平凡メイサーの異世界冒険譚   作:えんてぃ

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各々の場所で変わっていく状況。レーヴァテインと行動を共にすることになった焔斗。果たして、紫紅と再会し、洗脳から解き放つことは出来るのだろうか。

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第2話『短き道のり』

 

「っ!この魔力は!?」

 

‌ ‌紫紅、そしてしゃろんとの会話の後、いつも通り家事に戻ったトモ。しばらくして、異質な魔力を持つ者が魔界に現れたのを感じ取った。紫紅が魔界に現れた時と同じような感覚。つまり、紫紅の兄である可能性が高い。

 

(狙ったかのようなタイミングですが……来ましたか。……っ!?)

 

 ‌その魔力が、高速移動を始めたすぐ後に、絶大な魔力を持つ者も現れた。こちらは単純に魔力が強い、強すぎる。

 

(今度はまさか現界の……?状況が上手くつかめませんが、今はお兄さんと思われる魔力の方ですね。)

 

 ‌そんなことを考えていると、トモの居る部屋の扉をバンッと開けて春輝が入ってきた。

 

「トモ!今の魔力感じたよね!?また女の子かな!?」

 

 ‌そう目を輝かせながら嬉しそうに話しかけてくる。ちなみに、余計な混乱を招かぬよう、紫紅のことは伝えていない。そのため、春輝は今回の件を全くもって知らない。

 

「いえ、この感じだと紫紅さんのお兄さんでは無いでしょうか。異質な魔力、というのもありますが、何より魔力の質がよく似ています。」

 

「ちぇっ。なんだ男か〜。じゃあいいや♪……ところでさ、」

 

 ‌いつも通りの反応を見せたあと、急に真面目な表情になり、トモに質問をする。

 

「トモ、何を隠してる?」

 

「っ……いえ、何も。」

 

「俺に隠し事が出来ると思っているのか?舐めるなよ、どれだけ一緒にいると思っている。」

 

「……はぁ、そうですね。すみません、私としたことが少し慎重になりすぎていたようです。」

 

 ‌トモは普段身内に隠し事などしない。それもあって、隠すのが苦手だ。それゆえに見抜かれたのだろう。いや、ずっと一緒に暮らしていたら、もしかすると上手くても見破られるのかもしれない。春輝に事情を全て話すことにした。

 

「……なるほど、そんなことがあったのか……。確かに妙な魔力の動きは感じていたけど、まさかそこまでの事が起きていたとはね……。女の子を洗脳して操るなんて……許せない……。」

 

 ‌春輝の怒りで魔力が溢れ出し、今いる部屋が凍り始めた。慌てたトモが指摘して気づいたのか、落ち着きを取り戻してそれ以上凍ることは無かった。しかし掃除が大変である。

 

「はぁ、こうなると思って隠してたのもあります。お願いですから先走らないでくださいよ、あとのぞみさんには絶対言わないこと。おそらく突撃するので。」

 

「あ、ああ、すまない♪女の子のことになるとついね♪あれ?しゃろんも女の子だけど……うーむ、でも悪いことした子にはしっかりお説教しなきゃね♪」

 

「そうですね。しかし、ここが分かっているにしても時間はかかりますね……。サトシ様にお願いしてみましょうか。」

 

「僕は兄さんと話してくるよ♪あの兄さんが黙認ってなにか引っかか……いや意外とあるな。……とにかく、確認してくるよ♪味方は多い方がいいしね♪」

 

 ‌そう言って二人はそれぞれ動き始める。一応、しゃろんの監視下にはされているようだが、このような行動は制限をかけたりはしてこない。皆がどう動いてどうなるか、というのを楽しみたいらしい。趣味がいいとは言えないが、おかげで割と自由が効くのでありがたい。

 

「サトシ様、修行お疲れ様です。いかがですか?最近の調子は。」

 

 ‌サトシは修練場にいるだろうと予想して来てみたが、どうやら当たりだったらしい。この前の紫紅、そしてしゃろんとの戦闘から、以前より熱心に修練に取り組んでいる気がする。よほど悔しかったのだろう。

 

「トモさん……。んー、強くなっていっている実感はあるよ。実際、悪魔の力もだんだん使いこなせるようになってきた。でも、今は悪魔の力に頼らず、自分の力ってのを鍛えようとしてるんだ。ほら、何事も基本って言うでしょ?悪魔の力使うにも、基本の俺自身の体が弱いんじゃ意味が無い。ある程度鍛えておくのも、力の代償に耐えるためには必要だと思ってね。」

 

 ‌なかなかいい着眼点だ、とトモは思った。無論、気づいてはいたが、あえて指摘していなかった。まだそこまで教える程じゃないし、そもそも春輝の弟子だ。外から首を突っ込むのもアレだろう。自分で気づけたのなら、それは凄くいいことだ。

 

「なるほど、いいですね。どんな強化魔法も、基本の力が弱ければいくら強化したところでしれています。仮に同じ強化魔法を発動するとしたら、確実に基本の力がついている方がパワー的には上になります。あとは頭脳戦、作戦、地理、属性相性などもあるので戦闘結果はその時によりますが。……と、お疲れのところ申し訳ありませんが、少し頼まれてはくれませんか?」

 

「ん?どうしたんですか?もしかして、さっきの魔力の件ですかね。」

 

 ‌先程の魔力はサトシも感じ取っていたらしい。ならば話が早い、と、トモは頼み事をした。

 

「迎えに行く?別に構わないけど、もし、お兄さんと違ったらどうするの?」

 

「その時はその時です。さらっと帰ってきてください。」

 

「き、気まずいな……。まあ、いいや、紫紅さんのためだもんね。行ってくる。」

 

 ‌そう言って、転移するために空間を裂く。サトシも、あの時何も出来なくて悔しかったのだ。別に好きとかそう言うのではないが、せっかく出来たライバル的存在が、良いように利用されて何も感じないわけが無い。

 

「兄さーん♪今いいかい?」

 

「ん?どうした春輝。」

 

「えっとね♪」

 

 ‌春輝は事の経緯を説明した。魔王シハクのことだ、知っているかもしれないが念の為に。特に、黙認した、という点を強調して。

 

「え?そんなこと聞いてないが?んー?」

 

「えっ。」

 

「ああ、そういえばあの時、部屋の内装変えてたんだよ。あともう少しでいい感じになりそうだったから、ほとんど聞かずに返事してたかもしれん。」

 

「何やってんだよ兄さん!?」

 

 ‌予想通りというかなんというか、意図的に黙認した訳では無いことを知ってほっとしつつも、シハク側にも問題があったことに変わりはないので思わずつっこんでしまう。

 

「ふむ……。だが、人質?魂質?を取られてるからには迂闊には動けないか。トモの言う通り、その兄が来るまで待つしかないだろう。しゃろんの思惑通りに、兄妹がぶつかってからが本番だ。」

 

「その兄かもしれない人を今サトシが……ってことは気づいてるみたいだね兄さん。もちろん協力してくれるよね?兄さん???」

 

 ‌笑顔で圧を放ちながら、春輝が問いかける。春輝がこんなことをするのは滅多にない。……こともない。女の子が絡むとだいたいこうだ。しかし、色んな女の子に思わせぶりな態度を取るせいで、なんやかんや敵も多い。

 

「いや、今回は俺抜きでこの件を解決してくれ。」

 

「は?♪なんだって♪」

 

 ‌春輝の笑顔がより怖いものへと変わるが、シハクは気にすることなく続ける。

 

「いや、来るのが兄の焔斗?だっけ。それだけならいいのだが……。どうやら、とんでもない奴も付いてきてるみたいだ。俺は、そいつの相手をしなきゃならないかもしれん。」

 

「ふーん♪それってこのバカでかい魔力の事だよね?誰なのか心当たりがあるのかな♪」

 

 ‌そう聞く春輝にシハクが重々しく答える。

 

「”現界ノ放浪魔王”レーヴァテイン。あいつが来た。恐らく、今回の件を理由にこっちに来て、一戦申し込んでくる可能性が高い。そうなると、戦闘の規模的に場所を変えた方がいいし、手助けも出来なくなる。」

 

「この魔力、魔王なの!?そんなのヤーヴァテインじゃん!」

 

「面白くないぞ。ちょっと上手いけど」

 

「ごめん。」

 

 ‌こんな状況下でも、少しふざけられるくらい二人は余裕がある。それだけ強いし、自信があるのだ。

 

「よし♪じゃあ兄さんはそっちに集中してよ♪こっちは僕らで頑張るからさ♪」

 

 ‌そう言って、春輝は部屋から去る。そろそろ、サトシが二人の元に着く頃だ。

 

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 ‌魔界、道中。

 

「思ったより遠いな……!」

 

「……もっと飛ばさないのか?」

 

 ‌魔力をセーブしながら、本気で紫紅の元に向かう焔斗に、レーヴァテインがそう問いかける。

 

「レヴァさんと一緒にするな!そんな無限とも言える魔力持ってねえよ!セーブ……制限しながら飛ばないと、すぐにバテて、たどり着いても戦えない!」

 

 ‌そんな会話をしながら飛んでいると、前方に村のようなものが見えた。ここまでこっちかも、という感覚で飛んできているため、少し情報が欲しい。なので、立ち寄ってみることにした。

 

「……ゴブリンの村か?」

 

 ‌典型的ではあるが、そこはゴブリンが暮らしているらしい村だった。基本的に雑魚敵と描写されることが多いが、SAOのアンダーワールドでは雑魚というほど弱いわけでもなかった。(最強格かと言われれば全然そうではなかったが。)

 

「ギギッ!人間だ!人間が来たぞ!」

 

 ‌紫の肌をしたゴブリンが、焔斗達を見て騒ぎ出す。やはり、普通の人間というのはここでは珍しいらしい。その騒ぎを見ながら歩いていると、一際ガタイが大きく、強そうなゴブリンが奥から歩いてきた。もし彼がこの村の長なら、向こうから出てきてくれるなら話が早い。村内で流れる噂レベルの情報より、上に位置する者の持つ情報の方がいくらか正確性が高い。戦闘は、避けられないと思うが。

 

「……あんたがここの頭か?急に来てすまないが、聞きたい事があるんだ。」

 

 ‌かと言って、こんなところで戦闘している余裕なんてないようなものなので、出来れば無しで行きたい。一応交渉を試みる。しかし、返ってきた返答は、予想とは大きく違うものだった。

 

「……ギギッ、強き者よ……一体我々ごときに何をお聞きになるのでしょうか。」

 

「……へ?あ、ああ、強き者って俺たちのことか?えっとな、俺と同じ髪の色で、紫目の女の子。髪は両サイドでくくってて、肩から前に下ろしてる。そんで、多分メイド服?白と黒を基調と来た服を着ている、俺より頭一つか二つくらい小さい子を見たことないか?妹でな、探してるんだ。」

 

「そのような強き魔力を放っておきながら、ご謙遜なさるとは……。この謙虚さも強さの秘訣なのでしょうか。……ご質問の件ですが、紫紅、という可憐で鬼強な少女の目撃情報は得ております。なんでも、魔王城に出入りしているとか……?」

 

 ‌急に膝をつき頭を下げ、周りの仲間もそれに倣ったので本当にびっくりしたが、どうやらまともな知性のあるゴブリンらしい。情報も得られたが、まさか魔王城に出入りしているとは思わなかった。

 

(流石というかなんというか……この短期間でトップと知り合って普通に城に出入りできるようになるなんて……。いや、今回に限っては俺と似たようなものか。)

 

 ‌ちら、と後ろにいるレーヴァテインを見ながらそう思う。彼だって魔王だ。普通はこうして行動することなどありえないだろう。

 

「……情報提供感謝するよ。あと、顔上げなよ、堅苦しいのは嫌いなんだ。」

 

「は、はっ!」

 

「まだ緊張してるな……まあいいや。んっ、ありがとな!」

 

 ‌そう言って握手しようと手を差し伸べる。するとゴブリンは、戸惑う様子を見せた。

 

「えっ、あの……。」

 

「ん?握手だ握手。どうせ、この魔界にもお世話になることあるだろうし、こっちに来て初めて出会ったんだ。情報もくれたしよ。友達?つーか、なんつーか、そんな感じだ!」

 

「醜いゴブリン、と言わないのですか……?」

 

「あ?ああ、そんなこと気にしてたのか。見た目はそりゃ俺たち人間とは違う。当たり前だ、種族が違うんだからよ。それに、容赦なく襲いかかるような知性の低い怪物だったら、俺だってこんなことしない。お前らは、ちゃんと話が出来て、頭も回る。実力も理解出来てるし、使う言葉も同じ。種族、見た目が違うだけで、俺たち人間と変わらねぇじゃねーか?」

 

 ‌そう言うと、ゴブリンは少し泣きそうになりながらも、その手を取った。ゴブリンらしい、というのも初めて見るので変かもしれないが、ゴツゴツとした力強そうな手だった。

 

「よし、じゃあ俺は急ぐからもう行くな。妹と再会出来たら、またここに立ち寄るよ。」

 

「はい!無事再会できる事を祈っております!その時はぜひお祝いさせてください!」

 

 ‌こんなに屈強な見た目のゴブリンに、こんなかしこまられると違和感が凄い、と思いながら、焔斗達はその村から去った。

 

「……待て。」

 

「ぐえっ……何すんだよ首しまるわ!」

 

 ‌普通に飛んでいたら、急にレーヴァテインに襟を引っ張られて止められる。当然、首が締まって一瞬死ぬかと思った。

 

「なにか来るぞ。」

 

「あ?……?」

 

 ‌そう言われて気づいたが、目の前の空間に違和感を感じる。その違和感はだんだん大きくなっていき、やがて、空間が思いっきり裂けた。

 

「なっ!?現界への扉か!?」

 

「いや違う。これは……」

 

 ‌その空間の裂け目から、黒を基調とした服装で、銀髪の少年が出てくる。そして、こちらを見て少し気まずそうに問いかけた。

 

「えーっと、焔斗さん……で、あってます?」

 

「?……ああ。なんで俺の名前を?」

 

 ‌何故、焔斗の名前を知っているのか。まさかとは思いつつも、冷静に訊ねてみる。

 

「よかった、人違いじゃない!俺と来てください!紫紅さんを助けるために!」

 

「は?えっちょっ」

 

 ‌こちらから空間の裂け目に入るのではなく、現れた少年が指を鳴らした瞬間、その裂け目が拡がって焔斗達は飲み込まれた。そして、気がつくと大きな城の前にいた。

 

「こ、ここは……?」

 

「魔王城、ナンバンです。説明は歩きながらします、ついてきてください!」

 

「っておい待て!あーもう、なんだってんだくそ!」

 

 ‌訳が分からないが、少なくとも紫紅について何か知っているようだったので、とりあえずついて行く。レーヴァテインも別に止めはせず、ついてきたので大丈夫だろう。

 

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「っ、来ましたか。事情を説明するために、あえて入口に転移しましたね。いい判断です。さて、」

 

 ‌サトシが戻ってきたのを感じ取り、もう一度意識を目の前に戻す。

 

「さあ、紫紅さん。お兄さんはもうすぐここに来ますよ。だから落ち着いてください、焦ってもいいことは無いです。」

 

「……ふんっ、分かったわよ。あたしも感じたわ、お兄ちゃんの魔力。大人しく待ってやろうじゃない、あのまま迷子にでもなられたら困るから焦っただけよ。」

 

 ‌焔斗が魔界に来て、その魔力を感じてから、紫紅はすぐに城を出て焔斗を殺しに行こうとしていた。しかし、もし外で戦いになった場合、今城にいるしゃろんとの距離が離れる上、どこかの村の近くで暴れられたら被害が怖い。焔斗と紫紅がぶつかり合うと同時に、しゃろんの方も制圧したい今回の動きにおいて、どちらかが監視外にいるのは避けたいのだ。

 

(一先ず、これで紫紅さんが先走ることはなくなりましたね。あとはお兄さんの戦闘力次第ですね。紫紅さんの心を取り戻すために倒そうとはしなくても、彼女の猛攻を凌げるレベルの強さは必須です。もう一人がどう動くつもりか知りませんが、先程春輝様から聞いたように魔王なのであれば、協力は難しいでしょうね。)

 

 ‌今回の作戦では、焔斗と紫紅の一騎打ちになる。というのも、恐らくしゃろんがこのふたりの戦いへの介入を許してくれないからだ。彼女は、この兄妹喧嘩を楽しみにしている。そのステージに、部外者が登ることは許さないだろう。

 

(トモ〜♪こっちは、準備できたよ♪)

 

 ‌春輝からの魔力通話だ。どうやら、しゃろん制圧の為の準備が出来たらしい。

 

(承知しました、春輝様。そのまま待機してください。タイミングはこちらで合図します。……その時がきたらよろしくお願いします。)

 

(おっけ〜♪任せろ、あいつは許さない。)

 

 ‌落ち込んだ時以外は、滅多に見せない素の春輝。いや、この場合怒りの春輝と言った方がいいだろうか。今の彼は本気だ、そして本気になった彼の恐ろしさはトモもよく知っている。とりあえず、魔力通話を切る。

 

(さて、と。今回は本気を出すのは春輝様だけではありませんがね……。)

 

 ‌トモだって、まだ日は浅いとはいえ、自分の弟子がこんな風に駒のように使われて怒っているのだ。普段は本気で怒ったりするのはないのだが、今回は本気である。

 

「潰してあげますよ。しゃろん様。」

 

 ‌暗い部屋の中、赤く鋭い目が強く輝いた。

 

 




今回はここまで!少し短いですが、いかかでしたか?

今回登場したif民モチーフは
トモさん(トモ)

春輝さん(春輝)

シハクさん(シハク)

サトシさん(サトシ)

Revatainnさん(レーヴァテイン)

でした!ありがとうございました!

次回
第3話『紫紅奪還及びしゃろん制圧作戦開始』
お楽しみに!
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