ファイナルファンタジー青   作:青さん

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思い出してみた

 

色の魔法が数あれど、やはり胸を張って言える。

青の魔法こそが至高であると。

 

ロマンであり、習得困難が故に達成感が半端ではない。

だからこそ良いのだ!

 

 

FFシリーズ。

 

 

今でこそ、ネット社会だから簡単に攻略法を調べ上げ、すぐさま最強への道を最短距離で向かう事だって出来るだろう。

たが、当時はそうはいかなかった。ゲーム雑誌だって攻略本だって、子供が手にするには少々ハードルが高い。ゲーム攻略本発行の出版社や開発スクウェアに電話だってした子供だっているだろう。

 

だが、他人に聞くなんてまさに邪道。

ゲームの隅から隅まで楽しんでこそ、真の意味でのクリアとなる。全てのマップの地面を調べ、全ての魔法を試し、全ての敵を屠り、軈てプレイ時間を数えなくなるころには、思う存分楽しんだ達成感で満ち溢れていた。

 

 

子供から大人になり、社会人になってもゲームへの情熱は冷める事は無かった。

取り分け、FFシリーズは全てのナンバリングタイトルは当然とし、番外編やら何やら、FFの名を関するモノは全て遊びつくしてきた。

結果、ハードを何度買い替えた事か……、兎に角充実していた。

 

次のシリーズを心待ちにし、堪能し、心待ちにし、堪能し、それを繰り返してきた。寝食を忘れる事だってザラ。

 

 

 

――――――そんな自分の軈て行き着く先に待っているのが、コレ(・・)だとは一体誰が想像した事だろう?

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――ああ……、なんだ、昔の夢か……。目が覚めたら別の場所……ってか?」

 

 

 

平原に寝転がり、その頭上には青い空が広がる。

とてつもなく広く、高く、痛い程の青空。

その視界の隅には、大きな大きな怪鳥が飛んでいる。ガルーダだろうか? アレは素材として売れば相応の価値があるんだよなぁ……と、今日も仕事をしようと身体を起こす。

 

 

「クエッ」

「クポ……」

 

「わぷっっ、わ、わかったわかった! おい、やめろって、モグ! ボコ!」

 

 

懐かしい夢を見ていて、まだ夢現な所だった所に、まるで現実に引き戻されるかの様な感触と臭いが身体中を襲った。

主に、その主力が【ボコ】と言う名をつけたチョコボだ。

コイツの舌はザラザラとしていて、一発で目を覚ますだけの威力があり……じゃなく、最も強烈なのは臭いだ。涎の臭いは簡単には落ちない。おまけによく噛んでくる。最初はメッチャ痛かった。

 

どちらも大体慣れてきたが、それが良かったのか悪かったのか……自分でも解らない。

 

 

「クポポ?」

「どこにもいかんって。大体、このやり取り何年続けてると思ってんだ? いい加減慣れてくれ」

「クポー」

 

 

そして、この人畜無害な愛玩動物はモーグリ。

毛並みヨシ感触ヨシ、抱き枕にすれば高く売れる事間違いなし! と言いたいが、この世界にはモーグリは、無害な上に無限にいると言って良い程沢山いるから、需要がないので、商売に成り立たない。

 

このモーグリもチョコボも旅は道連れ――――じゃなく、とある一件から懐かれて、共に旅をするようになった。

 

まぁ、勿体ぶるつもりはない。

ただ単に、チョコボイーターと呼ばれるチョコボを主食にしている厳ついモンスターに襲われてた際に助けてあげただけの命の恩人だ。

 

モーグリとチョコボは一緒に行動をしていたらしく、二匹まとめてすっかり懐かれて旅のお供、と言う形になった。

移動手段としても快適で、モーグリもそれなりに力があるらしく荷物も持ってくれる事があり、何より孤独じゃないのがかなり助かってる。

旅ではなくてはならない存在だ。

 

 

 

 

――――ここまでくればもう解るだろう? 今、どうなってるのかなんて、簡単に想像つくだろう?

 

 

 

 

実際にチョコボだの、モーグリだの、モンスターだの、ガルーダ討伐だの、馬鹿正直に答えていたら、痛いヤツって見られる。若しくは厨二病の類か。

でも、ここではそれが現実であり、常識なのだ。

チョコボもモーグリもモンスターも魔法も、ここでは、ぜーーーんぶ存在する。

 

 

即ち、FFの世界に転生してしまった様なのだ。

―――っと、はいっても、全てのFFを遍く隅々までやり尽してきた自分にさえ、覚えがない街やら種族名やらだったから、FFはFFでも自分が知るFFとは違う世界の様だが、類似点、共通点が多いので、FFであるのは間違いないと勝手に決めているだけではあるが。

 

 

嘗ての自分は、死んだ記憶は一切ないから或いは転移かもしれないが……、ゲームやり過ぎて餓死してしまった可能性もなくはないかもしれない。寝食忘れてゲームに没頭、だったころも当然あるし、昨今のニュースでオンラインゲームやり過ぎて死亡、って記事もあったくらいだ。

それがわが身に降りかかったとなれば、情けなくなってくるのだが……、それはこの際どうでも良い。

肉親とも死別していたし、兄弟はいない。強いて言えば職場には友達と呼べる人は何人かいたし、何も言えなかった事は悔やまれるが、こうなってしまったものは仕方ない。

 

と言うか、望むところだった。チョコボやらモーグリやらを最初に目にした時のテンションが全てを吹き飛ばしてくれたのだ。

 

そしてそして、更にありがたい事に、異世界転生したモノには豪華特典がついてくると言う定番中の定番!

無職(すっぴん)だったが、今では自信をもって胸を張って言える。

 

 

青魔導士(・・・・)だと。

 

 

豪華特典とは、【ラーニング】持ちである、と言う事。それはこの世界唯一無二であると言う事。と言うか、そんなもん存在しない、と一蹴されて笑いものにされた。

でも、存在するのだ。上手く説明は出来ないが、頭の中でデカデカと大きく【ラーニング】の文字とその使い方、やり方がデカデカと表示されているのだ!

 

つまり、推しに推していた青魔道を極める事が出来る!! と言う事だ!!

 

 

――――嬉しかったのは事実だが、異世界転生とはそう甘くない、と気づいたのも直ぐ後だった。

 

 

青魔導士を少しでも知ってる者なら解ると思うが、この力はモンスターから学ぶ(ラーニング)する事で初めて使用可能となる。

つまり、何が言いたいかと言うと……、これまではテレビの画面上の自分の分身であるキャラ達が、身を張って、身体を張って、命を賭けて、何度か死んで、初めて会得していたあの苦行を、超難行を、地獄の入り口を、自分で体験しなければならない、と言う所だった。

 

 

解るだろうか?

 

この世界で《しのせんこく》だの《しのルーレット》だの《レベル5デス》だの身を張って受けて覚えなければならないのだ。

おまけに、パパパーパッパパッパパ~~♪ と戦いに勝利したからと言って、解除されるかどうかなんて解らないと言うのに。

 

ビジュアル的に微笑ましい《はりせんぼん》だって、ただの針地獄だ。受ければ千の穴が開く事間違いなし。

《かえんほうしゃ》やら《ミサイル》やら受ければ単純に死ぬ。よくて瀕死。と言うか、普通に人間が作る兵器だから。魔法じゃないから。と、今更ながら青魔法をディスる様な事になるとは思わなかった。

 

それに《じばく》……は言うまでもない。

 

 

最後に覚えているのは改めてのFF5ピクセルリマスター版だったから、特にFF5の青魔法が目に付くのは気のせいじゃないのかもしれない。

FF14でも現在のアップデートでは最上位まで鍛えていたし、数だって圧倒的に多いのだが、思い入れと言えば5だからだろうか、その辺りはよく解らない。

 

 

「でもな~~、ボコ! モグ! さいっこうの青魔法使える様になったから、これまでの苦労なんざ、水に流しても良いよなっ!?」

「グエッ!?」

「グボッ!?」

 

 

朝一、いい具合に気付け? すり寄ってくる? 兎に角仕返しと言わんばかりに1匹と1羽の首根っこをギュっ、と回してやった。

これまでの苦労の道筋……、懐かしい夢を見たから思い返してしまったので、いろんな意味で感慨深く思えた。

 

 

「ほーら、マイティーガード! あ~~んど、ホワイトウインド!!」

「クポっ、クポポっ!」

「クエッ♪ クエッ♪」

 

苦しそうなので、自慢であり最高の青魔法をプレゼントすると、途端に笑顔になった。

 

 

まさに代名詞、超強力なバフを仕掛けれる青魔法と自分のHP分だけ全体快復させる事が出来る青魔法。

 

 

更に言えば、どういう訳か、ホワイトウインドは術者のHP~と言う件が廃止? されていた。ただただ回復をしてくれる。

細かく言えば、白い霧が発生している間、それに包まれたら回復する様で、その効力はケアルやケアルラ、ケアルガ、それ以上と言われる(レイドパーティーを組んだ時の皆さんの感想)

 

 

 

ホワイトウインドは《アレイジ》と呼ばれる(こっちでは赤兎)モンスターからラーニング。

 

 

 

かなりレアなモンスターらしくて、向こう数年は見かけない、と地元の職業 狩人が言っていた。肉やら毛皮やらは高級品、でも油断したら普通にこっちが殺られるので超注意。

なんでも、白い霧が発生している時は、どんなに攻撃しても倒せないから、手出しせずに待つのが主流だそうで、青魔法ラーニング知識を持ってる俺としては、それがホワイトウインドだ、と言うのは一発で解った。

 

なので、白い霧(ホワイトウインド)を発生させたと同時に飛び込んで飛びついて捕まえて覚えた。

絵面的に物凄く馬鹿を見る様な目で見られたのは言うまでもない。馬鹿な真似するな、死ぬ気か! と本気で心配されたのは申し訳なかった。

 

でも、それが自分が覚える魔法の手段である、と説明し、ホワイトウインドを実践してあげると、何とか納得してもらった。でも、メチャクチャ心配したんだから、と怒られた。

 

 

 

続いてマイティーガードは《スティングレイ》から(こちらでは青い悪魔)ラーニング。

 

これは……うん、普通に悪夢。ヤバい。死ぬ。

とある港町、数年おきに現れるモンスター……と言うより災害や厄災に近いかもしれない。

何故なら、そのモンスターは群れで襲ってくる。見た感じはまんまFF5のあのスティングレイ。海上に出没するモンスのくせに、羽根を持ち空飛んで、更に顔が骸っぽいビジュアル。

 

当然討伐隊を編成して、緊急クエストと言う形で参加させてもらったが、マジで悪夢。

ホワイトウインド覚えてなかったらどうなってたか、想像しただけでも3回は死ねる。

下手討てばマジで死屍累々だった、と言っても過言じゃない。

レイドメンバーは、ホワイトウインドの事を知っていたし、その効力の高さも認識していて高を括っていた様だが、こちらは気が気じゃなかった。

結果、誰一人死なせずに守り通した。ヒーラーとしての立ち回りは褒めていただきたいものだ。無論、白魔導士は他にもいたけど。

 

 

ちょっとした武勇伝は置いといて、肝心のマイティーガード。

それを取得できたのは偶然と幸運の産物。

 

ホワイトウインドの時同様、某FF5の様にあやつる必要はない。

相手が味方同士でバンバンやり合ってる中に飛び込めばOK.

 

偶然の1つに、船上に降りてきた数体の個体が使った事、幸運にも自分が近かった事、これらが合わさって取得完了した。

 

結果、味方全体の士気が高まった。

プロテスとシェル、レビテトの重ね掛け、超強力バフ魔法は超有能。

あの厄災討伐には無くてはならないものだった様で、それを実演させた自分は、最後に英雄扱されたのはいい思い出だ。

スティングレイたちも、まさか自分達の最大の長所であり切り札でもあった筈のマイティ―ガードが人間側に使われる、なんて夢にも思ってなかった事だろう。メチャクチャ慌てた顔してて、あの骸な顔が歪んでいたのは面白かった。

 

 

 

ホワイトウインドとマイティーガード。

 

 

 

その二種を覚えた辺りから、それなりに知名度が上がってきたと思う。

 

曰く、《青い星》だの《極光の魔導士》だの《神聖魔法使い》だの、背中がむず痒くなる二つ名? を呼ばれた時は流石に恥ずかしさが勝ったので、宴の席で、しれっと逃げ帰ったのもいい思い出。

 

 

まぁ、だからと言って攻撃系の青魔法を覚えるのが楽になる――――とは言えないが。

 

 

過去を思い返し、再びごろんっ、と青い空を眺める。

何処までも透き通っていて、何処までも昇っていけそうな空。昇りに昇りつめれば、あの宇宙の闇、無が待っているのも想像するだけで面白いかもしれない。

自分の願望なのか、或いはたまたまの偶然なのかは知らないが、FF5よりな世界なのであれば、ひょっとしたら無の世界だってあるかもしれない。

 

某暗黒魔導士やら、某伝説な暗黒魔導士やらが待っていてくれそうだが………遭いたいとは思わないな。来たばかりの時と違って、リアルに死の危険を何度も何度も体感してきた身としては。

 

 

 

 

 

「―――お兄様」

 

 

 

 

そんな時だ。

青空を存分に楽しもう、としていたと言うのにも関わらず、それを遮る形でにゅっ、顔を出してきた者がいたのは。

 

 

「クァール討伐、完了致しましたわ!」

 

 

ニコッ、とはち切れんばかりの笑みを浮かべる女性がそこには居た。

勿論、見覚えがある――――所の話ではなく。

 

 

「マグ。あれ? もうお前達には卒業証書あげたって言ってなかったっけ?」

「はいっ。頂きましたっ。生涯、大事にすると誓ってこの身離さず持ってます」

 

 

青い空に加えて、太陽の様に明るい女性がそこに居て――――。

 

 

「兄者。いい加減諦めてくれ。私達は兄者から離れるつもりはない」

「……しまったドグにはバレてたか」

 

 

実に対照的にどこまでもクールな女性もそこに居て――――。

 

 

「にっしっしっ! そんなのタツ兄だけだしっ、アレだけで終わり~~なんて思えてたのって」

「まさか、ラグにも……?」

 

 

更に更に、もう一人……最後のチビっこ少女まで現れて、3人そろってメーガス三姉妹。

 

 

「ふふ。お兄様。初めて出会った時、お兄様は言ってらしたでしょう? 自分の為に働けるまでしっかり成長しろ、と。それまでは貸しだ、と。まだ私は勿論、ドグもラグも、返せてませんよ? 多大なるこの恩義を」

「そりゃ言ったが、あの時のマグは警戒感MAXだったし、つーか、警戒するの当然で、妹守ってる姉ちゃん格好良い、って感心したくらいだし、ある程度の契約やらを持ちかけた方が良いかな? って思ってただけで。その辺も踏まえて昨日伝えた筈だったんだけど」

 

 

 

ひょんなことから、彼女達を預かっていたのだが、もう一人前になり、一戦級の冒険者の実力も得て、幸せに暮らす事も出来る様になったので、卒業祝いを送り、証書も送り、晴れやかに門出を見送ったのはつい先日の事―――――だったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

折角昔の事を思いだしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

この眼前で楽しそうに笑う3姉妹との出会いを、深く思い返してみようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女達と出会ったのは、初めてFFでも出てくる王国―――魔法王国ミシディア。

またの名を魔導先端学術都市。

 

 

魔法で発展し、繁栄を築き上げている大きな大きな王国、初めて足を踏み入れるファンタジーな王国。そして競争社会の実力主義な王国故に、競い合って互いに高め合って、益々繁栄させる、と言う屈指の強国だ。

 

これまでどの町よりも大きくて、繁栄した街に心躍らせていたのは間違いないが……、やっぱり大きな光がある所にはしっかりと闇な部分もあると言う事で。

 

ミシディアについて情報屋からバッチリと仕入れた。

なんでも、ここでは暗に3つの階級が存在する。

 

 

◇ 名のある大魔導士の血脈が絶対条件の《貴族階級》

◇ 税に加えて役人に裏金を収める事で一定の立場が保証される《一般階級》

◇ 収める金がまるでない《貧民階級》

 

 

非常にありきたり。

貴族絶対主義、差別主義者たちのたまり場。権力を持つ役職は、全て貴族階級だから、私物化してるも同然。

 

貧民層に、希望の糸の様に王立アカデミー試験と言う形をとっているが、その天から垂らした糸には絶対に手に取る事が出来ない様になってるから、性質が悪い。反吐が出る。

 

ありふれた、ありきたりな薄汚い闇の部分……だが、言葉や絵だけ見た所でちょこっと感情移入して終わりなのだが、流石に実際に間近で死にそうな子供を見てほっておく事なんて出来るもんじゃない。

 

 

 

暗く薄淀んだ路地裏に見えるのは3人の幼子。

身を寄せ合って野良猫の様に生きている。ゴミを漁り、カビが生えたパンを見つけると嬉しそうに歯を見せて笑い……、懸命に生きようとしている姿が見える。

 

 

そんな幼子たちに向ける視線はいつも同じだ。

憐れみ、蔑み、汚いものを見る目。居なくなるのを待っている目。

 

 

だが、今回に限っては少し違う。

無数の悪意ある目の中に1つだけ、違う種がある。

 

 

貧民層の数、その規模はとんでもなく、果てしなくデカい。

全員を救うなんて、一個人の経済力じゃ無理だ。

だから、そんな中、たった3人だけを救うなんて、偽善じゃないか、自己満足じゃないか、と思ってしまう。

 

でも、ハッキリと目が合った。

幼くも、懸命に生き、懸命に妹たちを護ろうとしている少女の目は、眩しかった。何よりも輝いて見えた。

 

この世界に来て、冒険者になって、青魔導を覚えてはしゃぎ回って、この世界が楽しく(・・・)思えていた自分の思考に重く、きつい一撃をガツンッ! と貰った気分だった。

 

 

 

「―――一緒に、くるか?」

 

 

自然と出た言葉。

自然と差し出していた右手。

 

 

そして、じっとソレを見る驚いた顔。

突然、知らない人から声をかけられたら、それは驚くものだろう。

或いは、言葉も話す事が出来ないのだろうか?

 

差し出した手前、ひっこめる事も出来ず、ただただ相手の出方を伺っていた時、小さく、それでいて確かに響いてくる音があった。

 

 

くぅぅぅ……と。

 

 

それは、一番小さな幼子の腹から聞こえてくる。

生きたい、身体は生きたがっている証である音。

それと同時に、苦痛を齎す音でもある。

 

 

懐からごそごそ、と麻袋を取り出す。

そして、更に紐を解き、その中から取り出したのは大きな大きなパン。

先ほど、幼子たちが分け合って食べていたパンとは比べ物にならない程大きく、汚れてなければカビが生えている訳でもない。

仄かに漂う美味しそうな香りは、否応なしに鼻腔を刺激する。

 

 

食べ物に釣られて手を伸ばしたのかもしれない。

導かれるがままに、差し出されたその右手を、その先に光も見た気がした。

 

 

差し出される手を取ると、他の2人の幼子も姉に続きやってくる。

3人を包み込む様に抱き寄せると、小さく素早く《マイティ―ガード》を唱えた。

 

この魔法大国であっても青の魔法はロスト・マジックに分類される類稀なる魔法、解明されていない魔法だからか、活躍が目に付きだしたころから、いろんな意味でこのミシディアにはアプローチを貰っていた。

 

でも、そんな事よりもまずは、この小さな命を守らなければならない、と強く思った。

奇怪な物を見る様な周囲の連中がまるでモンスターの様に感じたから、もう◎焦げにでもしてやろうか……と一瞬思ってしまったが、それをすると間違いなく被害を被るのはこの子達だ。

 

マイティーガードをかけた4人は、効力の1つであるレビテトで空を飛びあがる。

ギョッ、驚き怖がり、思い切り抱き着いてきたのは好都合。マントの中にすっぽりと3人とも隠す事が出来たから。

 

 

ただ、急に飛び上がった所を見られているので、驚き目を見開き、あまりにも目立ち過ぎたので、悪い意味で目をつけられたかもしれない……。

 

 

 

 

宿をとっておいた。

大衆向け、冒険者向けの宿で良かったと心から思う。

ファンタジー世界のファンタジー丸出しな王国なのだ。これまでのクエストで得たギルも相当に溜まっているから、そろそろ贅沢をしてみようか、どうしようか、と悩んだ末に、コイントスでここを選んだ。

運が本当によかった。

 

 

「……人攫いじゃないだろうね?」

「な訳あるか」

「見たところ、貧民街の子だと思うけど、そっちの趣味があるとか?」

「な訳あるか」

 

 

ゲスい勘ぐりをしてくるものだ――――と思うが、この肝っ玉母ちゃん風の宿屋のおばちゃんは、本気で本当にこの子達を心配しているのだ、と言う事は目を見れば解る。

 

このミシディアの中の宿屋を営んでいるとはいえ、利用者を考えれば、闇の部分に近すぎず、遠すぎず、な距離感だからか 心が毒されたりしない様で良かった。

虫けらを見る様な、貴族階級(あいつら)の様な目で見られていたら、青魔法の1つや2つ、ひょっとしたらプレゼントしてたかもしれないから。

 

 

「それなら良いけどさ。でも ベッド使うんなら子供料金はしっかり払って貰うよ」

「大丈夫だってーの。今、オレってばお金持ちなのよ?」

「金持ちがこんなボロ宿に泊まるってのも怪しいってもんだね」

「ボロって、……自分で言うなよ」

 

 

完全に疑いが晴れた訳ではなさそうだが、それでもある程度は信頼してくれている様だ。その顔を見れば何となくわかる。

 

 

 

「あ、あの……」

 

 

 

そんな時、声を上げたのが幼子の中の姉。

でも、何か言う前に肝っ玉母さんが、ジロリ、と一瞥すると。

 

 

「にしても、随分汚れてるね。そのままじゃ寝かせられないから、部屋に入る前にちゃんと洗っとくれ。裏庭にでっかいタライ用意してやるから。わかったね?」

「ああ。助かる」

 

 

と言う訳で、さっさと宿屋の裏手に回った。

店の中を突っ切った肝っ玉母さんの方が用意するのも早かったのだろう、屋根ありの洗濯場には大きなタライがおかれていて、簡単な風呂にも使えそうだ。但し、湯を沸かす設備は無さそうだが。

 

 

「あ、あの……」

 

 

付いた所で、もう一度話をしようと声を上げるが、取り合えず応える代わりに頭を一撫でした。

 

 

「何にしても、まずは身体を綺麗にしてからだ。腹を膨らました後は心と身体を、ってな?」

 

 

撫でられた手をそっと取る幼子。

その手はわずかに震えていた。

そんな姉の傍を離れない様にぴったりとくっついてる2人にも、その震えは伝わっているのか、彼女達もカタカタと震えている。

 

 

「……どう、して? どうして、……して……くれたの……?」

 

 

恐る恐る助けてくれた理由を、おなかを満たし、薄暗い所から明るい場所へ連れてきてくれた理由を聞く。

 

 

「……そりゃ、未来への先行投資! 光源氏計画! ってヤツだ」

「せん、ひか……え?」

 

 

言っている言葉の意味がよく解らないのか、何度も頭を傾けては、妹たちの方を見る。

意味解るかな? と目で聞いている様だが、当然姉が知らないことを2人が知る訳がない。

 

 

「オレは冒険者をやってるんだ。将来、お前さん達が大きくなって美人になって、強くなって、金だって稼げるようになって―――――生きていける様になったら。きっちり返して貰うからな? だから、今はしっかり食って、しっかり綺麗にして、しっかり寝とけ。子供は寝て育つもんだ」

 

 

そう言うと、指を立てて魔法を唱える。

 

 

「アクアブレス」

 

 

青魔法(アクアブレス)発動。

 

本来なら、ゴリっゴリの攻撃魔法の1つ。

高圧の水泡を発生させて、敵にぶつけたり水の中に閉じ込めたりと多岐に渡る。

 

でも、発生させた水はしっかりその場に残るから、上手く調節して力の伝え方を変えると――――。

 

 

バッシャーーーー!

 

 

 

良い具合の超特大シャワーへと早変わり。

 

 

大分汎用性のある青魔法。

やはり、青魔法最高。

 

 

わー、とか、きゃー、とか燥ぎながらも空を仰いで水を浴びて歓声を上げる子達を見てたら、何だか心が和むと言うモノだ。

 

自分が救えるのはほんの一握り。

今も、あそこでは、この国では助けを求めて手を伸ばし続けている子達は無数にいる事だろう。

たまたま手を取る事が出来たこれは、自己満足なのかもしれない。

 

でも、それでも……。

 

 

 

「……ありがとう、おにいさま」

 

 

 

笑顔で、涙を流しながら礼を言う幼子を見れば、それでも良い。自己満足でも、偽善でも良い。そう感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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