平凡メイサーの異世界冒険譚   作:えんてぃ

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突如始まった節狐との戦闘。殺されそうになる焔斗の元に闇華と来羅が駆けつける。2人の力を持ってしても苦戦を強いられたが、焔斗の支援魔法により形勢は逆転した。彼の全力『終末ノ焔撃砲』が炸裂する
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第19話『魔王再び』

 ‌焔斗が放った『終末ノ焔撃砲』は、節狐に間違いなく直撃し、吹っ飛ばした。死んではいないが、彼女の尾も1本に戻り、満身創痍である。どうだ、と様子を伺っていると、節狐は急に笑い声を上げた。

 

「あっはは!だーめだ、あたしの完敗だよ。こうやって立ってるのでやっとだ。1歩も動けやしねぇ。やるなぁ、あんたたち。」

 

 ‌どうやら、今度こそ節狐は完全に諦めたらしい。警戒を完全に解くことはしないが、ひとまず皆ほっとした。

 

「そっちも強すぎだよ。はっきり言ってここまで圧倒されるとは思ってなかった。なんなら、闇華さんと来羅さんが来ていなければ俺はとっくに死んでいたし、な。」

 

「ほんとにギリギリ間に合って良かったわ……私達もここまで強いとは思ってなかったけど。」

 

「ねー!焔斗君の魔力が一気に減った時は、もうダメかと思ったよ〜。」

 

 ‌警戒の少し解けた3人だったが、節狐と付いてきていた獣人達は逆に警戒度が上がっていた。それを感じとって不思議に思う3人だったが、次の節狐の一言でその疑問は解決した。

 

「どうした?早くトドメをさせよ。」

 

 ‌節狐は俺たちが今からトドメ、つまり殺しにくると思っていたらしい。そういえば殺し合いって話だったかと思いつつ、全くもって不満な様子を見せないところを見ると、約束は守るしっかりとした人……狐なんだなと思った。彼女がそう言った瞬間、付いてきていた獣人達が飛び出して来て、節狐を守るように焔斗達の前に立ち塞がった。

 

「や、やらせませんぞ……!我々が命をかけても節狐様をお守り致します!!」

 

 ‌と、必死の表情で武器を向けてくる。しかし、その体は震えている。先程までの戦いを見ていたため、怖いのだろう。焔斗達も魔力が尽きかけていて、もうほとんど力が出ないので彼らでも倒せるはずなのだが、植え付けられた印象というのは恐ろしいものだ。限界を超えて何度か立ち上がったぶん、もしかしたらまだ底力があるかもしれないと警戒されているのだろうか。

 

「おい、あんたら!やめな!これは正々堂々とした勝負なんだ!約束は守らなきゃ戦士の恥さ!実際、あたしはあいつを殺そうとしたんだよ!」

 

「それなら!それなら、こいつらだって助っ人が来たじゃないですか!だったら我々が割り込んでも何も問題ないはずです!」

 

 ‌節狐がやめさせようとするも、そう言い返される。確かに彼の言う通りだ。反論のしようがない。元々1対1の戦いだったはずだが、色々あって3対1になっていたのだ。そして付き人の彼は更に衝撃発言をした。

 

「それに、国王の1人娘であるあなたが、こうも簡単に命を投げ出さないでくださいよ!そりゃあ、不満があるのも聞いていますので分かりますけどもね!せめて自分の命は大切にしてください!」

 

「そ、それは……」

 

 ‌なんと、節狐は国王の娘だったらしい。彼女達は獣人なので、おそらく獣人の国の話だろう。これまで確かにそんな雰囲気はちらほらあった。と、いうか付き人を連れてる時点でお偉いさんのオーラは出てしまっていた。

 

「ま、まあ待てよ。俺たちは殺す気なんてないぜ?そもそも殺し合いなんて反対だったからな?」

 

 ‌焔斗がそう言った瞬間、節狐含む獣人達はきょとん、としたあと焦る節狐と安心する付き人になった。

 

「ちょ、ちょっとまて!それじゃあいくらなんでも悪すぎる!あたしはあの時、あんたを確実に殺そうとしたんだぜ!?」

 

 ‌と、自分を殺せと言ってくる。せっかく助かるのだからそこまで律儀にならなくてもいいのにと思いつつ、焔斗は答える。

 

「いやいや、あれは俺が弱かったのが悪いし、生殺与奪の権利は勝った側が貰うものだ。そんで今回俺はあんたを殺さない。理由もあるぜ。」

 

 ‌焔斗はニヤつきながら理由を告げる。

 

「今回、3対1で勝ってしまった。けど、最後の『獄焔纏装』と『焔ノ鼓舞』を合わせた状態。あれなら、1対1でも勝てるかどうか試したい。お互い万全な状態で、な。」

 

 ‌そう、今回は2人に助けに入ってもらった中での覚醒だった。だが、最後の自分の状態でお互い万全な状態で戦えば、勝てるだろうか。いや、

 

「俺の予測では勝てる。余裕だぜ?」

 

 ‌焔斗の言葉を聴きながらきょとん、としていた節狐は、最後の一言で苦笑した。

 

「おいおい、流石になめすぎじゃないかい?あたしも流石に、あんた1人に負ける気は無いよ。それに、次戦う時も同じ強さだと思わないことさ。あたしだって鍛えるんだからねぇ?」

 

 ‌どうやら殺されることは諦めてくれたようなので、ひとまず胸を撫で下ろす。

 

「鍛えるのはそっちだけじゃないだろ?俺だって鍛えるさ、だから次会った時に、またやろうぜ。」

 

「へっ!あたしを生かしといたこと、後悔すんなよ!またな。」

 

 ‌最後に拳をコツンっと当ててから、節狐は付き人に支えられながら去っていった。

 

「ふぅ〜〜。おわっ……た……。」

 

「おっと、危ない。」

 

「焔斗君大丈夫??」

 

 ‌節狐の姿が見えなくなると同時に、緊張が完璧に解けて、焔斗は倒れそうになる。そこを闇華が支え、何故かひざ枕の体勢に。

 

「あ、いや確かに立てませんけどなぜ。なぜひざ枕……。」

 

「あら?嫌だったかしら?」

 

「嫌では無いですけど……。」

 

 ‌焔斗自身嫌ではない。むしろ少し嬉しいまであるのだが、いかんせん血縁以外の女性との関わる機会がほぼ無かったため、反応に困っているのだ。

 

「アイドルのひざ枕なんて、生きてて経験できる様なものじゃないわよ?遠慮なく堪能なさい?」

 

「どっちにしろ動けませんし、そうさせていただきます……。」

 

 ‌5分くらいそのままで居ると、動ける程度には体力が戻ってきたので、焔斗は起き上がる。もったいないなあ、と闇華に言われたが気にしない。嬉しさより申し訳なさが勝つのだ。

 ‌これからどうしようかと3人で話し合った結果、とりあえず闇華と来羅が隠れ住んでる場所(アイドルのため注目されている上、元の世界ほど治安が良くないため隠れ住む必要がある)に移動し、ゆっくりしながら話し合おうということになった。

 

「ここが隠れ家よ。秘密基地っぽくていいでしょ?」

 

「まあ、隠れ家だから言い方を変えれば秘密基地みたいなものなんだけどね〜。ふふ。」

 

「いや隠れ家にしちゃ目立ちすぎじゃね?」

 

 ‌思わず、心の声をそのまま素で出してしまう焔斗。だがそれも仕方の無い事だった。場所は森、そしてかなり深くまで進んだ人が通った気配もないと言っていい場所。木は高く生い茂り、何かを隠すにはもってこいだろう。だが、

 

「いくらこの辺に人が来ねえからって、もうちょい、あったんじゃ……。」

 

 ‌問題の家は、洋館みたいな豪華なものだった。綺麗に手入れされているため、壁などに汚れは全くなくピカピカだ。森の隠れ家と言えば、木造で目立たないようにしてるはずなのだが、何故か洋館だった。これでは木々の間からちらっと見えたら気になってしまう。そのことを伝えるとクスリと笑われた。

 

「まだ前の世界の感覚が抜けてないのね。この世界には魔法があるのよ?当然こんなことも、ね!」

 

 ‌闇華が指を鳴らすと、洋館は消えてなくなった。いや、見えなくなったという方が正しいのだろうか。そこにあったはずの洋館は見えず、木々が生い茂るばかりだ。

 

「目には消えて見える、って思ってる?なら、さっきまで隠れ家があった場所に行ってみて?」

 

 ‌来羅に言われた通りに、焔斗は先程まで洋館、隠れ家があった場所に歩く。見えてないだけならぶつかると思い、1歩手前くらいで止まってしまうが、意を決して足を踏み出した。

 

「え……?」

 

 ‌ぶつかった衝撃を覚悟していた焔斗だったが、そんなものが来ることはなく、普通に歩くことが出来た。隠れ家のあったところに生えている植物に触れてみるが、すり抜けるなどということはなく、普通に実在しているかのように触ることが出来る。

 

「どういうことだ……?」

 

 ‌わけも分からず呆けていると、闇華と来羅も近くに来て、説明をしてくれた。これは、2人で編み出した魔法であり、完全にそこにあったものを無いことにしてしまうらしい。もちろん相手は物限定で、対人では使えない。それに、その対象物にも入念な魔法陣が必要となるため、戦闘に利用することは出来ない。

 ‌例えば、爆弾が無いことにしておいた場所に敵を誘き寄せ、出現させて爆発、なんて芸当は不可能である。何せこれを作るのに半年かかったらしく、作り方がわかった上でも数ヶ月は確実にかかるとの事だ。

 ‌その代わり、こういう隠れ家等を完璧に隠すにはもってこいの魔法と言えるだろう。組むまでは魔力をかなり使ったらしいが、オンとオフの切り替えは魔力をほとんど必要としないらしい。全く便利なものである。

 

「さ、そんなことは置いといて、早く中に入ろ!」

 

 ‌さすがに、今いる場所で出現させると事故ってしまうので、隠れ家のない場所まで戻ってから、隠蔽魔法を解除する。するとさっきと同じく洋館のような隠れ家が出てきた。中に入ろうとしてあることが気になって、焔斗は2人に問いかけた。

 

「なあ、これって結局、人に使えないなら中に入ってる時隠せないんじゃないのか?」

 

「いや?そんなことは無いわよ?人や動物に魔法陣を描いて隠すことは出来ないけど、その魔法陣で隠されるものの中、例えるなら隠す箱の中に入れば、一緒に隠れることが出来るのよ。もちろん、ドアを開けたりすると解けてしまうわ。だから、隠してる間は外に出ることが出来ないわ。」

 

「なるほど、ね。便利すぎないか?」

 

 ‌つくづく便利なものだと思った。製作時間的に、戦闘に使えるようなものでは無いが、魔法はこんなことまで出来るものなのかと感心する。

 

「さ!中に入って!ほらほら!」

 

「お、押すなって!」

 

 ‌来羅に急かされながら中に入る。よくよく考えてみれば焔斗は今、アイドルの家にお邪魔しているのだ。前の世界では考えられないことである。かなりドキドキしながら家の中を見た。結論から言うと、2人しか住んでいないのに広すぎた。部屋が何部屋あるのか分からないが、普通に考えて2人で住む広さではない。もしかして他のアイドルとシェアハウスしてるのでは、と疑うレベルだ。一応聞いてみたが、そんなことは無いらしい。使ってない部屋もあるのだとか。

 

「私も来羅も張り切っちゃって……。つ、作るって楽しいから!う、うん。」

 

 ‌てっきり来羅だけがはしゃいで、こんなに広くしてしまったのかと思ったが、闇華も共犯であった。2人ともブレーキが効かなくなったらそりゃこうなるだろう、と焔斗は納得した。

 

「とりあえず、リビングに行きましょう。……いや、そういえば……。」

 

「ヤミちゃん、先お風呂入りたいよー!体汚れすぎ!」

 

「了解、俺は森から出ておくよ。」

 

 ‌さすがに、入浴してるアイドルが居る家にいるのはストレスで胃がなくなりそうなので、焔斗は退散しようとする。が、

 

「そこまでしなくていいわよ、来て。」

 

 ‌と言われ、闇華にズルズルと引きずられて1部屋の扉の前に来る。ここは使ってない部屋らしく、2人が風呂に入っている間ここに閉じ込めておくらしい。施錠は外からのみ、魔法で複雑にするらしく、出られないようにするとのこと。若干怖いが、そこまで対策してくれるなら、こちらとしても変な濡れ衣を着せられる不安がないので安心できる。

 

「で、これ。読んだことは無いんだけど、タイトル的に多分あなたの焔についての文献だと思うわ。ずっと待ってるのもつまらないだろうから、読んでるといいわ。」

 

「あ、ありがとう、ございます。」

 

 ‌焔斗が礼を言うと、闇華はクスッと笑いながら返す。

 

「今更、そんな畏まらなくていいわよ。たしかに戦い方を教えたりするのは師弟みたいだけれど、そんな関係じゃなくて、友人、仲間みたいなものでしょ?もっとフランクでいいわ。」

 

「あ、ああ。分かった。ありがとう闇華さん。」

 

 ‌闇華は軽く手を振り、部屋から出て扉を閉める。魔法で頑丈に鍵をされる気配を感じた。

 

「さて、と。」

 

 ‌改めて部屋を見渡す。使っていないとは言っていたものの、簡単な机と椅子はあるようだ。掃除もしっかりとされているようで、埃が溜まっているなんてことは無かった。助かったと思いつつ、椅子に座り、本を開く。本のタイトルは『禁忌ノ焔・真理ノ焔』と、この2つについて説明しているのがよく分かるものだった。

 ‌内容を大事なところだけ抜粋するとこうだ。

・禁忌ノ焔はいかなる魔法も通用せず、無効化する。(同系統の魔力は例外である。)

・禁忌ノ焔は真理ノ焔によって、”抑制”と”解放”、そして”??”(字が擦れて読めない)が可能である。

・”抑制”……禁忌ノ焔は真理ノ焔により、無効化、封印することが出来る。ただし、真理ノ焔を使う側にも相応の強さが必要である。基準としては、禁忌ノ焔を使う者より強くなければならない。

・”解放”……文字通り、前述で封印していた禁忌ノ焔を解き放つことができる。再び封印する必要もあるが、解放後、時間が経ちすぎていなければ、再封印に使う力は微量で可能である。

・”??”(以降文字が擦れて読めない)

 

・真理ノ焔の特徴は前述した通りだが、禁忌ノ焔に対抗する他に力がある。それは”吸収”である。炎系統限定ではあるが、相手の使う炎を吸収し、魔力に変換することが出来る。吸収者の体が耐えられる魔力量と、相手の魔力の質によって相性があるため、質次第では吸収できず、暴走を起こす場合があるため注意が必要である。

 

 ‌といった感じだった。節狐の話からなんとなく想像はしていたが、”真理ノ焔”はやはり、”禁忌ノ焔”に対抗しうる焔らしい。封印等と書いているが、条件が相手より強くなければならない、という点。あの理不尽な強さの魔王より強くなるのは必須、だということだ。

 

(流石に厳しくないか……?あの魔王、相当強かったぞ。一応俺も強くなってるから、前のように簡単にはやられないとは思うが。いやしかし、魔界で通用するか見てもらうのであって勝て、とは言われていないよな?勝とうとするのは当たり前だが、一応、魔界から来ている2人の戦闘についていけているから合格を貰える説もあるのだろうか……?)

 

 ‌現状、あの魔王に楽勝できるか、と聞かれたとすれば、「無理」と返すだろう。だが、いい勝負ならできるのではないだろうか、とも思っている。魔界に行く条件は勝利では無いため、今戦っても大丈夫な気もする。しかし不思議と、その時になったら向こうから出てきそうと思っているのだ。

 

「とりあえず、できそうな修行……は、これ、かな。『紅焔纏装』。」

 

 ‌『獄焔纏装』ではなく、その前の『紅焔纏装』を発動させる。焔斗が野郎としているのは、この纏装状態の”維持”だ。できれば24時間切らさず、この状態が当たり前であるレベルまで持っていきたいところである。まずは一段階目のこの纏装に慣れることで、『獄焔纏装』になった際、魔力の無駄な消費を抑えたいのだ。それに、常に魔力を消費しているため、使い切って回復すれば魔力の最大量も上がる……気がした。確定では無いが、纏装状態に慣れるに越したことはないので、実践することにしたのだ。

 

「お、思ったよりきっついなこれ……。」

 

 ‌普段は、纏装状態になる時は戦闘時、もしくは修行の時、と何かと戦ったり、体を動かしての修行の時ばかりだ。それ故に、常に力んだ状態で、戦闘も何もせずただ普通に暮らそうとしている。そうなってくると、まずは力加減が大変だ。移動速度が速くなったりする分には、壁に激突したりしなければ問題は無い。だが、なにかものを持ったりする際の力加減は必要だ。普段の感覚で掴めば、破壊してしまうだろう。椅子や机を動かすのですら難しい。力はほぼ使ってないので肉体的疲れは無いが、精神的な疲れがかなりあった。しかし、それも最初だけだ。1時間ほどすれば次第に慣れていき、意識はしなければならないが、そこまで精神を使うほどではなくなっていた。

 

「焔斗君、開けても大丈夫かしら。」

 

 ‌ドアがノックされ、扉越しに闇華の声が聞こえた。そろそろ風呂も上がり、ドライヤー(この世界だと魔法で済むのかもしれないが)と着替えが済んだ頃だろうと思っていたので、ちょうど良かった。

 

「大丈夫っすよ〜。」

 

 ‌焔斗がそう答えると、扉の鍵が外される音がして、開けられる。来羅もいるようだ。2人とも風呂上がりでさっぱりしている。彼女達が俺の姿を見ると驚いたような表情を見せた。

 

「纏装状態かな?それ。いや、にしては落ち着きすぎているような……?」

 

「なるほど、そういう修行方法もあるのね。ありがとう、勉強になったわ。」

 

 ‌来羅は疑問に思い、闇華は見抜いて納得し、感心しているようだ。この纏装状態に慣れる修行、というのは彼女達もやってはいなかったらしい。

 

「まあ、いいわ。あなたも風呂に入ってきなさい。もちろん、掃除もしてお湯も張り替えてるから安心して。その服もボロボロだから、新しい服も脱衣所に置いてるから、それに着替えるといいわ。」

 

 ‌そう言って風呂場へと案内された焔斗は、とりあえず風呂に入ることにした。この世界にもしっかりとした風呂の文化はあるらしく、多少デザインは違えど、慣れ親しんだ風呂場がそこにあった。

 

(もしかしたら、風呂に浸かれない世界かもと覚悟していたけど、これなら安心だな。まあ最悪の場合、自分たちで作ればいいんだけどな。)

 

 ‌焔斗は男性にしては長風呂な方だ。普段は30分ほど風呂に浸かっている。とりあえず頭髪、顔、体を洗ってから浴槽に入る。

 

「ふ〜……。」

 

 ‌この世界に来てから本当に色々あって疲れていたからだろうか、前の世界で入る風呂より数段気持ちよく感じられた。

 

(さて、これからどうするか……。)

 

 ‌焔斗は、風呂に浸かりながら今後のことについて考えることにした。修行については、今やってる事以外思いつかない。基本的な体力作りくらいだろうか。闇華と来羅の修行も、『獄焔纏装』を習得したことにより、おそらくクリアしている。あとは、魔力を安定させたりと課題は残ってはいるものの、それもまずは今やっている纏装に慣れる、というのが第1歩だ。魔界で通用するなら行かせてくれる、という話だったので、今魔王レーヴァテインと戦ってもいいのだが、どちらにしろ彼の居場所が分からない。しかし、焔斗はなんとなく、その時になったら現れるのではないだろうか、とも感じている。

 

「さて、そろそろ上がるか。」

 

 ‌なんやかんや考えていると30分くらいたった気がするので、もう風呂から上がることにした。彼女達とも話をしたいし、何より先程見せてもらった、焔に関する文献について考察、相談したいのだ。

 ‌脱衣所に戻ると、置いておく、と言われていた服を改めて見直す。用意された服は、暗い藍色と薄い紫を基本として、民族衣装の模様のようにデザインされたシャツと、半袖の上着。模様が少し派手に見えそうだが、色合いのおかげで落ち着いたイメージを持たされている。指の出るタイプの手袋も置いてある。ズボンはスラッとした黒の長ズボン。肌触りが良く、いい生地が使われているようだった。なぜ、サイズがピッタリなのかという疑問はあるが、とりあえず気にしないことにした。

 ‌体を拭いて髪を乾かし、用意された服に着替えて言われていた部屋に、ノックしてから入る。

 

「お、来たわ。意外と長風呂なのね、あなた。」

 

「まあ、風呂は好きなので……それに浸かるの久々でつい……はは。」

 

 ‌案の定、風呂のことに突っ込まれながらも、指定された場所に座る。もちろん、先程読んでいた本もここにある。

 

「で、この本には何が書いてあったの〜?」

 

「あんたも読みなさいよ……。まあ、いいわ。」

 

 ‌焔斗と闇華で、来羅に本の内容を簡単に説明した。主に、”真理の焔”の性質についてだ。

 

「ふむふむ、なるほど!何となくわかったよ!」

 

 ‌本当にわかっているのか不安ではあるが、とりあえず伝えはしたので良しとした。

 

「それにしても、焔斗君が使ったあの強化魔術??みたいなものは性質には書いてなかったんだね?」

 

 ‌どうやら、この世界で強化系の魔法を使う人はほとんど居ないらしい。というのも、この世界での回復や支援など、他人に干渉しながらも攻撃では無い系統の魔法は、相当難しいらしい。ジーマ村でシイも言っていたが、1歩間違えれば必殺の魔法となってしまう。仲間を助けようとして殺してしまったんじゃ、本末転倒どころの話では無い。

 

「それは多分、この焔の性質とかじゃなくて。俺が前の世界にいた時にやってたことをイメージしてやったんだ。その時ほど簡単なわけも無いから、相当精神使ったけど、成功してよかった。あの時は、何だかできる気がしたんだ。」

 

 ‌焔斗は元の世界ではバファーだった。と言ってもゲームの中だが、イメージするくらいはできる。あとはもう、できる気がするという気持ちだけで押し切ったのだ。今思えば、この世界に来てからほとんどノリと勢いで来てしまっている気がする。今は成功しているから良いが、しっかり考えて動かないと、そのうち取り返しのつかないことになるような気がした。

 

「ふぅん、バファー、支援役、ね。あなた前の世界じゃそんなことしてたのね。もっと脳筋かと思ってたわ。」

 

 ‌闇華のツッコミに脳筋じゃない、と否定したいところではあったが、この世界に来てからの自分の行動を思い返してみると、どう考えても脳筋寄りの立ち回りばかりしてきた気がするので、否定したくても出来なかった。

 

「まあ、1人でしたし、俺が戦わなきゃ意味ないって言うか。支援する相手もいないのに、支援の練習しても意味が無いじゃないですか。まさか、イメージどおり自分含め味方全員に効果があるとは思いませんでしたしね。」

 

 ‌そう説明すると、2人は納得したように頷いた。形は違えど、経験があるのであれば、今回の件も起こりうることだと思ったようだ。

 

「それはそうとして、どうなの?今の状態でその、魔王より強くなれてると思う?」

 

「いえ全く。あれは次元が違いすぎます。確かに僕も強くなりましたが、勝つ自信があるかと言われると完璧に無理ですね。封じるのも結局、魔力で勝ってなければならないみたいですし。」

 

「んー、じゃあ当分修行だね!!!いつでも相手になるよ!」

 

 ‌来羅が嬉しそうに言ってくれるが、そういつでも相手できるほど暇じゃないだろう、と思った。彼女達はの本職はアイドルだ。各地でライブをしている。それについて行くわけにもいかないし、様々な場所に行くため、常に会える訳でもない。

 

「ん〜。じゃあどうしよっか?」

 

 ‌焔斗が思ったことを闇華が指摘し、来羅は納得して悩み始めた。

 

「いや、1人で修行するよ。色んなこと教えてもらいましたし、自分流の修行も見つけました。焔についても不明点は多いですし、ほかの街にも行ってみようと思います。その途中で魔王と再会できるならそっちの方がいいですが、ね。」

 

「なんで?勝てないんじゃないの?」

 

 ‌来羅の疑問も当然だ。勝てもしないのに出会って戦えば、殺されるだけである。焔斗は、魔界に行く条件について魔王に言われたことを、詳しく話すことにした。

 

「なるほど、ね。それならもう、今のあなたでも充分合格ラインじゃないかしら?私の見た感じ、魔界の魔物ごときなら苦もなく勝てると思うわよ?」

 

「あたしもヤミちゃんに同意見だよ〜。それなら、焔について調べたり、修行しながら、その魔王さんを探す方が良さそうだね!!」

 

 ‌2人の見立てでは、今の焔斗でも魔界で魔物に殺されてしまうことはないだろうという事だ。特殊な攻撃をしてきたりする相手には気をつけなければならないが、基本的な戦闘能力では大丈夫との事だ。

 

「それを聞いて少し安心しました。魔界の強さの基準が分からないので、魔界から来た2人の言葉だと信用もできます。」

 

 ‌焔斗自身も、何となく行けるのではないだろうかとは思っていたが、不安はもちろんあった。そこでこの2人の言葉だ。実際かなりほっとしたのである。

 

「じゃあ、そろそろ俺は行きますね。今までご指導ありがとうございました!また、妹と再会出来たらライブ見に行きますね。」

 

「そう、ね。確かに、これ以上あなたが私達と一緒に行動する必要性はほとんどないわ。お金も魔物の素材を売れば問題なく手に入ると思うし、なんなら自分で狩って調理してもいいし、ね。こちらこそ誰かに教えるというのは初めてで、色々楽しかったわ。またどこかで会いましょうね。」

 

「焔斗君またねー!ライブに来てくれるの楽しみにしてるよ!あ、今度こそ手料理もご馳走してあげるね!」

 

「あ、それは遠慮しときます。」

 

「なんでーー!」という来羅の声を聞きながら、焔斗はこの隠れ家をあとにした。

 

 ‌とりあえず森を抜けるため、考えながら歩き始めた。途中途中魔物が襲ってくるが、今の焔斗は武器を抜くまでもなく、1発殴るだけで倒せるようになっていた。もはや現界での魔物は彼の相手にならない。

 

(どうしよう、とりあえず森を抜けて街を探そうと……ああ、近くの街聞いておけばよかった……まあ、いいか。とりあえず進もう。それにしても、なんだか嫌な空気だな。)

 

 ‌見た目は別に変わったところの無い森なのだが、なんだか嫌な感じがする。それこそ、最初に……

 

(っ、そうか!この気配まさか!)

 

 ‌焔斗がなにかに気づいた瞬間、影から斬撃が彼を襲った。その攻撃を察知して、咄嗟にメイスを抜き防ぐ。剣とメイスがぶつかった音が響きわたり、押し切られそうになるも何とか防ぎきった。

 

「……この不意打ちに気づき、対処できる程度の実力は身につけたようだな。」

 

「へっ、あれから必死こいて鍛えたもんで、な!」

 

 ‌剣を防いでいたメイスで押し返し、突き飛ばした。不意打ちの相手は空中で受け身をとり、何事も無かったかのように着地する。

 

「時間が無い。早くお前の力を見せてみろ、焔斗。」

 

 ‌焔斗の前に現れたのは、”現界の放浪魔王”であり、”禁忌の焔”の使い手、レーヴァテインだった。

 

 




今回はここまで!いかがでしたか?
今回はちょっとボリュームアップを頑張りました!
登場したif民モチーフは

節狐さん(節狐)

Yamikaさん(闇華)
ララさん(来羅)

そして
Revatainnさん(レーヴァテイン)

でした!
ありがとうございました!

次回
第20話『禁忌vs真理』

お楽しみに!
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