ようこそ実力至高主義の教室へ   作:犯罪者ナポリタン

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第2話

ようやく始まるのだ。

 

一ヶ月間、休みなく各所を回り人脈を形成し続けた私の苦労は無駄ではなかった。生徒会の仕事が一ヶ月後からなのも諸々の説明が今日行われるからなのだろう。

 

入学初日に配られた10万ポイントから振り込まれる額が通達もなく下がっていたのを確認しても、Aクラスの生徒に焦りはない。クラスポイント940という高いクラスポイントで迎えることができたのは、偏にAクラスの多くがこうなる事を推測できていたからだろう。

 

また、二人の指導者が早々に頭角を表してきたのも功を奏したと言えるだろう。クラスを統率する人間が早い段階で現れたため、さまざまな情報の共有を円滑にした。

 

「つまり、卒業時にAクラスだった生徒にしか就職率100%の恩恵を得る事はできない」

 

なるほど、そういう事か。これによって、現Bクラス以下のクラスは必死になってAクラスを叩き落とそうとする。

 

Aクラスの統率者には、他クラスからのヘイト管理と優位に立てるだけのクラスポイント維持の絶妙なバランスを保つことが要求される。他クラスよりも大変な役目になる事は間違いないだろう。

 

「それと、生徒会長がAクラスの生徒に聞きたい事があるそうだ。クラスの代表者二名と、生徒会書紀に就任予定の森絵はこの後生徒会室に向かうように。」

 

生徒会長から?いくらAクラスとはいえ、この学校のプライベートポイントに関する仕組みを何一つ公言されていないこの状態でこれだけ多くのポイントを維持できたのは流石に珍しいのか。毎年Aクラスの生徒と交流を持つのが生徒会の恒例行事なのかはわからない。

 

「・・・お前達はこの結果を誇っていい。このポイントは歴代Aクラスの中でも上位の成績だ」

 

正直驚いたよ、と素の表情で私達を褒める担任。堅物でマニュアル通りの言葉以外は離さないイメージがあったため少し意外だった。

 

最後に葛城を中心に各生徒が質問を行った。クラスの統治に関与しない事にしている以上、クラスの助けになるような質問はしない。例えば、プライベートポイントの使用によって他クラスの中間試験或いは期末試験の難易度を上げる事はできるか。逆に自クラスの試験問題の難易度を下げる事はできるか、などだ。

 

試験範囲公表日をズラすなど、他クラスにバレにくい妨害はギリギリのラインで赤点を回避している他クラスの生徒を退学させる事もできるだろう。

 

ローリスクで退学者を出してしまったクラスのデメリットを知る事ができるのはいい案と言えるだろう。

 

また、もし試験に関しても在る程度自由が効くのならば過去問を入手しようとする生徒も現れるだろう。それが効果を発揮するかは別物として、難易度を測る基準にはなる。

 

その過去問をもとに勉強している生徒は突然例年より難しい問題が出題され、過去問頼りで赤点顔火しようとしていた生徒はどうなるだろうか。

 

他クラスが取りうる策を考慮して、効果的な策を実行する。クラス間抗争では非常に効力を発揮するだろう。

 

さて、そこまでの思考にたどり着ける生徒は果たしているのだろうか。

 

「一つ、質問をよろしいでしょうか」

 

先程までの質疑応答には一切参加せず傍観していた彼女、坂柳が声を上げた。

 

「勿論構わない。何だね」

 

先程まで意見を交換しあっていたクラス内の声が小さくなっていく。それだけAクラスの生徒達は彼女の質問とその答えに価値を見出しているのだろう。

 

認めたくはなさそうな顔で、葛城も坂柳に視線を向けている。

 

「プライベートポイントを支払う事で他クラスの試験問題を改竄する事はできるのでしょうか」

 

やはり、彼女こそAクラスの指導者に相応しい。誰もがプライベートポイントをどうすれば増やせるか、と言う事を考えていたというのにその使い道について尋ねるとは。

 

葛城などと比べるまでもない。坂柳の方が優秀なのは一目瞭然である。

 

「可能だ。但し、条件がある。詳しくは話せないが、特定の試験では改竄する事自体不可能なものもある。また、改竄後の問題に関しては君達が用意したモノを事前に提出してもらい、教師側で厳正に確認し難易度の高すぎる問題やテスト範囲外の問題は元の問題に戻す事になる。費用については、差し替える問題数とその他状況によって変動するため、その際に算出する。」

 

「そうですか。それでは他クラスから退学者を続出させる、といった事は難しそうですね。ありがとうございます」

 

ここで坂柳がこの質問をした理由は明白だ。実際に問題を差し替えようというのではない、プライベートポイントを使えばこのような事も出来ると他の生徒達に知ってもらうためだ。そして、このプライベートポイントとおいうのは重要だから、まとまった額をいつでも出せるようにしておくという話に持っていけば完璧である。

 

つまり、有事に備えたクラス単位での貯金だ。誰か一人にポイントを預けておくのだ。何かあった時に全員からポイントを集めていたのでは遅すぎる。徴収と言い換えてもいい。

 

しかし、坂柳はこちらを見て笑みを浮かべるだけで何も言おうとしない。私に言えとでも言うのだろうか。

 

私は葛城の方にチラリと視線を向ける。葛城は私が何を言いたいのか何も勘付いていない様子で、ただ視線を返すばかりだ。

 

葛城の株を上げようと思ったのだが、仕方がないか。

 

「なるほど。プライベートポイントにはそんな使い道もあるのか、だとすれば今後プライベートポイントは使わずに貯めておいた方がいいのかもしれないなぁ?」

 

ここで再び葛城に視線を送る。ここで漸く葛城は気が付いたようで、笑みを浮かべる。

 

「そうだな、それもクラス単位でまとまった額が出せるようにした方がいいだろう。クラスでポイントの積み立て貯金をしておくのは他クラスを出し抜く為の大きな助けとなるだろう。勿論、参加するかしないかは自由だが」

 

それだけじゃない。これはクラスの全員に伝えておく必要があるだろう。危機感を煽れば積み立てに協力的になる生徒も増える。いずれ全員が積み立てに同意するだろうが、積み立てというのは期間の長さが重要だ。今このタイミングから少しでも多くの生徒達に協力させるべきだ。

 

坂柳の方に視線を向けるがやはり何もいう気はないようだ。仕方がない。

 

「クラスでのポイントの積み立ては他クラス以上にAクラスでは必要となるだろうねぇ。B以下のクラスは協力してAクラスのクラスポイントを下げようと団結する事が出来るが、Aクラスにはそれがない。常に狙われ続ける側のクラスは他クラスの協力なしに今後の学校行事を乗り越える必要がある。当然、この学校の行事がただの行事で終わるわけがない。十中八九、クラスポイントが大きく変動する試験などが行われるはずだ。」

 

ここで漸く、坂柳が議論に参加して来た。

 

「そうでしょうね。考えられる行事でいいますと、中間試験、期末試験、体育祭、文化祭、などでしょうか。どの行事がどのように関わってくるかはわかりませんが、試験の点数の高さや個人成績は勿論、クラス単位での成績もクラスポイントに関わってくると考えて良いでしょう」

 

「では、とりあえず俺が「クラスのポイントは私が管理しますね」・・・ちょっと待て坂柳。」

 

「葛城、別にいいだろう。クラス全員で積み立てたプライベートは当然、一人の裁定でその使用用途を決めていいモノではない。坂柳、使用する際は最低でもクラスの半数以上の同意を得てからにしてくれ」

 

「勿論です。必ず皆さんに確認してから使用させていただきますよ」

 

「これなら問題はないだろう、葛城?何か問題があれば今度こそ君が管理すればいいだけなのだから」

 

「まあ、そうだな。坂柳、頼んだぞ」

 

「お任せ下さい、葛城くん」

 

そして、取り敢えず一人月4万積み立てる事になった。そしてなんとクラスの全員が初回から積み立てに協力していた。

 

月160万プライベートポイントが貯まっていくというのは非常に大きなアドバンテージと言えるだろう。

 

これで少し楽になる。

 

 

近く実施されることになる試験について軽く聞いた後、ホームルームは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、私と坂柳、そして葛城の三人は生徒会室に向かっていた。

 

「一体どんなお話を聞かせてくださるのでしょうね」

 

「さてな。Aクラスだったという事で、ボーナスポイントをもらえるとかいう話だったらありがたいのだが」

 

「十中八九、sシステムについての確認だろう。今年の一年はどこまで把握しているか会長自身が見極めるつもりなのだろう。何も聞かされていない状態で940クラスポイント残るというのは、普通に考えて多すぎる。システムについて勘付いているというのはすぐに予想がつく」

 

「確かに、その線はあり得ますね。この学校の要とも言えるシステムですから」

 

「加えていうなら、優秀な人材とは繋がりを持っておく、生徒会に勧誘する、といったことも考えられるだろう。まあ、会えばわかるだろうよ」

 

「・・・やはり、生徒会に所属している人間がいると違うな。まだ実際の業務は行っていないとのことだったが、挨拶や接触はしているのだろう?」

 

「少しだけだがね」

 

「頼もしいクラスメイトですね」

 

そんな話をしていると、生徒会室の前に辿り着いていた。扉をノックすると中から入れと声が聞こえたので、扉を開けて2人を中に入れる。

 

私は扉を閉じた後、坂柳の隣に立つ葛城とは反対側に立った。

 

「よく来たな一年Aクラス。まずはおめでとうと言っておこう」

 

940ポイントは誇っていい、sシステムについてどこまで知っている。

 

など、想定通りの確認内容だった。興味を失った私は、生徒会室を見渡す。南雲先輩はやはり居ないようだ。生徒会長が南雲先輩に一年の優秀な生徒と繋がりを持たれるのを嫌ったのか、茶々を入れられるのを嫌ったのかはわからない。

 

公で話せる機会はあまりなさそうである。

 

「それで、森絵。お前はどの程度関わっている?」

 

「私はクラスの統治に一切関わっていません。誇るべきポイントを維持できたのならばそれは、坂柳と葛城2人の功績でしょう」

 

「ほう?」

 

そんな事、分かっている筈なのに態々私に確認する生徒会長。話をしっかり聞けという事だろうか。仕方がない。

 

 

「お前達は今は同じ学年しか見えていないだろうが、この学校には三年までの生徒が存在する。敵となり得るのは同じ学年の生徒だけとは限らない事を忘れるな」

 

「ご忠告ありがとうございます」

 

流石に南雲先輩の事を直接は言わないようだ。

 

その後、少し話した後坂柳と葛城は帰っても良いと言われ生徒会室を後にした。

 

「さて、森絵。お前はどうして他の人間にクラスの統治を任せている?お前なら十分に務まる筈だろう」

 

「クラスにトップは2人も要らない。それだけです。指揮系統が分散するのは好ましくありませんので」

 

「あの2人のうち、どちらかがAクラスのトップが務まるとお前は考えているわけか」

 

「分かりきっているでしょう。2人のうち、その役が務まるのは坂柳以外にあり得ないですよ」

 

「そうだな。その通りだろう」

 

私はゆっくりと、坂柳の座っていたソファに腰を沈める。いつのまにかテーブルに置かれていた橘先輩の入れた紅茶に口をつける。

 

 

 

一緒に出されていた砂糖を少しスプーンで掬い、紅茶に加える。カップに当たらないようゆっくりとスプーンで混ぜてもう一度口をつける。

 

良い。私好みの味だ。

 

 

 

「クラスのリーダーともなると個人で動きにくくなりますし、警戒されやすくもなります。リーダー補佐、ぐらいの立ち位置がちょうど良いでしょう」

 

「なるほどな。お前らしい」

 

私らしい、か。会長は私の事をどこまで理解しているのだろうか。

 

・・・この思考は無意味だな。切り上げよう。

 

「私がこの場に残らされたのは生徒会の業務についてお話するためでしょう?」

 

「そうだ。これがお前にやってもらうことになる業務の一覧だ」

 

そう言って会長は一枚の紙を手渡してきた。

 

内容に目を通すが、普通の学校の生徒会と業務内容は特に変わらない。学校行事時にある備品の貸出管理や、部費の決定。校内に掲示する活動記録ポスターの作成など。そう言ったものだ。

 

「それが一般的な業務だ。・・・当然だが、それだけではない」

 

そうだろう。そんな普通の学校みたいな事がある訳がない。生徒会が権力を持つ理由となる何かがあるのだろう。そしてそれは、今伝えられることはない。

 

決まりなのだろう。

 

質問などはない。聞いても答えられないものばかりだろう。そんな事を聞いても時間の無駄だ。それよりも、

 

「質問はありませんよ。代わりと言ってはなんですが、近く成績に関係のないらしい試験が実施されるんですよ。よければ過去問などを譲っていただけませんか?」

 

「ほう?成績に関係ない試験の過去問が欲しいのか。理由を聞いても?」

 

「簡単ですよ。個人の成績や退学には関係なくても、クラスの評価には繋がるからです。クラス全体が高得点を採れればクラスポイントが上がることも考えられるでしょう」

 

「かもしれんな。だが、タダではやれんぞ」

 

「おいくらですか?」

 

「10万だ」

 

「どうぞ」

 

何度か繰り返していることもあり、比較的スムーズにポイントの移動を終える。

 

「手慣れているな。この時期にポイント移動の処理に慣れているということは、俺以外ともポイントのやり取りをしたな?」

 

「クラスの「それはない。」・・・ご想像にお任せしますよ」

 

これ以上、生徒会室に用はない。何故か生徒会長のデスクの中に用意されていた過去問を受け取り、私は生徒会室を後にした。

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