転スラ二次小説 ~あの時間を、もう一度~   作:てな

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『前夜の音楽祭』

 気づけば前夜祭も終わりが近づき、残すはシオン達による演奏会のみとなった。

 

 会場では、開演時間をお知らせするアナウンスが流れており、各参加者はそれぞれ自分の席へと戻っている。

 俺が他の者との交流を終えて自分の席へと戻ると、職務を終えてから途中参加のベニマルやソウエイ、俺とは別行動で交流をしていたらしいガビルやゲルドなど、リグルドやミョルマイルも含む、大幹部クラスのほぼ全員が先に合流していた。

 

 席に着くと、隣の席に座っていたベニマルが俺に声を掛けてきた。

 

「どうやら、交流の方は良い感じだったみたいですね」

 

「まあな。ただ時間が時間だから、一人一人長くは交流出来なかったけど。まあ、本番は明日からの祭典だし、そっちで話す機会は十分あるだろうから、今日は十分と言えるかな。ところで、ベニマルはけっこう参加が遅かったみたいだけど、そっちもちゃんと楽しめたのか?」

 

「ええ、おかげさまで。少し遅れてはしまいましたが、ちゃんとアルビスとモミジの二人と一緒に楽しめました。警備を引継いでくれたヴェノムとガドラには感謝しないとですね」

 

 そう言いつつベニマルは、同じく俺の隣に座るディアブロにチラリと視線を向ける。

 

「クフフフフ。あの者どもに感謝は不要ですよ、ベニマル殿。アレらはただ職務を果たしただけのことですから。むしろ、これくらい役に立って当然でないと困るというものです」

 

 普通なら俺を挟んでいるためディアブロからベニマルの視線は見えないはずだが、話の流れと魔力感知で自分に向けられたものと察したのだろう。

 それにしても、相変わらずディアブロの評価は、傍から聞いてもかなり手厳しいものだった。

 だが、俺とベニマルは知っている。

 ディアブロのする評価というのは、基本的に厳格だが、ディアブロ自身が基準であるが故に、過少評価をすぎるきらいがあるのだ。

 

 ガドラとヴェノムは、単純な力と技量こそ上位陣と比較しても中堅と下位そこらだ。

 しかし、ある時指揮官としての学を積む目的で、ガドラとヴェノムの二人がベニマルの副官を一時的に代行した際に、あのベニマルをして非常に優秀だと言わしめている、その確かな実力があるのだ。

 まあ、俺が部下を無下に扱うのを良しとしないのをディアブロもよく知っているだろうし、無理はさせても無茶をさせるということは無いだろう・・・・・・たぶんだけど。

 

「ああ、あの者達にも言われましたよ。これくらい当然でないと、あとが怖いとね。まあ、礼に関しては俺の信条みたいなものなので、ちゃんと義務だってのは理解してますよ」

 

 そうベニマルは、ディアブロに答えた。

 

 まあこの件に関しては、それぞれ所属する者達の違いからくるものなのだ。

 ベニマルが統括する者達は、基本的にはこちら側世界の存在、つまり亜人や魔人、そして人間だ。

 対して、ディアブロが率いる部下というのは、全員が悪魔族(デーモン)

 蓄積された経験量は言うに及ばず、その常識さえもはっきりと異なるのだ。

 ディアブロが厳しすぎるというより、初めからそれが最適な運用方針だから、ベニマルの方針とは明確に異なるからこそ、普通に比べて厳しく見えてしまうという話だった。

 

 なお、ガドラとヴェノムへの感謝とベニマルは言っていたが、どうやら実際にその判断をし下したのは、何を隠そうディアブロ本人らしいのだ。

 二人はあえてそのことを言わなかったらしいが、よくよく考えてみれば、彼らではベニマルの職務に影響を及ぼすことなどまずありえない。

 とどのつまり、ガドラとヴェノムへの感謝とは、その指示を出したディアブロ自身にも向けられたものだったのだ。

 後でその事を知った俺は、この歪なやり取りに対して「なんだそれ」という感想を抱かざるを得なかった。

 

 そんな具合で俺とベニマル、それにディアブロは、開演までの時間を他愛の無い会話で過ごしたのだった。

 

 *

 

 俺とベニマル達が会話して待つことしばらく。

 時刻は、シオン達による演奏会が開演するおよそ十分前となった。

 

 会場に、あることを伝えるアナウンスが流れ始める。

 アナウンスの内容は比較的短く、同じ内容が二度繰り返されるのみ。

 そしてそのアナウンスが終わると、会場そのものにある変化が起きた。

 

 会場の天井部が解放され、満天の星空が現れる。

 さらに、客席エリアと厨房エリアが細かく分かれて稼働し始め、その配置がみるみるうちに変わっていく。

 厨房エリアがあったフロアの一部がせり上がり、円形のステージが完成する。

 そして最後に、参加者それぞれの席がある全てのスキップフロアとロフトの配置も変わり、この会場がある目的に適した形に再配置された。

 

 たったの数分で、大宴会場(レセプションホール)は、巨大な円形劇場(アンフィテアトルム)へと姿を変えた。

 

 会場に、驚きと賞賛の声が響く。

 参加者の反応から、この施設のお披露目は大成功だと俺は確信した。

 実のところ、この機構を発案したのは、何を隠そう俺自身なのだ。

 実際、迷宮楽園(メイズ・ユートピア)そのものが、俺の理想を可能な限り詰め込んだある種の理想都市として建設されており、この会場も施設も、俺の趣味全開で造られている。

 そして、迷宮楽園(メイズ・ユートピア)全体にも言えることだが、この会場の機構の実現は、俺の要望を元にシエルさんが遺憾なくその能力を発揮してくれた結果なのだった。

 

 ちなみに、本来想定されている運用では、ここまで大掛かりな稼働はしない。

 今回、厨房エリアを中心部に全て集約し、その外周を客席エリアが埋める形で二つに分けていたが、実際には通路となる部分を残して、厨房と客席はそれぞれ店舗ごとに区分け、仕切られて運用される。

 前夜祭のような特殊なイベントや段取りにも対応が可能な、会場の配置を自由自在に変えられるこの機構こそ、この施設最大の特徴となっているのだ。

 

 さてと、そろそろ予定された時間だな。

 実は、シオン達の演奏会が始まる前に、ちょっとした舞台挨拶を俺がすることになっているのだ。

 まあ、挨拶自体大した内容は話さないんだけど、今回の演奏会は、かなり特殊な形式と演出になっているためだ。

 

 会場では、フロアの再配置に引き続き、更なる変化が起きた。

 開演の時が近づくにつれて、会場の照明が徐々に落とされていく。

 そしてついには、星と月の光だけが会場を照らす唯一の明かりとなり、それと同時に、開演を告げる鐘の音が鳴り響いた。

 照明が落ち切ったタイミングを見計らい、すかさず俺は『空間転移』でステージの中央へと静かに移動する。

 魔法照明のスポットライトが一斉に俺を照らす。

 暗闇に突如として現れた俺の姿に、会場からは一斉に、盛大な拍手が沸き上がった。

 響き渡る喝采の中、ぐるりと参加者を見回し、手を挙げて拍手を止める。

 そして俺は、一呼吸置いた後に宣言する───

 

「参加者の皆さま。本日は前夜祭にご参加いただき、誠にありがとうございます。今宵の前夜祭は、お楽しみいただけたでしょうか? これより、最後の締めくくりとなる、大演奏会を開演いたします。どうぞ最後まで、 “世界を奏でる幻想の音色(プレイングファンタジア)” を心ゆくまでご堪能ください!」

 

 開演の宣言を終えた俺は、パチンッと、指を鳴らした。

 瞬間、指揮者一名と百数名の演奏者の一団が、ステージ上に出現する。

 俺は彼らと入れ替わるようにして、自分の席へと戻る。

 だが、俺の仕事はまだ終わりでは無い。

 むしろ、ここからが正念場だ。

  

 俺と入れ替わるようにしてステージ中央に、その一段高くなった指揮台に、今日の指揮者であるタクトが堂々とした姿で立つ。

 タクトが指揮棒(タクト)を構えると、それを合図に一糸乱れぬ動きで演奏者も楽器を構える。

 

 彼らが構えたその瞬間、突如として会場の床と壁が消え始め、景色がみるみるうちに変わっていく。

 先ほどまで夜光と照明に照らされていた会場は、一瞬にして青空の広がる天空へと姿を変えた。

 残っているのは客席部分と、中央のステージ台のみであり、その周囲の全景は大空そのものだ。

 まるで、会場丸ごと空へ浮かび上がったような光景だった。

 しかもただ景色が変わっただけでなく、周囲の環境そのものさえも、参加者に影響のない範囲で限りなく大空に近いモノに変わっていた。

 

 もちろん、本当に会場が天空へと移動した訳ではないし、この会場の仕掛けによるものでもない。

 実はこれ、世界系の権能を利用した『現実支配』の効果による、現実の書き換えによるものなのだ。

 この権能を制御するのは、当然俺ではなくシエルさんである。

 曲や音色に合わせてリアルタイムで風景を書き換える作業なぞ、俺では到底制御不可能な芸当だ。

 おそらく他の世界系保持者にしても、ここまで広範囲かつ精密に制御できる者は極めて限られているだろう。

 長時間の消耗を考えれば、なおのことだ。

 

 言うなればこれは、仮想の現実と音楽を組み合わせた “幻想具現化劇場(イマジネイト・ミュージカル)” である。

 転生前の世界では、拡張現実(A R)仮想現実(V R)などの様々な技術を取り入れた、現代ならではの特殊な演出が可能なライブパフォーマンスがある。

 だがしかし、この幻想具現化劇場では、それらとはまったく比較にならないレベルで、現実とほとんど変わらないかそれ以上に壮大な体験が可能なのだ。

 仮想の現実でありながら、しっかりと五感を感じられる空間。

 その空間の中では、現実ではあり得ない体験が可能な、まさに夢のような世界。

 我ながら、とんでもないモノを考案してしまったなと思う。

 

 仮想の現実に天空の劇場が完成すると同時に、タクトの指揮によって演奏が開始される。

 奏でられる音色は、厳かでありながら幻想的な風景を想起させるものだった。

 いや、実際に周囲の風景は、演奏に合わせて本当に幻想的な空間となっている。

 

 多種多様な楽器が指揮者によって一つに調和する、その至高の演奏に圧倒され、素晴らしい以外の言葉が出てこない。

 リハーサルで部分的に体験しているはずなのに、実際に本番で聞く演奏は、リハーサルのそれとはあまりにも段違いだった。

 本来、曲が想起させるイメージというのは、聞いた本人の想像によって補われるものである。

 しかしこの場においては、曲に込められた思いやそこから感じ取れるイメージといったモノが、演奏を通じてそのままこの領域に具現化されているのだ。

 聴覚だけでなく、五感全てで感じられる演出にここまでの効果があるとは思わなかった。

 今はまだ、これらの演出をシエルさん抜きで行うことは無理な段階だが、いつかはシエルさんの協力が無くとも、これに近い演出が出来るような技術と魔法を開発するのが今後の目標かな。

 

 それにしても、タクトたちによる演奏は、聞けば聞くほど心惹かれる素晴らしさだ。

 ここに至るまで、いったいどれだけの研鑽と努力を重ねたのだろうか。

 俺には音楽の経験も知識がほとんど無いが、ただ一つだけ理解できることがある。

 少なくとも彼らの技量(レベル)は、生半可な意志では到底到達できないであろう域に達しているか、それを優に凌駕していると。

 それほどまでに、彼らの演奏は完成されているのだ。

 しかも今回、料理人達が世界各国から集って共同で料理を提供しているように、タクト率いる音楽団も、各国有数の奏者を集めた夢の世界音楽団(ドリームオーケストラ)を結成していた。

 もちろん料理人達と同様に、世界の音楽文化発展のため、国際的な音楽交流会が明日から数日に渡って行われる予定である。

 

 これから世界に広がるであろう様々な娯楽と文化、そのさらなる発展のことを考えると、それだけで心がとても踊る。

 だだこれは、まだ心の内だけに秘めておくことにする。

 今は純粋に、タクトとシオン達による演奏を、心ゆくまで楽しみたい気分なのだ───

 

 *

 

 演奏はおよそ1時間ぶっ通しで続いた。

 体感ではあっという間の時間。

 一瞬と言っても差し支えないだろう。

 

 演奏中は、曲調や音色、リズムなんかに合わせて、様々な景色や世界が具現化された。

 木漏れ日が降り注ぐ大森林。

 謎の超古代地下遺跡。

 深海の超文明都市。

 常春の桃源郷。

 そして、宇宙空間なんかも。

 場合によっては、時間や天候、季節も多様に変化した。

 現実にありそうな風景から、現実にはありえないような世界まで。

 まるで異世界を旅する方舟にいるような気分だった。

 まあ、前世のある俺からすれば、実際にこの世界は異世界なんだけど。

 

 今回は曲に合わせて環境と風景だけを具現化したが、次にやるとしたらストーリー仕立てにしてもいいかもしれない。

 その内容に関してもまたおいおい考えるとしよう。

 

 そして遂に、演奏はフィナーレを迎える。

 終曲の余韻と共に具現化されていた景色が少しずつ暗転し、全ての残響が静寂に沈みきった後には、気付けば会場は元の景色に戻っていた。

 星と月が照らす、真夜中の巨大な円形劇場(アンフィテアトルム)へと。

 

 演奏を終えたタクト達にスポットライトが当てられ、会場に盛大な拍手が沸き上がる。

 俺も、めいっぱいの賞賛を込めて、タクト達に拍手を送る。

 

 拍手が少し落ち着いたタイミングを見計らい、俺は再びステージの中央に、タクトのいる指揮台の隣へと『転移』する。

 

「皆さま、演奏会はいかがだったでしょうか。一幕という僅かな時間ではありましたが、それでも彼らの演奏は、皆さまを心から感動させてくれる、楽しませてくれるものだったと思います。

 ここで、この度の演奏会の主役である音楽団より、代表として指揮者と首席奏者(コンサートマスター)のご紹介をさせて頂きます───」

 

 俺の合図により、座って待機していた指揮者のタクトと、シオンを始めとする四名の首席奏者を立ち上がる。

 初めに、この演奏会における最大の立役者たるタクトを紹介し、その次に筆頭首席奏者であるシオンを、そして残る首席奏者たちを一人一人丁寧に紹介していった。

 それぞれの紹介の度に、参加者から盛大な拍手と賞賛が送られる。

 紹介された彼ら彼女らは、大勢を前にしても決して臆することなく、最後まで堂々とした見事な立ち振る舞いであり続けた。

 きっと、演奏を見事やり遂げた喜びと、会場に溢れる喝采で胸がいっぱいになっていることだろう。

 

 そして最後に、改めて音楽団全体に今一度溢れんばかりの拍手と賞賛が、音楽団の者たちが退場しきるその最後の時まで送られ続けた。

 あっという間の演奏会は、参加者にとって大戦以来の最高の思い出となり、紛う事なき大成功を収めたのだった。

 

 

 音楽団の者たちが退場してから、俺は一息置いたそのままの流れで、会場の参加者へ前夜祭の閉会を告げた。

 もちろん参加者とスタッフへの感謝をはじめ、これからの目標や明日からの祭典の成功を共に祈ることも忘れずに───

 

 閉会宣言後、巨大な円形劇場(アンフィテアトルム)はその役目を終えたため、再び大宴会場(レセプションホール)へと戻っていく。

 そして会場の配置が元通りになった後、参加者たちは撤収する者と、引き続き交流や料理を楽しむ者とで分かれることになった。

 

 一応、前夜祭は終わりなのだが、まだ会場は引き続き利用可能にしていた。

 まだ料理も飲み物も残っているし、演奏を終えたタクトやシオン達を労う場としてちょうどいいのだ。

 まあ俗に言うところの、 ”二次会” ってやつだな。

 ただし、カウンター席の料理をはじめとする一部の料理の追加はないので、そこはあしからず。

 ぶっちゃけ、今日の前夜祭で振舞われた料理のほとんどは、当然祭典でも振舞われるのだ。

 どうしても食べたい料理があったのなら、明日からの祭典で楽しんでもらえばいいので問題はナシ。

 

 そんな感じで、俺もシオン達を労う程度に、ちょっとだけ二次会に参加した。

 割と多くの者が会場に残っており、外交や政治は原則禁止、社交や礼儀も言いっこなしの二次会ということで、最低限マナーは守って、みんなそこそこはっちゃけていた。

 ゴブタが十八番の隠し芸を披露してくれたのだが、相変わらず大勢に人気を博していた。

 本当はもっとみんなと長く楽しみたかったが、明日の祭典本番のこともあり、俺は後ろ髪を引かれる思いで会場を後にしたのだった。

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