『序幕:記憶』/『世界と復興』
序幕『記憶』
───あの時、ああしていれば。
───もう一度、やり直せたなら、きっと。
それは、誰しもが後悔の寄る辺に抱く、儚い希望。
そんなものは当然不可能だと、頭の中では理解できているはずなのに───悲しみが、憎しみが、その心が現実を拒んでしまう。
だが、時は欠片たりとも待ってくれはしない。
悠々にして、流転。
ただ残酷に、故も無く時は進んでゆく。
進むべき道が、まだ守るべきがものが残されているのなら。
決して戻ることは、止まることさえも許されない。
悲劇を繰り返さないためにも、立って前へと歩むしかないのだ。
ただ───それでも───
────
───
──
オレに力があれば里のみんなを───
オレが父王を諫められていれば、止められていればあるいは───
カザリーム様、いえカガリ様、私は貴女様の願いを───
ヒナタ、ラズル、マリア、ルミナス様、そして我が師よ、不甲斐ない私をどうか、どうか許してほしい───
私には足りなかったのだな・・・・・・本当の意味でキミを守り思うということ───クロエ、君を “信じる” という心が───
ほんと、世界ってヤツはとことん理不尽だよね。キミもそう思わないかい? だからボクと、ボク達で世界を───
アイツは呆れるほどのバカだった。理想のために、愛する者達のために、オレを友と呼び約束を果たすために───
ああ、我が思いに生まれた愛しい命たちよ。どうやらキミたちが住まうこの世界にとって、創造主たるボクは過ぎたる存在らしい。だから次は、次があるならば───ボクはみんなと一緒に、仲良く楽しく笑って過ごせる仲間の一人になれるといいな──────
第一話『世界と復興』
リムル=テンペストの朝は早い。
ジュラ・テンペスト連邦国───略して
その執務というのは、具体的に言えば主には重要書類の確認や国家運営に関わる様々な計画や法案のための調整会議、各地への視察などなど。
会議は必要とあらば隔日で行われ、また書類に関しては国の発展に比例して各所から毎日大量に提出されるがために、時としてリムルは相棒であるシエルの力を借りるほど忙しくなることも少なくなかった。
ただ、眠る必要のないリムルにとっては朝も夜も関係ないように思えるが、精神生命体であっても休息は少なからず必要とするのだ。
決して、より快適な睡眠───瞑想方法の模索だとか、転生前の世界で三上悟として活動する並列存在の情報共有で手に入れた漫画の最新刊を読むための時間を確保するための言い訳や建前などでは無いのだ。
そんなわけでリムルは、いつもどおり決まった時間になると他の者達に合わせて活動を開始するようにしていた。
仲間達と共に日々発展を目指す毎日は、忙しくもあるがそれ以上の楽しさに満ち溢れていた。
仕事の多さに時折辟易することはあっても、不満を感じることや嫌気がさすことは決して無かった。
リムルがそう感じる理由は、唯一つ。
ようやく仲間達と共に実現した、手に入れた、本当の意味で世界に訪れた平和であるからだ。
天魔大戦───
それは、人や魔王、異界さえも巻き込んだ大災害にして、大混乱。
ヴェルダナーヴァの復活と世界の秩序を破壊せんと目論む者達に端を発した、世界の存亡をかけた大戦争。
世界各地を大きな混乱に陥れたその大事変は、大きな戦乱と事件を多数引き起こし、多大なる被害と犠牲を生んだ。
最終的にはリムルとその配下を始めとする仲間達、さらには各魔王勢力や、勇者を含めた人間国家の一致団結の協力もあり、リムル達───世界を守る者達の勝利に終わった。
そして、その天魔大戦の終結からおよそ半年。
ようやく世界各地での復興のほとんどが完了し、人々は天魔大戦以前とほとんど変わらないか、それ以上の生活にまで戻れるようになっていた。
本来ならば数年どころか十年近くかかるであろう復興事業だが、新興ながらも強大な国力を誇る
まさしく世界が一つになった証とも言える、見事な復興事業だった。
そしてその復興を締めくくる、最後の大事業が間近に迫っていた。
それは平和を願い、復興を祝うための世界規模での祭典。
“祭典” は、およそ二週間に渡って世界中で一斉に、同時開催される。
そして各地で同時開催される祭典は、各地域それぞれでの犠牲者の追悼並びに平和と復興を祝うモノだが、それに加えて
元より、西側諸国と帝国の和解を含めた世界初の “世界会議” は、天魔大戦のゴタゴタで中断したまま、その再開も事後処理や復興に忙しく先延ばしとなっていた。
そういった事情も踏まえて、あらためて “世界会議” を、各魔王勢力や
リムルが最近特に朝から活動的なのは、この “祭典” を必ず成功させるという思いがあってのことだ。
そしてそれはリムルに限った話ではなく、仲間達やこのプロジェクトに参加する全ての者達の協力もあって、今日も一日滞りなく着々と準備は進んでいった。
*
「さてリムルよ。いよいよ明日だな」
黒い礼服に身を包んだその男─── “英雄王” ガゼル・ドワルゴは、その精悍な顔つきにはあまり似合わない、穏やかな面持ちで俺にそう告げた。
ガゼルは数日前から
その理由はもちろん、 “祭典” で開催される『世界会議』や『式典』に関する事前確認や調整のためだ。
そして一部事情ある者達を除けば、現在
なにしろ、西方諸国評議会に属さない諸国家や各魔王勢力をも交えた、世界で前例の無い本当の意味での『世界会議』が開かれるのだ。
調整や準備が慎重かつ念入りになるのも当然の話だった。
「ああ、明日のために念入りに準備してきたんだ。必ず成功させてみせるさ」
「フッ、頼もしい限りだな。立役者が貴様であり、今日までの準備と調整を見る限りは成功は確実と信じているが・・・・・・何かあれば俺に遠慮なく相談するがいい」
ガゼルは俺に向かって満足気に頷きながらそう告げた。
「ありがとうガゼル。その時は頼りにさせてもらうよ」
こういう時、国を治める者として年長者であるガゼルはとても頼りになる。
ちなみに俺とガゼルが今いるのは、執務室から出て町を一望できるバルコニーだ。
滅多に使用はしないが、気分転換や演説などに時折使っているものだ。
そしてその眼下では、今なお “祭典” の準備が推し進められている。
ただ準備と言っても、その作業は誰が見ても分かるとおり、準備したものの最終確認であった。
それはつまり、主要な作業はほとんど完了していることを示している。
「本当に見事なものよな。復興にはかなりの時間がかかると覚悟していたが、たった数ヶ月で復興を終わらせるどころか世界規模での行事を催せるまでになるとは」
「俺もここまで早く終わるとは予想してなかったからビックリしたよ。まあここまで来れたのは、ガゼルや仲間達みんなが協力してくれたおかげだよ」
「フッ、相変わらず謙虚なヤツよな。だがそうは言うがなリムルよ。世界の復興から始まったここまでの準備は、ほとんどは貴様の指揮と計画で動いていたのだ。俺もこの “祭典” の準備に、復興計画の段階から関わっているからこそ言えることだが、仮にもし貴様がドワーフ王国を魔国連邦に組み込みたいと言うのなら、俺は前向きに検討しているところだ。冗談抜きにな」
真剣な表情で俺を見据えるガゼルの眼差しは、その言葉が本気であると雄弁に物語っていた。
当然その言葉を聞いた俺は、表には出さずに驚いた。
おそらくガゼルの発言は、今後世界がより一つにまとまっていくことを予見しての考えなのだろう。
魔物も人間も関係なく、笑って楽しく過ごせる
ガゼルは、この国の在り方と世界の復興を見て、いつかは国と言う境が必要なくなると感じたに違いない。
だがいつかはそうなるとしても、今はその考えを受け入れるきっかけが生まれたに過ぎず、まだまだ解決すべきことはたくさん残されているのだ。
「・・・・・・確かにそうなれば、今以上に交流が盛んになってより豊かな発展を期待できるかもしれない。でも、それにはまだまだ解決すべきことや互いを理解し合う時間、様々な問題に対応するための交流が必要になると思ってる。一方的にじゃなくてお互いが歩み寄れるように、いつかはその世界を目指したいと自ずと思ってもらえるように、少しずつ理解を深めるところから始めようと考えてるんだ。明日の世界会議はそのきっかけになってくれればと思う」
「───で、あるか。確かにその通りだな。オレとしたことが、大戦が終結して少しばかり気が抜けていたらしい。先ほど貴様に “頼れ” と言っておきながらこのあり様とは、兄弟子どころか王としても失格だな。そしてリムルよ、貴様を頼りたいと思う者達の心情が今一度良く分かった。先の発言はまたいつかの時にとっておいてくれ」
「ああ、わかった」
俺が返事を返したところで、ガゼルは王としての力ある真剣な雰囲気を解いて、ガゼル個人としての穏やかな雰囲気へと戻った。
その後ガゼルと俺は執務室に戻り、二人で他愛も無い会話をしばらく続けたのだった。