似非な奴ら   作:緑丸

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蕾すら未だ見えず

「――嘘つき、だぁ?」

 男が金を数えていた手を止め、細い目をいっそう鋭く尖らせた。

「坊っちゃん。大人に向かって失礼なことを言っちゃいけねぇよ。俺たちの商売は信用が命だ。『嘘つき』なんて言葉にゃ、人一倍敏感でね。……ああ、本当に。」

 数枚の千円札と、重みのない小銭を慣れた手つきで鞄に仕分けると、男は薄気味悪い笑みを浮かべて父を振り返った。

「では、また後日に」

 そう言って、男は慇懃に一礼し、玄関の扉を閉めた。

「瞳。あんな無礼を働くもんじゃない。……それより、その壺を上座に運ぶのを手伝っておくれ」

 父の細く、血管の浮き出た手が、祈るように壺の肌を撫でた。

「神様だか何だか知らないけど、こんな安っぽい焼き物に、そんな力があるわけないだろ!」

 俺が怒鳴ると、父はびくりと肩を震わせ、困惑したようにこちらを見た。

「急に大きな声を出さないでおくれ。驚いて、もし落としてしまったらどうするんだ」

 その声は、枯れた柳を揺らす隙間風のように、どこまでも力なく、俺の言葉なんて素通りしていく。

「本当にご利益があるなら、誰だって独占するはずだ。なんで人様に、俺たちでも買えるような値段で売るんだよ。詐欺に決まってる。今からでも追いかけて、金を返してもらえよ!」

「瞳」

 必死に訴える俺の瞳を、父は凪いだ海のような、静かすぎる目で見つめ返した。

「人の心を疑ってばかりいてはいけないよ。いつも言っているだろう。ご利益というのは、人に分け与えられる徳のある者にこそ、降り注ぐものなんだ」

 父は俺の両肩にそっと手を置き、薄く、壊れそうな笑みを浮かべた。

 静まり返った家の中で、父の言葉だけが妙に響く。それは真実のようでありながら、決定的に歪んで聞こえた。

「そうだ。久しぶりに友達の家へ遊びに行っておいで。最近は、家のお手伝いばかりで忙しかっただろう?」

 父はまるで、ぐずる子供をあやすような口調で言った。

『あんたが自分を安心させたいだけだろう』という毒を、俺は飲み込んだ。吐き出す気力すら、もう残っていなかった。

 俺は黙って靴を履き、逃げるように家を出ようとした。

「いってらっしゃい」

 背中にかけられた声に、返答すべきか、無視すべきか。軋む心を無視して、ようやく一言だけ絞り出す。

「……いってきます」

 扉が閉まる。

 春とは名ばかりの、冷たい風が頬を刺した。上着も着ずに飛び出したことを、すぐに後悔した。

 玄関前で立ち尽くし、自分には行く場所なんてどこにもないことに気づく。

 友人なんて、もう数ヶ月も口をきいていない。

 それもこれも、全部あの『ガラクタ』のせいだ。

 視界がぼやける。無気力な恨みが、世界から焦点を奪っていく。

 母が死に、家が壊れ、そこに群がる悪意の噂。

 まるで、我が家だけが何かの伝染病に侵されているようだった。

 あてどなく歩き始めた足は、行き先を見据えていない。

 誰か、救ってくれないだろうか。

 救われる方法を、誰か示してくれないだろうか。

 不意に、数メートル先。

 そこには、さっき俺たちにガラクタの一つを売りつけたあの男と、見知らぬ別の男が立っていた。

 

 

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