呪霊廻戦 〜呪霊で教師になります〜   作:れもんぷりん

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 我ふっかつ!
 待っててくれた皆様、本当に遅くなりました!
 ここからはアゲてくぜ〜!


真希

 

 強さとは何か。

 真希はずっと考えていた。

 

 強さにだって色々な種類があるだろう。

 何者にも道を阻まれなければ強いと言えるだろうか?

 

「カカッ! 手も足も出まい!」

 

 漏瑚が吠える。

 その手から放たれるのは死の焔。

 

 森の中にも関わらず、煌々と輝く光球が真希へと向かう。

 

「生温い」

 

 真希の手に、肌に、薄い呪力の膜が何層にも重なって作り出された。

 深く息を吸い、身体強化を爆発的に高める。

 

 

 ───羅刹流・奥義 “朱雀”

 

 

 踊り子が舞う様に、鳥が羽ばたく様に。

 真希の手が揺れ動く。

 

 煌めく光球にそっと触れると、まるで自らの意志で動いている様に逸れていった。

 一つ、二つ、流されていく漏瑚の焔。

 

 その手の動きはゆっくりでありながら、瞬間的に目で追えない程の速度に到達することもある。

 独特で先の読めない動作であり、それはどこまでも美しい。

 

 完成された舞いであった。

 

「注意が散漫だ」

 

 だが漏瑚は強者。

 この世界でも紛う事なきトップクラス。

 

 自らの炎を推進力にし、真希の足元へと潜り込む。

 その手には更なる破壊の炎が握りしめられていた。

 

 

 ───空振

 

 

 凄まじい爆発音と共に真希の体へと衝撃が迫る。

 亜音速にすら到達しうる速さの掌底が繰り出された。

 

 

「生温い、そう言ってんだ」

 

 

 ───羅刹流・奥義 “青龍”

 

 

 漏瑚の掌底が真希の体に届く。

 刹那、漏瑚の左半身が消し飛んだ。

 

 真希は当然の様に無傷。

 かすり傷さえ付いていない。

 

 

 強さとは何だろうか。

 

 喧嘩に勝てれば強いのか?

 言い負かせば強いのか?

 

 つまり、勝利する奴が強いのか?

 

 

 いいや違うな。

 

 強さってのはそんなに単純なものじゃない。

 

 

「その程度かよ、呪霊」

 

 

 心に刻んだ事をやり通す意思の力。

 

 勉強でも良い。スポーツでも良い。

 ゲームでも、イラストでも、歌でも、何でも。

 

 成し遂げたいと思う、その心が強さへと繋がっている。

 

 

 真希は弱かった。

 それはもう目も当てられない程に弱かったのだ。

 

 心のどこかで、自分は少し他人よりも不利だと言い訳をしていたのかもしれない。

 だから弱くても仕方ない、努力してるんだから仕方ない、これ以上強くなれなくても仕方ないと。

 

 ある一人の教師と出会って、自分が恥ずかしくなった。

 

 私は何をしているんだ?

 

 何故下を向いているんだ?

 

 気がつけば足を止めていた。

 

 

『真希ちゃんは頑張り屋さんですね』

 

 あの不思議な教師はこう言った。

 真希はその言葉を聞いて、思わず反論してしまったのだ。

 

『別に頑張り屋なんかじゃない。ただの跳ねっ返りだ』

 

 ……と。

 実際そうだ。真希は自分の家への反抗心から飛び出し、彼らを見返してやることを目的に呪術師を続けている。

 

『そういう人の事を頑張り屋さんって言うんですよ。悔しくて、泣きたくて、蹲りたくて……。それでも前を向くと決めた人』

 

 亜鬼はゆっくりと真希の頭を撫でながら言葉を紡いでいった。

 優しく、泣き叫ぶ赤子をあやすように。

 

『それって、何よりも凄い事だと思うんです。だから私は、そういう“強さ”を尊敬しています。もちろん、真希ちゃんもその一人です』

 

 

 ふと、自分が自然に笑えている事に気が付いた。

 ずっと、必死に強気な笑顔を見せていたのに……

 

 真希の強さの根本。

 それは禪院家の連中を見返す事でも、禪院家の当主になる事でもない。

 

 真希は禪院家の当主になって、自分と妹への不当な扱いを変えようと思っていたのだ。

 それは何より大事な妹の為。

 

 ほんの少し。一般人よりは多少マシ、程度の力しか持っていなくても。

 

 彼女には何よりも守りたいものがあったから。

 

 だから前を向いている。

 だから今も歩み続けている。

 

 だから彼女は、真希は────

 

 

 

   ────強い。

 

 

 

「もう終わりか? 悪いが……」

 

 

 まだ私の怒りは収まってねえぞ。

 

 

「もう終わりか、だと? 巫山戯るなよ紛い物が」

 

 

 今からが始まりだ

 

 

 刹那、漏瑚の体が急速に再生を始める。

 それと同時に凄まじい呪力が渦巻き、大地が揺れる。

 

「負の感情は儂等呪霊の領分だ。貴様らの怒りなど……片腹痛いわ!」

 

 流れが見える程に練り上げられた呪力が地面へと叩きつけられ、大地が鳴動する。

 ベキ、ベキと大地が卵の破片の様に剥がれ落ち、罅割れた部分からは溶岩が吹き出した。

 

「踊れ女! 特等席で宴を魅せてやろう!」

 

 漏瑚の手が不思議な印を結ぶ。

 それは呪術の到達点。

 

 理不尽極まりなき理の一つ。

 

 

────領域展開

 

 

 この世界に顕現した地獄。

 

 

    “蓋棺鉄囲山”

 

 

 景色が塗り替えられる。

 人間が過去から恐れ続けていた景色。

 

 人間という非力な種族では太刀打ち不可能なその地獄。

 

 燃え盛る大地、隆起する活火山。

 周りは大岩に囲まれ、脱することは能わず。

 息をするだけで肺が灼けてしまう程の熱気。

 そこで生存できる生物など、数少ない例外を除けば存在しないだろう。

 

 目の前の一人はその例外だった。

 

「なるほど熱いな」

 

 顔を伝う汗、ほんのりと蒸気して炎の光を照り返す頬。

 肌はジリジリと確かな熱を感知し、その環境が如何に過酷かを教えてくれる。

 

 それでも真希はそこに立っていた。

 何食わぬ顔で、まるで効いていないと言わんばかりに。

 

「貴様、何故生きていられる!」

 

 漏瑚が思わず問うてしまうのも無理はない。

 普通の人間どころか並の術師ならこの領域に入った時点で焼き切れてしまうだろう。

 特別な術式を持つ者か、または莫大な呪力を有する者か、真希がそうであれば何も不思議なことでは無い。

 

 だが目の前の女は違う。

 有する呪力は平凡で、術式が特別で無いことも分かる。

 

 ならばなぜ?

 

「そりゃあお前、決まってんだろ?」

 

 

 

 

  私が強えから。

 

 

 

 

 真希は亜鬼に鍛えられ、元来体に宿っていたフィジカルギフテッドを大幅に底上げした。

 もはや彼女の体はただの人間と比べるのも烏滸がましいほどの馬力と耐久力を持ち、それが更に呪力で強化されているのだ。

 

 そう、真希は人間として、生物として、一つの頂に立っている。

 少しの熱など、計算に入らない。

 

「カカッ。威勢が良いのは結構だが、それで未来は歩めんぞ?」

 

 漏瑚はその答えを聞き、真希に対する評価を改めた。

 その上で、勝てると確信した。

 

 目の前の人間は確かに強者であり、厄介な相手でもある。

 だが自分に届く程ではない。

 

 ニヤリと笑い、真希を見据えた。

 

「それは分かんねえぞ? 少なくとも私はこれで生きてきたんだからよ」

 

 真希もまた、彼我の実力を正確に把握していた。

 結論から言うと、ほぼ互角。若干真希が不利と言ったところか。

 

 だがそれは“羅刹天”を使うことで容易くひっくり返る程度の差でしか無い。

 問題は漏瑚が“羅刹天”を使う隙をくれる程甘い相手では無いと言うことだ。

 

 “羅刹天”を使うのに必要な時間は最低でも5秒。

 強者同士の戦いでは致命的すぎる時間だ。

 

 その結果真希が出した結論は時間稼ぎ。

 パンダか、はたまた狗巻か。そのどちらかが応援に来るまでの時間を稼いでしまえば“羅刹天”を使うことが出来る。

 

 だが、時間稼ぎという選択肢を真希が取るであろう事も漏瑚は分かっていた。

 恐らく目の前の女は彼我の実力差が分からないほど間抜けでは無い。となると取れる選択肢は限られてくる。

 

 真希は漏瑚が短期決戦を挑もうとしている事を肌で感じ取り、緩やかに口角を上げた。

 戦う時、少し笑うのは真希が本気を出す時の癖だ。

 尊敬する教師はいつも楽しそうに笑っていて。

 

 その笑顔にどれだけ勇気を貰っただろうか。

 

 その笑顔に何度背中を押されただろうか。

 

 その笑顔に憧れて。

 

 そうして今此処に立っている。

 

 決めた。

 

 時間稼ぎなんてらしくない。

 真正面から叩き潰してやる。それが目の前の呪霊への礼儀だと、何故かそう思った。

 

 目の前の呪霊は計画的に呪術高専を襲撃してきたのだろう。

 それがどれだけ恐ろしいことで、どれだけの無理難題かも分かって。

 

 すげぇじゃねえか。

 

 なんだ、なかなかかっけえじゃねえか。

 

 そしてその瞳に、漏瑚も応えた。

 

「呪霊、名前は?」

「小娘、名前は?」

 

 お互いがお互いを敵だと認めた。

 そして、敬意を表すべき相手だと“心”の部分が考えた。

 

 その“強さ”に対して敬意を示す漏瑚と、その“覚悟”に対して敬意を示す真希。

 

「真希だ。覚えなくていいぜ」

 

「漏瑚。冥土の土産にくれてやろう」

 

 そうして両者は衝突した。

 

 全身に炎を纏う漏瑚と、呪力の膜を纏う真希。

 

 漏瑚は領域内で必中と化した己の術式と体術を交えて真希を追い詰める。

 炎が踊り、空を彩った。

 

「ッビャアアアアアアア!」

 

 漏瑚が一度手を振り下ろすだけで、津波のような溶岩が真希に迫る。

 

 ───抱擁岩

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

 

 それに対して真希は真正面から応戦。

 両手を胸の前で叩き、呪力の波を生み出した。

 その波を右足の踏み込みと共に前に押し出す。

 

 ───羅刹流“天薙”

 

 溶岩と呪力の波が激しく鬩ぎ合い、局地的な爆発を生んだ。

 煙が広がり、少しの間お互いの視界を遮る。

 

 ───羅刹流“零界浸透”

 

 その一瞬を掴む事が真希が持つ唯一の勝ち筋となる。

 卓越した呪力操作により一時的に自分の体に廻る呪力を零に限りなく近くした。

 

 結果、漏瑚は真希の居場所を呪力感知によって知る事が不可能になる。

 

 勿論、真希は身体強化も切っており、体の周りに薄く張っていた呪力の膜も全て取り払った。

 つまりは無防備。

 漏瑚の領域に存在する熱が容赦無く真希の肌を灼いていく。

 

 真希の位置が分からなくなっても、漏瑚は慌てない。

 その必要がない。

 

 何故なら漏瑚からすれば真希は見えずとも、術式を発動すれば攻撃が当たるのだから。

 いくら技術を擁しようと、領域の中の攻撃は必中効果を得る。この理は変わらない。

 

 そんなことは真希も分かっている。

 理解していて飛び出したのだから。

 

 服も肌もボロボロになり、視界は霞む。

 フィジカルギフテッドであるからこの程度で済んでいるのだ。

 

 腕は半分炭化し、足は焼き焦げて動きを鈍らせる。

 痛みから溢れる涙はこぼれる側から蒸発し、煮え滾る血が真希を内側から焦がす。 

 

 それでも真希の足は止まらない。

 地面に隆起している岩を足場にし、漏瑚の背後へと回り込んだ。

 

「遂に自棄になったか!」

 

 漏瑚は振り向き様に炎弾を放った。

 術式が必中であるのなら、自分の攻撃が向かう方向で真希の大体の位置は把握できる。

 

 敢えて隙を見せ、逆襲することは他愛もないことだった。

 

 真希が今までのままだったら、の話だが。

 

 真希が手に持つ不思議な形をした棒を振るう。

 棒はしなり、鞭へと変化して炎弾を全て叩き落とした。

 

「チッ!」

 

 少し動揺しながらも漏瑚の対応が鈍る事は無い。

 溶岩を固めた様な、質量の塊が真希へと放たれた。

 

 ───火砕流

 

 もう真希の喉は半ばから灼けて喋ることも出来ない。

 それでも体は動きを止めなかった。

 

「──────!」

 

 無言だろうと感じる裂帛の咆哮。

 真希の手に握りしめられた鞭は一本の剣へと変化した。

 

 迫り来る溶岩の塊にゆっくりとその刃を振るう。

 熱されたナイフがバターに通された時の様に。

 

 その剣は容易く漏瑚の攻撃を切り裂いた。

 

「莫迦な!」

 

 動揺を隠せない漏瑚へと肉薄。

 もはや自分が本当に動けているのか、ちゃんと剣は握れているか、それすらも分からない様なボロボロの体で。

 

 ただ意思の力だけが真希の体を突き動かす。

 

 真希はずっと、ずっと考えて、悩んで、もがいて、足掻いていた。

 

 掴み取りたい未来があった。

 それを為すには全く力が足りなかった。

 

 目指すべき明日があった。

 それを為すには全く才能が足りなかった。

 

 成りたい自分があった。

 それを為す意志の力、それだけがずっと体に燻っていた。

 

 目が見えずとも、体の感覚がなくとも。

 今は全てが輝いている様に感じ取れるから。

 

 だから不安なんてない。

 

 きっと、いや絶対。

 私は強い。そう認めてもらえたから。

 

「舐めるなよ、小娘がぁ!」

 

 あの日、漏瑚の身を浸したのは深い絶望と、去来する悲しみだった。

 

 自分たち呪霊の立場を変えたいと願って行動してきた。

 そして出来た仲間たち。

 

 あの日、自分たちのリーダーであった真人が祓われて。

 その胸に言い表せぬ悲しみが居座った時。

 

 漏瑚は決めたのだ。

 

「儂にはやらねばならん事がある! 貴様ごときに止められて堪るものか!」

 

 きっとお前の願いは繋ぐ。

 100年後、またお前が生まれた時。

 

 真人、共に酒でも呑み交わそうではないか。

 我ら呪霊の描く世界の片隅で……

 

 

 ────極ノ番「隕」

 

 

 真希が持つ呪具は亜鬼が構築術式を使って創り出した物だ。彼女が持つ呪力を存分に注ぎ込み、ある術式の力を織り込んだ。

 

 その術式とは“放出術式”。

 織り込んだのは新理「伊邪那美」の力。

 

 それは真希が持つ切り札であり。

 

 真希が最も得意とする呪具であった。

 

 その名も、特級呪具“千欠万神”

 

 その特性は変化。

 

 使用者が見た事があり、触った事があり、特性を理解している呪具に限り、その呪具に変化する事が出来る。

 

 これだけで分かるチートっぷりだが、真希が使う場合は更にその力を増すことになる。

 何故なら、真希は亜鬼の領域内で“天逆鉾”を見て、触れて、知っている。

 

 つまり───

 

 

「──────」

 

 

 ────天逆鉾に変化する事が出来ると言うことだ。

 

 

 ───羅刹流・剣舞“叢雨”

 

 

 そして顕現するは美しい一振りの軌跡。

 森羅万象を切り裂く絶対の刃。

 

 真希が放った斬撃が、迫り来る隕石ごと漏瑚の体を切り裂いた。

 





 久しぶりの解説!

 羅刹流・奥義 “朱雀”

 読み方はすざく。
 踊るように相手の攻撃を全て受け流す、防御特化の技。めちゃくちゃ難しい。

 羅刹流・奥義 “青龍”

 読み方はせいりゅう。
 相手の一撃の力を一度受け止めながら、その力を利用しつつ更に自分の攻撃でカウンターする技。
 今回は体の右側で攻撃を受け流しながら回転し、左手で更なる破壊力を押し付けた。

 羅刹流“天薙”

 読み方はあまなぎ。
 掌同士を打ち合わせた時に出る呪力の波を相手の方向へと飛ばす技。
 威力は控えめだが範囲に長ける。

 羅刹流“零界浸透”

 読み方はれいかいしんとう。
 呼吸や足音のみならず、体に巡る呪力まで最大限抑え込む事で、生物としての気配を希薄にする技。
 某ハンターの二乗の絶みたいな感じ。

 羅刹流・剣舞“叢雨”

 読み方はむらさめ。
 羅刹流の中でも珍しい、武器を使った技の一つ。
 己の呪力を刃に纒わせ、その呪具の特性を持った斬撃を飛ばすことが出来る。

 特級呪具“千欠万神”

 読み方はせんぺんばんか。
 これだけを伝えたかった。

バッドエンドの有無

  • バッドエンドも一応見たい!
  • ハッピーエンドだけで良い!
  • 出来ればバッドエンドは書かないで欲しい
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