ㅤ魔王。宿主から聞いた情報からすればある特例を除き魔王は二人いる。特例というのは今は既に封印されている魔王たちだ。そしてこの世界には天界、現界、魔界がある。魔王は現界と魔界に1人ずつ居て、現界の魔王が今対峙しているレーヴァテイン、という訳だ。この魔王は魔王故に教会など聖騎士連中には敵対視されてはいるものの、自分から人間に対して敵対はしない。攻撃されたら相手を無に返すが、実は優しい魔王なんだという人も居るそうだ。だったらなぜ魔王なのか、と思ったがそれは誰にも分からないらしい。
「……なるほど、納得。で、わざわざ俺の前に姿を現したってことは、なにか聞きたいことがあるんだろ?」
「話が早いな。それじゃあまず1つ、お前は何者でどこから来た?記憶が無いなんて嘘は聞かねえぞ。記憶を無くした者がこんなにハッキリと行動できるはずがないからな。自分の名前も覚えているんだろ?」
ㅤ誤魔化すことは不可能だと悟った。そもそも誤魔化す気はないのでなんの問題もなかったが。
「俺は焔斗。なんだかよくわからん神さんに強制的に異世界転移させられた異世界人だ。見た目はこんな格好だが誰かに仕えてる訳でもないぜ。」
「名前。」
「?」
ㅤ名前がどうしたんだと思った。知り合いにいたのか?それとも聞き取れなかった……そんなはずはないと思うが。
「だから俺の名前はえん……」
「違うだろ?」
「なっ……」
ㅤ名前が違う?一体どういう事だろう。名前は間違いなく焔斗でこれはゲームの……ああ、そういことか。
「すまない、本当の名前は焔咲 結翔。でも嘘ついたわけじゃねえぜ?前の世界じゃこの姿の時は焔斗を名乗ってたんだ。」
「この姿?お前は変身タイプの人間なのか?」
ㅤ予想通りの反応だ。逆の立場だったら同じ考え方をしていただろう。
「いや、違う。そうだな……詳しく説明すると、だ。」
ㅤ焔斗は前の世界の世界観、種族、及びゲームのこともわかりやすいように伝えた。専門用語を使わずに説明するのはなかなか難しいものだった。
「なるほどな。これでだいたい謎は解けた。お前がなぜ変に戦闘慣れしているのか、そして慣れているにも関わらずあそこまで痛みに弱いのはおかしいと思っていた。全て前の世界の環境が原因か。」
「そういうことになるな。」
ㅤここであれ、と思った。焔斗が痛みに弱いのは倒れているのを見ていたから知っているとして、なぜ戦闘時の動きがわかっているのか。もしかして転移してきた時点で観察されていたのではなかろうか。先程の名前の件も嘘を見破るスキルか何か無ければ何も言えないはずだ。最初から見ていたとしたら納得がいく。この世界では焔斗として生きる、と最初に口に出していたからだ。
「それで、お前はこれからどうする気だ?」
「妹を探しに行く。」
ㅤそう、紫紅の居場所は未だわからず再会できていない。俺の予想が正しければ、という所までは来ているが行ってみなきゃ分からない。
「あてはあるのか?」
「ある。さっき宿主からこの世界には層のように天界、現界、魔界があると聞いた。そして天界に干渉は基本的に不可能。だとしたら魔界の高さを省いた俺と同じ座標に転移している可能性がある。問題はその魔界の行き方、だ。それを探すために旅をしようと思う。」
ㅤそう、直接的に階段等で繋がっている訳では無いが層のように3つの世界があるのだ。仮に横方向縦方向の座標が同じで上下の座標だけおかしくなったのだとすれば、焔斗の予想は行動を起こすには十分すぎる。
ㅤ焔斗がそう言うとレーヴァテインは予想外のことを言ってきた。
「俺は仮にも魔王だ。魔界への扉くらい開ける、と言えばどうする?」
「何っ!?それは本当か!?」
ㅤしかしよくよく考えてみればそうだ。相手は魔王、魔王ならそのくらいのことぱぱっと出来てもおかしくはない。ならば、
「だったら連れて行ってくれ!今すぐにだ!」
ㅤ行かない以外に選択肢はない。即決だった、迷うことなんてひとつもない。早く妹と合流したい、その一心での答えだった。だが、
「断る。」
「は?」
「断ると言ったんだ。聞こえなかったか?お前、今の状態で魔界に行ってそもそも妹のところに辿り着けるとでも思っているのか?お前をぶっ飛ばしたあの狼。魔界の中で弱いやつでもあいつより数倍強い。その意味がわかるか?」
「くっ……。」
ㅤ確かにその通りだ。あの狼でさえ焔斗は油断していたとはいえ一撃であのザマだった。それの数倍強いのが最低ライン?とても勝てる気がしない。しかし、だ。
「だとしても!そこに妹がいるのだとしたらそれこそ不安だ!痛み?そんなもん知るか!妹を助けるためなら痛みなんざどうってことねえんだよ!」
ㅤそう、もし本当に紫紅が魔界に飛ばされていたのだとすれば、それは相当危険だということになる。一刻も早く助けが必要なくらい。
「安心しろ、今焦って行ったところで普通なら死んでる、仮に生き延びる力があったのだとすれば今急いでいかなくても大丈夫だ。むしろお前が足を引っ張るぞ。それでもいいのか?」
ㅤこれが現実だ。レーヴァテインの言うことは至って正論、反論なんて出来ない。
「くっそ……じゃあどうすれば……。」
「強くなれ、そしてまずは自分の弱さを思い知れ。俺が相手してやる。」
ㅤなんと、レーヴァテインから決闘の申し込みをされた。俺が負ける前提のようだが。おまけに、
「そうだな。万が一にもないが、もしこの戦いで俺に力を示すことが出来れば、魔界に連れて行ってやる。どうだ、やるか?」
ㅤ上手く行けば魔界にも行ける、という願ってもない条件だった。どこまでやれるか分からないが、やれるだけやってみるしかないだろう。
「分かった……。その勝負、受けさせてもらう。」
「決まりだな。いつでもいいぜ、かかってこい。」
ㅤその言葉を聞き、焔斗はメイスを構える。対するレーヴァテインは仁王立ちのまま微動だにしない。相当な自信か、それとも何か訳ありか。いずれにせよこちらから仕掛けなければ何も始まりそうになかったので、攻撃を開始する。
「はぁあああ!」
ㅤ腰を上手くひねりながら渾身の一撃を撃ち込む。まともな一撃が顔面に入った。だが、ピクとも動かずダメージを受けた様子もなかった。メイスが肌にくい込んですらいない。
「くっそ!」
ㅤ遥かに強いのは分かっていたが想像以上の実力差に焔斗は悪態をつきながら何度も何度も撃ち込む。様々な角度で、色々試しながら。しかし結果は同じ。なんのダメージも、攻撃されているという感覚すらも与えることが出来なかった。
「想像以上に弱いな。もういい。」
「!?」
ㅤレーヴァテインが背中の剣に手をかける。身の危険を感じた焔斗は瞬時にバックステップで距離を取った。しかし、気づいた時には影に溶けるようにレーヴァテインの姿は消えており、背後に現れていた。抜剣も納剣した様子もなかった。それでも嫌な予感がした。
『影纏・影嵐』(かげまとい・えいらん)
「がっ……!?」
ㅤ彼が技名を口にした瞬間、体のありとあらゆるところに激痛が走った。あまりの痛さに膝をつく。出血は大丈夫かと気になったが出血している様子はなかった。
「死んでもらっちゃ困るからな。剣は抜かずにやらせてもらった。どうだ、これで序の口の技だ。これに対応できるようになってやっと、最低ラインの魔界の魔物に勝てるくらいだな。もう一度言うぞ、お前は弱い。諦めろ。」
ㅤ抜剣してない状態で何度も叩きつけられたらしい。道理で出血はないわけだ。しかし何発叩き込まれたかも分からないくらいに痛い。
「……だ。」
「ん?」
「まだだ……まだやれる……!」
「ほう……。」
ㅤ焔斗は深紅のオーラを纏い立ち上がる。まだ心の灯火は消えていない。
(やつは、俺を感知した時に魔力と言っていた。つまりそれは俺にも魔力がある道理。あとはイメージして出せるかどうかだが……やるしかない!)
「行くぞ!レーヴァテイン!」
「ぶつけて見せろ、貴様の本気。」
ㅤメイスに深紅の焔を纏わせ、前に突き出し手元で回転させ渦を作る。そしてその焔の渦を空間に維持したままにし、メイスでぶっ叩いて射出する!!!
『くらえ!螺旋、、、焔ああああああああぁぁぁ!!!!』
ㅤ焔が渦を巻きながらレーヴァテインを襲う。彼は避ける素振りも見せずまともに受けた。
「こ、これで……どう……だ……っ!?」
「生温い焔だな。だが面白い、魔力操作が上達すれば相当の威力になるだろう。」
ㅤ無傷。本当に今焔斗は技を撃てたのか疑問に思えてくるくらい何も無かった。背後の木々が焦げて消し飛んでいることで先程の事は現実だったと認識できる程度だ。
「くっ……そ……。」
「しかし良い色をしている焔だった。貴様ならあるいは……。ふん、まあいい。魔界には連れて行けんがこちらもお礼にいいものを見せてやろう。これが真の禁忌の焔だ。」
ㅤレーヴァテインは抜剣し、その剣に紫の焔を纏わせる。大気の色が変わったと錯覚するほどの魔力量。
「動くんじゃねえぞ。」
「なっ……!」
ㅤ動きたくても動けない。焔斗の身体は既に限界を超えている。このままだと、死ぬ。そう思った。
『禁忌の焔剣・紫焔一閃』(きんきのえんけん・しえんいっせん)
ㅤ直後、焔斗のすぐ隣の地面が深く抉れ、紫の焔が燃え上がった。次第に焔はレーヴァテインの体に吸われるように戻っていき、消え去った。
「殺すわけがないだろう。当てたら死ぬから動くなと言ったんだ。それに、今は弱いが貴様は俺といい勝負をするまで育つ可能性が見えた。せっかく面白いやつを見つけたんだ。死んでもらっちゃ困る。」
ㅤ何故かは分からないが気に入られたらしい。殺されずに済むのは助かるが、しかし強くなると言ってもどうすれば……
「……ジーマ村で回復薬等を用意できたらそのまま西に進め。シンレ館という建物がある。きっとお前を成長させるきっかけになるはずだ。じゃあな。」
「あ、ちょ待てよ!」
ㅤ俺の制止も聞かずに魔王は姿を消した。最終的には助かったが、何だかよくわからないやつだったと冷静になって思うのだった……。
「よし、なんにせよとりあえずはジーマ村だ。……待ってろ紫紅。ぜってぇ迎えに行ってやっからな!」
ㅤ痛む体に喝を入れ、歩き出した。
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ㅤ魔界にて。
「はぁっ!はぁっ!てやぁ!」
ㅤ紫紅は自慢のメイスをふりまわし、なんとか生き延びていた。実際のところ、ゲームのステータスも紫紅の方が遥かに上だったため、何とかやれているのだろう。しかしそろそろスタミナも限界に近かった。
(まずい……このままじゃ……。)
ㅤ飲まず食わずで丸一日。いつ倒れてもおかしくなかった。目の前の悪魔型の魔物を倒し、他に敵が居ないことを確認する。敵の気配はなかったので近くの岩にもたれかかり小休憩をとる。
「ここ……どこよ……全く……お兄ちゃん、も居ないし……」
ㅤハァハァと息を切らしながら回らない頭を回そうとしたその時だった。岩の反対側から声が聞こえ、足音がこっちに向かっている。
「確かこの辺り……なんですが。戦闘の跡がありますね、それも新しい。謎の魔力の残滓も伺えます。」
「やっぱりこの辺?でもどこにいるんだろう、感じる?トモ。」
ㅤ謎の魔力というのは紫紅のことだろう。これまで出会ってきた魔物とは違うみたいだが、念の為出会いたくはない。しかし情報が得られそうな貴重な人語を話す何か……。
「居ました。ここです、春輝様。」
「っ!?」
ㅤ急に隣から声が聞こえたので驚き飛び退いた。しかし飛び退いた後に背後から気配。
「なっ!?」
「わぁ♪女の子だね♪」
ㅤ春輝と呼ばれた男が、嬉しそうに笑うのだった。
今回はここまで!いかがでしたか?
なんか話数事に文字数が増えてますがそういうチャレンジしてる訳では無いので勘違いなさらず(笑)
今回のif民モチーフは前回に引き続きRevatainnさんと、
ラストの2人、トモ犬さんと春輝さんです!またツイにタグ付けしますね!
次回
『第4話ㅤ魔界三銃士』
おたのしみに!