呪霊廻戦 〜呪霊で教師になります〜   作:れもんぷりん

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 連投(っ'-')╮=͟͟͞͞


 私にストックという考え方はないので、書いたら出して、また書き始めます。


黒閃

 

 ある世界線の、暗い山に佇む洞窟の中。

 

 彼女は静かな寝息を立てて眠っていた。

 目元には涙の筋。

 

 

 

 

 

 ある世界線の、暗い闇に浮かぶ蒼い生命の星。

 

 少女は紙切れを握りしめていた。

 目元には涙の筋。

 

 

 

 夢を見ている

 

 

 二人は叶わぬ夢を見ている。

 

 

 

 

 

 ふと気がつくと、そこは何も無い空虚な世界だった。

 いや、ほんとにここ何処?

 

 今日は黒閃を打てない現実に絶望しながらふて寝しちゃったと思ってたんだけど...

 

 取り敢えず探索してみよう。そう思い立って歩き始めたが、一向に景色が変わらない。

 

 

 何時間立っただろうか?

 

 全く変わり映えのしない白が続く世界。

 走っても、跳んでみても、何も変わらなかった。

 

「うおおおおおお」

 

 全く持ってどうすればいいか分からない。頭がおかしくなっちゃうんじゃないだろうか。

 

「こうなったら...」

 

 ここまで来たらヤケクソだ!

 

 

 少しずつ。

 

 そう少しずつ。

 

 ガチガチに封印を施している吸収術式を解き放っていく。いつも倒した呪霊を吸い込むときは1割も解放していない吸収術式。

 

 その理由は簡単だ。

 

 制御しきれないのだ。

 どんなに呪力操作を磨いても全く制御し切れる気がしない。

 

 だが、今打てる手がないのは事実。この白い世界を吸収してくれないかと思って封印を緩めていく。

 

 ギチギチと体が軋む。

 

 脳が破裂しそうなほど痛く、自分の存在が少しづつ薄れていくのを感じている。

 

 封印を3割ほど解放した時、いまだに白い世界に変わりはない。

 

 

「ぐうぅっ!」

 

 

 くぐもったような声が漏れ、視界が霞んでゆく。

 

 

 術式を5割ほど解放した時、ふと薄れた視界に少女が立っているのが見えた。

 

 

 泥で汚れた服。

 

 傷だらけの体。

 

 泣き腫らした瞳。

 

 

 もう術式の解放は止められず、7割がた解放されてきている。

 

 体の感覚も無くなってきた。ただあの少女を巻き込むわけにはいかない。

 

 何も見えない聴こえない。

 

 触覚もなく、もはや自らが本当に存在しているのかさえ分からない。

 

 

 いや......

 

 

 聴こえる。

 

 

 

 泣いている。

 

 

 

 泣いている。

 

 

 

 少女が泣いている。

 

 

 術式は9割以上解放された。

 

 薄れゆく意識の中で、ふと考えた。

 

 私の好きな漫画の主人公達ならどうする?

 こんな時、どうする?

 

 足を動かすのも億劫で、本当に自分が移動しているのかすら怪しい。

 

 だがそんなことは関係ない。

 

 前へ。

 

 ただ前へ。 

 

 何も映らない視界。

 泣き声だけが木霊するこの世界の中で。

 

 

 私は確かに少女を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

術式......完全解放。

 

 

 

 

 

 

 

 ある世界線の、暗い闇に浮かぶ蒼い生命の星。

 

 少女は絶望した。

 

 少女の未来は明るくない。

 この暗い世界に希望なんてない。

 

 宝物だった。その物語に触れている時だけ、救われた。いつもなら施設に戻る時間になっても少女は破り捨てられた物語をかき集め、それらを抱いて座り込んでいた。

 

 ふと風が吹く。

 

 少女を嘲笑うかのように物語の破片は飛ばされていった。

 

 少女はその手に持てるだけの紙切れを握りしめ、その場を立った。

 その目は狂気を孕み、小さな体が壊れてしまいそうなほどの激情を抱え込んでいた。

 

 殺意を持ったか?

 

 ああ。ぐちゃぐちゃにしてやりたい。

 だがそれは自分に対してだ。

 

 反抗すれば良かったんだ。

 

 無駄に大きな才能を持っていたくせに。

 

 好きを壊され、愛に飢え、少女は近くの高層ビルの屋上へと足を向けた。

 

 

 才能なんて要らなかった。

 

 ただ愛して欲しい。

 少女は抱きしめられたかった。

 

 温かい人肌を感じながら目を瞑り、その頭を優しく撫でてもらいたかった。朝はおはようと共に起き、夜はおやすみと共に眠る。

 温かな朝食と愛の詰まった夕食。

 母が与えてくれる細やかな愛の結晶達が欲しかった。

 

 

 それは強欲か?

 

 それはいけないことだったのだろうか?

 

 少女は最も得難いものを得ていたが、しかし最も欲するものは得られなかった。

 

 

 夢を見ていた。

 

 

 暖かいベッドの中、誰かに抱きしめられる夢だ。

 

 

 あぁ...

 

 

 

 

 あぁ誰か。

 

 

 

 

 私を......

 

 

 

 

 

 

 

 ふと目が覚めた。

 

 いまだに周りは白い世界のままだ。

 だが、今まで体をギチギチに縛っていた封印がない。

 

 え?

 

 吸収術式を...制御できている?

 そこまで考えたところで、やっと気がついた。

 

 胸元に少女を抱えている。明らかに事案だった。

 

「どえええええええ!」

 

 乙女から出てはいけないような声が出てしまった。慌てて少女を揺り起こす。

 

「んぅぅ〜」

 

 可愛らしい声をあげて目を覚ました少女は一瞬フリーズして。

 

 私と目があったかと思うと、私を強く抱きしめ、大声で泣き始めた。

 

「ええ!大丈夫?」

 

 そう声をかけながらあやそうと思い、頭を撫でると更に泣き声が大きくなった気がする。

 

 一時間後、やっと泣き止んだ少女は私にひっついたまま可愛らしく甘えてくる。なんだこの天使。

 私の体を抱きしめ、ずっと目を合わせて零れ落ちんばかりの笑顔を見せてくれる。

 

「ままぁ!」

 

 はい。私はお母さんですよ〜この子は渡さん!

 

 おっと、取り乱してしまった。

 先ほどから何故かこの子は私のことをままと呼ぶのだ。可愛いから全然OKだけどね。

 

 でも、そろそろ何が起きたのかを考えないといけない。そう思った時、胸の中の少女が私の頭に自分の頭をごっつんこさせてきた。

 

 瞬間、少女の過去が私の頭の中に流れ込み、全てを理解した。

 

 私は寂しさから生まれた呪霊ではなかったのだ。

 私は”少女の寂しさ”から生まれた呪霊だった。

 

 通りで記憶がないわけだ。だって私は生まれたばかりも同然。赤子のようなものだ。

 異常すぎるほど大きい感情を持つ少女の思いだけで構成されたのが私。

 

 少女が死に際に強く考えていた寂しいという気持ちと、呪術廻戦の知識だけが私に宿ったというわけだ。

 

 転生していたのは私ではない。

 

 少女の方だ。

 

 彼女はあまりの寂しさに私という呪霊を生み出し、そしてまだ目覚めてもいない私に抱きついた。

 その結果、彼女は呪術廻戦の世界に転生したのだ。

 

 吸収術式として。

 自我を持つ術式。それが少女の正体だ。

 

 私たちは二人で一つのような存在だった。

 そんな状態で術式を封印していたらどうなるか?

 

 これ以上なく不安定なのは間違いない。

 体が半分動かないようなものだ。

 

 というか吸収術式であるこの子をずっと封印して、閉じ込めていたと思うと心が痛む。

 

 ということはもしやこの空間って...

 

 

 間違いない。生得領域だ。

 

 つまり少女はあまりの寂しさに封印された状態で領域展開を使い、私を領域内に取り込んだわけだ。

 

 正しく天才。あり得ないほどの才能だ。

 でも、ずっと胸に巣食っていた寂しさが薄れている。これはなぜなのだろうか?

 

 

 そこまで考えた時だった。

 

 

 パキっと音がした。

 白い世界にヒビが入り始めているのだ。

 どうやら私の呪力を使って展開していたらしく、流石に時間的に限界だったらしい。

 

 少女はいかないでと言わんばかりにぎゅうぎゅうと私の体を抱きしめ続けている。

 

 だが心配することはない。

 

「これからはずっとずっと一緒。そうでしょ?」

 

 そう。少女の心の闇を理解し、吸収術式を制御できるようになった今、もはや私たちは一心同体。

 家族のようなものだ。

 

「私たちはもう一人じゃないね」

 

 そう伝えると少女は嬉しそうににぱぁっと笑った後、私の体の中に入り込んでいった。

 

 白い世界が崩れ落ちる。

 夜は明け、美しい青空が広がっていた。

 

 この山一帯の生命の動きが手に取るように分かる。

 

 風の流れも。

 

 もちろん自らの呪力の流れも。

 

 

  呪力を心臓に、血管を通して呪力を巡らせる。

 今までがなんだったのかというくらいスムーズに呪力が廻り、あり得ないほどの力が体に溢れる。

 

 手のひらをゆっくりと握り込み、腕を後ろにひいた。

 

 自分の体の中にあの子の動きを感じ、その動きが全く同じようにシンクロする。

 

 目の前の木に目がけて、腕を軽く突き出した。

 

 

 迸る黒い稲妻。

 

 

 

──黒閃

 

 





 少女は誰よりも天才だった。

 そんな少女から生まれた呪霊はもちろん...

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