ようこそ実力至高主義の教室へ   作:犯罪者ナポリタン

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書きたくない序盤の準備段階の話はまとめて投稿する。それがナポリタン。


第1話

「推薦状?」

 

ある日校内放送で呼び出されたかと思えば、進路指導室でそのような事を言われた。学校からの推薦ではなく、国からの推薦らしい。受けるも受けないもこちらの自由だ。しかし、推薦状の文面からは受けて当然だとでも言わんばかりに推薦を受けた場合の注意事項や、学校の制度についてびっしりと書かれている。

 

そしてそれは、特段不思議に感じることでもない。国主導で設立された特別な学校。高度育成高等学校。誰もが羨む屈指の名門校だ。しかし、何故自分にこんな推薦状が送られてきたのか。どこかで私を見張っていて査定でもしているのか。それとも、、、

 

「何故、私なんでしょうか。この学校の事は何も知らないのですが。私の何を見て判断したのでしょう」

 

知れた事である。目の前にいる教師、校長。どちらが情報を流したかは知らないがその学校に生徒の情報を流しているのだ。

 

めぼしい生徒だけなのか、或いは全生徒なのかその範囲は定かではないが、国と通じている事は間違いないだろう。

 

「私達も詳しい事は知らされていないんだよ。ただ君に、推薦状を渡すようにとこの学校の担当者から頼まれてね。名門校からの推薦状だ。君にとっても悪い話ではないと思ったんだがね。」

 

「そうですか。・・・この学校には他にも推薦状を受け取った生徒はいらっしゃいますか?」

 

「いいや、ウチの学校では君だけだ」

 

「・・・分かりました。有難うございます。推薦は引き受けるとお伝えください」

 

「親御さんとは相談等しなくてもいいのかな」

 

「不要です。それでは。」

 

もうこの部屋にも学校にも用はない。その高度育成高等学校とやらが、少しは楽しめるところならいいのだが。

 

 

 

 

 

 

時は流れ、入学式の日となった。両親は私が例の学校に推薦がかかったと伝えるとまるで自分のことかのように近所に言いふらしていたらしい。

 

両親は優秀なのだが、見栄っ張りなのが玉に瑕だ。親としてはそれで正しいと言えるのかも知れないが。

 

全寮制に加えて外部との連絡禁止。つまりは、電話による連絡すらも三年間取ることができないというのは流石に少し難色を示していた。

 

最終的には承諾を得て、こうして隔離区画(学校)に向けてバスに乗っている。

ちらりとバスに乗る同じ学生服を着た生徒に目をやる。

 

窓の外を見ながらボーッとしている生徒もいれば、手鏡を見ながら櫛で髪を整えキメ顔で色々な角度から自分見ている男子生徒もいる。

ナルシストか。しかし、学生服の上からでもわかるほど発達した筋肉は素晴らしいと言えるだろう。

 

「どなたかお婆さんに席を譲ってあげて貰えないでしょうか?誰でもいいんです、お願いします」

 

気付けば、明るい茶髪の女子生徒が車内に向けてそんな事を言っているではないか。

 

目的地まで残り数駅、席を譲るくらい構わないか。

 

「私の席で良ければ、どうぞ」

 

少女にも女性にも礼を言われ、適当に返事しておく。

 

当然、少女とは同じ目的地に向かっている事からバスを降りた後も必然的に軽く話しながら学校に向かうこととなった。

 

話を聞くと、どうやら彼女も推薦を受けてこの学校にやってきたらしい。

偶然出会った少女が偶然自分と同じく推薦を受けた生徒である確率について考える。

 

学校からの推薦、つまりは自分の母校からの推薦であればおかしくはないだろう。ただし、今回不自然なのは私も彼女も国からの推薦だったと言う点についてだ。

 

加えて言うならば、彼女のクラスはDクラス。推薦入学者が一つのクラスにまとめられていると言うわけでもない。

 

国からの推薦者特別クラスのようなものがあってもいいようなものだが。

 

「ねえ、私の話聞いてくれてる?」

 

ぷくっと頬を膨らませて上目遣い気にそう尋ねてくる彼女、名前は櫛田桔梗(くしだ ききょう)というらしい。

 

随分と可愛らしい少女だ。とても男ウケしそうな所謂ぶりっ子のような性格をしている。こういった性格の人間は同性からは嫌われそうなものだが、彼女は同棲に対してもうまく立ち回りそうである。

 

会話の端々から相手の好みを分析して話題をチョイスする彼女の会話スキルは称賛に値する。素晴らしい技術だ。

 

「あ、もう着いちゃったね。またね、森絵クン!」

 

そう言うと彼女は、自分のクラスの方へ小走りで向かった。案内にあった集合時間にはまだ少し余裕があるが小走りで向かった事から察するに、自クラスでも持ち前の会話スキルでクラスメイトと仲良くなるつもりなのだろう。

 

私は、話しながら初対面の相手を分析してしまう悪癖を自省しながらAクラスの教室へと向かった。

 

 

 

 

 

Aクラスに着くと、数人の席を除いて殆どの生徒が自分の席に座っている。初日のスケジュールの流れを確認し終えたのか近くの席の生徒と雑談している人も何人か見かける。

 

私もチラリと隣の席に座る生徒に目をやった。隣の席には小柄で銀髪の少女が数人の生徒と何やら話をしている。机の横には杖が立てかけられている。

 

足が不自由なのだろうか。

 

「少し、いいかな。」

 

そう話しかけると銀髪の少女と周りにいた数人の生徒がこちらに顔を向ける。

 

 

「私は森絵拳八(もりえ けんや)。クラスは変わらないそうだから、これから三年間宜しく」

 

私がそう言うと、相手方もそれぞれ軽く自己紹介を返してくれた。

 

銀髪の少女の名前は坂柳有栖というらしい。先天的なもので足は悪く杖を使っているそうだ。

 

他の生徒からは何も感じなかったが、この少女からは私を値踏みするような視線を感じる。

 

坂柳は誰に対してもこうなのだろうか。私も人のことは言えないが。

 

「部活動について話をしているのが気になってね。私は中学時代は陸上部だったものだから、この学校の陸上部はどれぐらい強いのか知っていたら教えてくれないかな」

 

確かに中学時代は陸上部だったが、陸上部の全国大会での活躍などには微塵も興味がない。流れで彼女や他の生徒のパーソナルを少し聞ければと思っただけだ。

 

少し話し込んでいると、いつの間にかクラスの席は埋まっており教師らしき人物が教壇に立った。

 

入学式の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、何事もなく入学式は終わった。と言っていいかは判断が分かれるところだ。なにやら意味あり気なことを言う生徒会長の発言が少し気にかかる。

 

部活動の説明が放課後に行われるそうだが、行くかどうか私は判断に悩む。

 

「森絵くんは部活動の説明会には参加されないのですか?」

 

行くかどうか悩んでいると、隣の席に座る銀髪の少女、坂柳有栖が私にそう話しかけてきた。

 

「どうしようか、悩んでいたところなんだ。部活動の説明会は数日間実施されるそうなので、一度は参加しようと考えているんだけどね」

 

「そうなんですか。でも、今日行かないのは正解かもしれませんね」

 

「?それは、どういう・・・」

 

坂柳に聞き返そうとすると、教室の中に朝私達を体育館まで案内してくれたのと同じ先生が教団の前に立った。

 

そうか、彼が私のクラスの担任か。

 

「まずは、皆入学おめでとう。私はAクラスの担任となった、真嶋智也だ。宜しく頼む。」

 

「この学校では三年間クラスが変わる事がない。仲良くするように」

 

そこから簡単な学校の説明とプライベートポイントというこの隔離された島における通貨の説明が為された。

 

プライベートポイント...この島にあるあらゆる物を買うことのできるポイント。

そんなポイントが今月は10万ポイント各生徒に振り込まれているらしい。

 

10万など大した額ではないが、全生徒に同じだけ配るとなると話は変わってくるだろう。

 

仮にも国の税金で運営している学校がそんな事をして良いのか、と思わないでもない。

 

説明も程々に担任と名乗った真嶋という男は早々に教室を出て行った。あとは自由にするといい、という事なのだろう。

 

しかし...

 

あらゆる物を買うことのできるプライベートポイント。

文理など選択コースによる差もない学校で三年間変わらないクラス。

生徒会長の意味あり気な厳しく生徒を突き放すような発言。

聞いた限りの生徒全てが推薦で入学する事を決意した学校。

不自然に多い監視カメラ。

 

挙げればキリがない程に不自然な点が浮かび上がって来る。

こんな状況下で10万ポイントを散財する愚か者はAクラスにはいないと思うが。

 

「どうかされましたか?森絵くん」

 

コテっと首を傾げながら私にそう問いかけてくる少女の視線は矢張り、私を値踏みしている目のそれだ。

 

この少女は何を知って私に何を求めているのだろうか。

 

「・・・大金が入ったからね。何を買おうか悩んでいたんだよ」

 

ニヤリと聞こえてきそうなほどに唇を歪め、目を細める少女、坂柳。

 

「それは嘘です。嘘はいけませんよ、森絵くん。森絵拳八くん」

 

わずかに頬が赤みを帯び、わずかに声に震えが感じられる坂柳の声は、何をどう読み解いても興奮しているようにしか見えない。

 

なんだ、新手の変態か何かか。

 

「嘘、か。そこまで断言するからには何かしらの根拠があるという事だな?坂柳」

 

フフフと少し笑うと坂柳は話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はずっとアナタを見ていました。森絵くん。」

 

「監視カメラに不快な視線を送った時も、生徒会長のスピーチに首を傾げた時も、

真嶋先生の話に眉を顰めた時も、

ずっとずっと見ていたんですよ。」

 

「それは、、新手の告白かな」

 

「今は好意を寄せているのではなく、興味を持っていると表現するのが正しいのでしょうね」

 

「気になったら全て理解するまで周りが見えなくなるタイプのようだね。周りを見てごらん?皆、驚いているよ」

 

「周囲の事など関係ありません。私はアナタと話しているのですから」

 

話にならない。何なのだこの女は。

 

「・・・分かったよ。分かった。さっきのは嘘だ。すまなかったね」

 

これ以上押し問答をするのは時間の無駄と判断した私は素直に打ち明ける事にした。

 

「では、本当は何を考えていたのですか?」

 

「ポイントについてだよ。何でも買うことのできるポイント。生活をする上で、必須となるこのポイントは果たして物売買するのに使用する、と言う用途に限るのかと思ってね。」

 

「と、言いますと?」

 

「例えば私がこの教室を買い取ることは出来るのか、とかね」

 

「教室を買い取る?一体何のためにですか?」

 

「この教室には監視カメラが仕掛けられているが、この教室を買い取ればカメラを外すことだって許されるだろう。

また、教室に教師が入ってくる事を私の権限で禁止する事も出来るようになるかもしれない。私の所有物なのだからね。

もしそうなった場合は学校側が新しい教室を用意するのか、暫定の成績をつけるのかは分からない。

だが、これから先授業を一切受ける事なく評価が貰えて、自らが望む就職先に就職できる。

そんな未来があるのならば、それより楽なことはないだろう?」

 

戯言だ。人に話すような事でもないから口にしなかっただけの戯言。笑ってくれて構わない。そう思いながら、私は坂柳に答えたのだった。

 

「たったあれだけの説明からその思想に至ったのですか?」

 

「たったあれだけ、か。十分過ぎるほどにヒントはあったと思うがね。

それに、坂柳。君も気付いていたんだろう?この学校生活ではプライベートポイントは物を買うだけにとどまらない、重要なファクターになり得ると。」

 

「ええ、おっしゃる通り。私は気付いていました。しかし、それは私に特殊な事情があったからでもあります。」

 

「ですが、アナタは違う。アナタは何の事前知識もなく独力でその答えに辿り着いた。

・・・最後に問いましょう。アナタが考えるプライベートポイントの秘密から学校側が私たちに教えたい事はなんだと思いますか?」

 

深い問いだ。倫理や道徳の授業を受けているような気にさせられる。

 

「そんなもの決まっている。」

 

「【如何に楽にこの世を生きるか】、だよ。」

 

効率を求め続けろ、常に楽することを考えろ。利益を追求しろ。最低限の労力で最大の利潤を手に入れろ。学校の教育方針も私の生き方もこの世のあり方も変わらない。

 

誰もが【楽】を求めている。

 

「少し、、いや、かなり熱く語りすぎたな。」

 

「フフフ、ヒートアップしてしまいましたね」

 

「少なくとも、私はこの学校生活で退屈する事はなさそうで安心しました」

 

私で楽しむつもりか。いい度胸だ。

 

「私も、暇を持て余す事にはならなさそうで安心したよ」

 

私と坂柳は握手を交わす。そんな二人の空間に割り込んで入ってくる男が一人いた。

 

「少しいいか?俺は葛城康平と言う。宜しく頼む」

 

「坂柳有栖です。よろしくお願いしますね、葛城くん」

 

「私は森絵拳八。君とは話してみたいと思っていたんだ。こちらこそよろしく」

 

目立つ男だった。スキンヘッドに大柄な体。多くの人に囲まれて人望もあるようだ。

まだ初日だと言うのに、仲良さそうにどこの部活の見学に行くかと言う話題で誰かと会話していたのを耳にしている。

 

「坂柳、森絵。お前達二人の会話が少し気になったんだ。今後のクラスにも影響する事だろうからな。場所を変えて話したいんだが、この後予定はあるか?」

 

「構いませんよ」

 

「私も構わない」

 

私は察していた。葛城は確かに優秀な生徒だ。普通の学校なら学級委員なり、生徒会なりに入って大勢の前に立って演説する。そしてそれなりの評価を得る。そう言ったことが出来たのだろう。

 

だが、この学校では彼の方針は甘過ぎる。正しくあれ、清くあれ。搦手も使うだろうが、誰かを蹴落としてまで勝ち上がろうと言う気が感じられない。

 

切り捨てる覚悟、踏み台にする覚悟、楽をする覚悟。邪道を許せぬ彼ではこの学校では生き残れない。

 

手短に終わらせよう。何について話していたか、どう言う意味か聞かれるだけだ。

 

Aクラスは何もしなくても普通にしているだけでいいと思うが、新しい環境に少し神経質になっているようだ。

 

今できる事など殆どないが、少しでも不安要素を取り除いておきたいのだろう。

 

あくまで私の憶測だ、推測だ。そう強調しながら私は葛城に聞かれたことについて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

私と葛城、坂柳の三人での話し合いが終わる頃。部活動の説明会など当然のように終わっており、校舎に残る生徒はチラホラと見かけるだけだった。

 

「実に有意義な時間だった。所々納得できない部分もあるが、お互いにがんばろう」

 

そういうと、葛城は寮とは反対側の方に向かって歩き始めた。買い物とあたりの散策をしてから帰るらしい。

 

「私達も帰りましょうか、森絵くん」

 

「そうだな。」

 

お互いしばらく無言で歩く。そして、しばらくした頃坂柳が徐に口を開いた。

 

「彼を、葛城康平をどう思いますか?」

 

呆れを感じさせる声で彼の名前を口に出す彼女が私の口からどう言った回答を期待しているのか、顔を見なくてもわかる。

 

「素晴らしい男じゃないか。人間として尊敬できる素晴らしい人間だ。とても優秀だと感じたよ。君は違うのか?坂柳」

 

そんな心にもないことを言うと、坂柳はぷくっと頬を膨らませて肩をぶつけてくる。

 

杖をついている以上、避けると怪我する恐れもあるので避けられない。小さな肩が私にぶつかり視界が揺れる。

 

「何をする、坂柳。危ないじゃないか・・・君が。」

 

「私の事を気遣って下さってありがとうございます。嬉しいです。ですが、先ほどの心にもない事を言った事は許せません」

 

わざとらしくプイッと顔を背ける坂柳。全く、可愛らしいにも程がある。

 

「心にもない事とは、、随分な言いようじゃないか坂柳。君は葛城が無能だとでも言いたいのかね」

 

「そうではありません。ツマラナイ、と言っているんです。」

 

リスクを冒さない、邪道を認められない、誠実である事を他者に強要する。非道な人間ではないが酷い人間ではある。

 

己に強い自信を抱いているが故に、他者に自論が正しいと言い聞かせ、クラスの為だと言いくるめる。

 

そしてそう言ったタイプは失敗した時には黙り込む。そう言うツマラナイ人種だ。

 

「森絵くんも分かっているのでしょう?彼ではクラスのリーダーとしては役不足だと。」

 

「・・・かもしれんな。だが、代わりのリーダーがいるわけでもない。実際、彼がリーダーになる事は最善ではないが良い選択ではある。一定の結果は残せるだろう。」

 

「森絵くんが成ればいいではありませんか、Aクラスのリーダーに」

 

「私が?求められればなっても構わないが、進んでやろうとは考えていないな」

 

「では、私がクラスのリーダーとして立候補すると言ったら、アナタはどうしますか?」

 

坂柳がリーダーに。最善の選択肢だろう。

 

「勿論君に協力するとも。葛城と君、どちらがこの学校でよりリーダーに相応しいかなど比べるべくもない。」

 

「でも、私とアナタが組めば「「ツマラナイ」」・・・フフフ、そうですよね。では、どうしますか?」

 

「私は葛城に手を貸す。君と楽しむ為に。」

 

私は楽を求めて生きてきた。どうすれば最も少ない労力で最大の効用を得ることができるか。

 

それを第一に生きてきたが、たまには刺激も必要だ。少しぐらいの遠回りをしてみよう。

 

「それはそれは、とても楽しくなりそうですね。」

 

この学校で何かがある事前提で話が進んでいる。彼女はまるでそれが確定であるかのように話す。

 

そしてそこで私は思い出す。この学校の理事長の名を。

 

 

ああ、そうか。理事長の娘か何かか。

 

「色々、合点がいったよ。」

 

「何がでしょう?」

 

坂柳がそこまで確信しているのは直接聞いたかどうかは分からんが、知っている人間が理事長を務めている。

 

理事長がどんな人間かは知らないが、坂柳の持っている情報だとこの学校では争いが起こる事を裏付けることができるのか。

 

そうと仮定するならば、私にも動き様はあると言うものだ。

 

「君と敵対して競い合うためにも、暫くは準備に入らせてもらうよ。」

 

「おや、何か思いつきましたか?いいですよ、ご自由になさってください。でも勿論、ご褒美には期待しても宜しいんですよね?」

 

「ご褒美か、、君にとってのご褒美が刺激という意味で言っているのなら満足させる事を約束しよう。今日明日に与えられるものではないがね。」

 

「楽しみにしていますよ、森絵くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。私は他クラスへと偵察に出ていたのだった。適当に一番近いクラスから失礼し、他愛もない雑談に興じる。Bクラスである。

 

月に10万も貰えるなんてすごいよねーとか、部活動どこにしよっかなーとか、かっこいい先輩見かけたーとか、帰りにいい店見かけたからよかったら一緒にーとかそう言う話をしていた気がするが、聞き流していたので覚えていない。

 

 

しかし、話している中でよく話題に上がった名前は明確に記憶している。

 

一之瀬、神崎。この二人はどのBクラスとの生徒と話しても話題に出てくることが多かった。信頼されているのだろう。

 

「その一之瀬さんって今居るのかな」

 

「ああ、居るよ。ほらあそこの人だかりのできている席に座ってる子が一之瀬さんだよ」

 

Bクラスの生徒が指を刺した方を見てみると、確かに人だかりができている。Bクラスの中でも一際賑わっているように思える。

 

あの中に飛び込んでいくのは正直億劫だが仕方がない。重い足取りを引き摺りながら渋々一之瀬という生徒の席に近付いた。

 

「おやおや、君はBクラスの生徒じゃないね?」

 

まだ入学して2日目だと言うのに、こう断言できると言う事はクラス内の生徒の顔は一通り覚えているのだろう。パーソナルまで把握しているかは不明だが、順調にクラス内の交友関係は深められているらしい。

 

話してみると、良い人柄の生徒だと言うのは嫌でも分かった。加えて、周りにいた生徒達も非常に好感の持てる所謂いい人が多かった。

 

つまり、特筆すべき点のない平凡で秀才止まりのクラスと言ったところだろう。学校で一番には成れないだろうが、常に二番手をキープする事ができる。健闘を讃えあって気持ちよく終えることができる。そんなクラスになるだろう。

 

退屈なクラスだ。

 

一之瀬やその周りにいた人間と連絡先を交換し、クラスを出ようとした時だった。一之瀬の方に熱い視線を向けている少女が視界に入る。誰かと話している間もチラチラと視線を送り続けている。

 

さっきまでの考察は撤回する。少し手を入れれば、多少はマシなクラスになるかもしれない。

 

 

私はクラスを出る前に、その少女の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんなこんなでBクラス様子を見終えた私はCクラスに来ていた。のだが、、

 

 

「なんだテメェは?他のクラスの奴がズカズカと人様のクラスに上がり込んできてんじゃねぇよ」

 

まるで自分の所有物であるかのような言い様だ。まるで自分がこのクラスの「王」であるかのように。

 

「他のクラスにはどんな人がいるのかなと思ってね、タイミングが合わなかったなら出直そう」

 

彼からすればクラス内の統治の真っ最中なのだろう。ピリピリとした雰囲気の中Cクラスに入り込んでも何も収穫は得られなさそうだ。

 

「是非そうしろ。というか二度と来んじゃねえ」

 

「まあ、そう言わずに。私は森絵拳八。君は?」

 

「なんで俺がテメェに名乗らないといけないんだよ」

 

「龍園さん、頼まれてたジュース買ってきました。ん?その人誰ですか?」

 

両手に自分の分と目の前の生徒の分を買ってきたのであろうジュースを持った生徒が近づいてきた。

 

「なるほど、龍園君かよろしく頼むよ」

 

「チッ、テメェ石崎後で覚えてろよ」

 

「え!?な、、なんでですか!?俺何かしましたか?」

 

「取り敢えず、タイミングの良い時に連絡を頼むよ。と言う事で、連絡先を交換しておこう。ついでにそこの石崎君も」

 

「え?あ、ハイ」

 

「誰が交換するかクソが。行くぞ石崎」

 

「おっとと、これでヨシと。待ってください!龍園さん!」

 

龍園とやらの連絡先は入手できなかったが、まあいいだろう。今日はただの様子見なのだから。

 

そして私は最後にDクラスへと向かう。しかし、

 

「ふむ。全然人がいない。当然と言えば当然か」

 

Bクラス、Cクラスで時間を浪費してしまった事で授業終了後から1時間は経過してしまっている。殆どの生徒は遊びに行っているか、家に帰ってしまっただろう。

 

しかし、教室に残って勉強している生徒が

居たので私は取り敢えず声をかけてみる事にした。

 

名前は幸村輝彦、と言うらしい。彼はどうやら今日学習した範囲の復習をしているのではなく、予習を行なっているようだ。

 

勤勉な生徒だ。

 

 

話してみると、クラス内の事は全く興味がないようで何も知らないらしい。なんの収穫にもならなかったが、たまたま目に入った数学の問題を解いた彼の解法を見た。

 

彼の解法でも解けるが、別解の方が早く且つ少ない式で解ける為伝えたところ少し話が盛り上がり流れで連絡先を交換する事になった。

 

別解の理解がすぐに出来ていたので、学力的に素晴らしい生徒である事は間違い無いだろう。

 

幸村との出会い以外特に実りのないDクラスであったが、偶々教室を出たところである生徒と鉢合わせした。

 

「あれ?君はたしか、森絵クンだったよね!私の事覚えてるかな?」

 

櫛田桔梗。彼女と会えたのは非常に幸運だったと言えるだろう。初日から精力的にクラス内の交友関係を深めていた彼女と話す事は、Dクラスの状況を素早く把握するための大きな助けとなるだろう。

 

「勿論、覚えているとも。櫛田さんだったね」

 

うんうんと笑顔で頷く櫛田。取り敢えず喉を潤したかったので、適当なカフェにでも行かないか?と誘い、櫛田が行ってみたかったと言っていたカフェに入る事になった。

 

学校からは少し離れていたが、カフェに向かう道すがら、クラスの事を色々と聞くことができた。

 

こちらも、サカヤナギガー、カツラキガー、とクラス内で特に力を持つ二人のことについて適当に話しておいた。

 

「お、大きいね、アハハハ...」

 

これが櫛田がこのカフェに来たかった理由らしい。Dクラスの女子達の間で話題になっていたという、ダイナミックツリーパフェだ。

 

どうやって盛り付けたんだと激しくツッコミたくなるようなパフェである。最下部にチョコレートシフォンケーキがクリスマスツリーの鉢植えのように置かれており、その上に山のようにコーンが積み上げられている。

 

その上からトドメだとでも言わんばかりに大量の生クリームがグルグルとコーン全体を覆っている。そして、イチゴをはじめとしたフルーツが所狭しと並び立てられお菓子の城のようになっている。

 

甘いものが苦手な私からすると地獄のような光景だが、女子達の間ではこれがブームらしい。

 

美味しいだけでなく、食べ切れば好きな人と結ばれると言った都市伝説が既に出来上がっているらしい。周りのテーブルを見渡すと何人か頼んでいる客がおり、その中にはカップルもいた。

 

いや、彼氏いるならこれ食べにくる意味あるか?と思わないでもない。

 

こんなものを食べ切るなど正気の沙汰ではない。店自慢のオリジナルブレンドコーヒーを啜りながら目の前に座る櫛田へと視線を向ける。

 

「森絵クン...手伝って、くれるよね?」

 

「・・・」

 

私は今日、死ぬのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな波瀾万丈艱難辛苦に見舞われた私だったが当然のようにパフェはギブアップして難を逃れた。あんなものは食えない。店には申し訳ないが、引き取ってもらうことにした。

 

「すまないね、残してしまって」

 

「いいよ、気にしないで!元はと言えば私が無理言って頼んだからね、大丈夫だよ」

 

本当に気にしていないようだ。もし特別な思いを持って臨んでいたのだとしたら申し訳ないと思ったのだが、どうやらそうではないようだ。話題作りの一環だろう。

 

その後はお互いのクラスの事や、学校の授業の難易度がついていけないほどではないとか、他愛もない話をした。

 

「あ、もうこんな時間だね。そろそろ帰ろっか?」

 

気付けば外は薄暗くなってきている。寮に門限などは特にないが、あまり遅くなっても良くないだろう。

 

「そうしようか」

 

その後代金を支払い、帰路に着く私と櫛田。串田のおかげでDクラスの内情に関しては多くを知ることができただろう。

 

同学年の様子を見るのはこれぐらいにして、明日は部活動の体験に行ってみようか。

 

「森絵クンはさ、どうして他のクラスの事をそんなに調べてるの?」

 

隣にいる櫛田から唐突にそんな事を聞かれた。当然だろう。他クラスの事を知りたがる生徒なんて中学の時も居なかっただろうし、まず自分のクラスの人間と仲良くなってからと考えるのが普通だろう。

 

「この学校にどんな生徒が入学しているのか気になった。それだけだよ」

 

嘘ではない。目的がそれだけではないだけだ。どんな人間が他クラスにいるのか、入学したのかを把握したかったのは事実だ。あわよくば何を基準に国が推薦を出したのかなどが知れればよかったのだが、皆目見当もつかない。

 

普通の生徒もいれば尖った性格、個性の生徒もいる。どこの学校でもあり得そうな、そんなありきたりな学校に見える。

 

だが、国が直接運営し、外の世界と完全にシャットアウトされた空間で、ただそれだけだなんてことは有り得ない。だからこそ、味方になるにせよ、敵になるにせよ、他のクラスの情報は重要になってくる。

 

「ふ〜ん、そうなんだ」

 

何かを考えながら、そんな返事を返す櫛田。

 

何か勘づいたか、それとも適当に返事しているだけか。

 

その後も適当な話題で話した後、流れで連絡先を交換して解散しようとした時、一人の生徒が寮から出てきたのだ。

 

その生徒の顔を見た瞬間、隣の櫛田の雰囲気が一瞬、薄暗いものへと変質した事に驚いた。この生徒と因縁でもあるのか。

 

「堀北さん!偶然だね」

 

「ええ、そうね。それじゃ」

 

「え!?ちょっと待ってよ堀北さん〜」

 

先程一瞬見せた雰囲気が嘘のように霧散し、表面上仲良く談笑している。堀北と呼ばれた女子生徒は櫛田の事をウザがって早急にこの場を離れようとしているが。

 

どんな因縁があるかは知らないが、櫛田は堀北に何か思うところがあるのだろう。

 

「そこのアナタ。ただ立ってみてるだけならこの子を話すのを手伝ってくれないかしら。私はこの後用事があるから急いでいるのよ」

 

「どんな用事があるの?」

 

食い下がる、というよりよほど邪魔がしたいのだろうか。堀北が焦れば焦るほど、櫛田は笑顔になっていく。ような気がする。

 

いい性格をしている。これが女の修羅場という奴なのかね。

 

「随分と二人は仲が良いようだね。私はここらへんで失礼するよ、堀北さん、櫛田さん。ではまた」

 

「ちょっと、待ちなさい!...ってアナタはいい加減に離れなさい!」

 

そんな争う声を尻目に私は寮の自分の部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校生活3日目である。授業を受け、放課後になったので昨日と同様に今度は部活動の体験にでも行こうかと考えていると、私の前に立ち塞がる人影があった。

 

「森絵さん、昨日は収穫がありましたか?放課後すぐに教室を出て行かれましたが」

 

坂柳有栖、私の隣の席に座る少女だった。

 

「当然、私が動いたのだから収穫はあったとも。君の方はどうだったのかな?クラスの掌握は進んだかい?」

 

「そうですね。こちらも順調です。今日もどこかに行かれるのですか?」

 

「今日は部活動巡りをしてみようかと思っていてね。新入生のこの時期というのは色々な部活に出入りしても不思議がられないとても良いタイミングだ。無駄にはできないよ。君も統治が落ち着いたら回ってみるといい」

 

そう言って私は荷物を纏めて、学生鞄を肩から掛ける。

 

「私としても君とのおしゃべりを続けたいところだが、もう行かなくては。それではまた明日」

 

「そうですか...ではまた明日、学校で。森絵さん」

 

小さく手を振る坂柳を背に私は部活動巡りを始めるのだった。

 

 

 

 

 

私がいくつかの部活動をめぐり、先輩方の連絡先を入手して話を聞いていた時の事だった。

 

南雲、南雲雅。金髪の青年が両隣に女子生徒を引き連れながら私の方に向かってくる。諸先輩方からの話の中で最も話題に上った人物だ。

 

そして、私が取り入るのに最適な先輩でもある。

 

既に二年のほぼ全てを掌握しており、現生徒会副会長に就任している実力のある生徒だ。

 

出会う諸先輩方から彼の悪口を聞く事は終ぞなかった。統率力も高く、どのような人物か見極めるにはいい機会といえるだろう。

 

「よぉ、一年。俺の事は知ってるよな?色んな二年の生徒から話を聞いてるみたいだからよ。入る訳でもないのに色んな部活を見て回ってるのは一体どういうつもりだ?」

 

話の早い生徒だ。そして明らかに私を警戒している。取り入りたいのならば、彼には正直に答えるべきだろう。だがそれは、このような公の場でする事ではない。

 

「初めまして、南雲先輩。私は森絵拳八と申します。よろしくお願いします」

 

「ああ、よろしく。で、理由は?」

 

「理由ですか...普通に色々な部活を見てみたかっただけなのですが、ご迷惑でしたでしょうか」

 

「迷惑という訳ではないが、何の目的があったのかと思ってな。特に何も考えてないならそれでもいい、邪魔したな一年」

 

私が特に何も考えていない、と答えるとあからさまに失望したように目を逸らし適当に話を流して終わらせようとする南雲。

 

このまま去らせれば、私は失望されたままで終わるだろう。

 

「少し待ってください、南雲先輩。折角ですから、連絡先だけでも交換させていただけませんか?」

 

そう言って私は彼の肩に手を置き、引き止める。南雲は不快そうな顔をこちらに向けて、何かを言おうとするがその言葉を引っ込めた。

 

「・・・お前、名前なんて言ったっけ」

 

「森絵拳八です。南雲雅先輩」

 

一瞬私を見定めるような目をしたかと思えば、すぐに笑顔になり端末をポケットから取り出した。

 

「しょうがねぇ一年だな。オレと連絡先が交換できなんて、光栄に思えよ?」

 

そして私は南雲と連絡先を交換し、その場では別れたのであった。

 

なぜ私が南雲に手を跳ね除けられなかったのか、その理由は単純だ。走り書きのメモを彼の肩を叩き、振り向いた瞬間私が手を引っ込める時に彼の胸ポケットにそのメモを忍ばせたのだ。

 

南雲はその内容を確認していないが、状況と他の生徒に気付かれないようにそれを行ったことから何かを察したのだろう。

 

私の要求を受け入れ、その場を離れた。私のメモ書きの内容はこうだ。

 

【夜20時に連絡します。時間の変更はメッセージでお願いします。】

 

それだけだ。契約も、取引も公の場で顔を突き合わせてやるべきではない。なぜなら、彼こと南雲は現生徒会長堀北学と敵対関係にあるからだ。

 

入学式の印象しかないが、あの生徒会長がこの南雲という生徒を放っておくはずがない。そして、南雲が副会長の座に大人しく座っているわけがない。

 

これらを加味して考えると、先輩達の話から直接それについて聞く事はできなかったが、南雲は堀北学に敗北していると考えていいだろう。

 

南雲は隙あらばあの生徒会長に一矢報いたいと思っているに違いない。これは交渉材料としては使えるだろう。

 

私があの生徒会長と取引を行う際に南雲と関係を持っている事を勘付かれると円滑に進まない可能性がある。だからこそ隠れて接触する必要がある。

 

南雲との取引は端末を通じての電話もしくはメッセージで行うべきだろう。誰にも南雲と交流のある姿を見られるべきではない。

 

だが、しかしふむ。複数の部活を1日にいくつも巡るのは流石に不自然すぎたか。見学だけして、先輩方と少し話した後は体験もせずに次の部活動に向かうのは冷静に考えると不自然かもしれない。

 

先輩方には断りを入れて途中で退室させてもらっているため、そこまで悪印象は持たれていないと思っているが、果たして。

 

しかし、一日に一つの部活を見て回るのは非効率すぎる。私の目的は部活動に入ることではなく先輩方や部活動に参加している生徒との繋がりを持つことなのだから。

 

 

そして、文化部、運動部のめぼしい部活動巡りを終えるには一日に複数回っても一週間はかかったのだった。

 

一週間の間、先輩方と交流した事でこの学校の生徒会は大きな権力を持っていると言うことに気付いた。

 

具体的に何ができるかまでは把握できなかったが、そんなものは直接本人に聞いてしまえばいいだろう。

 

生徒会室に行く道すがら、私は南雲との会話を思い出す。

 

『まだ一ヶ月も経っていないのに、よく異変に気付いたな。お前は優秀だよ、認めてやる。オレの口からはっきりと明言する事はできないが、お前の行動は正しい。』

 

・・・

 

『なるほどなぁ、融資か。当然、お前の望む額をオレは融資することができるだろうな。だが、対価は必要だ。お前はオレに何を与えられる?』

 

・・・

 

『へぇ?お前やっぱり面白いな。いいぜ、乗った。お前の希望通り、500万融資してやるよ。だが、決して少なくない額を渡すんだ、結果は残せよ?』

 

・・・

 

『ポイントの受け渡しはどうする?坂柳有栖?その生徒に受け渡せばいいんだな、いいだろう。日時と場所の指定はまた連絡する。じゃあな、期待してるぜ森絵』

 

 

 

 

 

その時に生徒会についてはかなり教えてもらった。その他の生徒会メンバーについても、だ。

 

「入れ」

 

ノックもしていないのに気付かれたことに少し驚いたが、失礼しますと一声かけてから、私はゆっくりと生徒会室の扉を開ける。

生徒会に繋がりのある、南雲以外の先輩に頼んで事前に連絡を入れておいてもらったのでスムーズに生徒会長と会うことが出来た。

 

中は日が差し込んでいる為か、電気はつけられておらず、少し薄暗い。生徒会室の壁際には棚の中にびっしりと本とファイルが並べられており、ファイルには見やすいように何年何月何日から何年何月何日までの記録と分かるように日付が記されている。

 

応接用の小さいサイズのソファがいくつか生徒会長の座るデスクの前にあったのでその一つに腰掛ける。

 

生徒会長の堀北学と書紀の橘。二人だけか。南雲がいないのはわかるが、他のメンバーもいないようだ。

 

「さて、単刀直入に問おう。お前はどこまで理解している?」

 

この生徒会長相手に誤魔化す必要もないだろう。私の掴んでいる情報を総動員して思考を加速させる。

 

「この学校が普通の学校ではない事については理解しているつもりです。全容を理解している訳ではありませんが。」

 

「具体的には」

 

「まず、監視カメラの多さでしょう。流石に異常だ。まるで学校内で起きる全てを把握しておく必要があるかのようにそこかしこに配置されている。生徒一人一人が採点されているのではないか、と考えています。」

 

生徒会長が目を細める。何を考えているのだろうか。対照的に橘書紀は僅かに目を見開いている、こちらは分かり易い。驚いているのだろう。

 

「そして、このプライベートポイントです。これこそが、学校が外界と隔離してまで導入したかった物の本質なのでしょう。担任はあまり詳しく説明しませんでしたが、プライベートポイントは敷地内にある凡ゆる物を購入できると仰っていました。凡ゆる物、プライベートポイント制度を導入して管理する学校側がそのように説明するのです。この学校生活で最も重要な物であると考えるのが妥当でしょう。そして、それは当然成績、授業態度、行事評価、凡ゆる面から評価されて毎月支払われるポイントを算出するのではないでしょうか。これは憶測の域を出ませんが、全生徒に毎月十万ものポイントを支払うなど常識的に考えてあり得ない。」

 

「実際に振り込まれなければ確信はできませんが、毎月一日に振り込まれるポイントは変動するものなのだろうと考えていますよ。当然、毎月振り込まれるプライベートポイントを大きく増減させるイベントが今後ある事も予想できます。そのイベントを乗り切るためにも、ポイントは必要となる」

 

「つまり、プライベートポイント、資金力をいかに早く手に入れてそれらのイベントに生かすことができるかが鍵になってくると考えています」

 

今私が考えている事を包み隠さず明かしたのは生徒会長ぐらいな物だろう。だが、これは必要な事だ。生徒会長に認められて目をつけられる事は今後の学校生活を快適に過ごす事ができるか否かを大きく左右する事になる。

 

「逸材だな。間違いなくお前は今年の一年の中で最も優秀な生徒と言えるだろう。坂柳や葛城といった優秀な生徒も数多くいるが、お前と言う生徒はそれらを大きく逸脱している」

 

「そうですか。ですが、遅かれ早かれ気付く人は気付くでしょう」

 

「だろうな、だが、本質には辿り着けない。精々が真面目に授業を受けるようにしよう、テストでいい点を採るようにしよう。その程度だ。だが、お前は違うようだ」

 

「ポイントの重要性を正しく理解し、そのために行動に移すその行動力。目を見張るものがある」

 

「ありがとうございます。」

 

「いいだろう、お前程の実力があれば生徒会でもやっていけるだろう。...橘、今は書紀の席が一つ空いていたな」

 

「はい、、まさか会長」

 

「生徒会に入らないか、森絵。お前にはその資格がある」

 

まさか、生徒会への誘いを受けるとは。これは非常に好都合だ。

 

「そこまで言われて断る事は出来ませんね。お受け致します。しかし、ご相談がありまして、」

 

「なんだ、言ってみろ」

 

「私は先ほども申し上げました通り、プライベートポイントを重要視しております。そこで、資金を貯めておきたいのですが」

 

「プライベートポイントか、そうだな。いいだろう、入学祝いだ受け取ると良い」

 

そして私は、堀北学から200万ポイントを受け取った。

 

「・・・これは、流石にもらいすぎではありませんか?」

 

「貰えるものはもらっておけ。それとは別に、私の頼みを聞いてくれるのならば、さらに上乗せしよう」

 

「頼み、ですか。私は入学したばかりでお力になれるかはわかりませんが」

 

「今すぐに求める事ではない。将来的な話だ。...お前も先日接触したから覚えているだろう、南雲雅だ」

 

「南雲先輩ですか、連絡先は交換させてもらいましたが聞きたいことだけ聞いて立ち去っていきましたので詳しくは知りません。どういう方なんでしょうか」

 

「奴は...」

 

簡単にまとめると、南雲雅の方針に学校を転換させる事は望ましくない。だからお前にはそれを阻止してほしい。という事らしい。

 

「なるほど、可能かはわかりませんが、生徒会長からの頼みですし、私もその方針には賛同しかねます。喜んでお受けさせていただきますよ」

 

「他にも有力な生徒には声をかける。必要に応じてお前にも伝えよう。...もう一度端末を貸せ。前払いの報酬を渡しておく」

 

そう言って追加された額は300万。南雲から受け取るポイントと合わせれば1000万ポイントになる。このアドバンテージはかなり大きいだろう。

 

「入学して3日目でこんなにポイントを所持する事になるとは思ってもいませんでしたよ」

 

「お前への正当な評価だ。気負いする事はない。これからは生徒会の業務を手伝ってもらう事になるが、正式に書紀に就任するには手続きが必要だ。本格的に働いてもらうのは来月からになるだろう。それまでは、今まで通り自由に動くと良い。もっとも、生徒会に入ったからといって大きく行動が制限される訳ではない。そこは安心すると良い」

 

私は生徒会に入る為に必要な書類に記入した後、橘茜と堀北学二人の連絡先を交換し、生徒会室を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない教室。日も落ちかけた薄暗くなりつつある教室に私は訪れていた。教室には生徒のものは一つも残っておらず、誰一人として教科書を置いておくといった事をしていないようだ。

 

体操服、教科書、筆記具、その全てが綺麗に持ち帰られている。

 

そんな誰もいない、何もない教室に私以外の人間が一人、その場にはいた。

 

坂柳有栖である。

 

「驚くほど順調に事が進んでいるようですね、森絵くん。私は少し、貴方の事を侮っていたのかもしれません。再評価します。貴方は天才です」

 

「嬉しいね。天才の君にそう言われると、私としても鼻が高いよ。さて、私も君も多忙な身。要件だけを話そう」

 

「つれませんね、森絵くん。私はもっと貴方とお話ししたいというのに」

 

「それは今すべき事ではないね。そもそも、私達は敵対するという話だったからあまりこうして会うのも良くない事なんだよ」

 

「まあ、そんな事はどうでもいい。君に、やって欲しいことがあってね」

 

私は南雲の件を坂柳有栖に伝えた。彼女は護衛に何人か連れて行くだろう。そして、そこで南雲の事を観察する。一度でも会っておけば、彼に対する警戒も考慮のうちに入れられるだろう。

 

いくら天才とはいえ、知らないものに警戒する事は出来ないし、対応する事もできない。

 

私がこんな事をしなくても、彼女はいずれ気づいただろうが、南雲という存在は早めにあって確認しておいた方がいい。

 

「南雲先輩から受け取ったポイントは君が自由にしてくれて構わない。経費として必要な時に使うといい」

 

「500万ですか。素晴らしいですね、私の統治も捗りそうです」

 

「それは良かった。くれぐれも葛城に遅れを取る事のないようによろしく頼むよ」

 

「勿論です。・・・森絵さん、この後そのまま帰宅されるのでしたらご一緒に帰りませんか?」

 

「この後は特に用事はないな。そうしようか」

 

私と坂柳は学校から一緒に帰り、道すがら私がこの数日間でやっていた事を話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂柳と寮に戻った後、私は自室で受信していたメッセージの返信を少しした後眠りについた。

 

そして翌日、この日はクラス内の情勢を詳しく把握すると決めていた。坂柳から話は聞いていたが、やはり自分の目でも確認する必要はある。

 

クラス内を少し観察してみると、大きく分けて葛城派と坂柳派に別れていることがすぐにわかった。中立でどちらの派閥にも属していない生徒が数名いるが、それも時間の問題だろう。

 

そして私は、茶番を始めるのだった。

 

「坂柳、少しいいか。」

 

「ええ、構いませんよ。どうかしましたか森絵くん」

 

まるで楽しむかのように笑みを浮かべ、そう返す目の前の少女。これから始まる茶番を楽しむつもりのようだ。

 

彼女との接触はこれを境にしばらくの間激減する事だろう。少しは楽しませてみせるとしよう。

 

「クラスの統治は順調か?」

 

「ええ、勿論です。私の周りを見てください。これだけの方が私に協力して下さっています。これでも、まだ分かりませんか?」

 

周りから多くの視線を感じる。クラスの半数以上の生徒が私の方を見ている。クラスの半分以上の生徒は掌握した。そう言いたいのだろう。

 

だが、所詮は半数以上だ。まだまだ恭順しない生徒も多く、なにより葛城派という別派閥の存在を許してしまっている。

 

「順調、か。どうやら私と君では価値観に相違があるらしい。君はこのクラスの現状に満足しているように聞こえたが、間違っているか?」

 

「現状に満足しているとは言いませんが、順調に統治は進んでいる。貴方はそう思いませんか?」

 

「思わない。あまりにもヌルいやり方だな坂柳。・・・正直に言おう、君には失望したよ」

 

私は呆れたような顔でため息をつく。

 

坂柳の雰囲気が暗いものへと変わっていき、周囲の人間を威圧する冷たい空気を纏って行く。

 

「貴方ならもっと上手く出来たと?」

 

「そう言っている。おまけに私好みではない方法で仲間を増やし、無理矢理派閥に取り込むような事もしているみたいじゃないか。それでも尚、この程度の成果なら...君はこのクラスのリーダーには相応しくないと言えるだろう」

 

「そうですか、貴方とは仲良くやっていけると思いましたが、どうやらそれは夢物語になりそうですね」

 

「そのようだな。・・・そして今私は決めたよ、葛城に力を貸す、とね。君のやり方は強引すぎる。クラスを勝利に導く事はできるかもしれないが、正しく在れないその方針ではこの先クラスの皆が辛くなるだけだ。残念だが、私達はここまでだ」

 

「そうですね。では、今までありがとうございました、森絵くん。これからは敵同士ですが、お互い切磋琢磨できるよう努めましょう。」

 

「ああ。ではな」

 

こうして私達は喧嘩別れを演出する。彼女がクラス内の完全統治を行わず、葛城の台頭を許したのはクラス内の反乱分子を一塊にし、反乱の目がなくなる、そんな事をしても無意味だと思い込ませ、完全敗北させた状態で取り込む。真の意味で完全な統治を実現する為に敢えて統治の手を緩めているのだ。

 

それを理解している私が葛城派に力を貸すなど本来天地がひっくり返ってもあり得ない事なのだが、徹底的に潰すタイミングを測る事。内部からの情報リークがあった方が制御し易い事から葛城派につくことにした。

 

後で合流するだろうが、それまでの間は坂柳の敵として本気で争うのも悪くはないだろう。

 

本当に敵対していることのアピールにもなる。

 

「・・・話は聞こえていた。俺と共にこのAクラスを立て直そう」

 

「ありがとう葛城。これからは全面的に協力させてもらうよ。宜しくたのむよ」

 

こうして私は葛城グループに迎え入れられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後、生徒会室に寄って生徒会に入るにあたって必要な書類のいくつかを記入した。その後、クラス内の葛城派の人間にカフェに誘われていたので合流する。

 

「森絵くんすごいよね、まだ入学してから一週間ぐらいしか経ってないのに生徒会に入る事が決まってるんだもんね」

 

「運が良かったというのもあるよ。部活動巡りしていた時に生徒会に繋がりのある先輩と知り合えたからね」

 

Aクラスの面々との歓談を終えた後は、Bクラスの一之瀬からのお誘いでカラオケに行く事になった。Dクラスの平田という男子生徒とその彼女の軽井沢という女子生徒。そしてその他数名が参加しているようだった。Aクラスからは私だけのようだが。

 

そうして、クラスの垣根を越えた交流を中心に過ごした。

 

 

そして、とうとうその日がやってきた。

 

プライベートポイントの振り込まれる日だ。




質問、原作との違い、設定ミスなどの指摘は受け付けない。話の修正が面倒なので独自解釈ということにしたまえ。

ただし、誤字修正だけは別とする。
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