平凡メイサーの異世界冒険譚   作:えんてぃ

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ついに再会した兄妹。
各所で起こる戦闘。
果たして、紫紅を取り戻すことは出来るのか。
劣勢にも関わらず、逃げないしゃろん、その謎の余裕の理由とは……。
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第4話『最後の切り札』

「終わりだよ、お兄ちゃん。さよなら。いや、またね、かな?」

 

ㅤそう言いながら、最後の一撃が焔斗の身体に打ち込まれる。あまりの衝撃に、左腕と右足がちぎれて吹っ飛ぶ。

 

「あ、ごめんお兄ちゃん。手と足ちぎれちゃった……あはは。でも大丈夫だよ。復活させれば手と足も戻ってくるからね……ふふふ。」

 

ㅤ不気味に笑いながら、手足のちぎれた焔斗にゆっくりと近づく紫紅。少し、やりすぎたと思ったが、再生させれば問題ないと自分に言い聞かせる。これで、これでお兄ちゃんの運命を変えられると歓喜する。そして、その手が焔斗の亡骸に触れようとした瞬間。

 

「っえ!?」

 

ㅤ焔斗の亡骸が紅い焔へと変化し、うねり出す。そのまま、紫紅の足元に魔法陣が構築され、焔の糸で紫紅を拘束する。

 

「昔から、こういう搦手は苦手だもんな……紫紅。」

 

ㅤ崩れた瓦礫の影から、焔斗が出てくる。初手、吹っ飛ばされた際に立ち上がらせたのは、焔斗が作った焔の分身だった。無論、声やセリフは言わせてるので、そこは遠隔操作している。

 

「ふふ、さすがお兄ちゃん。しぶといなぁ。頭使うよね、いっつも。ゲームでそこだけは叶わないもん、でもさ。」

 

ㅤ紫紅は、紅雷で一気に拘束をぶち破った。切られた焔の糸が霧散し、魔法陣も消滅した。

 

「こんな拘束、意味ないわよ!」

 

ㅤそう言って、再び焔斗をぶっ飛ばそうと力を込めた瞬間。

 

「がっ!?げほ、ごほ……なに……げほ、これ……。」

 

ㅤ急に呼吸が苦しくなった紫紅が咳き込みだし、そのまま呼吸困難で膝を着いてしまう。

 

「そんなことも、予想しないわけが無いだろ?今のを破られるのは想定済みさ。だから、あの焔に少し細工をしたんだ。まあ、煙を吸った時くらいだと思うぜ。害もない、安心しろ。」

 

ㅤ焔の糸が破られた際、完全には消滅せず、霧状になって紫紅の呼吸器官の中に侵入させた。先程も言ったように、煙を吸ったようなイメージだ。毒性の害は無いが、呼吸がまともに出来なければ何も出来ない。意図的に息を止めていたならまだしも、突発的な出来事のため、そんな暇はなかった。

ㅤそんな状態では『紅雷纏装』も維持出来ず、通常に戻ってしまう。そこまで見たところで、焔斗は紫紅に接近し、優しく、しかし強く抱きしめた。

 

「一人で寂しかったろ?ごめんな、一人にして。ほら、お兄ちゃんだぞ紫紅。やっと会えた、再会できたんだ。何をどうやって刷り込まれたのかは知らないけど、戻ってこい、紫紅!!」

 

「や、だ……はな、げほ、して……こほ。」

 

ㅤ力も入らないが、なんとか雷を出して焔斗を弾き飛ばそうとする紫紅。だが、そんな痛みに屈することなく、焔斗は紫紅をぎゅっと抱きしめる。そして、自分の魔力を紫紅に送りながら語りかけることで、より深く思いが伝わるようにする。

 

「兄ちゃんが死ぬわけないだろ?そんな嘘に騙されないでさ、ほら、危なかったら守ってくれよ。俺も、紫紅を守るからさ。」

 

ㅤ段々と、雷が弱まっていく。紫紅の心が、記憶が、少しずつ戻っていく。

 

「お兄……ちゃ……ん?」

 

ㅤ自分を抱きしめる、よく知った懐かしい感覚。お兄ちゃんの暖かさ。お兄ちゃんの声。

 

「お兄ちゃん!……おにい……ちゃん。」

 

ㅤずっと、ずっと会いたいと思っていたお兄ちゃんを必死に抱きしめる。もう離さないと言わんばかりに、ぎゅっと。そして、自分が何をしてきたかを思い出す。

 

「あ、ご、ごめんなさいお兄ちゃん……あたし……あたし……」

 

ㅤやっと会えた、解き放たれた嬉しさと、お兄ちゃんにした事の申し訳なさで、両目から大粒の雫があふれる。

 

「大丈夫だ、紫紅。そりゃちょっと痛かったけど、別に大怪我なんてしてないし、ほら。ちゃんと生きてるだろ?」

 

ㅤよしよし、と愛する妹の頭を撫でながらそう語り掛ける。大怪我は無い、とは言ったものの、最初の一撃で骨は何本か折れている。それが分からない紫紅では無い。撫でてもらいながらも、涙を流す。こうして、紫紅の洗脳は完全に解けたのであった。

 

 

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「『黒嵐炎』。」(こくらんえん)

 

ㅤしゃろんが放つ黒い炎の嵐が、トモと春輝を襲う。が、二人はそれをなんなく切り抜ける。

 

「っ、やっぱきついなぁ!」

 

「『竜帝ノ鉤爪』」(りゅうていのかぎづめ)

 

「『氷薔薇ノ鎮魂歌』」(ひょうばらのレクイエム)

 

ㅤトモと春輝の反撃の技が、しゃろんを襲う。深く切り裂く竜の爪の如く斬りかかってくる短剣、氷の薔薇がその斬撃から逃がすまいと逃げ場を埋めつくしていく。

 

「ちっ、めんどくさいなぁ!」

 

ㅤしゃろんは背後に向かって思いっきり黒炎を放ち、氷の薔薇を溶かす。そして後ろに退避した、その瞬間。

 

「ぐっ!?」

 

ㅤ背中に衝撃が走る。見てみると、先程斬撃を放ったトモの前と、しゃろんの背後に空間の裂け目が出現している。サトシだ。空間転移を利用して、本来届かなかったトモの斬撃を見事しゃろんに当てることに成功した。そして、サトシが戦いに介入してきたということはつまり、

 

(紫紅さんは、無事正気を取り戻せたようですね!良かった。)

 

ㅤサトシには、光玉を奪った後、空間の狭間でいるようにと指示していた。下手に裂け目を開いて戦いに参戦すれば、その隙に入られ、光玉を取り戻してしまうかもしれないからだ。戦いに参加するのは、紫紅が本当に助かったと確信した時のみ。

 

「くっ、なんで!?完璧な洗脳だったはずよ!?それがどうして……」

 

「完璧なわけないでしょう!あんな無理矢理差し替えられた記憶、感情なんて、兄妹の絆の前じゃ無力同然です!」

 

ㅤトモが感情を露わにして叫ぶ。春輝でさえ少し驚くほど、彼が感情を露わにするのはとても珍しいことだった。大抵は笑顔の圧をかけてくるくらいなのだ。それはそれで怖いのは変わらないが。

 

「ですが、これでほんとにあなたの命を狙えますよ。もし、洗脳が解けなければ、拷問してでも吐き出させるつもりでしたからね。」

 

ㅤさらっと怖いことを言っているトモだが、その目は本気だった。本気でしゃろんを潰そうとしている。もちろん、それは春輝も同じだった。

 

「家族の、兄妹の、絆を弄んだ。今回のはやりすぎたよ、しゃろん。俺でも本気で怒っちゃうくらいには、ね。」

 

ㅤ冷気を身に纏いながらそう言う春輝。そんな二人を見て、流石のしゃろんもたじろぐ。

 

「くっ、こんなとこで、死ぬ訳にも行かないのよ!我が命、力となれ!『生命ノ黒炎』!」

 

ㅤしゃろんが、自分の寿命を削り更なる魔力上昇をする。その炎は、その黒い闇に対象を取り込みながら、確実に灰にしていく。

 

「うっ、ダメだトモ!これ、俺の氷も意味無いよ!」

 

「そのようですね……!厄介ですよ全く!『竜ノ翽』!」(りゅうのはばたき)

 

ㅤこの世界の生物は、魔力の得意属性はあるものの、なにもそれ以外が全く使えない訳では無い。現界で焔斗がやったように、空間にある魔力を消費し別属性魔法を放つ、いわゆる神聖術のようなこともできるが、自分の魔力でも、余程適性がない限りは他属性も使うことが可能だ。今、トモが使った『竜ノ翽』は、属性的には竜と風。こういった合わせ技も、もちろんあるのだ。

 

「風なら、何とかなるようですね!」

 

ㅤトモが巻き起こした風は、黒炎の侵略を遅らせる程度には機能していた。

 

「春輝様!この炎は私がなんとか食い止めますので、あとは、お願いします!」

 

「ああ、任せ……ろっ!」

 

ㅤ地面を強く蹴り、しゃろんに急接近する春輝。それに気づいたしゃろんが、慌てて黒炎を放つ。しかしそれを優雅に回避し、左手から氷の薔薇を射出する。

 

「そう簡単に、やられるかっ!」

 

ㅤその氷の薔薇をも、身に纏った黒炎で焼き払う。その隙に、更に春輝が接近する。眼前に迫る春輝に、仰け反りながらも黒炎の盾を前に展開する。が、

 

「焦ると単純になるよね、生物ってさ。」

 

「っ!うし、」

 

ㅤ瞬時に背後に回った春輝が、薇絶を振り下ろす。

 

「『断罪ノ蒼薔薇』」(だんざいのあおばら)

 

ㅤ今度こそ、攻撃が確実にしゃろんに当たり、深く傷を入れた。

 

「ぐっ、う……。まだだ!」

 

ㅤその深い傷を、しゃろんは無理矢理炎で焼いて止血する。そしてそのまま、春輝に向かって全力の魔法を放つ。

 

「『黒キ終焉ノ炎禍』!」(くろきしゅうえんのえんか)

 

「っ!?くっ、」

 

ㅤ流石に、この距離で放たれる予備動作無しの魔法を避けるすべはない。春輝は、少しでもダメージを減らそうとより強く魔力を纏う。

 

「『風魔・天翔竜』!」(ふうま・てんしょうりゅう)

 

ㅤその間に、下から舞い上がるトモの斬撃。それは恐ろしいほどの豪風を発生させ、しゃろんの魔法を吹き飛ばした。無論、それほどの風なので春輝としゃろんも吹っ飛ばされる。

 

「弟子を……傷つけることも、奉仕するべき相手である……春輝様を傷つけることも、私が……許すわけが無いでしょう……!」

 

ㅤ強く言っているものの、トモも今ので魔力を使い果たしている。纏装は解け、元の執事服に戻っている。

 

「ふふ、あはは!そうかい!じゃあこれも止めれるんでしょうね?今の状態だと無理そうだけど、ね!」

 

「なっ!?」

 

ㅤ吹き飛ばして、バラバラになったかに見えた黒炎。それが再び集まり、春輝の傍で元の形へと戻る。そして、そのまま春輝の方へと射出される。今回も急なゼロ距離、だが。

 

「春輝様!」

 

「過小評価しすぎだよ。『蒼氷・烈円舞』」(そうひょう・れつえんぶ)

 

ㅤ予備動作無しでくりだされた春輝の技が、しゃろんの炎を今度こそ完全に消し去る。そして、全方位に向かって氷の刃が射出される。しゃろんを狙っている訳でも無く、大して意味が無い攻撃に見えた。しかし、

 

「!?、しまっ、」

 

ㅤ確かに、春輝が放った氷の刃はしゃろんを狙えておらず、四方八方に飛んでいた。だが、その飛んで行った氷の刃が物にぶつかってしまう寸前。各々の場所で空間が裂け、それを飲み込み、同時にしゃろんの周囲に、空間の裂け目が現れる。サトシが、あらゆる所に飛来する春輝の氷の刃を回収し、全てしゃろんに届くよう空間転移させたのだ。

 

「ぐっ、がはっ!?」

 

ㅤもちろん、しゃろんに回避する術などなく、全ての刃が直撃する。その数おおよそ百と言ったところだろうか。回避不可能の包囲攻撃。逃げ場なんてものはなかった。

 

「う……。」

 

ㅤしゃろんは倒れて動けなくなっていたが、それでもあれだけの攻撃を受けて生きているのが不思議なくらいだ。

 

「しゃろん様、当然の報いですよ。戦闘狂で自分で戦うのが好きなあなたが、何故こんなことに興味を持ったのかは知りませんが。大切な仲間や友人、そういう関係の者が傷つけられた時の怒り、それが生み出す力というのは計り知れないものです。今まで観察してきた割には、その辺は疎かったようで。ですが、あなたを許すつもりなんてないので。ここで、消えてもらいます。」

 

ㅤトモがしゃろんに向かってゆっくりと歩き始める。距離は近くは無いが、仮に罠が設置されていれば、急ぐと魔力がない今、回避が出来ないかもしれない。だからこそ慎重に歩くことを選んだ。━━━━━それが、間違いだった。一気に詰めてとどめを刺すべきだった。

 

「あ、はは!これ、なーんだ?」

 

ㅤそう言いながら、しゃろんは手を掲げて紅く光る光玉を出現させる。真紅というのがお似合いの紅さだ。

 

「っ!?それは!?いや、でも誰の?」

 

ㅤニヤリとしゃろんが笑う。春輝も嫌な予感を感じ取ったのか、今出せる全力で走ってくる。サトシは、さっきの大技のせいで転移がもう少しの間使えない。転移魔法は、術者にもそれほど負担がかかるのだ。ふと、こんな中でも壊れなかった水晶玉が目に映る。向こうでは、焔斗が紫紅を慰めて元気付ける為に頑張っていた。自らの魔力を使って、手の上で焔を操り、ちょっとした芸を見せていた。決して上手い訳では無いが、必死にやっている焔斗の姿に、自然と紫紅も笑顔になる。微笑ましい場面だった。焔斗が使っている焔の色は、”紅”、それも”真紅”と言うにふさわしい色。

 

「まさかっ!?」

 

「あたしが接触したのは、妹だけじゃないって、言わなかったっけ?忘れたけど、まあ、もう一局見せてよ!あはは!」

 

「待てっ……!」

 

「ちっ!」

 

ㅤ春輝とトモが、今出せる全速力で阻止しようと向かう。やっと転移が使えるようになったサトシが、空間を裂いて現れようとする。しかし、あと一歩のところで。

 

「さよなら、焔斗君?あはは!」

 

ㅤ最後の切り札、と用意していたしゃろんの持つ光玉が、砕け散った。━━━━それは同時に、焔斗の心を壊すための魔法が作動したことを意味した。

 

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「ほれっ、あれ?んー、そりゃ!……んー?」

 

ㅤ魔王城の方では、紫紅を元気づけるべく、やったことも無い魔法でやる芸を披露しようとしていた。もちろん、やったことがないので上手くいく訳もなく。SAOIFのアバターを焔で作り、モーションをさせようとしたのだが、思ったように行かない。この世界の戦闘では、なんやかんやイメージでゴリ押しできていたため、もしかしたらと思ったがどうやらそう簡単には行かないらしい。

 

「ふふ、お兄ちゃんったら、やったことないのにできると思ったの?もう。でも、ありがとね。」

 

ㅤ座り込んで成功させようと頑張る焔斗の横に座り、そっと寄り添う。少し気も落ち着き、今の焔斗のおかげで、少し笑顔にもなれた。

 

「落ち着いてきたみたいだな。よかった……。」

 

ㅤ芸をやるのをやめ、大切な妹の頭を撫でる。ふにゃ、と和らぐ可愛い妹。やっと、やっと再会出来たんだと嬉しくなる。そして、今一度抱きしめようとした、その瞬間。

 

ドクンッ

 

「!?、く……!?」

 

ㅤ突如、胸が苦しくなり、後ずさる。

 

(なん、だ……?これ、苦しい……。)

 

「お兄、ちゃん?」

 

ㅤ視界に、心配そうにこちらを見る紫紅を捉え、早く立ち直らなければと思う。恐らく彼女は今、自分が与えた傷が悪影響を及ぼしているのではないかと不安になっているだろう。兄としてそんな不安は拭ってやらなければ。だが、そんな意志とは別に、意識が遠のいていく。これは、感覚的に傷や疲れがどうこうではなく、別の何かが起こっているようだった。心が、魂が崩れていく。そんな感覚。

 

(やば……い、これは、)

 

「お兄ちゃん?、だ、大丈夫?」

 

ㅤ紫紅が心配そうに近づいてくる。ダメだ、近づくなと言おうとしたが、口が思うように動かない。いよいよ心配になった紫紅が、焔斗の肩を掴んだ時、焔斗の意識も完全に消えた。

 

 

「お兄ちゃん?、お兄ちゃん!!ねえ、お兄ちゃんってば!」

 

ㅤ必死に呼びかける紫紅。もしや自分が傷つけたものが、今になってと思うと、気が気でならない。しかし、焔斗は頭を下げたまま、微動だにもせず。

 

「お兄、ちゃん?」

 

ㅤせめて表情を見ようと、更に焔斗に近づいた瞬間。

 

ドゴッ

 

「……え?」

 

ㅤ無防備な紫紅の体にめり込んだ、焔斗のメイス。そのまま思いきり振り抜かれ、吹っ飛ばされた。




今回はここまで!いかがでしたか?

今回登場したif民モチーフは、

トモさん(トモ)
春輝さん(春輝)
しゃろんさん(しゃろん)
サトシさん(サトシ)

でした!ありがとうございました!

次回
第5話『サトシ&のぞみ&アル』
お楽しみに!
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