東方平穏録   作:Elecom

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取り敢えず、皆をデレデレさせたいんだ。
俺は悪くない。可愛いキャラが悪いんだ。

キャラが違っても、俺は知らん。取り敢えず、霊夢はツンデレ。魔理沙はデレデレを狙う。


第2話

 時は夕暮れ。

 地下冷庫に買った物を入れた後、縁側でまったりと霊夢と魔理沙と共にお喋りをしながら茶と金鍔を頂いた。実に美味であった。最後に一口分と二口分の中間程に残った茶を一気に飲み干して、ふぅっと息を吐く。これがいつもの癖になってしまった。時たま、霊夢に爺臭いと言われてしまう今日この頃。

 

「しかし、ユマって不思議だな。スペルカードと程度の能力を持ってるくせに、弾幕ごっこをしなくなるなんて変だぜ」

 

 金鍔を口に含みながら喋る魔理沙。まったく、女の子なのに品が無い事をして……まぁ、注意しても治らないから諦めてるけど。

 

「まぁ、いつも言ってるけど争い事は好まないからね。必要最低限しか使わなかったし……」

 

 今の魔理沙のセリフは魔理沙と初めて出会い、そして弾幕ごっこをした時から言われ続けている事だ。

 

 争い事を嫌う理由は、今までの旅で見た事が原因だ。

 妖怪を退治しようと、多勢に無勢で挑む人間達。いくら、自分達が生き長らえるためとは言え、群がっては(くわ)(すき)で只管暴行を加える姿を見て、僕は思わず吐き気を催した。逆もまた然り。妖怪たちは人間の気持ちなど露知らず食料として襲う。旅の道中、森の中で人間の(はらわた)を貪る妖怪達を数え切れないほど見てきた。

 でも、僕はどちらも助けたりはしない。それは生物としての本能、つまりは食物連鎖の様な事象で、他者が手を出して良い物では無い。旅を介して僕は様々な物事を見て、聞いて、触って、嗅いで、食べて……五感を全て使役して多くの事を学んできた。

 

「でも、ユマはそれが似合ってるわよ」

 

 そう言って、僕に微笑みを見せてくれる霊夢。いつもの彼女からは、あまり考えられない事だ。

 彼女は博麗の巫女として産まれてきたため、妖怪などが引き起こす異変(・・)を解決しなければならない。

 

 異変。それは、妖怪等が何らかの目的のために起こした、幻想郷に発生時点で原因不明の怪事件や怪現象の事を言う。時には知恵を、時には力を、時には勇気も必要とされる異変の解決。命を掛けて異変を解決する彼女達。そんな姿を見て、僕はここに住む事に決めたのだ。

 だが、今代の巫女である霊夢は異変解決に消極的である。異変が発生しても中々行動せず、毎回手伝っている魔理沙が神社に来て、やっと重い腰を上げる様子なのだ。いや、日頃の霊夢が怠けている訳ではない。むしろ、霊夢の生活は至って普通だ。ほぼ同じ時間に目が覚めて、朝食を一緒に食べて、一緒に神社を掃除して……なのに、異変の時だけは必ず面倒臭そうにする。それは、きっと彼女が心のどこかで妖怪を退治するのを躊躇しているからかもしれない。優しさ故に。

 

「ユマ?」

 

「……ん?」

 

 どうやら、物思いに耽っていたら霊夢と魔理沙の話を無視していたらしい。心配そうな顔で僕を覗いて来る。あぁ、そんな顔の霊夢も珍しいなぁ。思わず顔が綻んでしまう。霊夢はめったに表情を変えないため、こういう顔を見るのは珍しい事なのだ。

 

「な、何よ!ニヤニヤして!」

 

 顔を真っ赤にして怒鳴る霊夢。

 

「いや、霊夢って意外と表情が豊かだったんだね」

 

「う、うるさいわよ!もう、魔理沙もなんか言ってやって!」

 

 霊夢が僕越しに魔理沙に叫ぶと、そこには膨れっ面の魔理沙がいた。

 

「二人は随分と仲良しなんだな。少し妬けるぜ」

 

「べ、別に私はユマなんて……」

 

 霊夢の顔がこれ以上無いくらいに赤い。どうしたんだろう。

 

「霊夢、どうしたの?さっきの魔理沙とタメを張れるくらい、顔が真っ赤だよ?」

 

「い、良いのよ!気にしないでいいから!」

 

 僕が霊夢を心配して見詰めていると、僕の顔を両手で押し退けてくる。うむぅ、霊夢の手は女の子だなぁ。柔らかい。そんな事を思いながら、空を見上げると暗くなってきた。想像以上に霊夢と魔理沙と話し込んでいたようだ。

 夜になると、妖怪たちは活動を活発にする。だから、夜に森に入って行くのは人間にとっては自殺行為そのものなのだ。

 

「ねぇ、魔理沙。そろそろ夜になるけど……って言うか、夜になっちゃったけど?」

 

「ん~、じゃぁ、今日はこっちに泊まるぜ」

 

 閃いたと言わんばかりに明るい表情で提案して来る魔理沙。

 

 よりによって、魔理沙の家は森の中にある。そのため、いつもは暗くなる前に帰してたんだけど。いくら魔理沙でも、夜の妖怪を相手にするのは危険だから神社に泊まる事は拒まない。

 

「わかった。霊夢、魔理沙用に布団ってあったっけ?」

 

「この間、どっかの誰かが質屋に売り捌いてなかったかしら?」

 

 ジト目で僕を見て来る霊夢と魔理沙。そう言えばそうだったっけなぁ。

 と、言うのも、この博麗神社は財政難に陥っている事は言うまでも無いだろう。滅多に参拝に来る人はおらず、賽銭箱の中にはいつも埃と枯れ葉しか入っていない。最近の財源は、僕の作る和菓子だ。人町に降りては出店で販売しているが、完売した所で一週間過ごせるか分からない程度なのだ。なので、ついこの間、不要な家具などは全て質屋に売ってしまったのである。

 

「……布団は残しておくべきだったなぁ」

 

「だから言ったじゃない。魔理沙が来るかもしれないから、残しておけって」

 

 呆れた様な顔で僕を見て溜息を吐く霊夢だけど、彼女も最終的には金に眩んで賛成していたのに。そう思っていると、僕の服の袖をクイクイと引っ張る感覚があった。

 

「どうしたの魔理沙?」

 

「布団ならなくても大丈夫だぜ」

 

 女の子が何を言ってらっしゃるのやら。廊下で寝るとか言い出すんじゃないだろうか?そんな野性的に育って貰った覚えが無い。

 

「女の子はそんな野蛮の事をしちゃいけないよ。僕の布団で良ければ貸すから、そっちで寝なよ」

 

「いや、大丈夫だぜ。私とユマが一緒に寝れば問題は無い筈だぜ」

 

「アンタ、何言ってんのよ」

 

 魔理沙の言葉にいち早く反応したのは僕ではなく、霊夢だった。いや、なんで霊夢?普通、真っ先に反応するのは僕じゃないの?

 

「男と一緒に寝るなんて不潔よ」

 

「ユマがそんなことして来るとは思わないぜ。それに、私は別に構わないんだけどなー、なぁ?」

 

 そう言って、意味深な表情で僕を見る魔理沙。なぁ、と言われても何のことだろうか。

 

「別に魔理沙が良いって言うなら、僕は構わないけど……」

 

「駄目よユマ。魔理沙、アンタが私と寝ればいいのよ」

 

 なんだかいつもより強情だなぁ。そんな顔も珍しい。脳内メモリー保存完了。そんなことしてたら、魔理沙が霊夢を引っ張って僕から距離を取った。魔理沙が霊夢に耳打ちをしているが、僕に聞かれたくない事でもあるのかな?

 

「良いじゃんかよ、霊夢は毎日一つ屋根の下で一緒に暮らしてるんだし、今日ぐらいは私に貸してくれよ」

 

「駄目よ。私だって一緒に寝た事無いのに」

 

「別に、一緒に寝るかどうかを決めるのは私達じゃないぜ?」

 

「でも……」

 

 二人がコソコソと話しているから、良く聞こえない。それに、二人の表情を見る限り、時間がかかりそうだ。仕方がない、僕は晩御飯の支度でもしよう。魔理沙の寝床に関しては、霊夢が決めてくれるだろうし、問題無いだろう。僕はこっそりとキッチンに向かって晩御飯の支度を始めた。

 

 

  ◇

 

 

「美味い!美味いんだぜ!」

 

「魔理沙、行儀が悪いから口の中に食べ物を入れてる時は喋っちゃだめだよ。いつも言ってるでしょ」

 

 僕の左で魔理沙が僕の作ったご飯にがっつきながら喋る。そのせいか、米粒が口元にいくつかくっついているので、僕はそれを指で摘まんで口に含む。

 

「なぁっ!」

 

「ん?」

 

 魔理沙が顔を赤くして僕を……いや、僕の口を指差している。あらま、流石に今のは不味かったかな?

 

「あぁ、ごめん魔理沙。つい、いつもの(・・・・)癖でやっちゃった」

 

「そ、そうなのか……ん?いつもの?」

 

 そう言って、魔理沙は霊夢を睨む。霊夢はすぐさま横に顔を背ける。なんだか、この二人は息がピッタリだなぁ。仲の良いことで。

 

「おい、霊夢。どういう事か説明を要求するぜ」

 

「べ、別に、深い意味なんて無いわよ。ただ、ユマが頬に付いた米粒を取ってくれるだけよ」

 

「毎日、頬に米粒付けちゃって可愛いよね。取ってあげる僕も役得だよ」

 

「ユ、ユマ!」

 

「毎日、ねぇ……?」

 

 魔理沙のジト目が睨み顔に変化する。まぁ、お金にシビアな生活を送っていると、お皿や頬に付いたお米も勿体無いから無意識に食べちゃう癖が付いただけなんだけどね。

 

「ちょ、その目は止めなさい!あと、ユマはもう何も喋っちゃダメよ」

 

「え……あ、はい」

 

 凄みのある形相で睨んでくる霊夢に、僕は思わず答えてしまった。最近、霊夢の尻に敷かれてるなぁ。

 

 

………………

…………

……

 

 

「霊夢か魔理沙のどっちかから風呂に入っておいで」

 

夕飯も食休みも終えて、食器を洗っている僕が二人に催促する。本当は一番風呂が好きだけど、レディファーストでいつも霊夢に譲っている。

 そして、その二人はと言うと。

 

「ズゥー……ふぅ」

 

「あー、お腹一杯で苦しい……」

 

 霊夢は茶を啜っていて、魔理沙は畳の上に寝っ転がっている。

 魔理沙はいつも食後に寝っ転がっているけど、体型とかが変わらないらしい。世の中の女性が聞いたら、殴り掛かってくるだろうなぁ。

 そんなことを思いながら食器を洗っていると、霊夢の方から声が聞こえる。

 

「私は後でも構わないわ。魔理沙、アンタから入ってきなさい」

 

 む?

 

「それなら、遠慮なく一番風呂を戴くぜ。ユマ、覗いたりすんなよ?」

 

 僕が霊夢に対して違和感を感じていると、魔理沙が茶化す様にニヤニヤして言ってくる。

 

「大丈夫だよ。僕が覗きなんてする訳無いじゃない」

 

「……そうだな。お前ってそう言う奴だもんな……別にいいのに」

 

 最後の言葉がぼそぼそと呟かれた所為で上手く聞き取れなかった。

 

「最後、なんて言ったの?」

 

 僕が尋ねると、あからさまに不機嫌そうな顔で風呂場に向かって行く魔理沙。あれ、なんか悪い事でもしたかな?そう思っていると、(ふすま)の前で立ち止まった魔理沙がこっちを向いて。

 

「何でもねーよ、馬鹿悠麻(・・)!」

 

 そう言って、ピシャンッと襖を閉じて風呂場に向かった魔理沙。うむ、訳が分からない。あと、僕をユマではなく悠麻と呼ぶ時は大抵機嫌を損ねている状態なので、後で撫で撫でしてあげるのが善処だ。

 魔理沙が風呂に入ってる間に僕は皿洗いを終えたので、御茶の入った急須と玉露を持って霊夢の隣に座る。隣に座られた霊夢は(いぶか)しそうな眼で僕を見る。

 

「何よ?近いわね」

 

 そう言っても、霊夢が水から離れようとはしない限り、ここに座っていても平気だと暗黙の了解を得ている。僕は玉露に注いだ茶を一啜りして、フゥッと息を吐いた後に霊夢に尋ねる。

 

「一番風呂を譲るなんて珍しいね。何か嫌な事でもあった?」

 

 そう言うと、身体をビクッとさせて僕から顔を背ける。長年の付き合いだ、これは肯定と見做(みな)して構わないだろう。僕は霊夢の頬に手を添えて、無理矢理ではなく落ち着かせるように僕の顔へと向ける。心なしか、霊夢の眼が潤んでいて頬が紅潮している。うむ、可愛い。

 惚気ていると終わりが見えないので、僕から尋ねる。

 

「僕に相談できない事?」

 

「…………」

 

 そう言うと、無言で僕の胸にしな垂れて来る霊夢。女の子特有の香りが僕の鼻を(くすぐ)ってくる。こうやって、僕に甘えてくれるのは二人きりの時だけ。僕も何も言わずに霊夢の髪を指で梳かしながら、お腹に手を回して寄せる。霊夢もそれに応える様に、僕の腕に抱きつく。

 

「……ユマが、魔理沙とすごく仲が良かった」

 

「そうかな?霊夢も魔理沙も同じくらいに接してるつもりだけど」

 

 僕が霊夢の髪を指で解していると、胸元から霊夢のため息が聞こえる。

 

「まぁ、ユマはそう言う奴よね……」

 

 何だろう、とても馬鹿にされてる気がする。僕は訳も無く僅かな憤りを覚えたので、霊夢の髪をくしゃくしゃと撫でる様に解消する。

 

「ちょ、やめなさい!」

 

 うにゃーっ、と唸りながら嫌がる素振りを見せる霊夢。なんだか、猫とじゃれ合っているような気分に陥ってきた。そんな事を数分続けていると、遂に諦めたのか霊夢が僕に体重を掛けて来る。重くは無い、けど平均的な重さと温もりが手を介して伝わって来る。

 

「あ~、もう疲れた」

 

「お疲れ様」

 

「ユマの所為よ。責任取りなさい」

 

「わかった。どうやって、責任を負えばいい?」

 

「え?えっと、そうね……」

 

 霊夢は僕の返答に困った様子で考え込み始めた。冗談かと思ったんだけど、存外嘘ではなかったらしい。このままにしておくと碌な事をお願いされかねないので、シンキングタイムに浸っている霊夢の頭に手を乗せて、意識を戻させる。

 

「どうしたの?」

 

「さっきの嘘」

 

「…………」

 

「痛い、痛いから」

 

 霊夢は腕に回された僕の腕を親指と人差し指で抓る。実際に痛いし、仕返しも兼ねて霊夢の頬を引っ張りながら止める様に懇願する。どうやら霊夢も痛いらしく、抓っていない方の手で僕の腕を叩いて来る。しょうがないので頬を抓った手を離すと、霊夢も腕から手を離してくれた。

 

「もう、痛いわね……」

 

「そっちから抓ったでしょ」

 

「やり返すなんて男としてどうなの?」

 

「やられたらやり返す。倍返しだ」

 

 どうやら、霊夢には理解できないネタらしく、頭を捻っているのでスルーして貰うように言った。霊夢は了解すると、僕の胸に再度頭を預けて来る。

 

「あー、最近は退屈ね~。異変も起きなくなったし」

 

「もともと、異変の解決には消極的じゃないか……」

 

 そう言うと、霊夢は微笑を口から漏らす。

 

「まぁ、でも……こんな生活も悪くないわね」

 

「こんな生活ねぇ?どういう生活?」

 

「そんぐらい、自分の頭で考えなさい」

 

 そう言いながら、僕の胸に寄り掛かって眼を瞑り始める霊夢。優しい表情で眠る彼女を止める事は僕に出来そうも無いので、このまま寝かそうと思った。

 

「霊夢……何やってるんだ?」

 

 何時の間にか、襖を開けてジト目で魔理沙が見ていた。風呂から上がったばかりなのか、顔が少し赤くなっている。髪も乾き切れていないから、艶々しい光沢が色づいている。

 

「ま、魔理沙!?」

 

 霊夢は眼を大きく開いて僕からすぐさま離れ、アワアワと困惑している。おぉ、また新しい表情だ。

 

「霊夢、慌てた顔も可愛いね?」

 

「うるさい、バカ!」

 

 霊夢の張り手が僕の頬に飛んできた。

 

 

 

 あぁ、本当に平和な日常である。

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