東方平穏録   作:Elecom

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受験期ってのは嫌なもんだね。

筋肉は落ちてお腹はブヨブヨ、頭は禿げるし、栄養とか鉄分とか足りなくて倒れるし・・・。


それでも、僕は美鈴が好きだ。


第5話

 咲夜さんが腕を振るうと同時に何か(・・)が立ちあがった。

 

「ギャアアアァァァッ!」

 

 僕と咲夜さんの前で叫ぶそれ(・・)

 

 その額には銀の光沢を放つ刃物が刺されており、まるで悠久の時を超えて封印を解いた妖怪が如く。

 

 顔には赤い液体が額から垂れており、白い肌に亀裂を入れていく。

 

 目尻から滝のように溢れる透明の液体は、今までの怨念や憎悪が具現化した物が零れている様にも捉える事が出来る。

 

 緑のチャイナドレスを身に纏い、赤毛のもみあげを三つ編みにしたその何か(・・)は、キョンシーの様に手を身体と垂直にしながら僕にと迫って来る。

 

「い、痛いですぅぅぅっ!ユマさん!ナイフ取ってくださぁぁぁい!」

 

「だろうね」

 

 まぁ、爆睡してるのを咲夜さんに見つかって、眉間にナイフを刺された門番――美鈴が泣きながらこっちに向かってるだけなんだけどね。

 

 

  ◇

 

 

「はい、これで大丈夫だよ」

 

 僕はそう言って、美鈴の頭から手を離す。咲夜さんから放たれたナイフによって血が溢れだす箇所を水に濡れたハンカチで拭い、背負ってきた麻袋に入っていた絆創膏を張ってあげた。治療を終えて、美鈴の頭を撫でる。やはり女性だからなのか、身体的疲労の溜まる仕事をしていても髪の手入れは欠かしていない様だ。サラサラしていて撫で心地が良い。

 

「ウェヘヘ。ありがとうございます、ユマさん」

 

 ウヘヘと笑っている彼女の名前は(ホン)美鈴(メイリン)

 名前から窺えるように、中華っ娘だ。得意とするのは太極拳と昼寝。そして、紅魔館に侵入しようとする妖怪等を撃退するのが彼女の仕事。他にも花の世話をしている。「気を使う程度の能力」を駆使して自分が得意とする格闘技の威力を底上げするのが十八番だ。スペルカードは一応所持しているそうだけど、弾幕ごっこで使っているのを見た事は一度も無い。どうやら、どんな相手でも素手でやるのがモットーらしい。

 

 その結果、紅霧異変の時は霊夢にボコボコにされてたなぁ。可哀そうだった。

 

 そして紅魔館では、仕事をサボって昼寝をしている美鈴に咲夜さんがナイフを刺すのが定番な茶番と化している。毎度毎度刺されて流血しても、すぐに昼寝をしてしまう美鈴。正直、病気の一種かと疑ったぐらいだね。

 

「美鈴、咲夜さんだって仕事を頑張ってるんだからサボっちゃだめだよ?」

 

「アハハ…分かってはいても、睡魔には勝てないと言うか……」

 

「はぁ…。毎度の事、ご迷惑をお掛けして申し訳ございません悠麻様」

 

 後頭部を手で掻いて苦笑する美鈴を見て、咲夜さんが溜息を吐きながら僕に頭を下げてくる。この二人の一連の動きも、飽きるほど見慣れている。主に美鈴の所為で。

 

「まぁ、咲夜さんもナイフばかり投げないで、口頭で注意するのも良いんじゃない?美鈴も、やれば出来るんだから怠け癖を直そうね。仮にも女性だし」

 

「そうですね、検討しておきます……少しだけ」

 

「ちょっと、ユマさん!仮にもって何ですか!仮にもって!」

 

 美鈴がムキーッと怒っているが生憎と、傍から見ればただの可愛い女性にしか見えない。本当に美鈴は可愛いなぁ。惚気ている場合じゃないか。今はお冠な美鈴を宥める事を優先にしよう。

 

「美鈴、撫でて良い?」

 

「唐突!?ですが、ユマさんなら構いません!」

 

 突然の僕の言葉に一瞬の躊躇も無く、犬のように身体と頭を僕に寄せて来る美鈴。なんだか、頬が赤いけど毎度のことだから気にしてない。理由は聞いても教えてくれないしね。

 身長は僕と同じ、もしくはそれ以上だけど、中身は見た目よりもずっと若い女性なのだ。丁重に扱うが吉。

 

「それじゃぁ、失礼して」

 

 僕は後ろから抱き締めるポジションで美鈴を寄せて、後ろ髪を右手で梳かしながら左手で背中を撫でる。髪に指を通す度に、甘い香りが僕の鼻孔を擽る。

 

「エ、エヘヘ……」

 

 美鈴は撫でられて気持ち良いのか、僕に抱きついて来て胸に頭を擦ってくる。僕の背中に回ってきた美鈴の手が、背筋に沿ってゆっくりと動かされる。

 

「アハハ」

 

「エヘヘ」

 

 これも毎度の事だが、僕が美鈴を撫でると彼女も僕を撫でるのだ。正にギブアンドテイク。白くて柔らかい、けど日頃の鍛錬で所々に出来た肉刺(まめ)を感じる美鈴の手が僕の精神(こころ)を温め解してくれる。互いの視線が交わると、自然と笑顔になる。美鈴の笑顔から溢れるセラピー的な物がそうさせている。これも、彼女の魅力の一つだろう。

 あぁ、至福の一時だなぁ。

 

「悠麻様……」

 

 後ろに殺気を纏った咲夜さんのジト目が無ければの話だけど。

 

 

  ◇

 

 

「それにしても、美鈴は門番が大変そうだね?」

 

 一通り撫で合った後、僕と美鈴は花壇に植えられた色取り取りの花々を手入れしながら話しあっている。水を与えたり、風で土が飛んだ所為で根が露になった花を植え直したり、周りの雑草を抜いたりと、紅魔館に訪れる度に手伝っている気がする。まぁ、楽しいから良いんだけどね。

 ついでに、咲夜さんは取り敢えず紅魔館に僕が来た事をレミィに告げに言ったらしい。

 

「分かってくれますか?なのに、咲夜さんやお嬢様達は碌に労ってもくれません」

 

「本当に苦労してるね~」

 

 ホロホロと涙を流しながらも作業を止めない美鈴を見て、僕は改めて美鈴が仕事熱心な事を実感した。口で文句は言っても、なんだかんだで紅魔館の皆が大好きなんだろう。ある意味、無自覚のツンデレとも表現できる。いや、それは違うか。

 

「でも、嫌いにはなれないでしょ?」

 

「それは勿論ですよ!皆、大切な家族ですから!」

 

 屈託のない笑顔で答える美鈴。本当に幸せそうで何よりだなぁ。

 

「大切な家族のためにも、仕事は頑張ろうね」

 

「うぅ~、結局は原点回帰ですか……いいですよ、頑張っちゃいますから!」

 

 うおりゃぁぁぁ!と叫びながら花壇に生えた雑草を抜き始める美鈴。おぉ、あまりの速さに肩から先の動きが目で捕えられない。流石は中華っ娘。いや、関係(ry

 それにしても、大分作業を続けている気がする。そろそろ腰や肩の辺りが痛くなってきた。僕は少しばかりの疲れを取るために、上を向いて溜息を吐く。

 

「あ、もう夜に……」

 

 魔理沙に箒から落とされて、チルノと遊んで、咲夜さんの肩を揉んであげて、美鈴と花壇を手入れしていたら、あっという間に時間が経っていた。夕日が地平線の向こうへと隠れる間際の空にはポツポツと黄色交じりの白い光が見える。これだと、魔理沙はもう帰ってるかな……って言うか、完全に置いて行かれてるよね?不可抗力とは言え、絶壁(と書いて胸)を触った事が魔理沙を怒らせたみたいだ。どうせ、パチェの本を2~3冊盗んでるに違いない。怒られるの僕なのに。

 話が逸れたけど、今から帰ると妖怪の餌になるかもしれない。仕方が無いけど、今日は紅魔館に泊まる事にしよう。あぁ、明日帰ったら霊夢に怒鳴られそうだ。メランコリック、ここに極まれり。

 

「美鈴、紅魔館に空き部屋ない?」

 

「空き部屋ですか?う~ん……咲夜さんに訊いた方が良いかもしれませんね。私は門番ですので、あまり内部の現状把握は出来てないんですよ」

 

「あぁ、それもそうだね。美鈴だし……」

 

「さり気に馬鹿にしてます!?」

 

 美鈴をスルーして思案顔になる。と、なると……また咲夜さんの出番という事かな。なんだか、何回も何回も呼び出していると申し訳ない気持ちで情けなくなっちゃうな。

 

「あ、それとも……私と一緒に寝ます?」

 

 美鈴が上半身を僕の方に傾けて、何処か期待でもしているかのように瞳をキラキラと光らせている。それに、ほんのりと頬が赤い気もする。プレゼントを貰う直前の子供みたいで、実年齢とのギャップが――ゲフンゲフン。あれ、その先を言おうとすると、咳が止まらないぞ?おかしいなぁ。

 

 とにかく、美鈴と一緒に寝る事は一生有り得ない。以前に一緒に寝た時、あまりの寝相の悪さに僕は一睡も出来なかった記憶がある。ただでさえ抱き枕として半ば強制的に寝かされていたのに、抱き締める力が強くなって豊満な胸に顔を埋められたり、危うく寝技で肩の関節を外されそうになった時もあった。美鈴、恐ろしい子。

 

「それだけは無いね」

 

「うぇ!?わ、私……そこまで寝相悪いですか?」

 

「そりゃぁ、筆舌に尽くし難いほどに」

 

「うわぁーん!そこは敢えて否定してくれても良いじゃないですかー!」

 

 無知とは末恐ろしい物だ。美鈴は悔しさと恥ずかしさを糧に更に倍プッシュで草刈りを始める。でも、その分雑になって飛び散る土が美鈴の腕や顔、そして高そうなチャイナドレスを茶色に染める。

 

「美鈴、女性はもっとお淑やかにしなよ」

 

「むっ。なんですか、ユマさんは淑女好きですか?」

 

 どうして、僕好みの女性の話になるんだろうか。まぁ、確かに落ち着きのある方が僕としても好むだろうし。咲夜さんとか、僕好みの女性の鏡象だよねぇ。

 

「でも、一番の好みは自分らしさを出してる人かも」

 

「自分らしさ?」

 

 美鈴がハテナマークを浮かべる様に首を傾げて訪ねて来る。本当、実年齢にそぐわな――ゲフンゲフン。おかしいな、やっぱりこの先を言おうとすると(ry

 僕が咽ていると、更に不思議そうな顔で僕の安否を尋ねて背中を優しく撫でてくれる。咳を少しでも和らげようと無意識にしてくれる美鈴に感謝しながら、先程の質問に答える。

 

「美鈴なら、元気でバカで活発で可愛くてドジで優しくて手際が良い所だよ」

 

「すみません、所々に罵倒が入り混じってませんか?」

 

 涙目で突っ込む美鈴、可愛いよ。うなーっ!と怒りを爆発させて両手をブンブン振り回しながら僕に特攻しようとする美鈴の頭をアイアンクローで止めながら思う。

 

 

 

 とても平和な夕暮れだなぁ、と。

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