カレンチャンの距離適性が上がった!   作:房州

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かわいいカレンチャン

「はぁ?、まだ23だもんなぁ……羨ましいねぇ、若いってのはさ」

「はは、武川さんもまだお若いでしょう」

 

冬の寒気も鳴りを潜め、爽やかな微風が春の訪れを感じさせる時節。石畳を敷き詰めた幅広な道の傍ら、街路樹として色鮮やかに咲いた桜が、風に揺られては宙を薄い桃色に彩る。そんな、春光麗らかな今日この日、府中市に位置する日本トレーニングセンター学園にて。肩に落ちる花弁を片手間に払いながら、2人の男が並び歩き、談笑に花を咲かせていた。

 

「や、僕ぁもうアラサーだからさ。学園の子なんて思春期真っ盛りなんで、感性の違いを突きつけられるわけよ」

「ああ、それはありますね。加えて相手はウマ娘ですから、仕方ないところはあると思いますが」

「そう、そうそう。ペーペーだった頃は、コミュニケーション取るのも苦労してね」

 

道行く少女達を横目に感慨深げにそう語ったのは、武川と呼ばれた男である。季節感の薄い、色褪せた黒いキャップを深く被り、ポケットに手を突っ込んで猫背で歩く姿は、どうにも今この場の風景にはそぐわない。ともすると不審とさえ思われかねないだろう。

 

「でもせっかく中央ライセンスまで取ったわけだし、頑張らにゃいかんって思……やあ、お疲れさん」

 

しかしそんな風体の武川に対して、ことのほか、通りすがる少女達は挨拶を寄越していた。幾人かがすれ違いざまに会釈をするものだから、武川もまた右手だけを抜いて返す。いかにも不精者に見える武川だが、彼もまたことのほか、一人一人に真っ当に会釈をしている。

 

「……って思ってさ。今となっちゃ慣れたもんで、こうして挨拶くれる程度にはなったわけ」

「礼儀正しいんですよね、みんな」

「うん。一癖二癖あったりするけども、いい子達ばっかりだよ。これもスクールモットーの賜物かねぇ」

 

何がおかしいのか、武川は肩を揺らしてくつくつと笑う。もう一人の男はそれを見て、ふっと微笑んだ。

 

「さっき挨拶をしてくれた子達も、どうやら、嫌々挨拶してるという風でもなかったですし……信頼されてらっしゃるんですね」

「そんな事分かんのかい?荒木クンはあの子らと初対面だろ?」

「恐らくは、ですが」

 

武川は訝しむ様子で首を傾げるが、荒木と呼ばれたもう一人の男は躊躇いなくそう言い切る。未だ若々しさの見て取れる、ややもすると学生かと思われかねない童顔の青年であるが、どこかその躊躇いの無い態度には見た目以上に大人びたものを湛えている。

 

「そんなのどうやって見分けてんの?」

「表情や仕草だとか、人間と変わらない部分ですかね。尻尾と耳も、最近は少し分かるようになりましたが」

「はぁ?、よく見てるもんだ……僕はそこんとこ鈍いんで、今でもよくわからんものだから、羨ましいなぁ」

 

先程挨拶をくれた少女達を荒木もまた一瞥しており、その時の彼の目線は言った通り、確かにそれらに向けられていた。せわしなく動き、人のそれよりもむしろ動物的で大きい耳。小走りの彼女達がまとう風に乗って靡く、艶やかな尻尾。彼の言葉の根拠はそのような、ウマ娘の身体的特徴に基づいた心理分析であるらしい。もっとも、先輩風を吹かす武川であっても、それすらよく分からないそうだが。

 

「……ん、そうそう。担当がようやくついたんだって?」

「あぁ、そうなんです。なので、先輩に助言を頂きたいと思いまして」

 

通り過ぎるウマ娘達から視線を外した武川は、荒木の言葉にどことなく満足げに頷いている。帽子で覆いきれない口元は見るからににやけ面であり、ややもするとその風体からして不審者に間違われかねない。

 

「いやぁ、先輩ね。いい響きだよ、先輩……学生ぶりかもなぁ、呼ばれたの」

「ん?6年ほど中央(ここ)で勤続されてるんでしたよね?」

「いや、さ……僕みたいな三流トレーナーはさ、後輩から慕われるってこともなくてさ……明戸さんなり寄居さんなり、実績がある方にみんな付いてくわけでさ……」

 

荒木のそれは何気ない問い掛けではあったが、然るに武川の痛い所を期せずして突いてしまったようだった。どことなく気まずくなって、互いに苦笑が零れた。

 

「三流だなんてそんな、単に年季の違いだと思いますが」

「あの手の人らは、大抵僕ぐらいの歳には輝かしい結果を残すもんよ……別に割り切ってるからいいけどさぁ」

「な、何もそこまで卑下されなくても……」

 

思わずフォローを入れるが、武川は自嘲を交えながら、その実さほどは気に留めていない様子でもある。割り切っているという言葉は、強ち嘘や強がりではないらしい。

 

「それに、今年は訳が違うのでは?なにせこの前の選抜で、彼女を担当する事になったんでしょう?」

「……まぁ、ねぇ。あの子の実力は、同世代じゃちょっと、頭一つ抜けてるよ」

「えぇ、俺も同意見です。トリプルティアラも充分狙えるでしょうね」

 

その時、彼らの脳裏に等しく浮かんだのは、1人のウマ娘である。深緋の髪を風に靡かせ、ターフの上を誰より――ある1人を除き――速く駆け抜ける姿。追い縋る事をすら許さない、輝かしい天稟の片鱗を見せつけたその走り。少し前に行われた選抜レースで、屈指の注目株とされたウマ娘であった。

 

 

 

「――トレーナーさん達からそう言って頂けるなんて、光栄です」

「え?」

「あっ」

 

 

 

不意に、背後から声がかかった。その不自然なほどに明るい、高い少女らしき声に、荒木は驚いた様子で、武川は焦りを露わに振り返る。

 

「……スカーレット、君か」

 

声の主は、長く赤みがかったツインテールが特徴的なウマ娘、ダイワスカーレットだった。その容貌は、先程まで彼らが思い浮かべていた姿そのものであり、すなわちトレーナーである武川の担当するウマ娘に他ならない。

 

「こんにちは、荒木教官」

「教官はよしてくれよ、やっと担当の娘が出来たんだ」

「ふふ、すみません。つい癖で」

 

苦笑する荒木に、スカーレットは明朗な笑みで返す。以前、新人として担当ウマ娘のいない身であった荒木は、担当トレーナーのついていない不特定多数のウマ娘を『教官』として指導していた時から、彼女との面識があった。先の会話に見られたように、武川が選抜レースでスカウトするまで、彼女もまた担当のいないフリーの身だった。

 

「この前の選抜レース、見事だったよ。相変わらずの優等生的な内容だった」

「とんでもないです。結局、ウオッカには勝てませんでしたから……」

「でも僅差だったろう。君ほどのウマ娘に競い合える相手がいるなんて、いっそ喜ばしいことだ」

「……それはそうかもしれませんけど、やっぱり負けるのは嫌なんです」

「はは、負けず嫌いも相変わらずか」

 

故に、知り合いと呼べる程度には関わりがあり、慣れた様子のやり取りである。正しくかつての関係通り、監督者と教え子といった様相であった。

 

「……それで、トレーナーさん?どこに行くんですか?」

「ウグッ!」

 

スカーレットに声をかけられてから一言も発する事無く、じりじりとこの場から脱しようとしていた武川だったが、それに彼女が気付かないはずもなく。ウマ娘の身体能力を余すことなく発揮したスカーレットに、腕を強く引かれた彼は痛みと驚きに珍妙な声を上げた。

 

「4時からトレーニングの筈ですよね?今は何時ですか?」

「す、スカーレット……いや、違くってさ……」

「何時ですか?」

「4時半です……」

 

荒木に向けていたのと同じ笑顔を湛えるスカーレットではあるが、どうにも武川に対するそれは、どことなく圧が感じられるものである。そうして問い詰められる武川は、一回り以上も年下のはずの彼女に対して、明らかに怯んでいる。傍目から見るに、異様な光景だろう。引き攣った笑みには見るからに焦燥の念が湛えられ、これではまるでどちらが指導者の立場であるか分からない。

 

「トレーニングに遅れるだけじゃなく、荒木さんにも迷惑かけたんですね?」

「い、いや、迷惑なんかじゃないよ、スカーレット……武川さんは担当がついた俺のために、時間を割いてくれたんだ」

「そう!そうそう!荒木クンに先輩としてアドバイスしてたんだって!」

 

慌てふためいて弁護するも、そんな武川に向けられるスカーレットの視線は冷ややかだった。

 

「荒木さんに先輩風吹かせたくて、自分からアドバイスを申し出たんじゃないですか?」

「うーん鋭い……!よっ、さすがは優等生!アンタが大将!」

 

真実を見抜かれた彼の、冗談で誤魔化さんとするような小賢しい姿勢。ダイワスカーレットのような、生真面目な気質の持ち主が嫌うのは自明である。心底呆れ果てたような溜息を吐きつつも、スカーレットは武川の腕を掴んだまま荒木に向き直った。その面持ちは武川に対するそれとはうってかわって、愛想の良い微笑みを浮かべている。ころころと表情の変わる彼女に、思わず荒木も僅かばかりの慄きを抱いた。

 

「荒木さん、すみません。うちのトレーナーさんがご迷惑を……」

「あのさ?元々顔見知りなら、猫かぶらなくても――痛い痛い痛い!」

「はい、そろそろ行きましょうかトレーナーさん。それじゃあ失礼します」

「あ、あぁ……」

 

武川の腕を握り締めながらの一礼の後、スカーレットは足早に去っていった。本人は隠しているつもりのようだが、少なくとも荒木にしてみれば、彼女の本質は明瞭らしい。どこか憐れむような目で、トレーニングコースの方へ引き摺られていく哀れな男を見送った。

 

 

 

「――待たせて悪いな、もう出てきていいんだぞ」

 

 

 

その姿が見えなくなってから、ふと荒木はそう独り言ちる。但し、そのように見えるだけであって、彼の言葉は確かに何者かへ向けられた物だった。

 

「あれ?気付かれちゃった?」

 

その声に応えるように、1人のウマ娘が木陰から姿を現す。艶やかなアイボリーの髪に、何よりもその適度に幼さを残した愛らしい顔立ちは、どうにも整った顔立ちのウマ娘が多いこの場所において尚、際立っているように見えた。現に先程から、道行く多くの者が、その木陰に隠れているつもりだったであろう彼女に目を向けていた。

 

「さっきからみんなそっちを見てたぞ、気付くに決まってる」

「あはっ、可愛すぎのも困りものだね♪」

「過ぎたるは猶なんとやらとも言うけどな」

「カレンなら過剰なんて事ないもーん」

「そのせいで隠れきれなかったわけだけど……」

 

軽口を交わし合いながら、やがて2人は示し合わせるでもなく、徐に同じ方へと歩き出す。武川達が向かったトレーニングコースとは別に、その足は学舎へと向かっている。暮れ方の夕陽が照らし出す校内は、外とは違い2人の足音が響くほど静かで、見るに人っ気も疎らだった。窓の外から響く声からして、日中であればここにいるはずの多くのウマ娘達は、授業を終えて外でのトレーニングに臨んでいるらしい。

 

「それにしてもお兄ちゃんって、スカーレットちゃんと知り合いだったんだね」

「あぁ、教官時代に少しな。前から優秀で卓越したセンスを持っていたから、気になってたんだ」

「くすん、悲しいな……お兄ちゃんが他の子ばっかり気にかけてる……」

「また答えに困る事を……どうせ、今にカレンだけを気にかける事になるだろ」

 

嘘泣き、と言うには些か演技らしからぬ仕草を見せたかと思えば、返答を聞くや否や忽ちのうちに、悪戯っぽい微笑みを荒木に向ける。カレンと呼ばれるこの少女が、どうやら一筋縄ではいかない性質である事は、そのやり取りのみからも見て取れた。有り体に言えば、小悪魔的といった所か。

 

「でも、嫉妬だってしちゃうのはホントだよ?これからは2人で頑張っていくんだし」

「まあ、お姫様の機嫌を損ねないように善処するよ」

「あー、そうやってはぐらかす」

「はぐらかしてないって……ほら、もう着いたぞ」

 

他愛ない会話をしながら校内を移動するうちに、いつしか彼らはある扉の前で足を止めた。理事長室と表札に書かれたそれは、他の部屋や教室の扉と比較して幾らか大きく、また凝った装飾がなされている。

 

「荒木です。書類の提出に参りました」

「うむ、入りたまえ!」

 

荒木がその扉を叩くと、中からは少女然とした高い声が返ってくる。許可を得て扉を開けた先は、トロフィーやインテリアに彩られたクラシックな部屋だった。そしてそこにいたのは、頭上に小さな猫を乗せた少女と、緑を基調とした衣服に身を包んだ女。部屋に立ち入った荒木とカレンは、彼女達に頭を下げた。

 

「お待ちしておりました、荒木さん。カレンチャンさんもご一緒なんですね」

「理事長さんもたづなさんもこんにちはっ、寂しくてついてきちゃいました」

「ちょ、カレン……」

「重畳!既に仲が深まっているようで何よりだ!」

 

カレンの冗談に焦る荒木を、少女――秋川やよいは呵々と、緑の衣服の女――駿川たづなは微笑ましげに見ている。まだ幼さの色濃い秋川の方が理事長で、大人である駿川の方が理事長秘書であるという、初耳であれば何とも違和感を覚えるであろう立場だが、荒木もカレンも当然のように受け入れているらしい。自分達より一回りは小さな少女に、少なくとも荒木に関しては、目上の者相手に相応しい振る舞いを心掛けているように見えた。

 

「んんっ……それはそうと、こちら用意して参りました書類です。ご確認下さい」

「はい、それでは私の方で確認させて頂きますね」

 

持っていたダレスバッグから手早く分厚い封筒を取り出した荒木は、それをたづなに手渡す。その中から取り出された書類は当然厚く、束と形容できるほどの量を呈しているのだが、たづなはそれらを瞬く間に読み進めていく。一見それは単なる流し見で、とてもその内容を精査できるような所作ではないはずだが、しかしこの学園に身を置くものであれば、彼女がいかに辣腕の秘書であるかは熟知しており、それ故に駿川たづなの仕事ぶりを疑う者はこの場にいなかった。じっと荒木が見守る傍ら、たづなは既に最後の一枚まで至り、直に書類を机で均して荒木へ視線を合わせる。

 

「書類は不備なく記入されていますね。これで晴れて契約が完了となります」

「ありがとうございます」

 

契約の完了。即ちそれは、カレンが競走ウマ娘としてトゥインクルシリーズに出走する権利を得たこと、そしてそのカレンを指導者として勝利に導く役目を荒木が負うという関係の証明であり、ここからトレーナーとその担当ウマ娘としての、二人のレースが始まることを告げるものでもある。

 

「そうか……これからは教官でもサブトレーナーでもなく、担当ウマ娘を持つ一人のトレーナーなんだな」

「お兄ちゃん、もしかして緊張してる?」

「するよ、そりゃあ。俺が君の人生を左右しかねないんだから」

「感心!気負いすぎるのは良くないが、責任感を持って臨むのは良いことだ!」

 

激励に苦笑でしか応えられない荒木だったが、それもやむをえない事であると、たづなもやよいも承知している。

如何なる才能の原石であろうとも、それを磨くもの次第でそれは石にも金にもなり得る。ましてや前途ある若者の将来は、これから始まるトゥインクルシリーズでの結果が大きく作用するのだ。トレーナーという役職は、実際にレースに出走するウマ娘に比べれば表立って取り沙汰されることは少ないが、そのウマ娘を作り上げるという見方をすれば、その責任は重く彼らトレーナーに伸し掛かる。教官という、デビューを済ませていないウマ娘達を指導するのと、デビューしたウマ娘と共に競走生活を歩むのとでは、あまりにも隔たりがある。教官上がりの荒木にしてみれば、或いはウマ娘達本人にすら劣らぬほど重圧を感じてもおかしいことはない。

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 

不意に、カレンが口走る。先ほどまでと同じ、彼女然とした愛らしい声ではあるが、その言葉が孕んだものは、決して彼女の言が気休めの類ではないことを荒木に感じさせた。

 

「お兄ちゃんとカレンなら、きっと大丈夫」

 

曇りない紫紺の瞳が、狼狽を浮かべる荒木の双眸を射抜く。期せずして握りしめられていた彼の拳が、徐に解かれてゆく。奇妙なもので、一回りも年下の少女が、一見なんの根拠もない励ましを口にしたに過ぎないと、そうは切って捨てられぬ迫力が、荒木には感じられた。而して胸の内が微かに晴れるような、そんな気分を覚えた彼には、カレンチャンというウマ娘の並みならぬ何かを垣間見たのである。

 

「……ふふ。共に支えながら、支えてもらえる。そういう形も、いいと思いますよ」

「あっーーい、いや、はは、できれば、支えていきたいですが!ははは……」

 

微笑ましげに眺めていたたづなの言葉が、急激に荒木を冷静にさせた。トレーナーとしての矜持などと高尚なものでは到底なかったが、それでも荒木一誠という男の生真面目な質は、たづなの言葉を看過するわけにはいかなかったのである。それでも、幾許かの緊張は解れただろうか。いまだ拭い去れぬ憂慮を滲ませながらも、その面持ちには覚悟が見て取れた。そんな様子を見て、やよいは満足げに頷き、やにわに扇子を広げる。

 

 

 

「それでは改めて……承認!これより荒木一誠とカレンチャンのトゥインクルシリーズが始まる!ウマ娘とトレーナーは二人三脚、どうか共に努めてくれたまえ!」




スピード:108
スタミナ:65
パワー:118
根性:101
賢さ:108

バ場適性 芝A ダートF
距離適性 短距離A マイルD 中距離G 長距離G
脚質適性 逃げB 先行A 差しE 追い込みG

【スキル】
#LookatCurren 仕掛け準備
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