平凡メイサーの異世界冒険譚   作:えんてぃ

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商業街ミカルコに着いた焔斗達は、クッキー屋《Dream Canola flower》でお菓子タイムを堪能していたが、ひょんなことから店主の夢菜にスカウトされる。自分たちの状況を説明した上で受け入れてくれたことに感謝する2人だったが、魄夢はそう簡単に許してくれなかったらしく……
──────


第1話 「魄夢のテスト、奮闘の焔斗」

「……夢菜は言い出したから聞かない。だから雇うのは認めるが、簡単なテストをやる。いいな。」

 

翌日の早朝、何故か裏庭に呼び出された焔斗達。てっきり下準備をするのかと思ったが、どうやらこういうことらしい。ちなみに、紫紅はテストを免除されている。理不尽だ。ちなみに、シキとは昨日の話が終わった時点で別れている。今度はリベルタ王国で人形劇をやるらしく、今日出発らしい。見送れないのは残念だが、またすぐに会えるような気がしていた。

 

 

「……紫紅が免除されている理由は、分かりかねますが。もちろんいいですよ。」

 

ひとつ、不思議だったのは、裏庭に調理器具が用意されていることだ。そのことを質問すると

 

「……屋内で爆発されても困るからな。」

 

過去にそういったことがあったのだろう。調理器具が外にある理由は判明した。あとはもう大体わかる。

 

「今から言う通りに菓子を作れ。そんなに時間もないから下準備は済ませてある。」

 

「分かりました。」

 

そうして、焔斗は魄夢の言われるとおりの手順でクッキーを作る。店の方は今日は午後からの開店にしたらしいので、そちらの心配はない。

 

「……まあまあ、だな。」

 

「すみません……。」

 

「んー、お兄ちゃん、そんなにお菓子作ったことそんなないしね。」

 

「そうなんだ?紫紅ちゃんは?」

 

「紫紅でいいですよ。お恥ずかしながらあたしもあんまり……えへへ。」

 

作り終えた後、味見をしてもらったが、とりあえず不味いと言われなかっただけ良しとしよう。何せ、菓子作りなどほとんどしたことが無いのだ。恐らく、混ぜのコツとか色々あってあの食感、味なのだろう。

 

「まあいい。そもそも期待はしてなかったからな。次だ。」

 

 

今度は何を作るのか、と思った焔斗達だったが魄夢と夢菜は調理器具を片付け始めた。疑問に思いながら、焔斗達も手伝う。そして、片付けが完了したあと。

 

 

「次は戦闘テストだ。どんな客が来るかも分からない。そんな時、自分、更には店を守るために戦わなければならない時も来る。その際、従業員の力量も知らなければ連携も取れないからな。」

 

「……おっしゃる通りですね。分かりました、少し待ってください。」

 

 

魄夢の言うことはもっともだ。元の世界にいたから平和ボケしているが、その平和な世界でも強盗やらなんやら事件はどこかで起きていた。そんなことが、この元の世界よりも明らかに治安の悪そうな世界(ちょっと失礼)で起こらないわけがない。戦闘能力を確かめておくのは当然のことだ。

焔斗は自分の片手棍を取りに戻り、若干不安そうな夢菜と、余裕の表情の紫紅を横目に、魄夢の前に対峙する。

 

 

「……準備は出来たか?」

 

 

「出来ましたよ。魄夢さん、武器は無しですか?」

 

 

「必要ない。俺は昔から武器は持たないんだ。」

 

そう言って軽く構えを取る魄夢。格闘スタイルらしい。

 

(こういう相手には、下手に距離を詰めるより、最大警戒体勢で反撃を狙う方がいいな。)

 

焔斗はそう思いながら、焔の魔力を身に纏い、構える。さすがに今回は盾も用意した。

しばらくの沈黙が続き、緊張の空気が流れる。しばらくして、魄夢が足に力を入れるのを感じた。

 

(来るっ……!?)

 

そう思った時、みぞおちに強い衝撃が走った。来ると思った刹那、認知出来ない速度で詰められたのだ。

 

 

「ぐっ……!?」

 

(速すぎる……!)

 

そのまま後方に吹っ飛ばされたと思ったら、今度は後ろにまわられ、防御も間に合わず、上空に蹴りあげられる。

 

「がはっ……!」

 

そして、今度は上空に飛ばされるより速く上昇して上に現れ、両手を組んだ手を思いっきり振り下ろし、地面にぶっ飛ばされる。これはプロレス技でダブルスレッジハンマーと言うらしい。今はどうでもいいが。

 

(ど、ドラゴン●ールかよ……!)

 

そんなことを考える余裕はあると安心するべきなのだろうか。ともかくなすすべもなく地面にたたきつけられる焔斗。流石の紫紅も少し焦った表情だ。雷によるスピード、火力型の彼女なら見えていたかもしれないが、だからこそ、焔斗には厳しい相手だと悟ったのかもしれない。

 

「ちっ!」

 

地面にたたきつけられてすぐに立ち上がり、上を睨むが、既に姿はない。

 

「遅い。」

 

「どうかな!」

 

背後にまわられて居たが、今度は少し予想出来ていたため、反応が間に合った。魄夢のパンチを盾で受けて流し、軌道を逸らす。

 

「ほう、いつまで持つかな?」

 

その一撃を防いでも、すぐに連撃が迫る。焔斗は何とか回避と受け流しを繰り返して対処するが、どうにも反撃に回れない。

 

「くそっ!」

 

「お前、最初に様子見で構えたな?相手の力量が分からない中、確かにその判断は間違ってはいない。が、」

 

さすがに全ては捌ききれず、また1発顔面にくらう。

 

「かはっ!」

 

「様子見、後手に回ったのがお前の敗因だ。」

 

焔斗はまたも吹っ飛ばされて地面に倒れる。そんな焔斗の胸ぐらをつかみ持ち上げる。

 

「終わりだな。」

 

そう言って、トドメのパンチを繰り出そうとする。ふと、視界に写った、ニヤついた紫紅に違和感を覚える。

 

(この、兄が完敗している状況で笑う……?なんだ、なにか引っかかる。)

 

しかし、パンチを辞める気はさらさらない。そのまま殴ろうとしたその時。

 

「へっ、それはどうかな!」

 

そのセリフとともに、焔斗の体が焔の縄となり、魄夢に絡みついて縛り上げる。

 

「……なるほど。分身か。」

 

「正解。そしてその技は『真焔縛陣』。ある相手には効きやすいんだが、まあそれは今はいいか。」

 

いつの間にか言葉遣いが普段通りに戻っている焔斗だが、それも仕方の無いことだろう。とにかく、魄夢は身動きが取れずにいた。

 

「今度はこっちの番だ。」

 

「それこそどうかな。ふっ!」

 

魄夢が束縛を力技で破る。そして、渾身の一発を打ち込もうと息を吸い、構える。

 

(余裕の表情が崩れない?……なぜ……っ!?)

 

「がっ!?い、きが……!」

 

魄夢は咳き込み、殴るどころではなくなる。紫紅が操られていた時にも使った技だ。砕かれた細かい炎を気管に入り込ませ、呼吸困難に陥らせる。

 

「終わりだ、『終末ノ焔撃砲』!!」

 

ほぼゼロ距離での今の最大火力魔法を撃ち込む。彼には、手加減をすれば必ず反撃してくると確信していたからだ。また、これで死ぬとも思えなかった。

 

「……とりあえずは、合格だ。だがまあ、せっかくだ。どちらかが倒れるまで続けようか。」

 

案の定、少しはダメージを受けているものの、魄夢はまだピンピンしていた。そして、

 

「『身体強化魔法・梅』。」

 

「っ!?」

 

そう魄夢が呟いた途端、雰囲気がガラッと変わる。見た目が云々と言う訳ではなく、単に、近くにいたらやばいと直感する何か。

 

「やばっ!?」

 

「遅い。」

 

ズンッと、とてつもなく重いパンチを受ける。最初の時とは比べ物にもならない威力。一瞬、拳が体を貫通するのではないかと錯覚するレベルだった。

 

「かっ……!?」

 

すぐに連撃を仕掛けようとする魄夢だったが、焔斗もこのままやられる訳には行かない。『獄焔纏装』(ごくえんてんそう)を発動し、魔力と身体能力を向上させる。

 

「これにもついてくるか。そうか、やるな。」

 

「い、息切れもしてねえのかよ!く、そ!」

 

数分間、互角の攻防を繰り返したが、焔斗は少し息が上がり始め、逆に魄夢は全く疲れた様子を見せなかった。

 

「あらら……魄夢、珍しく燃えちゃってるよ……。次の使ったら止めなきゃ。」

 

「……次? 」

 

「うん、まあ見てて。多分使うから。」

 

観戦中の夢菜が意味深なことを言ったので、紫紅が尋ねたが、そうはぐらかされてしまう。不思議に思っていたが、案外早くそれは見ることが出来た。

 

「まだ、終わんねぇぞ!」

 

焔斗が、何とか魄夢の連撃から脱し、反撃に移る。

 

「焔よ舞え!『焔槌乱撃』(えんついらんげき)!」

 

目にも止まらぬ速さの連撃に、流石の魄夢も何発かまともに受ける。

 

「……ちっ、やるな、なら。」

 

「っ!?」

 

押し切ろうかと思った焔斗だったが、直感的に攻撃をやめて距離をとる。

 

(なんだ、今の感じ。まさか、これ以上の……)

 

焔斗の予感は当たった。魄夢はさらなる身体強化魔法を発動する。

 

「『身体強化魔法・竹(ちく)』!」

 

魄夢が自身にさらなる身体強化を施す。白いオーラが湯気のように揺らめいている。

 

(梅、竹……?松竹梅……!て、ことはもう一段階あるのか!?)

 

焔斗は、魄夢の身体強化魔法の名前の規則性に気づき、驚愕する。さっきまででもものすごい強さだったのにプラスして強化された今の状態。そこから更に上があると予測されるのだ。驚かないわけが無い。

 

「紫紅、どうする?止めよっか、時間的にもそろそろ。」

 

「う、うん、そうだね。これ以上はやばそう。えっと、止められますか?」

 

「大丈夫だよ。魄夢に私は殴れない。」

 

普段の言葉遣いと、少し丁寧な言葉遣いが混在しながら会話する紫紅。夢菜の謎の自信に一抹の不安を覚えるが、ここは信じることにする。

 

「今度こそ終わりだ。行くぞ……。」

 

「……来い!」

 

「はい、そこまで。」

 

「「「!?」」」

 

突如、夢菜が魄夢と焔斗の間に現れる。先程まで紫紅の隣にいたはずの彼女。移動したという実感すらなかった。

勿論、魄夢は制止がきかず殴ってしまうことも無く、焔斗の方もまた、夢菜に攻撃してしまうというミスはしなかった。彼も、どちらかが割って入るかとは思っていたからだ。

 

「心臓に悪いからやめてくれよ、夢菜。」

 

「やりすぎな魄夢が悪いの!また閉じこめるよ!」

 

閉じ込める、が何を意味するのか分からなかったが、魄夢の顔が青くなる様子を見て、ただ事ではないのだろうと察した。

 

「お兄ちゃんもちょっとやりすぎだよ!テストなんだから!」

 

「楽しくて、つい……。」

 

「……まあ、あたしも多分戦ってたら止まってなかったと思う。」

 

「だろ?」

 

焔斗達の方はもはや反省してるのかすら怪しい。

 

「まあ、とりあえず。二人は採用でいいよね!魄夢!」

 

「……そうだな。」

 

雇うのはもう決まってたのでは、とは思ったが、もし極端に弱かったり、絶望的なクッキングだったら蹴られていたのかもしれない。厨房爆発させるような人は絶対蹴られる。多分、ウエイトレスとしても転びそうだもの。

 

「それじゃ、お昼ご飯にして、午後から頑張って行こうね!」

 

明るい夢菜の笑顔に、焔斗は少し見惚れる。この店の人気は味はもちろんだろうが、彼女のこの純粋で可憐なところも影響しているのでは無いだろうか。そして、そんな彼女に危害を加えようとするやつもいるかもしれない、と懸念も感じられた。チラ、と魄夢を見ると、「強さが必要な理由、分かったな。」というような言葉を含んでそうな視線を向けられた。

 

「いっ!?」

 

そんなやり取りをしていると、何故か紫紅に足を踏まれた。更に本当になぜかは分からないが、ちょっと拗ねていた。

 

「な、なんだよ。」

 

「別に?」

 

そして、そのやり取りを見ていた夢菜はというと、

 

(拗ねてる紫紅可愛いーーーーー!)

 

と、心の中で叫んでいた。

そんなこんなあって、クッキー屋で働く日々が始まる。忙しくも楽しい日々を、焔斗達は堪能していた。

 

────────────

 

肉や骨の切れる音と共に、次々と咲く血の花。空気をヒュンッと切り裂く音が無数に聞こえる。

一族の仲間が、次々と人の原型をなくし、肉塊へと変わり果てていく。

 

「あんたはここに隠れていなさい。いいわね、絶対に声を出さないこと。目を瞑ること。音が消えて、もう大丈夫、と思ったらそこから更に動くのを我慢すること。お母さんとの約束よ。」

 

「糸乃(シノ)。もう時間が無い、早く。……今、お母さんに言われたこと、ちゃんと守るんだぞ。そして、辛いこともあると思うが、生きろ。これが、お父さんとの約束だ。」

 

そう言って、彼女の両親は、娘を糸魔法の中に隠し、一族を襲った人物に立ち向かう。彼女は、母親との約束をひとつだけ守れなかった。どうしても気になって、目を開けてしまったのだ。結果、見れたものは、昨日まで笑いあってた近所の人、一緒に遊んでいた友達等の無惨な姿。

そして、その中には、肉塊となった親友もいた。見た目で判断できないほどバラバラにされていたが、傍に落ちていた、親友の青いベレー帽が、その肉塊が親友だと判断させた。

 

「……!」

 

目を開けてしまったことを後悔したが、恐怖で目を閉じることも出来ない。もう嫌だ、早く逃げ出したい。でも今動けば、確実に自分もあの肉塊のひとつと成り果てるだろう。

 

そんな中、彼女の両親も敵に立ち向かったが、その思い虚しく惨殺される。最後に顔をばらばらにされる前に、母親がチラ、と彼女の方を見た気がした。

 

「ごめんね。」

 

涙が一瞬煌めき、そして、母親は肉塊になった。

瞬きすらできなくなった彼女の瞳から、涙がとめどなく流れる。

 

何時間、何日経っただろうか。本当に敵が居なくなったと確信した時、彼女は外に出た。両親だったものを見ながら、足は、ベレー帽のある場所へと向かう。

 

「……。」

 

そっと、ベレー帽を手に取る。なぜかは分からないが、これだけ血が周りで散ったにも関わらず、その帽子には、一滴の血も付いていなかった。

 

『えー!?誕生日プレゼント!?ちょうど帽子欲しかったんだ!それに、ボクの好きな青だ!さすが、分かってる!……へへ、大切にするね♪』

 

この帽子をプレゼントした時の親友の声、表情がフラッシュバックする。その親友も、もう居ない。一族の生き残りは、彼女一人だ。歯を食いしばりながら、その帽子を被る。

 

『本当にありがとう、糸季(シキ)♪』

 

もう一度、親友の笑顔が思い浮かんだ。

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

「っは!……はぁ、はあ……。夢……?」

 

リベルタ王国に行く道中の宿屋に泊まり、就寝していたシキ。先程の夢で目が覚めてしまった。

 

「なんで、急にあの時の夢を……。」

 

シキの過去。とある襲撃によって糸魔法使いの一族を彼女以外殺された上に、一族秘伝の糸魔法をその襲撃者に奪われた。今では糸魔法使いは、シキとその襲撃者以外居ない。無論、その者が生きていれば、だが。

 

「ふう、暗くなってても仕方ないよね。行こう、リベルタ王国に。糸魔法の誤解を、少しでも解いて行かなきゃ。」

 

糸魔法を奪った者が、その後各地で非道な行いを続けたせいで、糸魔法は危険、悪い魔法と思われるようになった。実際はそんなことないのだが、糸魔法は一族で習わぬ限り使えなかった。さらに、一族は外の人達との関係を切っていたことから、悪いイメージが付けばなかなかそれを無くすのは厳しい。

魔法なんてものは、どれも使いようで便利にもなるし、人殺しも出来るのだから、そこまで怖がる必要も無いと思うが、そこは人間の性と言ったところか。

 

「もう少し、だよね。よーし!がんばるぞ!」

 

シキは順調にリベルタ王国に向かう。糸魔法を戦闘に使うのは躊躇っていた。だが、焔斗達に助けられてから、戦いに魔法を使うように修行したため、今では魔物は苦にならない。少し、命をとるのに抵抗があったが、これで良かったのだ。

なぜなら──────戦い方を身につけていなければ、確実に殺される宿敵と対峙するのだから。

 

 




今回はここまで!いかがでしたか?

今回登場したif民モチーフ、考案キャラは

夢菜さん(夢菜、魄夢)
シキさん(シキ(糸季))
でした!

次回予告
クッキー屋、『Dream Canola flower』で、住み込みで働くことになった焔斗と紫紅。そして、シキはリベルタ王国へ向かっていた。
一方で、闇華達は、天界に対抗しうる更なる猛者を求めて、鬼族の集落へと向かっていた。

次回、『鬼族、閃光の男』

お楽しみに!
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