中でも真依は御三家の一角、禪院家に産まれ出た。
その身に宿ったのは何の役に立つかも分からない構築術式。
禪院家が誇る相伝の術式では無かった。
更に真依の立場を下へと追いやったのは、彼女が双子だという事実。
呪術において双子は凶兆。
これ以上無い程最悪の産まれ。
産まれた時から未来は死んでいた。
「んだよ、所詮威勢だけの出涸らしじゃねーか」
「……のよ」
「あ? なんだよ」
「あんたに何が分かるのよ!」
誰が分かるというのだ。
そこらに打ち捨てられる塵芥以下として産みだされた彼女の気持ちを。
彼女の努力を。
「んなの知らねーよ」
だが、釘崎からすれば真依は真希と同じ環境に産まれながら、腐っていった者。
釘崎の大好きな先輩をコケにしたムカつく女でしかない。
「つべこべ言わずにかかってこいや。それとも、戦うのが怖えか?」
釘崎は真依の生い立ちなど知らない、気にしない。
ただただ真依が気に食わない。
それだけで、自分を信じて進んでいける。
生い立ちもあるだろう。
事情もあるだろう。
人間なんだ、譲れない事なんて山ほどある。
知った事か。
釘崎野薔薇、彼女は自分が思い、考えた事だけ信じている。
目の前の女にどんな事情があったとしても。
仲間を貶す奴は許せない。
許せない、許さないと、そう刻み込んだ。
「自分の心で勝負しろよ。軽いんだよ、お前の言葉」
「……いいわ。貴方は潰すと、今決めた」
釘崎はその言葉を聞き、咄嗟にその場から横に跳んだ。
丁度足があった位置に弾丸がすり抜けていく。
正確無比でブレのない射撃。
真依が持つ力を最大限活かせる戦闘スタイル。
「はっ! 当たらねえよそんなもん!」
銃というのは基本的に攻撃方向が分かる。
一般人に躱す事は到底不可能だが、呪力による身体強化と戦闘経験のある呪術師ならそこまで難しい事ではない。
「それはどうかしらね」
だが真依だってそんな事は承知の上。
銃口で方向が、引き金でタイミングが分かるなら。
それを分からなくすれば、避けられないと言う事。
真依は懐から袋を取り出し、それを釘崎の方へと放り投げた。
当然、そんな怪しい物体に触る必要などない。
釘崎は軽く袋を躱し、真依へと向き直る。
「残念、不正解よ」
真依は銃弾を放った。
釘崎にではなく、その袋に向かって。
見事に撃ち抜かれた袋が裂け、軽い爆発音と共に中身が飛び出る。
中に入っていたのは小麦粉。
それが釘崎の近くで舞う。
「チッ!」
視界が遮られた。
何とか目に入る事は阻止したが、それまで。
動きは一瞬止まり、視界は鈍る。
だが真依からは見えている。
呪力感知は呪力を持つ物体の大まかな位置を把握できるのだ。
逆に言えば、釘崎に銃口を正確に察知することなど出来はしない。
「あんたには分からない。産まれに恵まれず、術式に恵まれず、才能に恵まれず」
作り出された一瞬の隙。
「何でも使った。汚い手なんて気にしない。そうしてここまで来た」
磨き上げた射撃の腕。
例え大まかな位置しか把握出来ていなかったとしても。
「これが私の勝ち方よ!」
一筋の弾丸が釘崎を撃ち抜いた。
◆
森の中に一瞬の静寂が満ちる。
それは嵐の前の静けさだったか。
二人の呪霊がこの高専の地に足を踏み入れた。
「花御、無茶をするなよ」
『えぇ。特異点だけでなく、それに乗じて呪術師のレベルが格段に上がっています。幾ら注意してもし足りないでしょう』
「命を賭すのは此処ではない」
大地への恐れから生まれた特級呪霊“漏瑚”
森への恐れから生まれた特級呪霊“花御”
それぞれが濃厚な呪力を放ち、殺意を放っている。
「む?」
『呪術師ですね』
そんな二人の前に一人の呪術師が現れた。
目に映える白髪に意思の通った紫の瞳。
口元には奇妙な印。
───止まれ
「ぬう、動けん」
『……厄介ですね』
時間にして僅か二秒程度ではあるが、二人の歩みを止めさせた。
警戒に値する呪術師である事は間違いない。
『ここは私が受け持ちましょう』
「ふむ。では任せたぞ」
花御は白髪の呪術師、狗巻棘と真正面から対峙した。
漏瑚は別の呪術師を探しに飛び立つ。
正直二人がかりで殺しにかかっても良いが、今回の目的は出来るだけ注意を惹きつけること。
ならば此処は花御に任せるのが得策。
お互いに向き合う二人。
花御は狗巻から得体の知れない威圧感を感じていた。
紫色の瞳が自分を射抜いているだけだというのに。
そこらの呪術師とは違う。
纏う呪力が洗練されている。
間違いなく特級クラス。
祓われるかもしれない。
目の前の少年に、たった一人で。
そう思わせるだけの“何か”がある。
狗巻は花御から身を刺す様な敵意を感じ取っていた。
木っ端の呪霊からは到底見出せない意思が見て取れる。
強い。
間違いなく特級呪霊。
殺されるかもしれない。
目の前の呪霊はそれだけの力を持っている。
二人はそれぞれ、覚悟を決めた。
『星が哭いている』
「しゃけ、いくら、明太子」
◆
「ふう、良かった。当たって」
真依は一先ず胸を撫で下ろした。
血の気の多い奴は時々、気合いだけで状況を覆してくるから困る。
自分の手札の少なさは彼女自身が一番分かっている。
その殆どが意表を突く初見殺し限定の戦術であり、一度通用しなければ詰みな事が多い。
だから一勝をもぎ取るのも一苦労。
何とか彼女はこれでここまでやって来た。
それでも、絶対に敵わない相手というのは確かに存在する。
努力だけでは到底埋められない隔絶した実力差。
「まずは一人目か」
真依は己の後ろから聞こえて来た声に絶望した。
正確には感じ取れるその呪力に。
禍々しく、膨大な呪力。
そこから放たれる殺意。
咄嗟に振り向いた真依が見たのは自分に伸ばされた燃え盛る掌で。
死んだ、と思った。
スローモーションで流れる視界。
死の間際、限界まで発揮された集中力。
真依の頭にはずっと、姉がいた。
辛い時、悲しい時、自分は何を頼りにしていたんだったか。
確か────
『お姉ちゃん。手、放さないでよ』
『放さねーよ』
『絶対だよ?』
『しつけーなぁ』
『絶対、おいてかないでよ』
『当たり前だ。姉妹だぞ』
────誰かに手を引かれた。
そこから伝わってくるのはほんのりと優しい温かさで。抱き止められた時、伝わってくる心音が心地良かった。
あぁ、私はこれが何よりも───
「誰の妹に手、出してんだ」
────頼もしかったんだった
しなやかで完成された肉体。
人間という種族の一つの完成系。
天与呪縛のフィジカルギフテッド。
禪院家の落ちこぼれ。
何より、一人の姉。
「殺すぞテメェ」
「紛い物が。舐めた口を」
四級術師、禪院真希。
特級呪霊、漏瑚。
人間と呪霊。
お互いの正義が激突した。
あー尊い。
てぇてぇわぁ。
バッドエンドの有無
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バッドエンドも一応見たい!
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ハッピーエンドだけで良い!
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出来ればバッドエンドは書かないで欲しい