戦闘狂獣人、節狐との戦い。決着こそつかなかったものの、この世界に来て初めて力の程度が近い相手と戦えて少し楽しかった焔斗。そしてシンレ館に到着し、早々に魔女しゃろんに首を狙われるのであった
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「……ここで、試練を受けられると聞いて来たのですが。」
ㅤ突如襲いかかって来た魔女っ娘に問いかける。なぜ、魔女っ娘が暗殺者みたいな襲い方をしてきたのかはよく分からないが。
「ん?試練?……あー、たしかにそんな設定だったね、ここ。うん、受けられるよー?クリアすれば、能力も段違いに上がること間違いなし!まあ、クリアした人今までに居ないから、なんとなしに奇襲かけて、それで殺せれば終わり、回避すれば戦って殺して終わり、で試練ぽいことは結局できてないけどね♡」
ㅤ少し青みがかった銀髪のショート。少し鋭めの赤目に、頬にはタトゥーのような模様。魔女の帽子から覗くその見た目は、可愛いイメージではなく、かっこいいという雰囲気だった。無邪気に笑えば可愛いのだろうが、とてもそんな事をしそうな様子はない。
「試練を受けに来た。正式な順序で受けさせて欲しい。」
「いいよ〜♡なんだかあなたからは、不思議な魔力を感じるし。気になるからね♡」
ㅤとりあえずただの殺し合いではなく、試練として挑戦できるようで焔斗は少し安心した。
「んじゃ早速。あなたの目的は、魔界にいる妹さんに会いに行くこと、合ってる?」
「……合ってる。」
ㅤなぜ知っているのだろうかと思ったが、魔女っ娘なのでそんなこと知ってて当たり前、と言われたらたしかにとしか答えられないので敢えてつっこまないことにした。
「でも、魔界の魔物はこの現界より遥かに強い。あなたの妹が生きてる保証なんてほぼないけど、それでもあなたは信じてる。それはなぜ?」
「悔しいが、妹は俺より強いから。生きてると思えた。それに、本気になった時の女の子は強えしな。」
ㅤ苦笑しながらそう答えた。前の世界でもゲームの中はもちろん、リアルの方でも普段は焔斗に完全に負けてるのに、本気になった時はほぼ互角まで詰めてきたのだ。
「あはっ♡お兄さん分かってるぅ!よし、じゃあ最初の試練、決まり!」
ㅤそう言うとしゃろんは杖を振り、空間を変えた。先程までは戦ったら本が燃えてしまうのでは、と懸念していたが、完全に戦うためのステージに変わっていた。
「あれ〜?あんまり驚かないね。こういうのは慣れっこ?」
「慣れてはないけど、こういう描写の物語は沢山あったから。何となく想像できただけだ。」
「そっか〜。残念♡ま、いっか!それじゃ試練、行ってみよー!」
ㅤそう言った瞬間、しゃろんはステージの観客席のような所に飛び、焔斗の死角から”紫の雷を纏ったメイス”が迫ってきた。
「な!?」
ㅤバチィィィ!と、ギリギリで反応できた焔斗が自分のメイスで防ぐ。焔斗を襲った者の正体、それは、
「し、紫紅!?なんでっ」
ㅤずっと再会を望んでいたはずの、紫紅だった。見間違えるはずがない、完全に同じの容姿。違っているとすれば、雰囲気が焔斗の知ってるいつもの紫紅では無い、というところだろうか。
「紫紅……じゃない?いやでも……っ!?」
ㅤ少し考えてる間に、目にも止まらぬ速度で接近してきた。紫紅のメイスが、焔斗を吹き飛ばす。
「がはっ……!」
(速すぎる……!一体どうなってるんだ……!)
ㅤ防戦一方で戦っている焔斗に、しゃろんが笑いながら解説する。
「あはは♡それはね、あなたが思い描く妹ちゃん!本物じゃないよ!そこは気づいてるみたいだけどね。こう言っちゃなんだけど、自分より圧倒的強者と思う相手である以上、君に勝ち目はないよ♡でも、見てる私を楽しませてね♡」
ㅤなるほどそういうことか、と焔斗は思った。どうりで何も喋らないし、目にも生気がないように見える。自分の心からの具現化、それも戦闘能力だけというのなら納得がいった。
「くっそ!『螺旋焔』!」
ㅤ攻撃の合間を上手く見つけて、『螺旋焔』を放つ。が、紫紅はそれをものともせず突っ込んでくる。魔界での紫紅を焔斗は知らないため、技こそ打たないものの、その基礎能力だけで遥かに圧倒されていた。一撃一撃が重く、体力がゴリゴリと削られていく。このままでは、死ぬのも時間の問題だろう。
(なにか……何か手はないのか……しかし戦ったら絶対に負けるようなやつと戦ってるのに……こんなに妹にボコられる日が来るなんて……ん……?)
ㅤそこで違和感を感じた。猛攻をなんとか凌ぎながらの思考なのでかなりゆっくりだったが、やがて焔斗は答えにたどり着いた。
「きゃはは!きゃはは!殺れー殺れー!殺っちまぇー!あはははは!」
ㅤ見ているしゃろんはとても楽しそうだ。ここに人が来るのが相当久しぶりだったのだろう、怖いと言えば怖いが、なんだか微笑ましかった。
「紫紅……は!」
ㅤ猛攻を受けながら、声を絞り出す。
「兄ちゃんに暴力なんて、ふるわねえええええええええええええ!!」
ㅤそう叫んだ瞬間、心から作り出された紫紅の動きがピタリと止まり、霧散した。消える寸前、心無しか彼女は少し微笑んでいるように見えた。気のせいだとは思うが。
「おお〜!見破ったね!すごいすごーい!あはは!」
「考えてみれば単純だったよ……。」
ㅤ今の紫紅は、焔斗の思い込みから生まれた存在。その思い込みのせいで強かった。それは考えていたのが強さだけだったからだ。そう考えるように、開始前のしゃろんとの会話で誘導されていたのである。そのせいで、激強で勝てない妹、という存在が生まれた。だが、思い込みで左右されるなら、思っていることを変えればいい。弱くないものを弱いと思うのは難しい。ならば、事実である上に効果的な考えを持てばいいだけの話だった。今回の場合、《紫紅は兄ちゃんである焔斗を本当に傷つけるようなことは絶対にしない》と思い込むことで、攻撃を止めることに成功したのであった。
「うんうん!じゃあ次の試練に進む前に、少しお茶にしようか!」
「え?いいのか?」
ㅤ意外だった。てっきりこのまま連続で戦闘が行われると思っていたからだ。
「うん!だって試練の後の次の部屋とかって、結局進まなきゃ休憩できるよね?だったら休憩も挟まないと!強くなるのは大事だけど〜、焦って無理してもダメ!それに、あなたの事も聞きたいし、ね?」
ㅤそうすると、しゃろんは指を鳴らす。すると、その場がティーセットのあるオシャレな部屋に変わる。物語とかではよく見た演出だが、実際に体験するとなかなか不思議な気持ちになる。彼女は、ティーカップに紅茶?を注ぐ。
「紅茶もあるのかこの世界……。」
「お?そっちの世界にもあったの?なら良かった。紅茶はお好き?」
「ええ、好きです。」
ㅤそして、紅茶と茶菓子を頂きながら焔斗は今までの経緯を話す。ちなみに紅茶は、香りがよく、ほんのりと口の中に爽やかな後味が残る。いい紅茶だ、と思った。
「ふぅ〜ん、異世界、神、ねえ?天界が関係してそうだけど、歴史の文献以外に、全く情報がないからな〜。その歴史の中にも転移者、なんて記述はないし……。ん〜わっかんないなぁ?わっかんないから面白いなぁ♡」
「はは、なにか分かったら教えますよ。」
「お、ありがと♡」
ㅤそのまま軽く雑談し、ティータイムが終わる。しゃろんが立ち上がり、指を鳴らす。
「さて!休憩も終わったし、次の試練と行こうか!次は、2個目で最後。私との戦闘、だよ♡」
ㅤ思ったより早く、しゃろんと戦うことになるらしい。焔斗は覚悟を決め、集中する。
「……わかりました!よろしくお願いします!」
今回はここまで!いかがでしたか?
今回登場したのはしゃろんさん!
ありがとうございました!
今回から設定を変えて、ハーメルンにログインしてなくても感想をかけるようにしました!自分が、感想言ってるの恥ずかしい〜とか、なかなか面と向かって言えないミス見つけた〜とか、遠慮なくどうぞ!
次回
第9話『黒炎』
お楽しみに!