親愛なる隣人、ウマ娘と共に。   作:elle/エル

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ホームシック

 

結論から言うと、両親は死んでいた。交通事故で。

 

いやいや、何なの。ほんとに。

 

そして私はどうやら謎の宇宙人に消された全宇宙の生命の半分に選ばれてしまった哀れなウマ娘、らしい。

 

それを知ってからしばらくは家の中で何をすることもなく空を見つめるだけ。

 

どうやら両親は消えた私が行方不明だと思い込んで外でビラ配りとかをして必死に私を探していたらしい。

 

私が戻ってくる1ヶ月くらい前、だったかな。母さんが抱えていたビラを交差点に落としてしまって急いで取ろうとした時、もう、すぐ近くにトラックが来てて、父さんが急いで助けに行ったけど、逆に2人一緒に…って。

 

「ウマ娘って頑丈だと思うんだけどなぁ…」

 

はは、1人で何言ってんだろ。私。

 

薄暗い部屋の中、何も無い私の声が反響する。

 

そんな時だった。

 

ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。

 

ああもう、出るのもめんどくさい。

 

でも体は勝手に動いてた。まるで何かの運命に引き寄せられるかのように。

 

配達員さんから手紙を受け取った。

 

「トレセン学園入学書類…?」

 

「何で、今…?もう5年経ってるし。え…?」

 

そこに、また1枚。書類が封入されてた。

 

「……あぁ。特例措置ってことか。」

 

つまり私は5年間消えていたが、年齢も容姿も当時のそのままなのでそのまま今年度からの入学が特例で決まった、と言うことだ。

 

当然と言えば当然か。消えてしまったのは本人の責任では無いし、外見も精神年齢も当時から変わっていない。だからこれは当たり前のこと。当たり前のこと、だが。

 

「今の私は、私の生活は…私の大事な家族は…あの時と…何1つ、違うじゃん…」

 

涙が溢れて止まらない。今の私に、あの時みたいな、希望は…もう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのままひとしきり泣いて、泣いて、泣いて。

 

私は覚悟を決めた。

 

母さんに昔言われたことがある。

 

『見ているみんなに勇気を与えられる、希望を見出してあげれる。そんなウマ娘になってほしい。』

 

だったら、だったら…!

 

「なる。私はなるんだ…勇気と希望の、ウマ娘に。」

 

ちっぽけな惑星(ユニバース)のちっぽけな部屋。そこで空っぽの私は、大いなる覚悟を決めた。

 

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時刻は17時辺り。

 

事務作業を終わらせ、僕は模擬レースがあるトラックに来ていた。

 

たくさんのウマ娘がこの広大なトラックで並んでいる。

 

それぞれがそれぞれの信念を持ち、トレーナーに選ばれるために、自分の未来を決めるために、たくさんの想いが張り巡らされている。

 

覚悟が決まっている目をしている者もいれば、まだ迷いがあるような子もいる。

 

ふと、1人の娘に目が行った。

 

その子の目は、何かこう、上手く言い表せないけど、覚悟は決まっていた。でもその瞳の奥に、何か引っかかるものがあるかのような…

 

準備運動はしながら、視線は一極に集中していた。ただ前を、見ていた。

 

見ていると、全員がゲートに入ったようだ。

 

何か感じるようなものがあるな、と思っていたら。

 

「おー、よう。さっきぶりだな、ピーター。」

 

「ああ、沖野さん。さっきぶりです。」

 

話しかけてきたのは、さっきの飴男さん。

 

彼もどうやら、僕みたいにスカウトをしにきたようだ。

 

「お前もスカウトだろ?今んところ誰が一番良いと思う?」

 

「うーん、まだよく分かりませんが、強いて言うならあの子、ですかね。」

 

僕が指を指した所にいるウマ娘を沖野さんも見る。

 

「あーあのボブの子か?えーっと、あの子の名前は確か…ブラック…」

 

ガチャン、とゲートの扉が開く。名前は聞き損ねたが、とりあえず今はレースに集中しよう。

 

「まあとりあえず、俺も見て決めるかな…」

 

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「ふーーー…ふーー…」

 

気持ちを落ち着かせる。あれから私は学園に入学して、友達を作ったりして、ある程度クラスに馴染むことも出来た。

そして自主トレもしたりした。

来る模擬レースに備えて。

 

ここでスカウトが来るか来ないかで、私の何かが終わってしまう、と思う。だから勝つために。

今、できることをしよう。

 

準備運動をして、今はゲートに入って深呼吸をしている。どうしても緊張はしてしまう。

 

周りのみんなも目をギラギラ輝かせてスタートを今か今かと待ち望んでいる。

 

私も負けてられない。

 

走り出すフォームを構える。

 

『Are you ready!?』

 

『いっくよー!』

 

他の子たちのやる気も伝わってきた。

 

さあ、行こう。

 

ガチャン、とゲートが開く。そのまま私は駆け出した。

 

焦らず、自分のペースで。

 

 

 

 

 

 

今の立ち位置は中団辺り。まだ息は続いている。

 

既に掛かってしまっている子もいる。

 

まだ行けるぞ、と言う顔もあれば、既に顔が歪んできている子もいる。

 

よし。良いペースだ。もうすぐ最後の直線に入る。ここで…

 

芝を蹴る。そのまま駆け出していく。

 

どんどん前を追い抜いていく。

 

もうすぐ先頭にも追い付く。残り200mっ…

 

ガクン、と減速する。

 

「っあ」

 

何で…っ

 

何で。

 

負けたくない…いやだ…っ

 

学園に入れて、それで終わり?他の子に並ぶことも出来ず、ただ入って終わり…?

 

ここで負けてるようじゃ、これからも…勝てない…!!

 

ぐっ…っ、いきなり息が上がり始めた…

 

ペースを間違えた…?

 

でも、でもッ!!

 

「負けるわけには行かないんだァァァっ!」

 

「「でやあああああああ!」」

 

え?

 

今一緒に叫んだのは、誰。

 

そんなことを考えているうちに。

 

私の足は、ゴールを越していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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