森をクロリア達の手を借りて抜け出し、ようやくリベルタ王国に到着した一行。街並みを見て楽しみながら、城へ行き、この国の代表達と話し合いを開始する。
━━━━━━━━━━━━━━
「初めまして、私は狐郭(こかく)。節狐の父親で、この国の王、ということになっている。」
「ふぉっふぉっふぉっ。謙遜しなさんな国王陛下。今は主がこの国の頂点じゃろうて。おっと、申し遅れましたな。儂は幸菴(こうあん)。今はもう国王を引退した老いぼれじゃ。」
ㅤ節狐がいきなり質問をしてきたが、ひとまずそれを止め、同じ部屋にいた二人が自己紹介をしてくる。闇華達も自己紹介をし、ペコリとお辞儀する。
狐郭は、節狐と同じ赤い髪、目をした狐の獣人。キリッとした顔立ちをしており、短髪が似合っている。
幸菴は、傷を負った白い狐耳に、白髪のいかにも老人といった風貌だ。目だけは赤く輝いているのが威圧感を放っている。歴戦の雰囲気も感じられた。
「幸菴の爺ちゃんはな、ああ言ってるけど、今は兵士の育成役をやって貰っているのさ。これまた厳しくて、兵士の戦力増強に凄く助かってるんだよ。現にあたしも昔、物凄くしごかれたよ。今もたまに模擬戦に付き合ってもらってる。」
「まだまだ鍛えがいがあって嬉しい限りですじゃ。もっと戦闘中は冷静にならねばのぉ?」
「うぐ、はい……。」
ㅤどうやら、あの圧倒的力を持った節狐でさえ、この老狐には勝てないらしい。経験値が違うのもあるだろうが、幸菴の戦闘センスが高いのだろうと思った。
ㅤ闇華達は、振舞われた食事に舌鼓を打ちながら、天界について話し始める。
「へぇ……まさかあの焔使いがきっかけで、そんな大事になるなんてねぇ。関わった人達、かい。随分大雑把な対象だね、人によって捉え方が違う。」
「……そうね。その理由としては、降臨した際に対象を縛りすぎると、殺せない者、が出てくるの。急遽助けに来た人とかね。もしそこで、”異世界人の殲滅”となっていれば、その人が盾になったら殺してはいけない。」
ㅤ話していることに対して、色々とツッコんでくるが、疑っている様子はない。それも彼らが嘘を見抜けるからであろう。これが本当のことだと分かっているのだ。
「ふぅん、それならさ、”異世界人の殲滅とその邪魔をする者の抹消”、とかなら良いんじゃないか?」
ㅤ節狐が最もな代案を提示してくる。しかし、そんな単純な話じゃないのだ。
「……お恥ずかしい限りだけど、天界に住む者達って、言うほど温厚じゃないのよ。要するに、関わった者を全て殺す、というようにしていればある程度自由に動けるの。さっき言った解釈の仕方が多いから、例えば戦ってるところを見た者を関係者、とみなすことも出来るの。そんな、そんなのもいるのよ、天界にはね。」
「へぇ、思ったより物騒じゃないか。あたしは嫌いじゃないけどね。でもそうなると、」
「兵士をもっと鍛えた方が良さそうじゃのぉ。そう思うじゃろ?クロリア?」
「うげっ!?じゃなくて!は、はい!もちろんです、幸菴様!」
ㅤキラン、と目を輝かせて待機しているクロリアを見る幸菴。それに冷や汗を流しながら返事をするクロリア。あれほど強いと言うのに、この反応。相当厳しいのだろうと思える。
「んで、あんたらはアイドル活動?てのとそのついでに、あたしにその天界勢に対抗する戦力になって欲しい、と頼みに来たってことかい?」
「ええ、そうよ。あなたは本当に強い。見れば、ここの兵士さん達もなかなかの手練よね。天界勢は一筋縄では行かないわ。降臨してくるのはおそらく、序列二十位よりは確実に上の者。そうね、最低でも魔王に匹敵するレベル、と言えばわかりやすいかしら。」
ㅤそう言った瞬間、部屋の空気が重くなる。今の一言で、事の重大さが更に身に染みてきたのだ。
「……魔王に匹敵、ね。面白いじゃないか。だけど、何人来るんだい?」
「私が把握している彼ら兄妹が関わった人数だけでも、そうね。少なくても五、かしら。」
「魔王に匹敵するような奴が五人!?はっ、失礼しました!」
ㅤ思わず声を上げるクロリア。普段ならお叱りの言葉を受けるが、今回ばかりは仕方ない、と誰も咎めなかった。
「……各場所に一人、それが増えれば増えるほど降臨の数は増える……ということですかな?」
「ええ、そうね。その解釈で合ってるわ。」
ㅤ狐郭が深く考え込む素振りを見せる。それもそうだ、節狐が関わった時点で、ここに降臨されるのは必然。となれば、それに対抗する戦力を用意しなければならないし、住人の避難もしなければならない。
「……ところで、その降臨がいつ来るか、というのは分かっているのかな?」
「……あまり信じないで欲しいのだけど、恐らく半年後、かしら。でもそれは、私が天界にいた時の法であって、今はどうなってるか分からないわ。だからほとんど分からないと思ってもらった方がいいわね。」
ㅤその答えに更に難しい顔になる狐郭。いつ来るか分からない魔王級の敵。鍛えるのも大事だが、常に警戒態勢というのは士気に関わる。疲労した状態での戦いは避けたい。
「でも確実に言えるのは、あと二ヶ月は来ない、ということ。いくら何でも今動くのは、天界にしては判断するのが早すぎるわ。」
「それも推測に過ぎないだろう……しかし、それを信じるしか無さそうだ。となると、この話を聞いた者は別の場所にて仮設国を作り、この会話を避ける。関係したもの、というが現時点では民や関わっていない兵士は対象外のはず。」
ㅤ随分と思いきった答えを出すものだ、と思った。ここにいるのは皆、国の重要人物。いなくなってはいけない存在なのだ。それを本国から離れ、来る時までそこで隔離されたように過ごすなど、半端な気持ちで言えるものでは無い。まあ、話さなければ良いので会っても良いと言えばいいのだが……。天界の法律がアバウトすぎることに頭を抱える闇華であった。
「いや、しかしそれでは兵士の育成に問題がありますぞ?儂もここから離れるとはいえ、こちらの戦力をわざわざ遠方に向かわせて修行させる訳にも行きますまい。それこそ、国の防衛が危うくなりますぞ?」
ㅤ随分と話し合った結果、ここに留まり、この件は口外禁止。兵士育成はそれとなく理由をつけて実行。そして、天界勢が降臨した際には、上手く誘導して国への被害を最小限に抑える。という結論に至った。
「もぐもぐ、美味しいね桃歌ちゃん!」
「は、はい……そうですね。」
ㅤこんな真剣な空気なのに、バクバクと食事を楽しむ来羅にちょっと引いてる桃歌。はあ、と溜息をつきながら、闇華も食事を楽しむことにした。焼いた川魚に汁。炊きたて(ちょっと冷えた)白ご飯に漬け物。どれも絶品で優しい味付けだった。来羅はいっぱいおかわりしていた、もう少し遠慮を……と思ったが、節狐達はむしろその食いっぷりが気に入ったようだった。
「美味そうによく食うじゃねーか!美味いし気持ちはわかるが、食いすぎて腹壊すんじゃねぇよ?あはは!」
「だって白ご飯だけですら美味しんだもん!いくらでも行けちゃうよ!」
ㅤ沢山食べる来羅を見て、流石に節狐とは別の面での心配をした桃歌が声をかける。
「来羅さん、その、太りますよ……?」
「残念ね桃歌。妬ましい限りだけど、この子、”いくら食べても太らないの”。なんででしょうね、はあ。」
ㅤ来羅はほとんどの女性が羨ましがるであろう、”いくら食べても何故か太らない”体質だった。以前、「アイドル活動でいっぱい動いてるから大丈夫なんだよー!」という来羅の話を鵜呑みにし、闇華も我慢せずたらふく食べてみたのだが、結果は言わずもがな。普通に太ってしまい、ダイエットするはめになった。以降、以前より食べる量、栄養分を意識して食事をするようになった。このような場で出されたものは、拒否すると失礼なので断らず、その他の食事、運動で調整している。
(もう、太るのは嫌なのよ……!)
ㅤ桃歌も、来羅を羨ましそうに見ているので恐らく同じなのだろう。というか、太らない方がおかしいのだ。無駄なカロリーはどこへ……?
「桃歌ちゃんも遠慮せず食べなよ〜!アイドル活動でいっぱい動いてるから意外と大丈夫だよ?」
「それで私が太ったのを忘れたのかしら!?」
ㅤ以前、闇華に言った文言と同じことを桃歌に言う来羅に、思わずツッコミを入れてしまう。節狐達は笑ってくれたが、少し恥ずかしかった。
「いつもの闇華さんはかっこいいのに、今は可愛い……。はっ!これが、ギャップ萌え……!?」
ㅤ頬を赤らめて、少し恥ずかしがる闇華を見て桃歌が何か騒いでいる。闇華にはよく分からない。だが、可愛いというのは何となくやめて欲しいと思った。
「さてさて、いつ来るかも分からない天使様達の話はここまでにしよう。ここでライブするんだろう?その話をしないかい?」
「ええ、そうね。私もそう思っていたところよ。」
ㅤ食事を終えた後、今回のライブについて話が始まった。今度は来羅も会話に積極的に参加している。ご飯がないのもあるが、先程もこのくらいの姿勢でいて欲しかったものだ。
「んで、場所は取ったんだけどよ……。肝心のどーいう物を用意して置けばいいか全く分からなくてね。使いそうな物は一応見繕ってまとめさせてはいるんだが、その辺はお願いできないかい……?素人がやっても下手なもん作っちゃあ悪いしね。」
「うん!その辺はクロリアから聞いたよ〜!任せて、力には自信あるし大丈夫だよ!」
「あたしには負けるけどねぇ?」
「むむっ。」
ㅤ少し煽ってくる節狐に対して、本気に受け取る来羅。まあまあとなだめて話を続ける。
「その辺は来羅も言った通り任せてもらって構わないわ。それで、ほかのことを頼みたいんだけれど、いいかしら。」
「ああ、いいよ。出来ることならサポートするさ。」
「ありがとう。その、この国の人達の品位を疑ってるわけじゃないんだけど、観客側に設けられてるスペースから飛び出てきたり、ましてやステージに上がったり。そういう人が出ないよう、警備員を配置して欲しいの。こちらで手配しても良かったのだけれど、あの森を抜けなきゃだし、何より獣人って平均的に強いから、普通の警備員じゃ物足りないと思って。」
ㅤそこまでゴリ押す程の人は居ないとは思うが、念には念が必要だ。どこかの誰かわからない人が警備しているより、ここで名の知れた手練の兵士が警備している方が、適度な緊張感を与えられるだろう。
「なるほど、そういうことなら任せときな!そうだね、クロリア達でもいいが、彼らは森の見回りにも出なきゃならない。となると、首都の防衛隊に任せた方が無難だろうね。クロリア、獅裂(しさき)を呼んできてくれないかい?あと、呼んできたら今日は下がって構わないよ。あと、くれぐれも天界の件は他言無用だからね、隊員にも話すことを禁じる。」
「はっ!おまかせを!失礼します!」
ㅤそう言ってクロリアは一礼して部屋を去る。獅裂を呼びに行くとの事なので、暫くはかかるだろう。いや、首都防衛隊ならそんなに遠くにはいないかもしれない。とにかく、別の話をすることにした。
「対応ありがとう。それで、観客なのだけれど、どのくらい見に来る人がいるかは分かるかしら?」
「ああ、それなら事前に全住民に聞いて集計を取ったよ。およそ千五百人かな。」
「場所は足りそう、ね。でも通りすがりで見たくなった人とかいるかもだから……二千人は考えておいた方が良さそうね。」
「まぁ、どちらにせよ場所の幅は充分じゃ。儂らが予定人数揃えて実際に立ってみたからのう。あの感じだとあと五百人、いや千人増えても問題ありますまい。」
ㅤ場所が足りているかの確認だけで、そんな人数が整列していたらシュールでしかないが、幸菴曰く、実際にやってみないと気づけないこともあるからやったとの事だ。それはそうなのだが、よく千五百人も動かせたものだと思った。
「そ、そう。ありがとう、なら問題なさそうね。その人数と広さなら、音量調整も……うん、何とかなりそうだわ。さてさて、時間は無いし早速準備に取り掛かろうかしら。来羅、桃歌、疲れてるとは思うけど行ける?」
「もちろん!」
「はい、任せてください!」
ㅤ実は、結構なハードスケジュールとなっており、この長旅の後休日なくライブなのだ。というか、森で時間がかかり、予定より遅く着いてしまったのが原因である。ライブを遅らせることも提案されたが、待ってくれている観客、それも前からファンの人なら受け入れてくれるかもしれないが、今回は初めての人ばかり。そんな大事な第一印象を悪くしたくはない。
「力仕事があるなら、獅裂達にも手伝ってもらうといいさ。ああ、そういやまだ来てないね。直接現地に行ってもらうことにしよう。呼びに行ってくれたクロリアには悪いけどね。黒兎(こくと)、頼めるかい?」
「はっ、お任せを。」
ㅤ今まで何も無かった場所から黒いうさぎ(目も黒)の獣人が現れ、こちらに返事をしたあと、こちらに一礼をしてすぐに姿を消した。
「もちろん、ライブはあたしらも見に行かせてもらうよ。楽しみにしてるぜ?」
「ええ、期待に応えてみせるわ。」
ㅤ決して戦う訳でもないのに、二人の間に火花が散った気がした。
今回はここまで!
いかがでしたか?
今回登場したif民モチーフは、
節狐さん(節狐)
Yamikaさん(闇華)
ララさん(来羅)
でした!ありがとうございました!
次回
第12話「Music START」
お楽しみに!