ㅤ想像以上に苦戦はしたものの、なんとか魔物討伐の依頼を達成した焔斗と紫紅。腹ごしらえを済ませ、現界へ向かうべく旅立つ。
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「いやー、美味しかったね!弁当。」
「ああ。凄いな、あの執事さん。」
ㅤ元いたの世界の弁当とは違い、魔法があるため保存的な意味では物凄くやりやすい。やりくりすれば弁当の中が水蒸気で濡れてしまうことも避けられる。ただ、それはかなり魔力の扱いが器用でないと不可能である。今回の弁当は、外はカリッ、中はジューシーで噛めば噛むほど味がでる唐揚げ(肉が鳥なのかは分からないが美味かった)等が入っていて本当に美味しかった。
「そろそろだぞ。」
「お、出てきた。」
「人をモグラみたいに言うんじゃない。焼くぞ。」
ㅤ影で移動していたレーヴァテインが、影の中から出てきて飛行状態になり焔斗達の後ろにつく。兄妹水入らずの場を楽しませるために隠れていてくれたのだろう。戦力的には規格外すぎるが、こういうところを見ると案外普通の人なのかもしれない、と思った。元人間、というのを魔界に来る前に聞いたのもあるが。
「お、あそこじゃないか?」
「ああ。」
「ん、あそこ?確かに何か少し違う雰囲気がある……。」
ㅤ焔斗は一度見ているのですぐに分かったが、紫紅はむむむ、と目を細めてみている。一度この雰囲気を感じて覚えていないと見つけるのは困難なのだ。
「よし、開くぞ。もう邪魔は無いと思うが、もし何かあったら来た時と同じだ。攻撃食らうんじゃないぞ。」
ㅤそう言って現界へと繋がる扉を開くレーヴァテイン。その中をゆっくりと歩く。さっきの言葉がさすがに怖かったのか、暗いのもあってなのか、紫紅が焔斗の服をギュッと掴む。いくら強くてもまだ中学生なのだ、怖くて当然である。
ㅤしばらく歩いていると外への光が見えた。あれが現界への出口だろう。予想通り、邪魔は入らなかった。それでもやはり怖いのか、先に行くよう促すと紫紅はふるふると首を横に振った。仕方ないので、一緒に通ることにした。少し狭いが、焔斗は細身で紫紅も小さいので問題なく通ることが出来た。
「わあ……!緑だーーーーー!」
「ここが現界だよ、紫紅。」
ㅤ現界も日が昇っており、森を明るく照らしていた。木々の間から差し込む日光が心地良い。紫紅はこっちの世界、魔界に来てからずっとあっちに居た。果物などはあったりしたものの、木々の生い茂った森、というのは見てなかっただろう。久しぶりのザ、自然の景色に感嘆の声を漏らす。
「結構遠いけど、街もあるんだ。師匠とはそこで出会った。それに、紫紅を連れていきたい菓子屋もあるんだ。」
「お菓子!!!!!!!」
ㅤパァァァァと顔を輝かせる紫紅。後でたらふく食わせてやろう、と心に誓う。無論、食べすぎない程度にだ。
(そういや見かけただけで食べてないけど、まあ、行けるだろ。行列出来て人気そうだったし、うん。)
ㅤ肝心の下見をしていない焔斗であった。
「まあそれはさておき、レヴァさん、本当に色々ありがとうございました。」
「ありがとうございました!」
ㅤ二人でレーヴァテインに礼を言う。彼がいなければ、これほど早く再会することは出来なかったであろう。もし再会出来たとしても、今回よりずっっと遅いタイミングになる。その間、お互い無事かどうかも分からない。
「別に、礼を言われるようなことじゃない。俺が勝手に興味を持って、勝手に絡んだだけだ。気にするな。」
ㅤ「じゃ、もう行くぞ。」と言いながらレーヴァテインは影に溶けるように消え、その場を去った。
(再会出来てよかったな。……だがなんだ、この胸騒ぎは。天界のことと関係あるのだろうか。……少し鍛え直した方がいいかもしれないな。)
ㅤ必ず来ると予想される天界からの侵略。話に聞く限り、相当強い相手だと思われ、心踊ってはいたが、未知なる敵に少し怖さも感じているのかもしれない、と思った。だからこそ修行をしようと、魔界で自分と同等レベルの魔王と戦って分かった。まだまだ上には上がいることを。そして何より、自分の力の衰えを。強いやつが居ないか探して戦うだけじゃダメだ。しっかりと鍛え直さなければ。
(天界から来るのがどういう奴かは知らないが……返り討ちにしてやる。)
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ㅤそんなレーヴァテインの心境はいざ知らず、焔斗と紫紅は歩いて街に向かっていた。別に飛べば早いと言えば早いのだが、久しぶりの緑の自然、小動物に目を輝かせる紫紅を見て歩こうと提案した。途中、魔物を狩って素材を売れば、資金にもなる。働くところが見つかるまではお金に困るだろうし、その方が良い。
「ねえお兄ちゃん見て!リスさんみたいな子がいる!かわいーーーー!」
ㅤキャッキャと騒ぐ紫紅。年相応、より少し幼くも見えるが、すごく笑顔で楽しそうだ。こちらまで楽しくなってきて思わず微笑んでしまう。だが、そのリスに似た動物はどこかで……
「……っ!紫紅!そいつは魔物だ気をつけろ!」
「へっ?」
ㅤ見た目は可愛らしいリスに似ているのだが、人が近づくとその小柄な見た目からは想像もできないほど大きく口を開けて噛み付いてくる魔物だ。焔斗も道中遭遇したことがあるが、如何せん普通のリスに似たただの動物もいるので紛らわしい。魔物の鋭い牙が、紫紅の喉を狙って大きく開かれる。
「シッ!」
ㅤ今にも噛みつかれると思ったその瞬間、閃光のように鋭い攻撃が、魔物に直撃して貫いた。
「あ、わ。」
「……大丈夫?」
ㅤそう言って尻もちをついた紫紅に手を差し伸べる女性。白を基調とした、動きやすそうな布地の服装。髪は銀髪のロングで、目は少しつり目で色は深い緑。水色の槍を持った槍使いのようだ。
(は、速過ぎる……!魔物に気を取られていたとはいえ、紫紅を助けてくれるまで気づかなかった……!)
ㅤ「あ、ありがとうございます。」と言いながら、女性の手を借りて立ち上がる紫紅。見た感じ怪我もないようだ。あそこまで接近した魔物を、あの速度で、助ける対象に影響が無いように仕留めるとはなかなかの手練だと思った。
「す、すみません。ありがとうございまっ!?」
ㅤ何はともあれ、助けてくれたことをお礼しなければ、と焔斗が歩み寄ろうとした瞬間、先程と同じような閃光が見えたと思えば、首元に槍を突きつけられていた。
「ぐっ!?」
「ここは森ですよ。それも深い。こんな所に遠足気分で来るなんて、あなた達死にたいの?見たところ、弱いわけじゃなさそうだけど、油断しすぎよ。今この瞬間も、私が味方かどうかなんて分からないのに無警戒で……。!?」
ㅤ焔斗に向かって説教をしていた謎の女性。だが、その途中で自身が逆に追い詰められていることに気づく。多数の紫雷のメイスが、少しでも動けば当たるように女性を囲んでいた。
「助けてくれてありがとうございます。でも、そういうこと言うってことはもちろん、こういう状況も警戒してるんですよね?その割には、随分と楽に包囲出来ましたけど。……お兄ちゃんに手を出したら許さない。」
ㅤバチィッと雷を鳴らしながら紫紅が女性を睨みつける。
(いつの間に……!?それに、油断していると思ったけど、それは私の方だったみたいね……。)
ㅤ紫紅は先程の魔物に驚き、今のこの状況にも驚き、頭の整理が追いつかないだろう、と思っていた。だが、そもそもそこで推測で動いたのが間違いだった。自分もまだまだだと反省する。
「紫紅、やめろ。この人に殺る気はない。」
ㅤ実際、殺ろうと思うなら今の寸止めではなく、確実に喉を貫いている。ここも含めてただの説教なのだ。
「でも……、分かった。」
ㅤ少し不満そうではあったが、焔斗の言葉に頷き、包囲している紫雷のメイスを消滅させる。
「……ありがとう、分かってくれて。」
ㅤさすがにここでまた油断だ!等と言ってくることはなく、女性も武器をしまう。
「改めて助けてくれてありがとうございます、ええと、」
ㅤ名前がわからず、言葉に迷っていると、女性は少し微笑みながら自分の名を名乗った。
「私は、ジン。ただの槍使いよ。」
ㅤどう考えても”ただの槍使い”なんてものでは無いだろう、とは思いながら、手を差し伸べてきたので握手を交わす。
「ありがとうございます、ジンさん。」
ㅤそうしていると、何故か少しムスッとした紫紅が握手している手に自分の手を重ねる。この後普通に握手すればいいのに、と思ったが、ジンがふふ、と笑ったのでまあいいかと思った。
「これから何処へ?」
「ああ、商業街ミカルコに。」
「へぇ。まあ、気をつけるのよ。さっきみたいな魔物も居るから。」
ㅤそう言って去ろうとする彼女に問いかける。
「そういえばジンさんは、何処に向かってるんですか?」
「何処でもないわ。私は自由が好きなの。まあ、装備衣服類は街に買いに行くこともあるけどね。」
ㅤなんかかっこいい、と思いながらその言葉を聞く。先程の実力も、この自由な旅の中で厳しい経験から得られたものなのだろう。焔斗達は魔力量的には飛び抜けて優れているが、いかんせん経験値が足りない。バトル漫画の真似をしてみたりと感覚でやってはいるが、本当に戦闘技術を鍛えた者には魔力量が圧倒的に低い相手だったとしても負けるかもしれない。この世界での戦い方ももっと学ばなければ、と改めて思った。
「じゃ、次もし会う時は魔物に襲われそうになってないことを祈るわ。またね。」
「はい、また。」
ㅤ今度こそ完全にジンは去った。去る時はやはり閃光しか見えず、恐ろしい速さだった。
「現界、すごい人もいっぱいいるんだねお兄ちゃん。節狐さん?のことは話には聞いてたけど、今の人も……。」
「ああ、そうだな。あんまりナメてると俺達も危ないかもしれない。これからは修行しながら行こう。我流にはなってしまうけど、何もしないよりはマシなはずだ。」
「うん!お兄ちゃんと一緒に頑張る!」
ㅤそう言う紫紅の頭を撫でてやる。気持ちよさそうに目を細める可愛らしい妹にまた癒された。
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「ん、闇華ちゃん!」
「うん、気づいてるわよ来羅。帰ってきたみたいね、彼。」
ㅤとある街でライブの後片付けをしていた闇華と来羅。焔斗と紫紅が戻ってきたのを魔力で察知する。
(今回は帰ってきたのが分かったからいいけど、魔力の抑え方も教えとくべきね……。今のままじゃ目立ちすぎよ。)
ㅤ魔力を感じるというのは、何も全力を出している時に強く感じるのではなく、普段の状態でも魔力は出ていて、それが強ければ強いほど感じることが出来る。なので、それが強すぎると位置がバレバレになり、何なら魔物と勘違いされて他の人が逃げる、もしくは討伐に向かってくる可能性がある。
「ま、今の彼の魔力量相手に喧嘩を売るような人はそうそういないだろうけど、ね。多分妹さん?の魔力量も凄いし。何あれ。」
「ん〜?闇華ちゃん何か言った〜?」
「いいえ、何でもないわ。」
ㅤゴソゴソと道具を片付ける来羅。その様子を見ながら、闇華は考え事をする。
(それにしても、まだ先だとは思うけど、天界からの降臨へ対策を考えないと……。なるべく彼らが他の人にかかわらないようにする?いや、それは無理ね。必ず人との繋がりは増えてしまう。それならいっその事、天界についてみんなに話してしまおうか?その上で戦える人全員で天界勢に対抗する。……いや、駄目ね。数でどうにかなるような相手では無いわ。選出するとしても、かなりの実力者のみ。そんな人を探して事情を説明するしかないかしら。いちばん厄介なのは聖騎士連中だけど、彼らも無駄に強いから。……信じてもらえる人だけでも募るべきね。前戦った節狐って獣人は協力して欲しいところよ。)
「やーみーかーちゃーん?何ぼーっとしてるの?片付けしよ!」
「あ、ああ。何でもないわ、ごめんなさい。」
ㅤ珍しいねー?と言いながらせっせと片付けをする来羅。それに加わりながら、今後の行動についてある程度固める闇華。遠いとはいえ、確実に近づく天界からの侵略への対策が始まる。
「闇華さん、これはここでいいですか?」
「ん?ああ、そうね。いいわよ、ありがとう、”桃歌”。」
「はい!」
ㅤせっせと二人の片付けを手伝う少女の名は、桃歌。ピンク色の髪をおさげにしていて、目は緑で童顔。何個か前のライブの時、新人アイドルとしてライブしていた彼女とはち合わせ、色々あって合同ライブ。その後、一緒に行きたいと希望されて断る理由もなく同行している。実際、一緒に歌って踊るというよりは、交代でやる感じだ。彼女のスタイルは闇華達とは違う。無理に合わせるよりはそっちの方がいいし、観客も飽きない。最初は交代した時に観客が減らないか懸念していたが、桃歌は自慢の可愛さで観客をメロメロにしていた。ファンを取られた訳では無い。皆、どちらも好きになってくれたのだ。
ㅤとは言え、もちろん人気で負けるつもりは無い。仲間でありライバル、そんな関係だ。それに、桃歌は戦闘がほぼ出来ない。そもそも魔力が皆無なのだ。それはそれで特異体質なのだが、一応空間魔力を使って簡単な魔法を放つことが出来る。でもそれだけだ。アイドル活動で各地を移動するなら、必ず魔物との交戦にもなる。護衛を雇ってもいいが、お金はかかるし、防衛戦がどれだけ大変かは言うまでもない。それならいっそ、同職の人と一緒にいる方が安全である。
「にしても、今日のあなたのライブも良かったわね、桃歌。」
「っ!はい!ありがとうございます!」
ㅤ闇華と来羅が可愛さと美しさを良い割合で兼ね備えたアイドルとするなら、桃歌は可愛さ全振りのアイドル。二人とはまた違った魅力で、観客を釘付けにしていた。可愛いだけではなく、歌も上手いので侮れない。
「よし!終わったー!次はどこ行く?闇華ちゃん!」
「そうね、受け入れてもらえるかは分からないけど、獣人の国、『リベルタ王国』へ。」
今回はここまで!いかがでしたか?
今回登場したif民モチーフは、
Revatainnさん(レーヴァテイン)
ジンさん(ジン)(初登場)
Yamikaさん(闇華)
ララさん(来羅)
でした!ありがとうございました!
桃歌はオリキャラです!
次回
第10話
『獣人の国、リベルタ王国』
お楽しみに!