この日トレセン学園の校門前が平時よりも賑わいを見せているのは、偏に今日が日曜日であるが故だろう。平日なら授業も始まり静かなこの時間帯だが、折角のオフを満喫せんと生徒は胸を躍らせている様子で、校門と道路を挟んでの向かいに位置する寮の門からは、そうしたウマ娘達が続々と学外へ足を運ばんとしている。幸いにも今日は日がな一日の晴れ模様となり、彼女達の笑顔を際立たせるかのように、雲一つない晴天が広がっていた。
「へー、今日はトレーナーさんとおでかけするんだぁ」
そんな中で、校門前に佇む二人の少女がいる。今しがたそう口にしたのは、柑子色の長い髪を高めのツインテールにし、その顔立ちに幼さを色濃く残した生徒だった。彼女は羨望混じりの視線を隣の少女――カレンに向ける。今日の装いは私服のようで、シースルーの袖からは白い細腕を覗かせており、ともすれば挑発的なようにも捉えられる。その格好は彼女の魔性の魅力を際立たせ、またそのせいか、ツインテールの少女に向けた微笑みは、どこか含みのあるものに映った。
「カレンから提案してみたら、『君の事を知りたいから』って」
「わぁ、なんだか大人っぽいね!いいないいな、マヤも言われてみたーい」
「マヤちゃんもステキなトレーナーさんがついたら、その人に言ってもらっちゃお♪」
「いいなぁ……カレンちゃんのトレーナーさんだし、きっと大人でかっこいいんだろうなぁ……」
自らをマヤと称した少女は頬を小さく膨らませて、カレンへ向ける瞳に一層の強い羨望を滲ませた。微笑ましげな様子でマヤを見るカレンではあるが、その提案とは、つい先日トレーニング中に荒木に突きつけた交換条件に由来する。すなわち、『お兄ちゃんがトレーニングに来るの遅れたせいで寂しかったんだから、その分はデートで埋め合わせしてね』という経緯があった。マヤは口振りや容姿から察せられるが、未だ純真無垢な少女であるから、恐らくそのようなカレンの戦略が背景にあることなど考えつくことはないのだろう。
「うん、かっこいいよ」
「あ、マヤわかっちゃった!それ、ノロケっていうやつでしょー?」
「ふふ、そうかも」
二人の会話に、通りすがるウマ娘が聞き耳を立てては、興味深げな面持ちで去って行く。その圧倒的なまでのカワイさで知られるカレンをして『かっこいい』と言わしめるトレーナーというのがどれ程なのか、といった所だろうか。荒木はトレーナーとして駆け出しも駆け出しであり、教官として教えていた人数も多くはない。学園に在学する膨大なウマ娘の中では、彼を知る者の方が少ないのは自明であった。
「カレンちゃんのトレーナーさんって、新人なんだよね?どんな人なの?」
「どんな人、かぁ……」
マヤの問い掛けに、カレンが黙して逡巡する。まだ知り合って間もない荒木の事を言い表すのは、少し難しかったのだろうか。自らも付き合いは短いとはいえ、何かと察しの良いマヤには、珍しく言葉を詰まらせるカレンの姿がそのように映ったらしい。
「じゃあ、優しい?」
何気なく投げ掛けられた言葉だったが、カレンは僅かに目を見開いて反応を見せた。それから、思い出したように微笑む。
「ーーそう、優しい人なの」
そっか、と、マヤが一言を返した。投げやりになった訳ではなかった。ただカレンの語調が、いつもよりも深い感情を帯びているように感じられて、それが続く言葉を飲み込ませた。純真な少女だが、昔から勘はよく働く。その天性の勘が、カレンの内に、既に並ならぬ思いがあるのではないかと告げたのだ。それが何であるかは、今のマヤには推し量る事も叶わないが。
「……なんか、大人だね。カレンちゃんって」
「そうかな?適度にあどけなさも演出してるつもりなんだけど♪」
「うーん、大人カワイイって感じなのかな?」
「あ、それいいかも!大人カワイイカレンチャン!」
そんな折にふと、微かながら車の走行音がカレンの耳に届く。それはこの正門前に近付いてきているようで、彼女の耳がその方向に向いた。多くの生徒がこの道を利用するという理由から、朝方に一般車両がこの道を通ることはあまりない。それ故に、カレンはその車が荒木のものであると気付いたらしい。
「この音、お兄ちゃんかな。迎えに来てくれるって言ってたし」
「じゃあ、車で行くってこと!?すごーい、なんだか大人っぽいね!」
音がはっきりと聞こえてきた頃、白いセダンの姿を正門前のウマ娘達の視界が捉えた。セダンは徐々にスピードを落とし、そのままゆっくりと路肩に停車する。スモークフィルムをあしらった後部座席の窓に陽光が反射して、カレンは目を細めたために運転席を朧にしか見なかったが、そこに荒木の顔が見えた。
「おはよう、カレン。迎えに来たよ」
車から降りてきた荒木に、その場の視線が注がれる。就業中はスーツかジャージが常の彼だが、今日は休日の装いとして、白いTシャツとインディゴのデニムというカジュアルな出で立ちである。普段の柔和さやシルエットからは想像し難いが、殊の外、シャツの袖から伸びる腕は太く、筋肉の隆起が陰影を作り出していた。少々ラフに過ぎるとケチを付けられないこともない風体も、服の奥に垣間見える引き締まった肉体美には、むしろ過度な装飾は不要であるようにも、その場の誰もが思えた。
「お兄ちゃん……まずは買い物しに行こっか」
故に、胸部にプリントされた『春天』という二文字の行書体は、きっと誰の目にも不要に思えただろう。
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カレンの要望の元、トレセン学園から23区方面へ走ること40分。辿り着いたのは、武蔵野市に位置する吉祥寺である。駅から程近いパーキングに車を停めた二人は、たった今並んで道を歩いていた。
未だ午前とはいえやはり人通りは多く、学園の最寄り駅である府中駅前と比べても、明確な賑わいを見せている。必然、人目を引きやすい環境だと言え、特にカレンチャンというウマ娘はちょっとした著名人である。道行く人々が、こぞってカレンを一瞥しては、その目を輝かせていることを荒木は直ぐに悟った。
「すごいな。みんな君の事を見てる」
「ふふーん、これでも結構有名なんだよー?」
「あぁ。生徒達の反応からして分かっていたけど、外に出て改めて実感したよ」
そのような会話を交わしている間にも、すれ違った少女のグループなどはカレンの存在に気付くや否や、『カワイイカレンチャン!』と仲間内で燥いでいるようだった。ウマスタグラマーとしての彼女を知らずとも、その愛嬌著しい容姿や一挙手一投足が、万人の視線を引き寄せる。正に魔性の魅力と言えよう。
「ただ、何故か声まではかけられないな」
「多分、お兄ちゃんといるからじゃないかなぁ」
「まぁ、そうか。用事の最中って見られてるのかもな」
「それもそうなんだけど……」
言葉を濁すような物言いに首を傾げる荒木。カレンは彼の釈然としない表情の顔から、ふと着ている服の方に目線を向けた。
「ほら、お兄ちゃんちょっと変わった格好だから……あの人は何者?ってなっちゃうのかも」
「変わってるって、この服か?」
『春天』と書かれたTシャツを、彼も鳩尾のあたりを摘んで確認する。それから周囲をよくよく観察してみると、確かにカレンだけでなく、自分に対しても視線が注がれている事に気付いたらしい。
「シンプル過ぎたかもしれないな。オシャレな若者も多いことだし」
「うーーーん、どっちかと言うと主張は強いと思う」
「そうか?ならよかった、こだわって作ったからな」
「えっと……自作?」
「自分で書いた字を型にして、布用スタンプでプリントしたんだ。中々良く出来てるだろ?」
仰々しく漢字をプリントしたシャツなど、今日日海外からの観光客でも着ていることは稀である。増してやなまじ顔立ちの整った荒木であるから、そんな男が並外れた美少女の隣を歩いているという光景は、どうにも奇異なものとして他者には映るだろう。カレンを学園の前まで迎えに来た際も、他の生徒達からは生温い視線を注がれていた事に、どうやら彼自身は気が付いていないようだったが。
「確かに、ハイクオリティだよね。でもなんでそのワードチョイスなの?」
「季節感のあるものがよくてね。
「文字で季節感は斬新だね……」
「ただ、それだけじゃない。
ことレースに携わる者にとってその二文字は、うららかな春よりも、或いはとあるレースを思い浮かべるだろう。京都レース場で行われる芝3200メートルの超長距離GⅠ、天皇賞・春。最強の
「ダブルミーニングになってたんだね。天皇賞、好きなの?」
「勿論好きだよ。といっても、レースはどれも好きけどな」
言葉を交わしながら駅前のショッピングモールに立ち入った二人を、涼やかな風が出迎えた。入り口から程近いエレベーターホールへ、楽しげな笑顔を向けながら先導するカレンと、それに少し遅れて付いていく荒木。彼の容姿の若々しさも相まって、傍から見ればそれは、選手と監督者というより兄妹の姿に近しい。
「カレンはどうだ?好きなレースなんかはあるか?」
「んー……」
「どういうレースが好きかっていうのも、君の今後に関わる。それに応じて、俺もトレーニングを練る事になるし」
待機していたエレベーターはすぐに二人のみを迎え入れ、カレンが6階のボタンを押して後、雑踏から遮断されたこの中には、彼らの声と微かな昇降音のみがあった。
「実は、特にこれ!っていうのはないんだー」
「あぁ、ない……ないか。そうか……」
あっけらかんと言ってのけたトレセン学園の生徒に、トレーナーとしては思うところもあるのだろうか。やや言葉に詰まって、複雑な面持ちでいる荒木を見て、カレンはさらりと宣った。
「興味がないんじゃないんだよ?ただ、他の子とは少し違うと思う」
「違う?」
「カレンにとってのレースは、カレンのカワイさをもっと沢山の人に魅せるための場所なの。そういう場所って捉えて、臨みたいの」
カワイさを魅せるための場所。レースは国民的スポーツであり、日本においてもその注目度は非常に高い。それを考えれば、カレンの魅力をより多くの人々に発信するには適していよう。レースに対する熱量の不足感を少しばかり憂いつつも、しかし荒木にとっても納得はできた。
「ーー宣伝の場にもってこいだからな、っていう風に思った?」
「え、あぁ。そういう事じゃないのか」
「違うよー!だって別に、カレンの魅力をみんなに伝えたいなら、テレビに出たり雑誌に載るだけでいいでしょ?」
「だけって……いや、でもそれならどうして……」
だが言われてみれば、である。彼女ほど天性の魅力を持つウマスタグラマーであれば、メディアにも顔を出そうと思えば出せるだろう。名を売るだけなら、わざわざレースに臨む必要はない。
「初めてレースを見た時、気付いちゃったから。この舞台でしか魅せられないカレンがいるって」
それはどこか抽象的で、本質を欠いた物言いにも荒木には思えた。それでも不思議とそれ以上追求する気が起きなかったのは、少なくともそう宣った彼女の横顔は、全霊をもってレースに臨むウマ娘達と比較して、何ら見劣る事のない断固たる決意めいたものを彼に垣間見えた気がしたからだ。
第一に彼女のような聡明なウマ娘が、しかもわざわざ倍率の高いトレセン学園に実際に編入してくるという事が、気安くできる事でないのは理解している。そんな軽い気持ちで入ってこれるほど生温い場所でない事を、トレーナーならば誰だって知っている。同じく狭き門をくぐって、あの学園に来た身なのだから。
「……分かった」
「あれ?今ので分かっちゃった?」
「いや、本質的な理由はよく分からないままだ。どこか掴めない娘なのは把握していたつもりだけど、それにしても難しいな君は」
「むっ、ちょっと馬鹿にしてる?」
頬を膨らませ愛らしく憤る様を見て、荒木は微笑む。カワイさを放ち続けるカレンチャンというウマ娘は、それでいて時に、ひどく大人びて、秘密めいた部分を見せる。それすらが彼女の魅力であり、また彼女の想定通りなのかもしれないが。兎角、荒木は微笑んだ。
「君が軽い気持ちでトレセン学園に来たんじゃないのが分かった、って事だ。君の思いの片鱗が知れただけでも、今は十分だよ」
カレンは、微かに目を見開く。まるで、いつか見たものを不意に思い出したかのように。荒木の微笑に僅かばかり何も言わずにいた彼女だったが、その時エレベーターのドアが開いた。
二人だけの発する音に満ちていた空間に、フロア中に響き渡る穏やかな音楽が流れ込んで、それがおかしかったのか何なのか。兎角、カレンは微笑んだ。
「お兄ちゃんって、モテそうだよね」
「悪い。この流れでそう言われても、本当に真意が分からない」
「あはっ、気にしないでいいよ。思った事をそのまま言っただけだから♪」
「そういう所だぞ、君の難しさは……」
エレベーターを降りた二人を、ショーケースに並べられたマネキンが出迎える。小洒落た衣服に身を包んだそれらが、この店がカレンの目当ての場所であると荒木に悟らせた。その奥には、暖色を基調とした柔和な雰囲気の内装が見て取れる。
「でも折角なら、もっとお兄ちゃんをモテ男子にしちゃいたいし!今日はカレンなりに、お兄ちゃんをコーディネートしちゃいます!」
「おぉ、なんだか楽しそうだ」
店内に立ち入ると、新品の服特有の香りが二人の鼻腔を擽る。カレンにとっては慣れたものだろうが、荒木にとっては未だ新鮮さを損なわぬ場所だったのだろうか。悠々と店内の服を物見する少女とは対照的に、青年は物珍しげに周囲を見渡している。人生経験は倍近い年数の開きがある筈だが、この場における立ち振る舞いはどうにも噛み合わない。
「あっ、このカーディガンとかいいかも」
「カーディガンっていうと、制服の下に着るイメージしかないな……」
「もー、よく見て!これはそういうデザインじゃないから大丈夫!」
カレンが手に取って見せたのは、淡い水色のカーディガンだった。やや袖や身幅にはルーズさがあり、またよくよく全体を見てみると、上から下までメッシュの入った透け感のある作りになっている。サイズもややビッグシルエット気味で、カレンの持っているMサイズでも荒木には余裕がありそうだった。
「よく見ると、確かに学校用のと違う感じがするな。この透けてるのとか」
「でしょ?今って透け感がトレンドだし、深めのVネックだから色んなインナーと合わせやすいの」
「Vネック?あぁ、この襟の形か」
カレンから受け取ると、そのカーディガンをまじまじと見つめる。襟ぐりの深いデザインは、確かにファッションに疎い荒木から見ても、どこか学生時代に着ていたそれとは違う印象を受けた。かっちりとしたイメージを持っていただけに、同じアイテムでもここまで異なるものか、と感心している。
「そっ。何よりお兄ちゃんって、この時期はTシャツしか着なさそうだし。そこに羽織るだけでどんなシーンでも使いやすいアイテムだから、丁度いいかなって」
「どうして俺がTシャツしか手持ちがないことを……?」
「うん…………なんとなくかなっ」
「勘ならすごいな、当たってるぞ」
彼のようなファッションに関心の薄い人種というのは、多くがそういうものである。増してや、自筆の字をTシャツにデザインするという趣味を持っているというならば、手作りの品はあの春天シャツに限った事でないことは想像に難くない。胸元に意図の不明な字をプリントしただけのシャツを揃えているというのは、そんな男を担当に持ち、剰え美意識の強いカレンにしてみれば頭痛のするような話だろうが。
「彼氏さんの服をお探しですか?」
不意に背後から聞こえた声に、二人揃って振り向く。声の主は若い茶髪の女性店員のようで、その目線は明らかにカレンと荒木に向けられていた。他にもちらほらと客を見かけるが、この場には他の客はいないのだから、やはりこの店員は二人に声をかけたのだろう。
それにしても、彼氏と呼ばれたからには、きっと彼らが交際関係にあると思っているのだろう。勘違いではあるにせよ、教育者とその教え子がそのように思われるというのは、些か危険な勘違いと言えよう。ならば、早急にその認識を是正する必要がある。荒木は苦笑を浮かべて、否定の意を示さんと小さく手を振った。
「いえ、私は彼氏ではーー」
「手持ちの服があまりないみたいだから、一通り揃えたいなーって思ってたんです。ね、ダーリン?」
瞬間、尋常ならざる程に目を見開いて、凄まじい速さでカレンの方に向き直る荒木。今にも肩を掴み出しかねないほどの緊迫ぶりを呈する顔に、脂汗が滲み出していた。
「ちがっ……!ダーリンじゃないだろ、俺は!」
「もー、お兄ちゃん焦りすぎー」
「焦るに決まってるだろ!」
普段の落ち着きぶりからは想像も出来ないほどの焦りように、カレンはいつになく楽しげに笑っている。青い顔をして焦燥感を露わにする荒木とは対照的であった。二人のやりとりに困惑しながらも、どうやら交際しているわけではないと察したのか、店員はただ困ったように愛想笑いを浮かべている。慌てて咳払いをして、荒木はどうにか体裁を整えた。
「んんっ、まぁ、私はこの子の指導者ですが。私服を探しに来たのは確かです」
「そ、そうでしたか、失礼致しました。もし宜しければ、ご希望に沿ったお洋服を見繕わせて頂きたいと思いまして」
「希望……」
店員の言葉を聞くと、荒木は僅かな逡巡を見せて、ふとカレンの目を見る。どうしたらいい、と訴えかけるような無言の眼差しに、一層彼女の頬が緩んだ。
「ありがとうございます、でも大丈夫ですよ。お兄ちゃんの事は、カレンが責任をもって面倒見ますから♪」
「かしこまりました。もし何かありましたら、ぜひお声がけください」
カレンの言葉に、店員はすぐさま困惑の色を押し留めて一礼の後、直に他の売り場へと向かった。去りゆく背中を見つめ、その後ろ姿が見えなくなった頃、荒木が徐に口を開く。
「よかったのか?プロに聞かなくて」
「いいの。お兄ちゃんみたいな不慣れな人だと、店員さん相手じゃ緊張しちゃうでしょ?」
「子供みたいに扱わないでくれよ、流石に大丈夫だぞ」
「でも、目線でSOS送ってたよ?」
「そ、それは……どういうのがいいのかも分からなかったからで……」
年下の教え子である少女相手に、口で押され言葉を濁す青年という光景。トレセン学園でのトレーナーとしての荒木であれば、そうそう見られない姿である。そんな彼がこれほどいいように遊ばれてしまうのは、不慣れな外界の故か。それとも、カレンチャンというウマ娘の手腕か。そんな彼女はといえば、揶揄う愉悦にか、浮かべる笑みには先程よりも悪戯っぽいものが見て取れた。
「あはっ♪カレンも今日、お兄ちゃんがカワイイってこと知れちゃた!今はこれで十分、かな?」
「くっ、さっきの意趣返しか……しかもカワイイってなんなんだ……どういう意図なんだ……」
悔しさを滲ませる荒木を他所に、カレンは心底楽しそうに、軽快な足取りで別の売り場へと向かわんとしている。教え子である少女に弄ばれるというのは、温厚で然程自尊心の強くない荒木といえど、多少は羞恥心というものが湧くものだ。
「ふふっ、お兄ちゃんと一緒にいると楽しいなー♪」
けれど、そう独り言ちる彼女の後ろ姿を見て、忽ちのうちにそのような気持ちも失せてしまった。カレンと学園で出会ったその時から、彼女のどこか底知れない部分を垣間見ることがあっただけに、未だ中等部であることを失念してしまう時が荒木にはある。それもこうした姿を見ていると、なんとも年相応のいたいけな少女であると再認識させられる。
「……まったく」
溜息交じりに呟くが、その顔には悔しさも羞恥もない。ただ、過ぎ去った日々を思い出すように、揺れる小さな背中を見る。大人以上に大人びた部分があるとはいえ、まだまだ高等部にも満たないのがカレンチャンなのだ、と。改めて実感を伴って、彼の胸中に温かな強い意志を去来させた。
「あ、そうそう。店員さんを断ったのは、もうひとつ理由があるんだよね」
小さな背中が、不意にぴたりと止まる。荒木へと振り返ったカレンの顔は、やはり悪戯っぽさを残していたが、然るにいたいけさ所か、とても歳に似つかわしくない、特異な妖艶さすら孕んでいて。思わず、笑ってしまった。
「お兄ちゃんのこと、カレン色に染めあげたいから♪」
どうにも、彼女には敵わなさそうだ。荒木が今日知れた事の一つである。
スピード:161
スタミナ:89
パワー:145
根性:119
賢さ:143
バ場適性 芝A ダートF
距離適性 短距離A マイルD 中距離G 長距離G
脚質適性 逃げB 先行A 差しE 追い込みG
【スキル】
#LookatCurren 仕掛け準備 未完の末脚