転スラ二次小説 ~あの時間を、もう一度~   作:てな

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『前夜祭』その1

 ガゼルとの歓談から数時間。

 時刻は既に十八時を回っている。

 

 現在俺は、地下迷宮(ダンジョン)の九十五階層 “迷宮都市(ラビリンス)” に居る。

 正確には、この迷宮都市(ラビリンス)に作られた新たな区画であり施設───通称、“迷宮楽園(メイズ・ユートピア)” と呼ばれる統合型複合施設に居る。

 

 九十五階層の区画を整理して生まれた迷宮楽園(メイズ・ユートピア)は、従来のサービス関連施設をより利用しやすく集約し、魔国連邦(テンペスト)で最も充実した最高級の保養施設としての役割を果たすべく誕生した。

 そこには、魔国連邦(テンペスト)どころか世界でもトップクラスの保養と娯楽を目的とした新旧様々な施設が立ち並んでおり、迷宮を正攻法で攻略した挑戦者か、ごく一部の限られた特別会員(VIP)しか利用できない区画となっていた。

 当然、俺がよく利用しているエルフのお店もこの区画にある。

 

 そして、その迷宮楽園(メイズ・ユートピア)に俺が居る理由。

 それはずばり “前夜祭” のためだ。

 

 祭典の開催前日ということで、以前の “開国祭” の時と同様の形式で前夜祭が開かれていた。

 ただその規模も人数も前回の比ではなく、従来の迎賓館の大広間では参加者全員を収容するにはかなり無理があった。

 そこで、元々計画されていた “祭典” の開催に必要となる各施設も、いっそのこと一纏めに統合して建設してしまおうという発想の下生まれたのが、迷宮楽園(メイズ・ユートピア)だった。

 前述したとおり、 祭典が終わればそのまま当初の計画通り、保養と娯楽を存分に提供する施設として本格的な運用が始められる。

 つまりは、祭典に必要な施設を揃えつつ、保養地としての新たな施設を祭典で披露できる、この二つを満たせる素晴らしい施設だった。

 

 迷宮楽園(メイズ・ユートピア)は、統合型複合施設というだけあって、現在の魔国連邦で最も大きな施設だ。

 そこに含まれる施設は、高級宿泊施設を主軸とした温浴施設や大劇場など、各種保養や娯楽を目的としたモノに加え、国際的なイベントでも利用可能な会議場に展示場などをも備えた、まさに万能と呼べるほどに完成されていた。

 

 その迷宮楽園(メイズ・ユートピア)の一角。

 前夜祭の会場には、巨大な円柱状の宿泊施設の飲食関連フロアが使われている。

 そのフロアは大きく二つのエリアに区分けされており、円をドーナツ状に二分する形で客席エリアが、そのドーナツ状の空いた穴に位置する形で厨房エリアが存在していた。

 本来そのフロアは、レストランやラウンジを始めとするさまざまな飲食店を内包した場所となっている。

 その内装を魔法でちょちょいといじって、客席エリアの各スペースを区切る仕切りを無くし、巨大なパーティホールとして利用しているのだ。

 

 客席エリアにはメインとなる立食形式のテーブルを配置し、一部スキップフロアやテラスには数人から十数人で座れる着座形式のテーブルを用意している。

 それだけではなく、厨房エリアとの境目には一部カウンター席が用意されており、天ぷらや寿司など立食形式との相性の悪い料理を出来立てで提供できる仕組みになっていた。

 一流の料理人による、卓越した圧巻の調理過程を間近で観覧しつつ、その一流の技術に裏打ちされた素晴らしい一品を出来立てほやほやで食べられるというわけだ。

 

 なお、今回は魔国連邦(テンペスト)のお披露目が目的ではなく、世界全体で復興と平和を祝う祭典の前夜祭であることから、振舞われる料理も魔国連邦(テンペスト)だけでなく、世界各国から招いた一流の料理人が手掛けた品々が提供される。

 つまり、今日この会場では世界の食文化を余すことなく、存分に楽しめるようになっているのだ。

 

 しかも、世界の一流料理人たちが一堂に会すという、滅多に無いイベント。

 そんな貴重な機会を、ただ前夜祭の一時で終わらせるのは非常に勿体ないと考えた俺の提案により、明日の祭典開催から数日間において、この施設の厨房で料理人たちによる国祭技術交流が行われることが決定している。

 さらに、今日参加している料理人たちには、祭典終了後もこの施設で日替わりでも週替わりでも、なんなら月に数日程度でも構わないので料理人として雇われないかと交渉を持ち掛けている。

 今後の料理という食文化の発展と、後進の育成計画などを熱心に話したおかげか、大半の者が「是非やらせてください」と快く引き受けてくれた。

 そして今後、この施設では各分野の一流の料理人たちが共に切磋琢磨することになり、将来世界で伝説と謳われる料理人を幾人も輩出し、至高にして究極の料理を提供する “食の殿堂” として確立することになるのだった。

 

 *

 

 会場は、料理に舌鼓を打つ者や、普段関わりの無い国や人物と挨拶を交わす者、気の知れた仲で集まり談話する者など、随分と賑わっていた。

 これでもまだ早い時間帯なので、これから続々と参加者が増えるだろう。

 今日の前夜祭は、前回同様に招待者であれば自由に参加が可能となっている。

 各国の元首をはじめ、勇者や魔王はもちろん、有力な貴族や豪商、各勢力や組織の代表陣など、招待状を送ったほとんどの者が参加を表明している。

 しかも、なんと珍しいことに八星魔王(オクタグラム)のメンバー全員が、あのめんどくさがりなディーノも含めて、それぞれ配下を連れ立ってきっちり参加を表明していた。

 

 そういえば魔王で思い出したが、一週間ほど前にミリムがちょっとばかしやらかしたのだ。

 ミリムはよほど祭典が楽しみだったのか、日にちを間違えて開催日の一週間も前にウッキウキでやって来た。

 ちょうどその日は、フレイさんがミリムの代わりとして事前調整やリハーサルのために魔国連邦(テンペスト)へ訪れる日だったので、それでミリムは早とちりしてしまったらしい。

 

 そんなことを思い出しつつ、着座テーブル席から辺りを眺めていたのだが。

 そこでふと、ある人物が目に止まった。

 そうか、彼らも来ているのか───って、あれ?

 元々声をかけるつもりはさらさらなかったが、見ていて少し気になることがあったので、俺はすかさずその人物のところへ移動して声をかけた。

 

「こんばんは。カリギュリオさん───殿?」

 

 俺が見つけたその人物とは、 “ナスカ・ナムリウム・ウルメリア東方連合統一帝国” ───通称 “東の帝国” の軍務大臣、カリギュリオだった。

 普段目にする姿が軍服であることがほとんどの彼だが、今日は見事な白い礼服を着こなしている。

 そしてそのとなりには、初めて見る女性が───おそらく奥さんだろうか? が一緒にいた。

 

「おお、リムル陛下。この度はお招きしていただきありがとうござます。こちらは妻の───」

 

「マミアと申します。お初にお目にかかります、リムル陛下」

 

「あ、どうも初めまして。リムル=テンペストです。一応この国の王様をやらせてもらっています」

 

 てな感じで、俺はなんでもないような、いつもどおりの気さくな雰囲気でマミアさんに応じた。

 そんな俺の様子を見たカリギュリオは、「はは、リムル陛下は変わりませんな・・・・・・」と、苦笑いしている。

 シュナやガゼルがこの場に居たら、間違いなく苦言を呈されていただろう。

 たった今挨拶を返されたマミアさんは、俺の性格を予めカリギュリオに聞いていたのか、すんなりと受け入れていた。

 

 せっかくの楽しいパーティなのだ。

 今日くらい威厳だとか立場だとか、堅苦しくしなくとも別にいいだろう。

 どうせ、この会場には俺の気さくな雰囲気を知っている者しかいないのだから。

 

「ところでカリギュリオさん───殿? 今日はマサユキと一緒に来ているはずじゃ?」

 

「私のことはさん付けでも、呼び捨てでもお好きなように。と、リムル陛下の疑問についてなんですが、本当ならミニッツのヤツと一緒にマサユキ陛下の護衛として一緒に行動する予定だったのです。しかし、ヴェルグリンド様に『マサユキは私が護衛するから、あなた達も自由に参加しなさいな』と言われまして───」

 

 なるほどな。

 どおりで、カリギュリオが別行動しているわけだ。

 ヴェルグリンドは、暗に “マサユキと二人きりで周るから、邪魔をするな” と言いたいのだろう。

 ぶっちゃけ、マサユキを見つける前にそのことが聞けて良かったと思う。

 俺は空気を察するのがとても苦手なので、カリギュリオに予め聞いていなかったら、絶対にヴェルグリンドの不興を買っていただろうから。

 

「あー、そういうことね・・・・・・」

 

「はい、そういうことです。ただ、せめて会場までは同行しようかと思ったのですが、どうやらヴェルグリンド様はマサユキ陛下と一緒に衣装選びで迷っておられるようでして、おそらくまだこちらには来られていないでしょう」

 

 ふーんと、カリギュリオからそそこまで聞いたところで、俺は “しまった” と思った。

 ヴェルグリンドがマサユキと二人きりで楽しみたいというのなら、カリギュリオと一緒来ているマミアさんも二人きりで楽しみたかったのでは?

 と、気づいたのだ。

 ただ、ヴェルグリンドが身内のカリギュリオに釘を刺すのはともかくとして、他国の元首が挨拶するだけとなればやはり話は別なのだろうか?

 まあ元々そこまで長話するつもりも無かったので、流石にここらへんで退散するとしよう。

 

「じゃあ俺はそろそろ戻るよ、カリギュリオ。あんまり二人の邪魔しちゃ悪いからな。マミアさん、今日はゆっくり楽しんでいってくださいね」

 

「有難うございます、リムル陛下」

 

 という感じで俺は二人と別れ、自分の席へと戻ったのだった。

 

 それにしてもカリギュリオのヤツ、解析して気付いたが帝国戦争の際に失った力のほとんどを取り戻しているようだ。

 マサユキが天魔大戦での経験からもっと強くなりたいと決意し、ちょくちょく迷宮を利用して特訓をしていたのは知っていたが、どうやら一緒に来ていたカリギュリオもマサユキに触発されて訓練をしていたようなのだ。

 マサユキの力の恩恵もあってか、現在では失われていた魂の力がほぼ完全に回復しており、 “聖人” には満たないが “仙人” でも上位のエネルギー量を秘めていた。

 このままいけば、近いうちに再覚醒できるのではなかろうか。

 

 ついでに言えば、ミニッツもユニークスキルを再び獲得できたらしい。

 聞けばアピトが再戦を望んでいるそうなのだが、流石に地力に差が違いすぎていて勝負にならないため、当面はアピトの眷属たちとミニッツが訓練しているそうなのだ。

 アピトとミニッツ。

 元は敵対関係だった二人だが、特に互いに恨みがあるわけでもなく、帝国との和解後にはなんだかんだで友情が芽生えたようで、お互いその力を認め合って今ではライバル関係になったようだ。

 

「お待たせしましたリムル様」

 

 と、席に着いたちょうど良いタイミングで、俺のために料理と飲み物を取りに行っていたディアブロがもどって来た。

 まあ、別に取ってくるよう頼んだわけでは無いのだが。

 俺に対して底なしの気遣いを見せるディアブロのことを考えれば当然の行動だと言える。

 

 ディアブロは本来、祭典期間中の特別警備として黒色軍団(ブラックナンバーズ)の指揮と管理を任せたはずなのだが。

 その仕事はヴェノムとガドラに全て丸投げしたらしい。

 しかも、ただ適当に丸投げしているわけではなく、予測可能な範囲を網羅した “綿密な警備プラン(完璧な計画)” の元に委任しているようで、ベニマルも「全部あいつらだけでいいんじゃないですか? これ?」と太鼓判を押すほどの、見事な手際と周到の良さを発揮していた。

 ディアブロは、よほど俺と一緒に居たいらしい。

 

 まあ実際、ベニマルが太鼓判を押すように、黒色軍団(ブラックナンバーズ)に所属する悪魔達は非常に優秀だ。

 戦闘能力が申し分ないのは当然として、その上で妖気(オーラ)制御(コントロール)───隠蔽能力にも非常に長けている。

 パッと見は普通の人間か、多少腕に自信がありそうな亜人や魔人にしか見えず、祭典の参加者を不安にさせる心配がないのだ。

 この際有事を想定した、ヴェノムやガドラの指揮管理能力を育成する一環だと割り切ってもいいだろう。

 

 ちなみに、第一秘書のシオンはこの会場には居ない。

 前夜祭でちょっとした “演奏” を披露してもらうように手配しているため、その準備で忙しくしているのだ。

 ぶっちゃけ、本当のことを言えばシオンに料理をさせないための措置だ。

 しかも天魔大戦後に、某吸血鬼の魔王からシオンに対する名指しの苦情が入っており、「演奏は良いが、アレに調理をさせるな」と、予め釘を刺されている始末だ。

 その魔王曰く、シオンの料理を試食したルイとギュンター及び聖騎士団(クルセイダーズ)の隊長格らが危うく死にかけたのだと。

 

「戦場ではなく食堂で、それも味方の料理で配下を失うところじゃった」と、聞くに堪えない報告を俺は聞く羽目になった。

 

 ただ、俺がシオンを止めようとしていた理由を向こう側が聞かなかったというミスも考慮して、これは両方に非があると折り合いをつけた。

 幸い大事には至らなかったため、関係者一同は今後一切この件について口外しないということで、この悲劇は幕を引いたのだった。

 

 あれ以来ルミナ───その魔王は、シオンの料理に対してかなりの警戒心を抱いているのだ。

 

 それに、だ。

 普通にシオンが参加すると、あっという間に料理を食べ尽くしてしまう恐れもあった。

 食材の備蓄には問題はないのだが、一流の料理人の腕前をもってしても、シオンの消費速度に調理速度がまったく追いつかないのだ。

 それはそれで非常に問題があるため、シオンには演奏を披露した後に改めて参加してもらう手筈となっている。

 

 シオン本人は、「リムル様にもしものことがあれば」などと食い下がっていたが、既にシオンよりも強いディアブロが俺の護衛に付いている。

 なんだったらこの会場には、竜種や魔王、勇者をはじめとする実力者が勢ぞろいしており、その参加者全員を相手に喧嘩を売るバカがいるとは思えないのだ。

 さらにダメ押しに、この九十五階層全体の警備には、俺が名付けを行った幻獣族(クリプテッド)蟲型魔人(インセクター)達を多く配置している。

 彼ら異界の種族(アグレッサー)たちは、天魔大戦後に恭順の意を示した者達であり、魔国連邦(テンペスト)とミリムの領地、あとは東の帝国でそれぞれ受け入れ態勢を整え、各地で定住できることになったのだ。

 

 幻獣族(クリプテッド)達は、同種族であるクマラ麾下の “銀色軍団(シルバーナンバーズ)” を構成している。

 蟲型魔人(インセクター)に比べて風貌が人に近く、パッと見だと獣人族系の亜人にしか見えないため、平時には迷宮都市(ラビリンス)で警備や管理の補佐を、迷宮楽園(メイズ・ユートピア)ではその美しい容貌を活かして接客や管理スタッフとして働いてもらっている。

 

 そして蟲型魔人(インセクター)達は、同種族であるゼギオン麾下の “金色軍団(ゴールドナンバーズ)” を構成しており、黒色軍団(ブラックナンバーズ)銀色軍団(シルバーナンバーズ)と共に、魔国連邦(テンペスト)における三大最高戦力の一角となっていた。

 

 てな感じで、それらの戦力を動員してまで警備を厳重にしているわけで、当然シオンの言い分は退けられることになった。

 シオンは少し不満そうだったが、俺が演奏を楽しみにしていると、応援しているのだと重ねて説得したことでようやく納得してくれた。

 少し騙している気がして悪いのだが、物事には適材適所がある。

 それに、シオンの演奏を楽しみにしているのは、嘘偽りの無い本音なのだ。

 シオンには、もうちょっと自制と自覚と自重と、あとは落ち着きと我慢することを覚えて欲しい。

 

 さて、それでは待ちに待った料理を頂くとしよう。

 せっかくディアブロが俺のためにを運んできてくれたのだ。

 冷めないうちに頂かなければ。

 それに、本格的な交流が始まる前に、めぼしい料理は可能な限り味わっておかなければならない。

 早めに会場入りしたのも、それが理由なのだから──────

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