ついに本当の意味で再会できた兄妹。ゲーム内アバの姿とはいえ、久しぶりに見る大切な家族に自然と心が和む。
黒幕はしゃろんではなく、その後ろにいた。この件に関しては深追いせず、焔斗達は現界に戻ることを決意した。
果たして、二人に安息の時は訪れるのだろうか。
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「ん……う……。」
ㅤ翌朝(太陽がないので朝というのかは知らないが)。疲れが溜まっていたからかいつもよりぼけーっとした目覚めになる。腕の中で眠る可愛い妹、紫紅。幸せそうな表情で眠っている。ちらりと視界に映る育ち盛りの胸元から目を逸らしながら、彼女の頭を優しく撫でる。すると、気のせいかもしれないが、すこし微笑んだ気がした。一晩明けて、改めて再会を実感する。元の世界の現実世界と見た目が違うため(どっちにしろ超絶美少女ではある)、妙にドキドキしてしまうのが困りものだ。早めに自立させた方がいいかもしれない、という気持ちと、暫くはこんな日々を過ごしたいという気持ちが心の中でバチバチとバトルを繰り広げる。
ㅤ埒が明かないので一旦休戦させて、起きようとする。が、よくよく考えたら腕の上に紫紅が乗っているため、下手に動けない。彼女が起きるまでこの状態で過ごさなければならない。というか、腕が痺れている気がする。紫紅が重いという訳では無いが。
(……可愛いなぁ……。俺の妹こんなに可愛かっただろうか。)
ㅤこのままではシスコンになってしまう、と深く考えないように思考を振り切る。たしかに可愛いしめっちゃお世話したいが、それでは紫紅のためにならない。今でも料理洗濯掃除は一通り出来るようにはなっているが、油断は禁物である。人はだらけて止まらなければどんどんダメになる。
「んう……ん……?」
ㅤそんなことを考えていると、紫紅も目を覚ます。「おはよう。」と声をかけると、パチクリ、と目を瞬かせながら、ぼーっと焔斗の顔を見つめる。そして、ふにゃっと微笑み、
「おにーちゃん、おはよぉ〜。」
と言いながら、ぎゅ〜っとハグをしてきて頭をスリスリしてくる。可愛い。
「ほら、多分もう朝の時間に近いと思うぞ。起きてくれ、動けない。」
「うん〜、えへへ。」
ㅤうんと言いながらもまだ動かない。まだ、頭が覚醒してないらしい。それなら、と少し申し訳ないが、目覚めてもらうことにした。
「システムコール・ジェネレート・クライオゼニック・エレメント。ほいっ。」
ㅤイメージさえしっかりしてればアンダーワールドの神聖術も使えると、現界のレーヴァテイン戦で気づいた。そこで、凍素を生成して、紫紅の後ろ首に近づけた。
「んぴやぁぁぁぁぁ!?」
「ごふぉ!?」
ㅤ想像を遥かに超えるリアクションをされ、紫紅に突き飛ばされる焔斗。そのまま壁にぶつかり少しへこむ。
「はぁっ、はぁっ、な、何!?」
「お、おはよう……紫紅……いてて。」
ㅤ想定外のダメージを受けたが、なんとか紫紅を目覚めさせることが出来たようだ。何事かと、トモが扉から高速ノックの後入ってくる。「お、おはようございます……」と苦笑いで焔斗が声をかけると、トモはだいたい察したようで、へこんだ壁を見ながら困ったように首を振りため息をつく。
「おはようございます。……お願いですから、あまり暴れないでくださいね。」
「す、すみません……。」
ㅤ自分たちが要因では無いとはいえ、昨日あそこまで暴れ回って城内はそこそこ壊れていた。広さゆえにあまり実感は湧かないが、あの修練場付近は凄いことになっていたそうだ。それを治すのもトモの仕事。そしていつもの業務もこなしながらとなると、想像以上の苦労があるだろう。そんな中で彼の仕事を増やすのはいじめでしかない。
「あ、トモさんおはよ!そして、お兄ちゃんのばかっ!びっくりしたじゃない!」
「だ、だって起きねぇんだもん!仕方ないだろ!」
「もっとあまぁく起こしてよ!……紫紅?ほら、朝だぞ?……とかさ!」
ㅤそんなので起きてたらとっくに起きてるだろ、と思いながらもトモさんも来てる手前、この辺でやめておいた。紫紅もそれは察したようで、これ以上焔斗を責めることはなかった。
「まあ、着替えも用意してるので、その他諸々終わりましたら、食事処まで来てください。朝食をご用意しますので。」
「「はい……。」」
ㅤそう言って部屋から出るトモ。さすがに落ち着きを取り戻した兄妹は、それぞれ自部屋で着替えなどを済ませ、食事処に向かう。もちろん、手は繋いでいる。
「ここの料理、どのくらい凄いんだ?」
「え?あー、もうね、ものすっごいよお兄ちゃん。」
「そ、そうか……」
ㅤものすっごいとだけ言われても、いまいち掴めない。どうすっごいのか。普通に美味しすぎるのか、見た目が受け付けがたい意味ですっごいのか。昨日の感じだとおそらく前者だとは思うが、何せ魔界だ。味は美味くてもどんなゲテモノ(俺たちから見れば)が出てくるか分かったものじゃない。よし、と覚悟して部屋に入る。
「お待ちしておりました。こちらへ。」
「は、はい……。」
ㅤこんな、畏まったような食事の席は慣れておらず、オドオドしながら席に着く。横で紫紅が笑いを堪えているが気にしない。こいつ、後でくすぐってやる。
「本日の朝食になります。」
「ピザパン……だと!?」
「?……ぴざぱん、というのは分かりませんが、もしやお嫌いでしたでしょうか?」
ㅤ思わず声に出てしまったのを、苦手だと勘違いされてしまった。慌ててそうでは無いと否定する。目の前にあるのは、素材こそ違うかもしれない。だが見た目は完全に、チーズとろけるピザパンだ。ごくり、と生唾を飲む。よくよく考えたら、現界でもパン屋等にはいっていない。心のどこかで異世界のパンは固くて水分が取られる、と偏見を抱いていたのかもしれない。反省である。
「どう、お兄ちゃん。すっごいでしょ。」
「ああ、すっごいな。」
ㅤ兄妹で語彙力を失くし、最早この二人以外何言ってるのか分からない。だが、とりあえず嫌がってる訳では無いというのは伝わるので、深く聞くのはやめにした。
「ではみなさん揃いましたので、どうぞ召し上がってください。」
ㅤいただきます、と言い、朝食をいただく。味はどうなのだ、と身構えて口に運んだが、これは見た目通りのピザパンだった。とろとろにとろけたチーズに、ケチャップ?の旨味。適切に焼かれたパンは香ばしい。元の世界でもこんなリッチな朝食はほとんど食べない。というか、そもそも朝食を食べない。焔斗は少食で、朝どころか昼まで抜いたりもしていた。めんどくさいという理由だけで。無論、紫紅にその話をした時はぷんぷん怒ってパンを口にねじ込んできた。心配してくれるのはありがたいが、あの時は窒息死を覚悟した。
「う〜ん♪やっぱりトモの料理は最高だね♪」
「春輝様、ありがとうございます。ではご昼食は腕によりをかけて特製ステーキをご用意させていただきます。」
「……え。」
ㅤなぜ、ここで顔を青ざめさせるのか不思議に見ていると、横から紫紅が「お肉系ダメなのよ、あの人。」と教えてくれた。お肉が苦手、というなら焔斗も高校生になって文化部に入ってから、前ほど食べられなくはなったが、それでも全く無理という訳では無い。こっちの人々の好みは知らないが、ここにいる面々の反応から見ても春輝の好き嫌いは珍しいのだろう。
「師匠って、割と自爆しますよね。」
「サトシ!?」
ㅤそんな、面白い師弟に思わず笑いが出る。緊張していた精神が解れてゆく。魔王城らしさ、というなら全然だが、こういう面では彼のような者が必要だ。
「ほらのぞみん。ほっぺについてるよ。」
「ん……ありがとうおねーちゃん!」
ㅤ横で紫紅がのぞみの頬を拭く。謎に姉呼ばわりされているが、彼女も謎が多い。トモ辺りに聞いても詳しいことは知らないとのことだ。現時点で敵対してる感じは全くないが、一応警戒しておいた方がいいのかもしれない。
「さて。」
「!?」
ㅤ黙っていたシハクが、口を開いたと思った瞬間指を鳴らす。すると、焔斗とシハク以外の空間の時が止まったかのようにみえる。
「プライベートな話をしようか。異世界人。」
「……なんでしょう。」
ㅤ時止め系の魔法なのかなんなのか分からないが、この世界、皆それぞれ属性を決めてる割には多芸すぎると最近思うようになった。
「君は侵略者、という訳では無いよね?この世界を終わらせるための。」
「……?そんなわけない、です。俺たちだって被害者なので。何を思って転移させたのかは知らないですけど。」
ㅤ唐突にそんなことを聞いてくるので、ありのままで返す。質問の意図が分からない。そもそも、この話は紫紅としているはずではなかっただろうか。
「そうか、ならいい。……君らが来てから色々ありすぎてね。」
ㅤそう言いながら、焔斗達が転移してから起きた目立ったことを並べていく。その中でも一際謎なのがのぞみが何者か、だ。どうやらこの魔王ですら把握出来ていないらしい。
「おまけに、しゃろんまで操られる始末。わけがわからないよ。まあ、いいさ。魔女に関しては俺が調査することにする。じゃあそろそろ」
「待ってください。せっかくプライベートな時間、それならお話したいことが。」
「ほう?」
ㅤ少し悩んだが、天界について闇華から聞いたことを話すことにした。彼女の言うことを信じるなら、もちろん彼らも狙われると思ったからだ。だがもちろん、闇華が堕天使ということは上手く隠して話す。
「ふーむ……。」
ㅤ話を聞いたシハクは少し考え込む。それもそうだ、信頼性なんてほぼ無いに等しいし、もともと無いとされていた天界が実在します。異世界人と関わったので殺しに来ます、なんてそうそう納得できるものでは無い。
「嘘、では無さそうだね。わかった信じるよ。実際、そんなに強いのがいることすら信じられないけど、気にはとめておく。……この情報、魔王城内では共有したいけど、いいかな?」
「それでいいです。ありがとうございます。共有は構いませんが、そこから更に広まってしまえば、関係ない者まで巻き込まれる可能性があります。まあ、内容的にこの空間で言いましたが、ここにいる全員は知ってていいでしょう。どう考えても対象です。」
ㅤそうだな、とシハクが頷き、指を鳴らす。すると、謎の状態は解け、みな普通に動きだした。そして、皆が食事を終えた後、シハクより先程の天界についての話があった。これは紫紅も知らないことで、当然驚いていた。
「そんなことなら……。」
「気にするな紫紅。大丈夫、この中にそんなこと考えるのは一人も居ないよきっと。」
「お兄ちゃん……。うん、ありがとう。」
ㅤ紫紅は、自分が関わった者達に被害が及ぶなら、関わってしまったことに申し訳なさを感じていた。それを敏感に感じ取った焔斗がフォローをしたが、まだモヤモヤはしているようだ。表情が暗い。焔斗だって少しは思うところもある、だがこればかりは考えても仕方ない。紫紅の頭を優しく撫でてやる。すると少し驚いた反応を見せたが、少しだけ表情が明るくなった。
「……また、壊されるんですかね……ここ。」
ㅤトモが虚ろな目になりながらボソッとつぶやく。確かに、殺しにくるのならこの城も無傷とは行かないだろう。確実に迫るさらなる労働に気が遠くなりそうなようだ。かける言葉もない。というか、
「力になれるかは分かりませんが、修繕、手伝いますよ。今回はもうこの後出発するので申し訳ないですが、天界の件が終わった際には。」
「……助かります焔斗さん。でも、おそらくその頃にはできている現界での拠点も大変そうなので、そこまで期待はしないでおきます……。」
ㅤそういえばそうだった。どうなるかは分からないが、その頃には拠点もしっかりと見つけられているだろう。天界の狙いのメインは俺達だ。当然、現界での拠点が無事とは思えない。出来れば人里離れたところで暮らしたいが、それだと仕事に困る。今までは野宿等でどうにかなっていたが、ここからはしっかりと暮らしていかなければならない。紫紅と二人で、になるか、仲間が増えるかは分からないが。
「急に旅立つことになっちゃったけど、あたし、まだお礼もできていないわ。何か出来ることは無いかしら?」
ㅤそう紫紅が提案する。それを聞きながら、焔斗も闇華達に、ジーマ村の人々にお礼ができていないなと思い、現界に帰ったら何かお礼をしようと心に決める。
「ふむ、ならちょうどいい願いがある。それに、二人はこっちの世界に来て共闘してないだろう?連携の練習にもなることだ。」
ㅤ絶対戦う系のなにかだ、と思いつつ内容を聞く。なんでも、現界への扉に向かう途中、少し外れたところにある魔物を封じているらしい。封じている理由は、決してシハクの手に負えない魔物だからではなく、何となくその時は面倒だから閉じ込めてそのまま放置していたらしい。ほんとにこんな感じで大丈夫なのかと不安になるが、実際大丈夫だからこそ今があるのだろう。
「面倒、なんだよね。わざわざあそこまで行って勝ち確の戦いして帰ってくるの。」
「は、はあ……。」
ㅤ勝ち確と断言するのもなかなかだが、言っているのがこの魔王シハクというのが説得力がある。ほんとにそうなんだろうな、と思えるほどの実力なのだ。
「それならあたしたちに任せてよ!そんなの、やっつけてあげる!そしてそのままお兄ちゃんと現界よ!」
「……。少し調子に乗りすぎかもしれないですが、やらせてください。必ず、成し遂げてみせます。」
ㅤそう言って、シハクからの依頼を引き受け、そのまま現界に向かうことにした。
「お待ちください、これを。」
ㅤトモが運びやすく包まれた弁当箱を差し出してくる。現界に行くまで、この二人で全力を出せばそこまで距離は無い。が、その前に戦闘もあるので、その際の栄養補給用だ。
「バランスの良い食事は大切ですので。」
「なんで僕を見ながら言うんだい♪」
ㅤ春輝をチラ見しながらそう言うトモが、彼の反応にため息をつく。普通、野菜嫌いでの悩みが多そうだが、肉を食べてくれない(一部除く)なんて悩み、そうそうないだろう。
「ありがとうトモさん。今までも本当に助かったわ。それじゃ、行ってくるわね!」
「失礼します。」
ㅤ二人が魔力で空に舞い上がり、まずは封印されているという地へ向かう。「お兄ちゃん緊張しすぎだよ〜!」「仕方ないだろ!紫紅は、数ヶ月一緒に居たから慣れたかもしれないが、俺は初対面だぞ!?しかも魔王相手!俺別に紫紅みたいに可愛い女の子じゃないからね!?」「か、関係ないでしょ、か、可愛いとか……ばか。」等と他愛もない会話がうっすらと見送る魔王城の面々にも聞こえてくる。
「またいつでもいらしてくださいね。」
ㅤそうトモが呟く。魔界の重い風が、今日は少し軽やかに吹いている、そんな気がした。
今回はここまで!いかがでしたか?
勝手ですみませんが、『兄弟の絆』は前編・後編の構成にさせていただきます。
今回登場したif民モチーフは、
シハクさん
トモさん
春輝さん
サトシさん
のぞみさん(元if民)
しゃろんさん
でした!ありがとうございました!
次回、第8話『兄弟の絆・後編』
お楽しみに!