平凡メイサーの異世界冒険譚   作:えんてぃ

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春輝の弟子、サトシとの戦いで新たな力に目覚める紫紅。しかし、サトシも限界を超えた力を使って対抗しようとする。お互いに流石にやりすぎなため、どうにか止めようとする春輝とトモ。そこに魔王シハクが現れ、二人を止めるのであった。
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第14話『お兄ちゃん、あたしにも妹が出来ました?』

「ん、う、……?ここは……」

 

「お目覚めになられましたか、紫紅さん。」

 

ㅤ紫紅が目を覚ますと、そこは自部屋のベッドの上だった。昨日何があったかを冷静に振り返りながら、今の自分がどうしてこうなっているかを理解する。

 

「ああ、ありがとう。運んでくれたのね……。」

 

「師匠で、執事ですので。ですが流石に女性の方の服を着替えさせたり、体を洗ったりするのは申し訳なく、傷の手当だけしてそのままベッドに寝かしつけさせて頂きました。私はここを離れますので、ご入浴とお着替えが終わりましたらまたお声掛けくださいね。」

 

ㅤそう言うとトモは部屋から立ち去る。てっきり、体の隅々まで洗われてしまっていると思っていたので、少し安心した。パンツは隅々まで凝視するのにそういう所は紳士なのね、と思うのであった。

 

「うわぁ……これは相当ね……。」

 

ㅤ鏡の前に立ち、自分の姿を改めて見てそうこぼす。メイド服はボロボロになり、胸の谷間とか、パンツとか。脚もめっちゃ見えてるし、肩も丸出しだ。傷が治っているせいもあり、痛々しさは全くなく、まるでそういうことのために作られたかのような艶めかしさを醸し出していた。

 

「まあ、とりあえずお風呂ね。お風呂。」

 

ㅤお風呂とはいえ流石に湯は沸いて……た。トモが沸かしてくれていたのだろうか。だとしたらなぜこんなに沸いたばかりの温度なのか。いやそこは魔法あるしどうにかなるのか、と思いつつ、申し訳程度になった服を脱ぎ捨てる。何故か下着は無傷だったのは謎だが。風呂を沸かすのは面倒だったので、シャワーで済ませようとしていたのだが、沸かしてくれていて助かった。さすがは執事と言ったところか。

 

「んっ……ふぅ……。」

 

ㅤ髪や体をしっかりと洗ってから湯船に浸かる。疲れが溜まっていたのだろう。一瞬で表情がふにゃっとなってしまう。

 

「やっぱ風呂よね〜。染みるわぁ〜……。」

 

ㅤ極楽極楽、と思いながらサトシとの戦闘を思い出す。彼が使った悪魔の力は凄まじかった。空間支配と言ってもいいほどの転移魔法の扱い。それに追加して時をも操る。時止めなどの技なら対処法が思いついたが、まさかベルクーリの『時穿剣』ようなことをしてくるとは思わなかった。空間に残される斬撃。それに無防備に突っ込むことの恐ろしさはよく知っている。本当に戦いづらかった。アレで二十パーセントとか知りたくなかった。それに、

 

「あたしのアレ、結局なんだったんだろ……。」

 

ㅤその時こそ勢いで『紅雷纏装』なんてかっこつけて叫んだが、紫紅自身あれが一体なんなのか分かっていない。あの時強い意思を抱いたことは覚えているが、それ以外はさっぱりだ。記憶が無いわけじゃない。しっかりと覚えてはいる。紅い雷、変わった服装。魔力の強さによって発生する風でゆれる自分の髪は紅かったような気がする。ものすごい魔力だった。あの時なら何にも負ける気がしなかった、それほどに。

 

(まあ、その後一撃で仕留められてるからそんなことは無かったんだけどね。)

 

ㅤいくら不意をつかれたとはいえ、あの状態の二人に大して手刀一発ポン、で終わりである。止めてもらえなければ危なかったのかもしれないが、さすがに自信を無くしそうになる。

 

「ま、いいわ。とりあえずはあの力の研究ね。トモさんにも色々聞かないと。」

 

ㅤ気持ちを切り替えたところで、風呂から出る。紫紅の風呂の時間は基本三十分から一時間だ。それ以上はのぼせてしまう。体を拭き、髪を乾かす。この世界は便利だ、魔法ですぐ乾かせる。

 

「よいしょっと……。」

 

ㅤこの世界に来てからメイド服の替えは作っておいた。戦闘がある以上ボロボロになることも想定している。本当はほかの服も来てお洒落したいのだが、別に紫紅は服を作るのが得意という訳では無いので、既にあるメイド服を参考に作ることしか出来なかった。それに、観光に行くところがある訳でもなし、デートする訳でもないためしばらくは必要ないと思ったのだ。新しいメイド服に着替え、部屋を出る。

 

「トモさんは……と、その前に」

 

ㅤ紫紅は廊下を歩いていて目に入った、春輝の部屋を訪ねようと思った。サトシはこの部屋で休んでいる、というか治療していると思ったからだ。

 

「失礼します〜。サトシ、だっけ。体調は大丈夫なの?」

 

「おや、可愛い子猫ちゃん♪わざわざ僕の弟子を心配してきてくれたのかい?ありがとう♪でも、僕だけに会いに来てくれてもいいんだよ♪なんなら今から別の部屋で僕と……」

 

「あたしは犬派よ。」

 

ㅤ予想はしていたが、やはりウザすぎる絡みにうんざりしながら部屋に入る。サトシはベッドで寝ていた。不思議な魔力に纏われているが、そこまで大事にはなっていないようだ。

 

「……大丈夫なの?」

 

ㅤ紫紅がそう聞くと、春輝はカッコつけた動作をやめ、真面目に答え始める。普段からそれでいいのに、と心から思った。

 

「大丈夫だ。少々悪魔の力に侵食されていたが、それは全て治療した。ほんとに徐々に慣らしていかないとダメなんだよ、あの力は。悪魔の力に完全に侵食されたら暴走してしまう。そうなると魔界全体が危険なんだ。」

 

「ちょっと待ってよ。悪魔ってこの魔界の生物でしょ?なんでそれが暴れただけで魔界全体が危険になるのよ。おかしいわ。」

 

 

ㅤそう、もし彼が使っているのが悪魔の力で、それがいかに強大だったとしても。全ての力が解放されるだけでなぜそんな危険なことになるのか。

 

「……。ここまで知ったら教えた方が良さそうだね。これは現界に住む者たちは魔王含め皆知らないことだ。それに、魔界でも俺達三銃士とサトシ、それともう一人しか知らない。天界が存在するなら、そこに知られているかは分からない。……悪魔はね、この魔界より下に存在する世界、”冥界”に住む者なのさ。」

 

ㅤ紫紅は耳を疑った。冥界、彼は確かにそう言った。冥界とは死後に行く世界のはずだ。そこになぜ悪魔が……

 

「待って、冥界って死後の世界でしょう?何故そこに悪魔がいるの?悪魔は魔界にいるのが基本でしょう?」

 

「……それは君の元いた世界での概念だろ?ここでは違う。そもそも悪魔は精神生命体。こっちでは冥界に溜まった悪の死者の魂が集まって構築されるのさ。」

 

ㅤ確かに、ゲーム等のせいで魔界=悪魔という概念が生まれているが、実際悪魔説なんて色々あるのだ。紫紅はそれを全部知ってるわけじゃないし、どれが本当か、そもそも本当の説はあるのかすら分からない。

 

「その、悪魔の件は納得するわ。でもね、疑問はまだある。なんでそんなあなたたち以外知らないようなところに行けたの?そしてどうして。どうして、いつもカッコつけて自信満々なあなたが震えているの?」

 

「っ……。震えて、いたか。まだ恐怖心は抑えられないようだね♪……はは。」

 

ㅤ流石に、震えているのはダサくて嫌だったのか無理やりカッコつけているが、やはり少し元気が無さそうだ。

 

「教えて、何があったの一体。」

 

「説明が面倒だから、どうやって冥界に行ったかは省くね。簡単に言うと、冥界に入る、悪魔に襲われる、三人でもあの数の悪魔には敵わず、ボッコボコにされたんだ。もちろん全員当時の本気だったさ。それでも敵わなかった。」

 

ㅤ紫紅は息を呑んだ。あの絶対的な強さを持つこの三人ですら敗退する程の敵。数がと言っていたが、余程強くなければ彼らに数が多くても大した問題では無いはずだ。当時は、今よりいくらか弱かったのかもしれないが、それでも恐怖を植え付けられる程の敵、悪魔。

 

「待って、じゃあなんでサトシは悪魔の力を使えるのよ。今の話だと、とても友好的じゃないわよね?それがなんで」

 

「悪魔に魅入られた。しかもサトシはその時何も知らなかった。だから契約してしまった。そりゃ、今は害はないさ。サトシがどう動くか、悪魔は見て楽しみ、求められればその分力を貸す。体への代償は無視してるけどね。だから、少しずつ慣らしていかないと一気に悪魔の力に飲み込まれてしまう。それと、悪魔が飽きる時、サトシの体は悪魔に完全に乗っ取られるだろう。」

 

ㅤ想像以上に重い話だった。まだこの世界のことすらよく分かってない紫紅には、頭の痛くなるような情報の嵐。

 

「分かった。いや、完全に理解した訳では無いけれど、大体のことは、ね。」

 

「うん、聞いてくれてありがとうね。じゃあ、トモも待ってると思うし、行くといいよ♪今度は僕だけに会いに来てね♪」

 

「はいはい、じゃーね。」

 

ㅤそして紫紅は扉を開けて部屋を出ようとする。扉を閉じる前に

、一つ気になったことだけ彼に聞く。

 

「ねえ、その話をなぜあたしに?そんなに周りに言えるようなことじゃないでしょう?」

 

「さあ、なんでだろうね。君は……君には、異世界人だし、何か感じたのかもしれないね。僕にも分からないや♪」

 

「そ。」

 

ㅤ今度こそ完全に扉を閉じ、紫紅はトモを探しに厨房に向かった。

 

「お、いたいた。」

 

「おや、ご入浴は終わりましたか?……ちょうど朝食が出来ましたので、運ぶのを手伝ってもらってもよろしいですか?」

 

「はーい。」

 

ㅤ今日の朝食はホクホクご飯に、白身魚の塩焼き。ほうれん草のようなもののお浸しに、味噌汁のようなものだった。言うなればめっちゃ和食みたいだった。

 

(なんでこの世界の食事は、本当によく似ているわね。いやまあ、助かるんだけど。口に合わないゲテモノを出されるなんて真っ平御免だしね。)

 

ㅤ目を覚ましたサトシ含む、全員で朝食を食べる。ホクホクとしたほんのり塩味のする白身魚。適度な味噌の濃さのあたたかい味噌汁。程よい醤油?加減のお浸し。何よりこの世界に来て炊きたての白いご飯が食べられると思っていなかったため、毎日幸せである。

 

「そういえば紫紅さん。今、魔力は使えそうですか?」

 

「ん?使えるわ……あれ?使えない……。」

 

「やはりそうですか。数日間は使えないと思います。あの『紅雷纏装』により魔力を使いすぎましたね。しばらく練習して、魔力効率を良くすれば大丈夫だとは思いますが、今は《急性魔力欠乏症》の状態です。」

 

ㅤ『紅雷纏装』。あの時に使った、見た目さえ変わる技。自分でもよく分からずに絞り出した魔力。あれのせいでしばらく魔力が使えないと思うとショックだった。

 

「まあ、そう気を落とさないでください。あなたの今の戦闘能力なら、その辺の魔物は魔力無しでも問題ありませんよ。気晴らしに散歩に行っても大丈夫です。」

 

「……そう。じゃあ、そうさせてもらうわね。」

 

ㅤ半信半疑ではあったが、トモの言葉は事実だった。全く魔力を使わずにメイスで軽くぶん殴るだけで魔物が爆散する。

 

(……強くなりすぎじゃない?あたし。というかここまで強くなっても勝てないあの人たち一体何なの?そしてその彼らでも勝てない冥界の悪魔。)

 

ㅤ気晴らしと言っても、こんな荒んでしまった世界では気が晴れるのか分からない。しかし、少なくとも外の空気を吸うという点では、少しスッキリはした。

 

「っ!そこ……!?人!?」

 

ㅤ気配を感じて、後ろにメイスを振り下ろそうとしたが、走ってきていたのは人、少女だった。紫紅と同じメイド服を着ていて、猫耳がある。片目に髪のかかった少し薄い黒髪のショートヘアで、目も同じ色だ。服に着いたリボンは青ではなく赤色だが、それ以外の服は紫紅とそっくりだった。

 

「ちょ、き、君は……?」

 

ㅤ戸惑いながら、抱きついてきた少女に問う。すると、少女は不思議そうに首を傾げながら紫紅を見上げ、言う。

 

「?……私はのぞみ、だよ?おねーちゃん?」

 

ㅤ拝啓お兄ちゃん。あたしにもいつの間にか、妹ができていたみたいです。




今回はここまで!いかがでしたか?

今回登場したif民モチーフの方は
魔界三銃士
シハクさん
トモさん
春輝さん

サトシさん

そして
初登場の
のぞみさん、でした!
ありがとうございました!

次回
第15話『この世界に来てやっと癒しが出来ました』

お楽しみに!
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