第1話『穏やかな日常の終わり』
ㅤ夕暮れ時、空を飛ぶカラスの鳴き声が響き渡り、一日の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「ふあぁ…………帰るか〜。」
ㅤ夕焼け空を見ながら今年高三の俺、焔咲 結翔(ほむらさき ゆいと)は、帰宅するため荷物をまとめる。
「ん?おい焔咲、もう帰んのかー?これからみんなでカラオケ行くんだ、お前も来いよ。」
ㅤクラスメイトからそんな誘いを受けるが行く気は無い。そもそも歌は上手くないし大人数は苦手なんだ。それに、
「わりぃ、今日は妹と約束あるんだ。先に帰らせてもらうぜ〜。」
「なんだ、またVRMMO、とかいうやつか?全感覚遮断してゲーム内に、なんてよく出来るなおめえ。俺ァ怖くて無理だ!はは。」
ㅤそう、妹の紅葉(もみじ)と家でゲームをする約束がある。
フルダイブ型VRMMORPG、『ソードアート・オンライン インテグラル・ファクター』、通称SAOIF。
ㅤ︎︎元は人気作品のスマホMMORPGだったのだが
10周年を記念してついにフルダイブ型MMORPGとしてリリースされた。データはもちろん引き継ぐことが出来、俺も紅葉もどハマりした。やはり自分の体を動かして冒険をするというのは楽しいものだ。
「1回やって見るとそーでもないぜ?あの爽快感1度味わうと辞められなくなるぞきっと。」
「いやいやそれが怖ぇんだよ!?依存性抜群じゃねえか……現実を疎かにしそうで怖いんだよなあ。」
ㅤ確かに、このゲームにハマって現実に影響が出た人も少数だが居る。長時間フルダイブによる栄養失調、現実とゲームの区別がつかなくなり事故。そんなニュースはちょくちょくある。だがそれでもこのゲームはなくならないのだから、それほどまでに人気なのだ。
「まあ、そんな不安なら無理強いはしねえけど……気が向いたらやってみてくれよ。わかんないことあったら教えてやっから。」
「あ、ああ。万が一やろうと思った時は色々聞くとするよ。……っと、呼び止めて悪かったな。可愛い妹さんと約束なんだろ?早く帰ってやれ。おつかれさん。」
「おう、おつかれ。またな。」
ㅤそう言うと足早に帰路についた。
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「ただいま〜。」
ㅤ俺が玄関の扉を開くとタタタタタと足音が聞こえ、懐にものすごいスピードで何かが飛び込んできた。
「ごふぁ!?」
ㅤ後ろに倒れてしまいそうになりながらも何とか踏みとどまり、飛び込んで来たもの━━━紅葉を見る。
「んへへ、お兄ちゃんおかえり!」
ㅤ満面の笑みで笑いながら頭を擦りつけてくる。もう高一なのだからそろそろ兄離れして欲しいのだが……可愛すぎて怒れない。ダメだ、このままじゃダメだ……次頑張ろう。
「おー、ただいま紅葉。でももーちょっとゆっくり来てくれ、当たりどこによっちゃ兄ちゃん吐く。マジで。」
「はーい!」
ㅤこのやり取り、もはや何回やったか分からない。治る気配?あるわけないよそんなもの……。
ㅤその後、夕飯や風呂を済ませて自部屋に向かう。そしてアミュスフィアを被り……
「おい、紅葉。」
「なぁに?お兄ちゃん。」
「なぁに?じゃねえ!なんで当たり前のように俺の部屋にいる!?」
ㅤ︎︎紅葉はさも当然のように俺の部屋に来てアミュスフィア(フルダイブするためのハード)を被りベッドにスタンバっている。自分の部屋があるのにも関わらず、だ。
「あのなぁ、お前も高一なんだからそろそろ兄離れというかなんというか」
「?そんなことより早くifしよ!」
「……はぁ、わかったよ。」
ㅤこれ以上話しても埒が明かないし、何より俺も早くifしたかったため諦めて同じベッドでログインすることにした。
ㅤ並んで仰向けになり、フルダイブの合言葉を唱える。
「「リンクスタート!!」」
ㅤ感覚が遮断され、いつもの映像が流れる……はずだった。その映像の途中でノイズが走り出し、何も無い白い空間に俺と紅葉は飛ばされた。
「お兄ちゃん、何、今の……。」
「俺も分からない……。」
ㅤ紅葉は怯えたように震えて俺にひっついている。当然の反応だ。こんな時に兄離れしろなんて言うほど俺は馬鹿じゃない。紅葉の体を抱き寄せ軽く背中をさすってやる。俺だって怖いが妹は絶対に守らなければ、と思いながら。
「おや?1人の予定でしたがまさか二人もいるとは……いかに神の力といえど、イレギュラーというものは必ず起こりうるものなのですねぇ?」
「っ!?誰d」
「口を開くな人間。」
「!?……!……?……!?」
ㅤ突如現れた謎の人物(?)の目を見た瞬間体が思い通りに動かせなくなった。声も出せない、声帯を震わせることすら出来ない。紅葉も同じ状態らしい、先程から戸惑っている気配はする。
「いやまあ、私神々のひとりなんですけどね。この服装と雰囲気と今起こってること、色々ひっくるめて察してるとは思いますが。」
ㅤその人物は神、と名乗った。確かにこんなことが出来るのは人間が理解出来る範疇を超えた存在としか考えられない。ならば神という説明もある程度納得できるものであった。しかしこんなことをして一体何を……
「ふむ、今から私がしようとしている事だが、今神々である世界に異世界人、今この場で言う君らの事だが、それを放り込んだらどう影響を及ぼすか観察。そして予想するゲームをしよう、という話になってね。光栄なことに君たちはその対象に選ばれたってことだ。本来は君、男の方だけの予定だったが何故か付属がついてきたみたいだね。まあそれはそれで面白いので送り込むけど、2人同時に送ったことは無いからなんかおかしくなったらどんまいってことで。」
ㅤ自称神さんが訳の分からんことを長々と言う。異世界?観察ゲーム?頭の中がこんがらがって何がなにやらさっぱりだ。
「あと、この世界に存在しなかった事にしといてあげるから心配される〜とかそういうのは気にしなくていいよ!あとは……まあ、後のことは転移したらわかると思うから早速行ってみようか!」
「「!?」」
ㅤ自称神さんが指を鳴らすと俺たちの体は光に包まれそして……意識は暗い闇の中に落ちていった。
1話はここで終わり!
いかがでしたか?
転移したあと楽しみ、転移雑だなあとか色々思うかもしれませんが暖かい目で見てもらえると嬉しいです!
次回
第2話『自由な魔王?現る』
お楽しみに!