平凡メイサーの異世界冒険譚   作:えんてぃ

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最初の試練を無事乗り越えた焔斗。意外と優しいのか、ティータイムの休憩を挟み、遂にしゃろんとの一騎討ちが始まろうとしていた
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第9話『黒炎』

ㅤしゃろんとの一騎討ち。館に入った時の攻撃でも、かなりの格上と思っている。そもそも彼女は魔女っ娘、魔法を得意とするはずなのだ。ならば、一気にこちらから詰めて近接攻撃で攻めれば落とせるはずなのだが。

 

(館に入ってきた時の動きから察するに、おそらく近接戦闘もかなり慣れているはず。気をつけないと……)

 

ㅤあの時の動きは、手慣れたものだった。まるで今まで何度もそうしてきたことがあるかのように。

 

「じゃあ、はじめよっか♪」

 

「ああ。」

 

ㅤ俺が答えると同時に突撃しようとする。先手必勝、少なくとも遠距離よりかは近距離の方が勝ち目があるはず。そう思っての行動だった。

 

「おっそ〜い!」

 

「っ!?」

 

ㅤしかし、距離を詰めたのは焔斗ではなくしゃろんだった。焔斗の腹に杖が突きつけられている。

 

「しまっ」

 

「ゼロ距離ドッカーン♡『爆撃』」

 

ㅤまずいと思い、距離を取ろうとしたが、それよりしゃろんが魔法を撃つ方が早かった。ゼロ距離での爆発系統魔法。焔斗は盛大に吹き飛ぶ。

 

「くっ……!」

 

「お?お〜!すごい!体勢立て直すなんて!」

 

ㅤ焔斗は、吹き飛ばされながらもなんとか体勢を立て直し、着地した。しかしダメージは尋常ではなく、少しふらつく。

 

「マジかよ……、いわゆるバーサークマジシャンってか?」

 

「その呼び名が何なのかは良く分からないけれど、魔法ってなんでみんな遠距離で打つんだろうね?ゼロ距離で打った方が威力そのままだし、命中率高いし、良いことづくしなのに♡」

 

ㅤたしかに理論上はそうだ。だが、リスクもある。基本的に魔法使いは防御が低い……というのは魔法が便利すぎるが故に設定されたゲームのものだとしても、あの距離で爆発系統の魔法は自身にも被害が及ぶ可能性がある。余程魔力コントロールに長けた者でも、爆風にあおられるのは必須だろう。

 

(発動と同時に自身にバリア付与、か。なるほど、もうなんでもありだな。)

 

「たしかに、しゃろんさん程魔術に長けていればその理論は確定されちゃいますね……」

 

「でしょ?わかってるぅ♡」

 

「でも負けない!」

 

ㅤ焔斗は突撃した。おそらく、今までの全てのバトルで詠唱などが存在していないことから、魔力の使い方は『螺旋焔』の時のやり方で間違っていないはず。ならば

 

「『螺旋焔・散』!!」

 

ㅤ焔の渦を一方向に飛ばすのではなく、拡散させあらゆる方向から襲わせる。一直線だと避けやすく対策されやすい上、先程のしゃろんのバリアは前方向だけだったからだ。複数方向なら攻撃が届くのではないか、と焔斗は考えた。

 

「うっそぉ!?そんなこと出来るの!」

 

「よし!」

 

ㅤ焔斗を少し知っていたのが、逆に弱点となった。技が発動して飛ぶまでは、動きが全く同じ。前情報で『螺旋焔』を知っていれば、拡散するとはとても思わない。流石に全て命中とまでは行かなかったが、2、3回ほどヒットさせることに成功した。

 

「いってて〜。そう来るか〜」

 

ㅤしゃろんは流石に少しダメージを受けた様子だった。と言っても、決定打になってないのは明らかである。

 

「ちっ、やっぱきついか。」

 

「そんな甘くないよ〜。……それにしても、今のは凄かったね!魔力をコントロールして拡散、それも拡散しても元の火力から低下しないように魔力を込め直してた。それに、飛来速度も後ろに回って来るのと前方から来るので、全く同じタイミングに直撃するように調整されていた!」

 

「……さすが。よくわかってらっしゃる。」

 

ㅤそこまで見破られると、もう撃ちたくないと思ってしまう。対策もバッチリしてくるだろう。そうなれば他の手を考えるしかない。

 

「じゃあ私も、ちょっと本気出しちゃおっかな?正直、合格レベルには来てるから殺すまではしないよ?でも、やられっぱなしも嫌だしね♡」

 

ㅤしゃろんがそう言うと、空中に浮かび出した。そして、そこそこの高さで静止する。

 

「ふぅ……『黒炎纏装』。」

 

「んなっ!?」

 

ㅤしゃろんが黒い炎を纏い、髪の色も僅かに黒みがかる。逆に目は今までより紅く輝き、絶大な魔力が放出される。

 

(待て待て待て待て!これ殺す気だろ!そうだろ!)

 

「一応信じてるけど、ちゃんと対策しないと死ぬから。その時は自業自得ってことで♡」

 

「ちっ!『紅焔纏装』!」

 

ㅤ意味を成すか分からないが、何もしていないよりかはマシだろうと、焔斗も紅の焔を身に纏う。

 

「いいぜ来い!」

 

「あっははは!逃げないんだ!いいね!いいね!大好きだよ焔斗くん!じゃあ、全力で行くよ!『黒炎魔砲』!」

 

ㅤ杖の先に込められた特大魔力が打ち出される。黒炎の塊。あの黒い炎がどんな効果をもたらすのかわからないが、避けないで受ける。そう決めた焔斗に迷いはなかった。

 

「『深焔の壁』!!」

 

ㅤ自らの焔を壁のように前に張り、黒炎を防ごうと試みる。特大の黒炎球と、焔斗の作った壁がぶつかり、ものすごい熱風を発生させる。

 

「あはっ!敢えて立ち向かうその姿、嫌いじゃないよ!でも残念、私の黒い炎は、炎をも燃やすの!……あ、れ?」

 

ㅤ黒炎。それは何でも燃やし尽くす呪いのような炎で、腕の立つ挑戦者もここで敗北し、死んでいた。殺す気は無いとは言っているが、黒炎を使ってる時点で殺す気満々なのである。だが、今回は焔斗の焔を燃やすどころか、むしろ飲み込まれていた。

 

「……なるほど、これが、禁忌の焔に対抗しうる力。私の黒炎ですら、こんなザマになっちゃうんだね……。」

 

ㅤやがて黒炎は飲み込み尽くされ、黒みがかって深い紅色になった焔は、焔斗に戻った。

 

「っ!?……ぐ……!」

 

ㅤ焔斗の全身に、燃えるような痛みが走る。いくら焔が優秀とはいえ、それを受け入れるまでの力が今の彼の体には無かった。

 

「っ!いけない……!焔斗くん!その魔力溜め込まないで放出して!身が滅んじゃう!」

 

「な……に……?」

 

ㅤ実際、焔は黒炎を飲み込んだが、焔斗の体は黒炎の効果を無効にするような体質を手に入れてなかった。本来この吸収は段々と慣らしていくのだが、最初に飲み込んだのが強力な黒炎だったため、対応しきれていないのだ。

 

「でも、これ……放出したら……ここがタダじゃすまなく……」

 

「いいから!気にしないで、私が何とかする!私を信じて!全部出してーーーーーー!」

 

ㅤその言葉を信じ、焔斗は溜め込まれた魔力を放出する。と同時に、しゃろんは焔斗の体から魔力が抜けきった瞬間に彼の全身に防御結界を何重にも張り、そして、放出される魔力がさらに外に漏れないよう、自分を巻き込まないように幾重にも結界を張る。

 

「止まれぇぇえええええ!」

 

ㅤ結果的に残った結界は一枚。その一枚ですら、割れる寸前だった。

 

「焔斗くん!大丈夫!?」

 

ㅤいつの間にやら名前呼びになっているが、認められた、ということなのだろうか。しゃろんが心配そうに飛んでくる。

 

「は、はい。大丈夫で……」

 

「わっ!?」

 

ㅤ生きてはいたものの、全魔力を放出したため力が入らず、倒れそうなところをしゃろんに支えられた。

 

「お疲れ様!試練は合格、というか、この試練ですごく強くなれたんじゃないかな?とにかく、今日はもう休もっか。部屋は貸すからさ。」

 

「……ありがとう、ございます。サイコパスだと思ってましたが……意外と普通なとこ、あるんですね……。」

 

「こら、一言余計だぞ!私は認めた相手には殺意は抱かないの!まあ、それでも死ぬかどうかの戦いは大好きだから何時でも待ってるよ♡」

 

ㅤやっぱりこの人サイコパスだ、と思いながら焔斗は目を閉じた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━翌朝。

 

「ん……。ここ、は……。ああ、そうか、俺。」

 

ㅤ目を覚ました焔斗は、少しだけ見覚えのある天井を見ながら、昨日の出来事を思い返す。試練、どうにか乗り越えて意識を失ったところまで思い出して記憶は大丈夫だと再確認する。しかし、問題は今の状況だった。右腕に感じる重さ。微かにかかる吐息。恐る恐る横を見ると、そこにはしゃろんが寝ていた。焔斗の右腕を枕にして。

 

「!?……?……!?!?」

 

ㅤたしかに昨日は、あの後意識を失っていたはず。そして部屋を貸す、と言われていたから別の部屋があるのかと思っていたのだが、ここはしゃろんの部屋なのだろうか。いやだとしても、この状況は一体何なのか。

ㅤ焔斗が困惑して、ほのかな女の子の匂いと感触に心臓をバクバク言わせていると、扉が開き、「お?起きた?おはよー!」と、”しゃろんが”部屋に入ってきた。……ん?

 

「え?あ、おはようございます……え?」

 

ㅤ部屋に入ってきたしゃろんと、横で眠るしゃろんを交互に見て困惑していると、部屋に入ってきたしゃろんが笑いだした。

 

「あはは!あー、それ?それね、魔法でできた私。いや〜焔斗くんお疲れだから起きた時に横に美少女が居たら癒されるんじゃないかな〜と思って!どう?癒された?」

 

ㅤその説明をしているうちに、ゆっくりと横に寝ていた魔法しゃろんが薄くなり霧散した。

 

「いや紛らわしいわっ!!心臓に悪いっ!すっごく悪い!」

 

ㅤ焔斗がガバッと起きながらそう叫ぶ。しゃろんはそれを見て腹を抱えて笑っていた。ああ、この湧き出てくる感情が殺意か、と焔斗は思った。

 

「あはっ!面白すぎるよ君!それに……分身だけど、私のことちゃんと女の子として見て、ドキドキしてくれたんだね……。」

 

ㅤ急に少し頬を赤らめてそんな事を言うしゃろん。もうからかっているようにしか見えなかった。

 

「はあ……なんにせよ、ありがとうございました。」

 

「礼はいらないよ!また今度殺し合いさせてね♡」

 

ㅤ認めた相手は殺す気ない、と昨日言っていたはずなのだが。と思ったがつっこまないことにした。

 

「あ、服と体も魔法で洗っといたよ!……安心して、魔法だから脱がせてないし触ってないから。」

 

「ど、ども……。」

 

ㅤ見られてないし触ってないと言われても、自分の体が知らぬ間に女の子に洗われたとなると、どうしても少し気にしてしまう。男の子だもの。

 

「次は……どこ行こうか……。」

 

ㅤよくよく考えたら焔斗には、この後行くあてがなかった。魔王レーヴァテインには「シンレ館に行け」としか言われてなかったため、本当に手詰まりである。

 

「んー、行くあてがないならここから少し離れたところにある、商業街ミカルコってとこに行けばいいと思う。ちょうどそこで、魔界から来たアイドルの2人組がライブしてたと思うから。」

 

ㅤ魔界から来た、それだけで充分会うべき相手だと思った。魔界の情報は今のところ無いに等しい。ならばミカルコに行くしか選択肢はなかった。

 

「ありがとう、行ってみるよ。」

 

「はーい!行ってらっしゃい!いつでも殺し合いに戻ってきて良いからね!」

 

「物騒な……」

 

ㅤだが、なんだか慣れてしまった自分にすこし恐怖を感じたのであった。

 

「ハグしてあげよっか?」

 

「んなっ」

 

ㅤ突然そんなことを言い出すので少したじろぐ。ハグ?いやいやいや、と思っているとしゃろんが笑い出す。

 

「あははは!初心だねほんと!からかいがいがあるよー!」

 

「るっせぇ。」

 

「でも、ちょっと心配。そのアイドルの片方はサキュバスだから気をつけてねー?」

 

ㅤサキュバス、なるほど。絶対苦手な自信があると焔斗は思った。

 

「もう片方は?」

 

「ごめん、そっちはよく分からない、なんか特殊な魔力の子ってくらいしか。」

 

ㅤ特殊な魔力。俺と同じような転移者なのだろうか?それともまた別のなにかなのだろうか、まあ会えばわかるだろうと考えるのをやめた。

 

「そうか、まあ、行ってくる。」

 

ㅤそう言って扉を開けて、焔斗は商業街ミカルコに向けて出発した。

 

「ふぅ。行ったね。ほんとあなたって隠れるの得意よね?”放浪魔王”さん。」

 

「ふん……。影の魔法が少し得意なだけだ。別に隠れるのが好きってわけじゃないさ。」

 

ㅤしゃろんが館の陰に向かって話しかけると、魔王レーヴァテインが出てきた。実はあれからずっと焔斗をつけているのだ。

 

「あなた、暇過ぎない?」

 

「暇じゃなきゃ”放浪魔王”なんて呼ばれてねーよ。」

 

ㅤそりゃごもっとも、と答えながらしゃろんは焔斗が向かった方角に目を向ける。

 

「焔斗くん、相当強いよ。まだまだ力残してる。ううん、可能性、と言った方が正しいかな。」

 

「だから俺も殺さなかったし、後をつけてる。」

 

「ストーカーよ?それ」

 

ㅤしゃろんの指摘にレーヴァテインは押し黙る。どうやら返す言葉もないようだ。しゃろんは魔王を黙らせたことにちょっと満足したのだった。

 

「さて、そろそろ行くか。殺さないでくれて助かった。」

 

「はいはーい、見つかんないようにねー。」

 

ㅤレーヴァテインがその場から去った。陰に溶け込むように消えるその様は、いつどこに潜んでるか分からない人には恐怖でしかない、と思った。

 

「さてと……、」

 

ㅤしゃろんは部屋に戻り、通信魔具を起動し、魔話をかける。通信が繋がる。

 

「あっ、もしもし”シハク様”?今日、いや昨日もか!めっちゃ珍しいことがあったんだよー!聞いて聞いて〜!」

 

ㅤ焔斗が居なくなり少し寂しくなった部屋に、楽しそうな声が響くのであった。




今回はここまで!
いかがでしたか?

今回登場したのは前回に引き続きしゃろんさん!
そして最後にちらっとレーヴァテインさん!

ありがとうございました!

次回
第10話『闇華(ヤミカ)と来羅(ライラ)』
おたのしみに!
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