東方平穏録   作:Elecom

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いや、ね。
本当に、ね。





最近、忙しいから投稿できないんですよ。


第4話

(ほとり) チルノと遊んで遊んで遊びまくって、なんと3時間も経ってしまった。湖でチルノに氷を張ってもらってスケート紛いの遊びをしたり、大きな氷を手持ちの(なた)で削ってチルノ氷像を作ったり、チルノとお昼寝したり等々、久々の運動で額に汗を浮かべた。

 さて、流石にチルノも遊び疲れただろうし、そろそろ紅魔館に向かうとしよう。僕はぐっすり眠り込んで一向に起きる気配の無いチルノを起こさない様に、膝から頭を退かして立ち上がる。チルノに膝枕をしてあげていたから、立ち上がる際に膝の関節が痛かった。

 

「さて、じゃぁ紅魔館に向かいますか」

 

 そう言って、チルノのもとを離れようとする。

 

 いや、待とう。

 

 僕は数歩歩いた所で、チルノに振り返る。このまま、チルノを放っておいたら風邪でも患ってしまうだろうか?でも、チルノは氷の妖精だし、風邪をひく事は無いはずだ。あ、もしかして小さい子供が大好きな特殊性癖のおじさんにお持ち帰りされちゃうかも。それはだめだ。けど、時間も迫ってるのも事実。

 けど、小さな女の子一人をここに置いて行く訳にも……こうなったら、あの子を呼び出すしかない様だ。僕は妙案を思いつき、思い切り息を吸って言葉を紡いだ。

 

「大ちゃーん!」

 

 湖の(ほとり)で僕は大声でを出す。音を防ぐものが何もないため、遠くの方まで僕の声が通る。暫くして、湖の向こう側からフワフワと水面上を浮いて僕の方に向かってる影を確認した。

 

「はーい♪」

 

 その名は大妖精、通称大ちゃん。ライトグリーンの髪をサイドポニーに結い、背中には透き通る翼膜の羽が生えている。チルノと湖の近くで一緒にいるのを頻繁に目撃されており、今は無鉄砲な氷の妖精に振り回されている悲惨な子。でも、大ちゃん自身はそうは思っていないらしく、なんだかんだで二人の仲は今も良好だ。

 チルノと大ちゃんの二人と初めて出会った時、流石は妖精と言うべきか……チルノ同様に陽気で悪戯大好きな子だった。異変を解決しに行く途中で足止めされたため、霊夢と魔理沙が容赦なくチルノと大ちゃんを撃退。それ以降、チルノの悪戯は減少したし、大ちゃんに至ってはチルノのお姉さんの様な性格になった。大ちゃんは昔の面影を見せる事も無く、むしろ内気な性格になってしまっている。

 異変を解決した後も、僕はチルノと遊ぶ時は大ちゃんを誘っていたものだ。今日は二人と遊ぶ予定が無かったから、イレギュラーだけど。

 

「ユマさん!お久しぶりですね!」

 

「うん、そうだね。最近は顔を出しに行けなかったから。ごめんね」

 

 僕が苦笑交じりに謝罪すると、大ちゃんは慌てて声を掛けて来る。

 

「だ、大丈夫ですよ!ユマさんだって忙しい御身ですし、むしろ遊んで貰っている私達が申し訳ないと言いますか、なんと言うか……」

 

 こんな風に、ペコペコと謝ってしまう性格になった大ちゃん。う~ん、霊夢と魔理沙はやりすぎたかな?少しばかり、あの二人にお詫びでもさせよう。

 大ちゃんに頭を下げさせたままでは、僕の方が罪悪感を抱いてしまうので顔を上げさせる。

 

「大ちゃん、謝らなくても良いんだよ。僕たちは友達なんだから、一緒に遊んだり、迷惑を掛け合ったり、互いに支え合うのは当然でしょ?」

 

「ユマさん……」

 

 嬉しそうな表情のまま、顔を上げる大ちゃん。大ちゃんみたいな子が娘だったら、どれだけ育てるのが楽であろうか。良い意味で親の顔が見てみたい。

 

「それで、大ちゃんを呼んだ理由なんだけど、チルノが起きるまで側にいてあげてくれないかな?」

 

「チルノちゃん、寝てるんですか?」

 

「うん、そりゃぁグッスリ」

 

「はぁ……チルノちゃんが御迷惑をお掛けしました」

 

 そう言って、またまた頭を下げる大ちゃん。この礼儀の正しさ、魔理沙とチルノに教えてあげて欲しい物だよ。

 

「大丈夫だよ。それじゃぁ、お願いね?」

 

「……はい、任せてください!」

 

 一瞬だけ表情に陰が入った大ちゃんだけど、快く了承してくれたので僕はそう言って紅魔館に向かう。あっ、忘れちゃいけない事があった。

 

「大ちゃん」

 

「はい?」

 

「今度は3人で一緒に遊ぼうね」

 

「……はい!」

 

 大ちゃんの笑顔、綺麗だなぁ。僕は顔を綻ばせながら、紅魔館へと向かった。さて、何分かかる事やら。

 

 

  ◇

 

 

 ふむ、想像以上に時間が掛かった。

 

「ふぅ」

 

 僕の目の前には真っ赤に染まった館が一つ建っている。心なしか、紅魔館の辺りの空がドス黒く感じる。うん、相も変わらず良い雰囲気を醸している。さて、きっとあの門番の事だ。門に寄り掛かって居眠りしてるかもしれないけど、一応やってみよう。僕は門の前に立ち、人差し指の第2関節でノックする。

 

「美鈴~、僕だけど開けてくれる~?」

 

 帰って来るのは静寂。時折、風に揺れた草木の音が辺りに響き渡るだけ。いや、安易に想像できたけどね、うん。これじゃぁ、何時まで経っても紅魔館に入れないので、必殺仕事人を呼ぶ事にしよう。

 

「咲夜さ~ん」

 

「お呼びですか、悠麻様」

 

「うわっ!?」

 

 何時の間にか、僕の背後から凛とした女性の声が聞こえる。そちらに振り向けば一人の女性が立っていた。

 十六夜咲夜。

 三つ編みにされた銀色の髪にカチューシャを着けていて、常にメイド服を身に纏っている。紅魔館のメイド長を務めており、住み込みで働いている。一見、瀟洒(しょうしゃ)で完璧な性格に見えるが、何処か抜けていてズレた思考回路とマイペースを併せ持つ天然キャラだ。そして、紅茶を淹れるのは上手だが猫舌なのは秘密。そして何より。

 

 "時を操る程度の能力"

 

 十六夜咲夜の持つ程度の能力で、どういう能力かと言えば「読んで字の如く」としか言い表せない。その能力を駆使して得意な獲物である投げナイフを撒くのが主な攻撃手段。投げナイフの命中率は百発百中である。他にも体術やタネ無し手品が得意なメイドだ。ついでに以前に聞いた事なのだけど、投げナイフを撒いた後は回収するのが大変らしい。

 今の場合は、辺り一片の時間を止めてその間に僕の背後まで移動してきたのだろう。

 

「あれだね、相も変わらず驚かすのを止めないね?」

 

「悠麻様を驚かすのも、私の楽しみの一つですから」

 

 そう言って、口に手を添えて微笑む咲夜さん。上品な笑い方だ。この人、レミリア以外にはあまり関心を持たないから、微妙な表情の変化を見られるだけでも希少なのだ。

 

「今、笑ってくれたね?最初に紅魔館に来た時以来、久々に見た気がするよ」

 

「……気のせいです」

 

 そして、何故だか表情の変化を断固として認めない。う~ん、難しいなぁ。

 

「でも、咲夜さんは美人だからもっと笑ったりした方が良いと思うよ」

 

「……私は美人でしょうか?」

 

 本日の咲夜さんが初めて反応した。僕は思わず顔が綻ぶ。

 

「それはもう。眼に入れても痛くないって言葉は咲夜さんのためにあると言っても過言ではないよ」

 

「過剰評価は褒められた気がしませんよ。美辞麗句を過度に並べても、逆に相手を惨めに思わせます」

 

 僕の横を通り過ぎて、門を開けようとする咲夜さん。う~ん、素直に受け入れてくれない。この堅い性格が無ければ、才色兼備が如く男の女性像なのに。

 

「別に嘘じゃないんだけどなぁ」

 

「……私はメイドですので」

 

 いや、どういう理由?いつもの冷静沈着で瀟洒な咲夜さんとは思えないなぁ。よく見ると、顔が真っ赤だし、僕と眼すら合わせようとしてない。嫌われる様な事でも言ったかな?

 

「咲夜さん。僕、気に障る様な事でも言った?」

 

「私はメイドですので……他に現を抜かすのはご法度なんです」

 

 慌てて誤魔化そうとする咲夜さん。でも、言ってる事にも一理ある。メイド長を務めているから、仕事を疎かにすると他の従者に示しが付かないと思っているんだろう。まぁ、美鈴とこぁと妖精メイド以外にいないから心配無用な気もするけど。

 

「咲夜さんはもう少し、肩の力を抜いても良いと思うなぁ。思い詰めてばかりじゃ、いつか必ず失敗すると思う」

 

「恥ずかしながら事後です。つい最近、うっかり壺を落としてしまいました。御蔭様で、お嬢様に心配されたり、パチュリー様に薬を調合して貰ったり、美鈴が珍しく仕事を真面目にやってましたし……」

 

 珍しく真面目ってどういう事ですかー!?と美鈴の声が何処となく聞こえた気がしたけど……まぁ、気のせいだろう。彼女、今も寝てるだろうし。でも、しっかり者の咲夜さんが壺を落とすなんて、相当疲れてるんじゃないだろうか。

 いや、そもそもだ。こんな大きな館の掃除をしているのは誰だろうか?紅魔館の住民のご飯を作っているのは誰だろうか?全員の服を洗濯して、干して、そして畳んでタンスに戻しているのは誰だろうか?すべて咲夜さんだ。いくら時間を止めているとはいえ、咲夜さん自身の時間は過ぎているし、疲労だって溜まる。なのに、彼女は見返りを求めない。そんなのはフェアじゃない。

 

「咲夜さん、少し休憩でもしようか」

 

「はい?」

 

 

  ◇

 

 

 僕は咲夜さんの手を引いて湖の所まで来ている。鮮やかな緑の芝生に広大な湖、雲ひとつない青空に燦々と照り続ける太陽。そして、咲夜さんが干したであろう、白いシーツやタオルが吊るされている干し竿が辺りにある。風が少し吹いて靡くシーツが辺り一面の雰囲気を醸し出している。

 比較的青い草の生えている場所に咲夜さんを座らせたら、僕はその後ろに回って肩に手を乗せる。

 

「な、何を?」

 

 少し焦っているのか、上ずった声の咲夜さん。あまり、強引に手を引かれたり男と触れる機会が無かった故か、頬が少し赤くなっている。ちょっと、無理矢理すぎただろうか。いや、咲夜さんにはこれぐらいしないと自分から休まないだろうし、結果オーライだ。

 

「僕が咲夜さんの日頃の仕事を労おうと思ってね。まぁ、たまにはゆっくり休もうよ」

 

「で、ですが、お嬢様がお待ちですので……」

 

「どうせ、あの子は夜行性なんだから大丈夫。最近、疲れてるでしょ?」

 

「そうですが……まだ仕事が残ってますので」

 

「大丈夫、僕が代わりにやっとく」

 

 言い訳を一生懸命に探している咲夜さんは、見ていて楽しい。両手がアタフタと動いているし、普段は無表情なのに口がアワアワとなっている。実は、こんな表情は僕以外の人は誰も知らない。レミリアの前では瀟洒なメイドを演じているし、仕事も真面目に行ってる。そんな彼女が僕にだけしか見せない唯一の顔。

 

「やっぱり、咲夜さんは女性ですね」

 

「な、何を――んぁっ!」

 

 顔を赤くして反論しようとする咲夜さんの肩を少し強めに揉む。ちょっと、痛かったかな。いつもは神奈子の肩揉みで慣れているのか、力加減が難しい。あの人、いつも石みたいに肩が凝ってるから、8割の力でするのが普通になっていた。あれ、でも霊夢はこれでも弱いって言ってたような……あの子、何歳なの?僕より年下の筈なのに。

 霊夢の年齢詐称疑惑が浮かんだ所で、最初は弱めで段々と力を入れていきながら、咲夜さんの表情でベストな肩揉みを探る。咲夜さんの場合、疲れが身体に出て来てる様だし、弱めでも大丈夫だろう。

 

「んっ……んっ。今の良かったです」

 

「そっか、わかった」

 

 どうやら、僕が力加減を調整してるのを察知してベストタイミングな場所で教えてくれた。流石はメイドだ。いや、関係ないか。

 

「それにしても、綺麗な景色の真ん中で肩を揉む姿って風情が感じられないよね」

 

「フフフ、悠麻様はマイペースですからお似合いですよ」

 

「それって褒められてるの?」

 

「さぁ、どうでしょう」

 

 咲夜さんは手で顔を隠す事も無く、その頬笑みを晒している。大人の様な振る舞い、だけど何処かに女の子を感じさせる表情に、僕は少し頬が熱くなるのを感じた。この人、無意識なのかは知らないけど十人中十人が振りかえる程の美貌だ。そんな容貌で微笑みを見せられたら、僕だって照れてしまう。

 照れ隠しのつもりで、少しだけ手に籠める力を強くして指圧する。親指の腹が肩甲骨と背骨の間の筋肉を刺激する。

 

「んん!ゆ、悠麻様……少し、痛いです」

 

「あぁ、ごめん」

 

 僕はすぐに手に籠める力を抜いて、円を描く様に肩全体を解す。咲夜さんの表情も痛みで険しくなってたけど、今度は快楽でリラックスしてるのが窺える。それにしても、穏やかな顔で身を任せてるけど危機感とか抱かないのかなぁ。

 

「咲夜さん。僕だから大丈夫だけど、男には簡単に気を許しちゃいけないからね?」

 

「えぇ、大丈夫です。悠麻様を信じておりますので。それに、悠麻様がそんな事をするほどの度胸があるとは御見受けできません」

 

「むっ……」

 

 失礼な。僕だって男だし、女性には興味だってある。ただ、機会が無いからそう思われてるだけで、決して女性に興味が無い訳ではない。どれ、僕が女性に興味がある証拠を見せてあげよう。

 という訳で、肩揉みを一回中断して咲夜さんの前に移動する。

 

「……悠麻様?」

 

 何をしたいのか分からない様子の咲夜さん。キョトンとする咲夜さんも可愛いなぁ……そうじゃなくて、男らしさを見せつけないと。僕は咲夜さんの前で屈んで、ジーッと見つめる。咲夜さんの頬が少し紅潮していて、見ていると恥ずかしくなってきた。それにしても、キメ細かい純白の肌、艶やかに光る銀色の髪、濁りのない瞳……あぁ、綺麗だなぁ。

 

「じゃなくて!」

 

「先程から如何なさいました?」

 

 思わず叫んだら咲夜さんにめっちゃ心配された。どうやら、僕の男らしさを晒すにはまだ早すぎたようだ。ここは僕から退いておこう。

 

 

 

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