前夜祭会場のとある一角。
そこは、東の帝国の上位陣専用席があるロフト。
席の主たちは既に全員が会場を後にしており、この場には誰もいない。
はずだったが──────
「勝手に出てきて良かったんですか? 分離できるとは言え、あまり負担をかけ過ぎると、
「いいんだよ別に。戦闘目的じゃない分、今再現してるのは記憶と仮の肉体だけだしな。まあ基点のオレは例外だが。とにかく、アイツもあん時より成長してんだから、そこまで負担にはなっていねーよ」
と、そう答えるのは、まだ少年らしさを残す容姿ながら、溢れんばかりの
そして、その彼に初めに問いかけた人物は、今も「はあ、そうですか───」と返している。
その人物は、この会場にはあまり似合わない黒ずくめの軍服を着用し、白に近い銀髪に、薄く顎髭を生やした中年の男であった。
なお、この場に居るのは彼ら二人だけではなく、さらに二人の人物がいる。
残る二人の内一人は、青年と同じく金髪であり、高級感漂うスーツを着た男。
そして最後の一人は、とある世界の旧帝国海軍の礼衣を模した純白の霊装に身を包む、黒髪の男だった。
この二人は、少なくとも中年の男よりも若い風貌をしているが、実際の年齢は不明だ。
「それにしてもあの魔王、我々が師と共に目指していた理想を、ほんの僅かな時間で、ここまでその実現に近づこうとは。千幾年の長きに渡る策謀だの支配だのが、馬鹿らしく思えてくるな?」
青年ではない金髪の男が、眼下で行われている “二次会” に目をやりつつ、誰に向けたでもないが周囲に同情を誘うように問いかけた。
それに真っ先に反応したのは、黒髪の男だった。
「同感だな。あの魔王は、帝国が千数百年の時を掛けた作り上げた大戦力を、たった数年そこらの戦力だけで、ほんの一瞬のうちに
黒髪の男は、この四名の中では圧倒的に若く、新参であった。
しかし、生前におけるその実力というのは、帝国最精鋭の皇帝近衛師団の団長に立てるほどのモノであり、男よりも長い時を生きた中年の男をも上回っていたのだ。
おそらく、金髪のスーツの男の全盛期とも互角に渡り合えるであろう、まさに規格外と呼べる存在だった。
そんな規格外な黒髪の男が、彼の魔王を規格外と評するのだから、否応にも納得できるというもの。
「アッハッハッハ! ああ、確かにな。俺の記憶じゃねーが、俺と全く同じ考えをするヤツがいるとは思わなかったぜ。しかも、口だけじゃなくて本気で理想の実現に王手をかけられるヤツとはな。流石のオレでも、いやあのギィでさえも完敗だろうよ」
黒髪の男が零した愚痴に近い言葉を聞いた金髪の青年は、その内容に思わず笑ってしまう。
彼らが話すその魔王というのは、数千百年の時を
「それで、そろそろ我々を呼び出した訳をお聞かせ願えますか? まさかとは思いますが、単に集まってパーティを楽しむためだけに我々を呼んだのではないのでしょう?」
中年の男が、少し真剣な雰囲気を押し出しつつ、青年に問いかける。
青年と共に過ごした時間の長い中年の男だが、今回ばかりは状況が特殊すぎて青年の真意を図りかねていた。
「へ? いや訳も何も、逆にパーティーを楽しむ以外に呼び出す理由があるのか? 一人で来てもつまんねーから、お前らを呼んだだけだぜ?」
青年の予想外な答えを聞いた中年の男は───いや彼だけでなく残る二人も同様に、てっきり何か重要な訳があって呼び出されたものと考えていたため、三人揃って少々間の抜けた顔を晒すことになった。
一瞬のうちに我に返った中年の男は、自らの額に手を当てながら「久しく忘れていましたが、陛下はそういう方でしたね」と言いつつ苦笑いを浮かべた。
そんな男の言葉を聞いた残る二人も同じく、長らくあまり見せることがなかった笑顔という表情を浮かべる。
それは、失われていた過去を取り戻して、懐かしさや再び巡り合えた喜びからくるものだった。
「まあ、本当にそれだけかと言われたら嘘なんだが・・・・・・ちょうどいい機会だしな。ちょっくら、思いの丈でも話すとするか───」
という風に金髪の青年は、昔のことや今までのことを語り合い、そして最後に今後のことについて語った。
彼が語ったものの中で、昔のことと今までことについては、この場においては割愛する。
それよりも、青年が語った今後についての内容には、そこそこ重要な事柄が含まれていた。
その内容を要約すると───
「つまり・・・・・・帝国と世界を陰ながら守りつつ、
中年の男が、その要約した内容の是非を青年に尋ねた。
青年の話を聞いている三人であれば、全員が優れた頭脳を持ち合わせているため、要約や聞き返す必要性は無いはずなのだが。
その意図は、更なる真意を得るきっかけにするためだった。
それに気づいたのか、金髪の青年はニヤリと笑う。
「そういうことだ。再現にかかる負担を最小限に抑える手段も、一応は既に目途がついてる。というかぶっちゃけ、本当はアイツの指南だけするつもりだったんだがな。ある人物から依頼されたというか、説得されたというか───まあ何か出来るうちにやっときゃ後悔はしねぇって話だ」
───どうだ? やってくれるか? と、金髪の青年は覇気をも交えた真剣な眼差しで、三人を見据える。
当然、三人の心内は、話を聞いていた段階から既に決まっている。
「「「
目にも止まらぬ速さで平伏する三人の姿は、まさしく並々ならぬ忠誠心の証と言えよう。
ただし、堅い形式があまり好きではない金髪の青年は、三人の返答を受けて少し苦笑いを浮かべていた。
そしてなによりも、
「おいおい。今の皇帝は、オレじゃなくて、 “
三人らしからぬミスだが、長年の癖と忠誠心と信頼の高さを考えれば仕方のないことだろう。
青年に笑いながら言われた三人は、互いに顔を見合わせ、穏やかな笑みを零した。
失われていた約束。
互いに刃を向けるほどに崩れた絆。
支配という偽りの忠誠。
彼ら四人は、今一度その全てを、
ただひとつ訂正しておくことがあるとすれば、金髪の青年に忠誠と信頼を捧げる三人は、決して間違えてなどいなかったのだ。
なぜならマサユキという少年は、 “マサユキ・ルドラ・ナム・ウル・ナスカ” であり、単に金髪の青年と容姿が瓜二つなだけでなく、その意思と魂さえも、始まりの勇者を超えんとすべく、強く輝き始めているのだから──────