色々あって魔界の魔王の元で修行することになった紫紅。
一方その頃現界では焔斗がジーマ村に到着しようとしていた。
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「そろそろ、か。」
ㅤ魔王レーヴァテインとの戦闘後、足を引きずりながらもジーマ村に到着した焔斗。到着するなり村人がすごい形相で走りよってきた。
「お、おいそこのあんた!どうしたんだ大丈夫か!?すごい怪我だぞ!」
「あ、どうも。焔斗って言います。ここでいろいろ買いたいのとシンレ館について聞きたくて……」
ㅤとにかく早く強くなりたい焔斗は食い気味に質問する。自分の怪我のことより妹、急ぎすぎるのは良くないが焦ってしまうのも仕方の無いことだろう。
「バカタレ!んな事言っとる場合か!けが人は大人しくしとけ!おい!スリクさんに治療薬持ってくるよう伝えてくれ!あと、丁度いいとこにいた!シイさん、この人診てやってくれ。すぐそっちに運ぶから!」
ㅤだが、焔斗の怪我は常人には計り知れない程深かった。出血こそ無いものの骨は何本か折れ、立っているのがおかしいと思えるくらい痛々しい姿だった。
「シイさん、どうですか。治りますかね、この人。」
「骨折による内出血が酷いですが、スリクさんの薬があればなんとか、と言った所でしょうか。外出血がないのが救いです。数時間で回復できるかと。」
ㅤシイはこの村で一番の医者だった。銀髪ショートの銀眼で、高身長のスラッとした女性だ。王国に住む医者と比べても遜色ないほどの診察力と治療の腕の持ち主で、正直なぜこの辺境の村にいるのか分からない。以前村人がそれとなく聞いたことがあるが、このような辺境の村でも人は人。その命を見捨てたくないから、と言われたらしい。本心だとしたらめちゃくちゃいいひとである。
「待たせたな、薬だ。とりあえず効きそうなもんで、同時摂取しても大丈夫な物だけ持ってきた。これで効き目があるといいが。」
ㅤ治療について会話をしているとスリクが薬を持ってきた。濃い緑の髪のロングで、目の色は赤で細く、眼鏡をかけている高身長の男性だ。こちらも王国お抱えになっててもおかしくない薬剤師なのだが、森が近くにある方が良い治療薬が作れるし、素材も良質なものが取れる、と言ってこの村に滞在している。
「おお、スリクさん、ありがとうございます。これだけあれば充分です。あとは私の回復魔法でどうにか出来ます。一気に治すことも可能ですが、それだと体の細胞に負担がかかりすぎるので、今回は低速の継続回復魔法にしておきます。先程も言った通り数時間もすれば完治するかと思われます。」
ㅤ落ち着きを取り戻した焔斗は、村人達の会話を静かに聞いていた。『螺旋焔』が使えた時点でこの世界に魔法という概念があることは決定的だったが、回復魔法もあるらしい。自分に覚えられるものなら覚えたいが、医者という専門職がある時点でこの世界における回復魔法はゲームのような単純なものでは無いのだろう、と考察できた。
「それでは、治療を始めますね。焔斗さん、でしたか。しばらく動かないでくださいね。」
「はい、お願いします。」
ㅤシイによる治療が開始される。素人目なので良くは分からないが、とても器用な魔力の流し方だとは思った。各所同時に回復魔法を使っているのにもかかわらず、出力が全て調整されている。所々スリクが持ってきた薬を使いながら丁寧に手際よく治療が進められていった。
「よし、これでいいでしょう。あとは付与した継続回復に自然回復で治るのを待ちましょう。焦って体の傷を治しても細胞が疲れるのでどちらにしろ動けなくなってしまうんですよ。もちろん、戦いの時などはそんなことになってしまえば意味が無いので、解決策があるにはあるのですが……。それは即戦わなければならない場合のみ、です。元気の前借りみたいなものなので。」
「はあ、わかりました。ありがとうございますシイさん。」
ㅤ言ってることは理解できるが何せ疲れて頭が回ってないし、そう言えばこの世界に来てから何も食べた記憶が無い。そろそろ何か食べたいな、と思っていると先程村に入った時に心配してくれたおっちゃんが何か持ってきた。
「おい焔斗さんよ。腹減ってんだろ?今は治療中だからガッツリしたもんは食わせてやれねえが、せめてこれは食え。腹減ってちゃ怪我の治りもおせえからな!」
ㅤガハハ、と言いながらおっちゃんはお粥のようなもの……というかお粥を出してきた。名前はガルフ、というらしい。ファンタジー系でよく見るおっちゃんという感じの、おっちゃんだ。伝わるだろうか。
「こ、米……だと……!?」
ㅤ米だ。そう、米である。日本の主食、米である。米なのだ。もしかしたら二度と食えないかもとまで思っていたものがこんなにすっとでてきたのだ。焔斗はいただきますと言ってからがっついた。味は悪いかもと覚悟していたが全然そんなこと無かった。ただのお粥でお湯とお米しか入っていないのにも関わらず、この米にはしっかりとした甘みがあり、口の中を幸せで満たした。身も心も温まる食事。本当に美味かった。
「おーおー、お粥をそんな美味そうに食うやつは、なかなか見た事ねえぜ。焔斗さん、相当腹空かせてやがったなぁ?」
「ご馳走様でした。」
ㅤ一瞬で食べ終わってしまった。口の中にほんのり残ったご飯の甘味を堪能しながら礼を言う。
「ほんと、ありがとうございます。」
「いいってことよ!」
「いってえ!?」
ㅤ喝を入れる気だったのだろう。ガルフに背中を叩かれ、全身に激痛が走る。当たり前だ、骨が何本折れてると思っているのか。
「ガルフさん!?怪我人に何してるんですか!治療が遅れるだけならまだマシですが、治療中の過度の刺激は下手すりゃ命に関わるんですよ!?」
「お、おっとすまねえ、ほんと、悪かった。」
ㅤシイにめちゃくちゃ怒られるガルフ。そんなに怒ることないじゃん、とも思ったが話を聞く限り冗談じゃ済まないみたいだ。
「まったく……。ところで、焔斗さん。あなた一体何者ですか?治療の時に分かりましたが不思議な魔力ですし、それに自然治癒力も一般人に比べてかなり高い。先程数時間と言いましたが、この調子なら1時間程度で完治するでしょう。」
「ああ、ええと、一から説明するとですね……」
ㅤ焔斗はこれまでの事を全て話した。この説明をあと何回しなければならないのだろうと思いながら。
「こりゃあ、なんというか俺にはついていけねえぜ……。」
「すみません、スケールが大きすぎると言いますか……にわかには信じがたいことだらけで、頭の中が混乱しています。」
「その世界の薬は、重宝されたんかな?でも魔法がないとは不便やなあ。」
ㅤなんだか一人だけ注目点が違う気がするが、やはり理解が難しいらしい。それもそうだ、いきなり異世界どうこう言われても理解しろという方が酷というものである。
「まあ、その話については一応飲み込む、ということにしておきましょう。我々が理解し判断する範疇を超えてます。それこそ王国に行って原因解明して欲しいところですが……。」
「いや、それより妹と合流するのが先です。そのために強くなるので、もし王国に着くまでに目標ラインに達せれば、直ぐに魔界に向かいます。」
ㅤきっぱりと言ったが、そこで村人達がキョトン、とした。
「魔界に行くってもよ。どーやって行く気だ?焔斗さん。」
「魔王レーヴァテインをぶっ潰す。そして、連れて行かせる。それが俺の目標です。」
「「「はぁ!?!?」」」
ㅤ全員が驚愕の声を上げた。それもそのはず、相手は魔王なのだ。それをぶっ潰す上に命令を聞かせる、といったことを平気で口にしてる。驚かない方がおかしいのだ。
「お、おい焔斗さんよ……。正気か?」
「正気です。まあ、この傷はその魔王の超手抜き状態にやられちゃったんですけどね!あはは!先は長そうです。」
ㅤいや笑い事じゃねえだろ……。とその場にいる全員が思った。魔王に挑んで生き延びている点、ボコボコにされてもまだ魔王に挑もうとしている点、色々おかしい奴だと誰もが思って当然である。
「そういえば、シンレ館について場所とか情報お聞きしたいんですけど、何か知りませんか?」
ㅤもう突っ込む気力も失せた村人達は質問にただ答えることにした。そうしないと気がもたない。
「シンレ館は試練の館、とも呼ばれている。その名の通り、腕の良い冒険者等がさらなる力を求めて試練を受ける場。館の主は魔女で、名前はしゃろんと言う。が、それ以上の情報はない。なぜなら、その館に行って帰ってきたものは居ないからだ。つまり、その館の試練に打ち勝ったものは未だかつていない。そんなところだ。」
ㅤ魔王レーヴァテインから教えられた場所だから薄々嫌な予感はしていたが、どうやら思ったよりやばいところだったらしい。生還者ゼロ?それはいくらなんでもキツすぎるのでは、と思ったが、そこを乗り越えるほどでないと魔界には行けないということならば納得出来た。
「それと、そこに行くまでの道中に狐耳の獣人がいると思う。赤髪赤目に眼鏡をかけているから、すぐ分かるはずだ。狐とは言うが、こいつがなかなか戦闘狂でな。おそらく自分たちの国に帰省しているタイミングでもない限りは避けては通れぬだろう。」
ㅤ獣人族。何時かどこかで会うのだろうかとは思っていたがこんなに早く出会えるとは。しかし、穏やかでない出会いになりそうだが。
「わかった。傷も癒えたみたいだしそろそろ俺は行くよ。ほんとありがとうございました。」
「困った時はお互い様だぜ、焔斗さんよ!また顔出してくれよ!今度は怪我なく、な?」
「私も治しがいのある治療をさせて頂き感謝致します。治しがいはありましたが、くれぐれもお怪我のないように。」
「即効で効く薬や。少ししかやれねえけど、持っていくといいさ。役に立つはずだ。」
ㅤ俺が出発しようとすると皆暖かい言葉をかけてくれる。それに無料で治療薬が手に入るのは嬉しい。この世界の金銭はまだ持ってなかったので、どうしようかと思っていたのだ。
ㅤ村の人達に別れを告げ、シンレ館に向けて出発する。恐ろしい程の痛みを受けたせいか、多少のダメージならなんてこと無くなっていた。
「へぇ……。おいあんた、あたしと遊ぼうぜ?」
「?……なっ!?」
ㅤ木々のどこかから声が聞こえたかと思った瞬間、炎の斬撃が焔斗を襲った。
今回はここまで!いかがでしたか?
オリキャラいっぱい出したけどネーミング単純すぎましたわ( ˇωˇ )
今回登場したif民のモチーフの方はお話だけに、レーヴァテインさん、しゃろんさん。
そして最後チラッとせつこさんが登場しました!
次回
第7話「焔vs炎」
お楽しみに!